VOCALISE

 


 

十二 (ライトサイド)
 
 
 キョーコの荷物を抱えて、蓮は『西洋人形』を、壊れもののように、それは大事に、学校から部屋まで腕に抱きいれて、連れた。

 『人形』も、『人形師』も一切会話をしなかった。

『人形』が、全く会話をすることができなかった。
  
蓮は、まるで美しく愛らしい西洋人形のキョーコをそっとベッドに沈めた。

「愛してる」と蓮はキョーコの瞳を見ながら、言った。

 キョーコはゆっくり首を左右に振る。

 キョーコは、蓮が「キョーコ、愛してる、愛してるよ・・・」と言った日の、脳裏の深い所に残る声を思い出した。

 それを聞いただけで、キョーコは切なくて、涙を零す。

「嘘でいいから、ここにいる間だけ、愛してるって言って下さいませんか・・・?」

「嘘じゃない・・・」

「・・・私を気遣ってこうして下さって・・・他に愛している人が、いるでしょう?だから・・・嘘でいいんです、私はあなたの愛している人の代わりで構いません・・・」

「・・・・君を愛してる。代わりなんていない」

「・・・・ウソつき・・・・」

 キョーコは蓮が同情か、仕事でする官能的な場面の都合で、感情に流されてひと時の恋愛行為をしようとしていると思っている様子に思えた。

キョーコが蓮のしようとする全てを許し受け入れて、それでも蓮を思って、愛しくて涙を零しているのを見て、蓮はどんなにキョーコに深く愛されているかを知る。

キョーコが、自分と肉体的な関係だけでもいいからずっとそばにいたいと言っている。

それでいいからそばにいたいと思っているキョーコの気持ちはとてつもなく深くて愛しい。

そしてキョーコがどれだけ自分を愛しているのかを改めて思う。

ひと時だけでいいから、と、それを望むキョーコの気持ちを思うと、蓮は頭がくらくらする。

蓮も言葉にならなくて首を左右に振った。


「・・・敦賀さんの誰にでも平等な優しさが・・・とても嬉しいときと・・・とても、残酷なときがあるんです・・・」

「・・・・・・」

キョーコの中の恋に感じている絶望感を思う。

蓮の中の言葉が通じない。

信じて、と言うのさえ、信じてもらえないだろう。

蓮なりに、キョーコは特別だと言葉に出来なくても、態度で都度伝えてきたはずだった。

でも、それは伝えたつもりで、全ての感情を隠した罪は、一番大事なキョーコをも傷つけている。

狼少年のように・・・自分の中の本当の言葉が全く通らない。

でも、それさえも、全てキョーコは受け入れてくれているのだろう。

それでもいいと、愛してくれているのだろう。

もし、キョーコに全てを見せても、受け入れてくれるだろう。

なんて大事なものを、今、抱きしめているのだろう。

「・・・君を愛してる。他の誰かなんて、いらない」

 それ以上に何を言えばキョーコの心に伝わるのだろう。

蓮は、キョーコの頬に、そっと触れた。

 キョーコは蓮を、ただ、見つめ返す。

キョーコが言葉を信じないから、蓮はただその唇を塞いだ。

言葉では通じないから、愛を体全体で伝えるしかない。

 キョーコの唇と、蓮の舌先は、触れてしまえば言葉よりも饒舌に、その深い愛しさを伝えた。

キョーコはあまりに愛情が深くて、深すぎるからこそ蓮の全てを受け入れて、蓮と恋愛行為をしようとしている。

一番に愛されなくてもいいから、と。

だから、一番愛していると蓮はキョーコに言った。

キョーコは悲しげな顔をする。

何かを勘違いしている目の前の儚く美しい西洋人形。


その薄いガラスのように繊細な心も、蓮は守ってあげたいと、願った。
 

蓮は、凝った洋服のボタンを、ひとつひとつ、とてもゆっくりと時間をかけて外した。

下着もゆっくり外す。

蓮もシャツを脱ぐ。


互いに生まれたままの素肌だけになる。


互いの腕の中で、ただ、見つめあう。


互いに言葉にならないから、視線で愛を囁きあう。



蓮が少し肌に触れる指に、キョーコの唇からは、甘く乱れた息が漏れた。


「・・・あの・・・今日は人形、もうやめても、いいですか?」

「ここはオレのベッド。人形用じゃない」


キョーコはそれを聞くと、蓮の腕から出て体を起こした。

ベッドから降り、立ち上がる。


生まれた姿のまま、キョーコは蓮に背中を向ける。


「・・・やめる?」

「・・・敦賀さん・・・私、お人形用のコンタクトを外しても、いいですか?」

「もちろん・・・」

「・・・私の目は、心は、手は、ちゃんと感情が、あって・・・伝えられるんです・・・」

「うん・・・」

 人形でいたくないと願うキョーコの心の声。

言葉にできない声を、蓮は、聞いた。

 
――おねがい、わたしを見て、わたしだけを愛して

 
 人形が心の底から願った事。

 
 キョーコは鏡の前でコンタクトを取り、捨てた。



 
キョーコがもう一度、蓮のそばに立つ。

蓮がキョーコの頬に触れる。

見つめたキョーコの瞳は、少し潤んでいた。

 
――君はなんて目をしてオレを見るのだろう・・


――あなたはなんていう目で私を見るの・・・

 
蓮が名前で呼びたいと言った。


キョーコが頷く。


蓮がそっと口付けて抱きいれ、ベッドに横たえる。

蓮はキョーコの唇にそっと触れ、一度吸う。

キョーコの感情が溢れて、やはり涙を零す。


「言葉を信じられないなら信じなくていい。でも、オレの体も・・・君を愛していると君の体に伝えられる。だから聞き取って・・・」

「・・・・・・。・・・れん・・・好き・・・」

「キョーコ・・・愛してる」

蓮はキョーコの唇に、肌に、長い時間をかけて愛を注ぐ。

音楽室からずっと蓮に全身を触れられて、キョーコの体は既に蜜をこぼして、肌は触って欲しくて仕方が無い様子だった。

すぐに上がる呼吸。

すぐに反応する肌。

「やだ・・・そんなに、見ちゃ、ダメ・・・」

蓮は腿の間の、赤い痕にもう一度口付けると、膨らみを開き、何の躊躇いも無く舌を埋めた。

既に互いに蜜をこぼして、互いに何も纏わない姿になってすぐに、互いに待てずに、すぐに体を繋げた。


キョーコの体は蓮を受け入れたくて、受け入れたくて・・・全ての痛みを我慢した。

キョーコがとても気持ちよさそうな表情をする。

その様子に、蓮はあまりにキョーコが愛しすぎて、その伝えきれない気持ちのエネルギーを、全て、キョーコの体の深奥へ伝えた。


「れんっ・・・蓮・・・好き」

キョーコは、言いたかった言葉を、何度も口にした。


「キョーコ、愛してる・・・」

キョーコはすぐにいき、そして、また、すぐにいく。
蓮から滴り落ちる汗と、キョーコの体からにじみ出る汗。
ハァ、ハァ、と、蓮が深く大きく息を繰り返す。
キョーコの甘い甘い蓮に甘える声。
蓮の指の、いじわるな、悪戯。
蓮の出す、いじわるな、声。
深く深く繋がった、体。
感じる深奥。

「・・・・ぁっ・・・・ん・・・ぁあっ・・ん・・・」

キョーコの甘い声が、少しずつどんどん甘くなり、蓮を感じた声と共に、蓮にきつく絡む。

「キョーコっ・・・キョーコ・・・」

「・・・・れん、わたし・・・あぁっ・・ん・・・いっっ・・」

「・・・オレもっ・・」

 キョーコの中で、蓮が果てた。
 ハァ、ハァ、ハァ、と、大きく何度か息をした。
 キョーコの頬に、蓮は手を差し伸べる。
 キョーコも肩で息をしている。


 まるで人形のように、ぼんやりと、一点を見つめている。

 しばらくして蓮がキョーコの中から抜け出す様子がキョーコの目の中に映る。

離れてしまうのが、とても寂しかった。


「・・つるがさん・・・」

「・・・・大丈夫?」

「・・・・すき」

「・・・うん・・・・」


 目を遠くに向けたまま、涙を浮かべて、キョーコは声を震わせる。


「・・・どうした・・・」

「・・・敦賀さんがすきだと、体が感じているだけです」

「・・・・・」

「・・・・おねがい・・・」

「・・・・うん・・・・」

「・・・・・もう少しだけ、私と、一緒に・・・そばにいてください・・・」

「・・・・キョーコ・・・おいで・・・」


蓮はすぐに腕の中に、キョーコを抱きいれる。

キョーコが無言で、ただ、ほっとしたように蓮に擦り寄り、甘える。

キョーコがどんなに蓮を求めているのかを蓮は感じ取る。

だから腕の中で、キョーコを散々と甘やかす事にした。

そっと、口付けて離し、鼻先同士を何度もこすり合う。

切なくて吐き出されるキョーコの息が、蓮に触れる。

また、舌先を唇にのばす。

キョーコの唇を舐める。

長い間、それは長い時間、蓮はキョーコの唇に愛を伝えた。

ついに、切なくて、キョーコが、蓮の首に両腕を伸ばす。

蓮がキョーコの体ごと抱きいれる。

キスをすると、キョーコが蓮の舌先を舐めて強く蓮に絡めた。



(中略)




 と蓮はキョーコの唇に囁いた。

「・・・ゆっくりして・・・ずっとそばにいて・・・」

とキョーコは答えた。



(中略)



いや、と言われる所を全て、蓮は触り続けた。

キョーコが、かくかく、と、震え、背を反らせ、肌を立てた。

蓮はキョーコの体のリズムを感じて、少しペースを落とす。

ゆっくりすると、声が、もっと、甘くなる。

最奥をゆっくりゆっくりと何度も突き上げ続けると、キョーコの声はいっそう色を甘く濃くした。
 

「つるがさん、つるがさん・・・つるがさんっ・・・・」


 さっきまで、れん、と呼んでいたのに、キョーコはもはや倒錯したように首を振った。

蓮の与える感覚に、あまりに感じすぎているらしい。

その様子に、蓮が、我慢できなくて、

「かわいい・・・っ・・・オレもいっていい・・・?」

と言い、「うん」とキョーコが言った。

 キョーコの体の痺れ。

 蜜の溢れる感覚。


  望んだ感触を、二人の体が、一緒に覚えた。




























2014.12月作成
2019.1.29掲載









*中略は自主規制をかけた部分です。他、バランスが取れない部分は多少文字を間引いたり改変しています。趣味用の本をお持ちの方はそちらをお読み頂ければ幸いです。