Sweet Lil' Devil -flagile after-





あのポッキーのCMがすごく好評でね、次のMen’sポッキーのCMもシリーズ化して敦賀君に頼みたいんだ。わが社のイメージもすこぶる上がってね。良かったよ、頼んで。」

宝田社長ではなく、某社の社長から直接の電話があり、社は固まった。
ダンスをする蓮が、さわやかな蓮が今までに無くとても良かったのだと、日本全国のCM高感度・注目度ともに今年上半期NO.1を取ってしまった蓮に、社は断れる理由が無かった。

「そう言っていただけて大変恐縮です。ありがとうございます、ぜひ、こちらこそまた、よろしくお願いいたします。」

社は二つ返事で電話を切るしかなかった。
某社の企業的価値は誰もが知っているものだし、断る訳にはいかなかったが。

一体次のCMはどんな内容になるのだろう?

まるで一視聴者のように内容が心配になった社は、撮影が終わった蓮に声をかけた。

「蓮、今度またポッキーのCM続編でお願いっていう依頼が入ったから。受けておいたよ。どちらにしても断れないしね。蓮にスケジュール合わせてくれるって言うから。」

「そうですか。オレで・・・よかったんですかね?」

「良かったんだよ。さわやかなお前なんて、見たことないんだからさ。日本全国の女性は。でも次はどんな仕掛けをしてくるんだろうなぁ〜。蓮のイメージチェンジの為って前も言ってたから、新しいの仕掛けてきそうだしなぁ・・・・。」

苦笑した蓮はそのまま黙って何も答えず、持っていた水に口をつけた。


*****


一週間後初めての打ち合わせの部屋に入って蓮は至極驚いた。

「な、なんで最上さんが・・・・いるの?」

ソファーに座っていたキョーコは、勢いよく立ち上がって頭を下げた。

「あ、敦賀さん。おはようございますっ。私も出るんですよ、CM。昨日の夜連絡もらった所なんです。でも今日会うのは分かっていましたから。敦賀さんは聞いていなかったんですか?じゃあ・・あの・・・・よろしくお願いします。」
「うん、よろしく・・・。」

キョーコは蓮が主演だという事を知っていたのか、蓮が入ってきた事に驚く様子も無く、にこりと笑顔を向けた。

そのまま蓮はキョーコの横に座り、座るとすぐに扉から監督以下スタッフが5・6人と、某社の専務が入ってきて、立ち上がった二人は挨拶を交し合い、監督と専務を正面にまた座った。

「敦賀君、京子ちゃん、今回はよろしくね。敦賀君、前回のCMの評判もすごく良かったから、今回もぜひイメージチェンジに貢献できればと思うよ。」

そう監督から切り出し、蓮は本心を隠すように、にっこりとその言葉に微笑を・・・向けた。

「えぇ、よろしくお願いします。」
「京子ちゃん、連絡が突然で今日はすまなかった。最後まで相手女性が決まらなくてね。歳が行き過ぎていてもポッキー世代から外れるし。かといって若すぎても目指す演技ができそうな子がいなくて。敦賀君のトコの社長に相談したら君を薦めてくれてね。出演したものを見て・・・決めさせてもらった。撮影内容は追々話すけれど、敦賀君とドラマで共演しているのを見たけど、あんなに敦賀君を憎憎しい目で悪魔のように見上げられる子は若い子だとめったにいないし・・・息はぴったりだったしね。だからこの役は君しかいないと思ったんだ。」

キョーコはその言葉にひどく肩を落としてがっかりした様子だった。
折角のCM撮影にまたその言葉を聞くとは思っていなかったからだろう。

「監督・・・また私は悪魔・・・・なんですか?」
「はははっ・・・京子ちゃんは本当に悪魔風演技に定評があるからね。でも、悪魔じゃないよ。」
「ではなぜ・・・?」
「だから、追々話をするから。でもこのCMのメインは敦賀君で、君は背中しか写せないから。表情ではなく背中で物を語れる演技をしてもらう。だから後姿のケアに気をつけておいて。」
「はい・・・・。」

まぁ・・・このCMは・・・敦賀さんのためのものだしね。

背中しか写らないと聞いて、またキョーコは少し肩を落とした。

「ごめんね、期待させてたと思うけどそんなに肩を落とさないでよ。それなりにいい役どころだからさ。敦賀君も、今回はアップが多いからケアには気をつけておいてね。じゃあ、これが今回の内容だから。」

そう言って、監督は蓮とキョーコに台本を渡し、横に座っていた専務に「お願いします」、と声をかけた。

「ええ、今回お願いするのはMen’sポッキーですが。今回は子供世代に普通のポッキーを食べて育った10台後半から20代の「大人」をターゲットにします。ですから大人が食べたくなるポッキーのイメージ作りをお願いします。味もビターなので、男の人も含めてターゲットにしています。一番買いが薄れる10代後半から20代に向けて、敦賀君が食べる事で彼ら世代の共感を呼び込み顧客層拡大を狙っていきます。また、CMを見た同世代女性が自分の彼のためにMen’sポッキーを買って食べさせたくなるような女性を、京子さんにお願いします。あとは監督にお任せしますので、いい物を期待しています。どうぞ、よろしく。」

切れ者風なとても若い専務はそう言って「時間ですから」と席を外し、残った監督と蓮とキョーコとスタッフは早速台本を開き、今回の内容確認の読み合わせに入った。

「じゃあ今回の内容を話すね。前回のポッキーは元気な子供世代をターゲットにしたから昼間に撮ったけど、今回は夜、そのお見合いが終わった日の夜・・・というシチュエーションね。
敦賀君が、いつも行く店に飲みに行き、そこでポッキーを食べる。京子ちゃんはそこでいつも会って話す女性。でも彼女という関係じゃない。友達以上恋人未満的な感じかな?
全30秒、ショートバージョンで15秒。その中で、「大人が食べたくなるポッキー」を演じてもらう。台詞は少ないから、雰囲気重視で。
内容は台本を読んでもらえればわかるように、大人な敦賀君を演出するから。20代の男性像ね。
京子ちゃんは敦賀君より歳が下だし直の後輩だから、少し厳しいかもしれないけど・・・一応飲み友達というか同等の立場という役だから、負けないようにね。オレはどちらかというと、敦賀君より君のイメージチェンジを狙ってるから。・・・・・まぁ背中しか写らないんだけどね。」

そんな所で一人でなど飲んだことの無いキョーコは、少し不安げに「はい」と答えた。
そして、そのまま台本を読み進めて、「これを・・・・・私がやるんですか?」と上目遣いで監督を見上げた。

京子の役は、見合いで疲れて飲みに来た蓮に追い討ちをかけるように口説く、という役で。最後口説かれ負けかどうか微妙なニュアンスを残して蓮はキョーコに差し出されたポッキーを食べ、それに対し蓮もキョーコにポッキーを差し出して京子が食べる、という設定。

「そうだよ?ね、君にぴったりでしょ。背中だけしか写さない理由、分かったでしょ?背中だけにしておけば、敦賀君を口説く設定に、CMを見た女性が君のその位置に自分を置き換えられる。あくまでその口説く女性は抽象的であってくれればいいから。」
「ええっ?あのぅ・・・・この内容で・・・・悪魔をやるんですか・・・・?」
「悪魔じゃないって言ったでしょ。いうなれば「小悪魔」?」

キョーコは不思議そうな顔でなぜ私が選ばれたんだろう?という顔を続けていた。
蓮は蓮で、大きく一つため息をついた。

「じゃあ、撮りは一週間後だから。よろしく。台本叩き込んどいて。」

そう言って、今日の顔合わせは終了したが。
蓮はどうして社長がこの子を推したのかとまた大きくため息をついた。

何でオレがこの子に口説き倒されなきゃいけないんだ・・・・・。

「蓮、どうした?ため息ばかりじゃないか。」

帰りがけ社は蓮に声をかけて、黙りっぱなしの蓮とキョーコの間に割って入った。
社は蓮の気持ちが分からなくも無かったが、この重暗い雰囲気に耐えかねた。

「・・・・・すみません。」

蓮は自嘲気味に苦笑し、それを見たキョーコが不安げに蓮を見上げ、
「やっぱり・・・私、断った方が・・・口説き落とされるのが・・・・後輩相手じゃ、やりにくいですよね?」

そう口にして、ぴたりと足を止めた。

「・・・・いや?これは仕事でしょ。それに君は、うちの社長が推して監督と相手企業が選んだんだから断れないよ。」

キョーコは蓮の自分に対する他人ごとめいた言葉にまた肩を落としそうになったが、せっかく選ばれたのだと前向きに考え直して続けた。

「じゃあ、今回は本当に同等の立場という設定で思い切りやらせてもらいますから!覚悟、しといてくださいね。」

そうしてニッといつもの彼女らしく挑戦的に笑って、蓮を見上げた。
そこには口説き落とすという設定へのあくまで女優としての彼女らしい反応であって、蓮個人への感情などは、蓮には微塵も感じられなかった。
蓮は苦笑して、「楽しみにしとくよ」と一言つぶやいた。



*****


当日、背中しか写らないのにフルメイクをしてもらえた京子は大変ご機嫌で、小悪魔メイクに黒いロングのウイッグ、体のラインに沿った白い綿生地のタンクトップ、銀の細いネックレス、少し動けばウエストが出る、ラフでいてセクシーさを醸し出したピタリとしてスリムなローライズ。

いつもとは違う「京子」が出来上がった。自分の全体を見渡し、しっくりこないのか、少し恥ずかしそうに「小悪魔」は笑った。

「キョーコちゃん、今日は仔猫と小悪魔をミックスにしておいたんだけど。どう?気にいった?でも・・・・ホントにいいわね、これ。また今度もやりましょ。これが背中だけなんて、勿体無いわ〜。新しいキョーコちゃんに、みんなびっくりするわよ。ねぇ今度の雑誌のプレゼント用のポラ撮りも、このメイクにしましょっ。」
「えーっ・・・・これが、いいんですかぁ・・・・?」
「敦賀さんに聞いてみれば、分かるわよ。」
「あの人、いつでも「似合ってるよ」しか言わないんですけど・・・・。」
「ふふふっ・・・あの人、嘘はつかないわよ。いいから、早く行った行った。」

メイク担当の彼女は、キョーコの背中を押して部屋から出すと、満足そうに頷いた。

蓮は見合いの時に来ていたスーツそのままで、ジャケットを手にネクタイを外して白いシャツのボタンを二つ目ほどまで開けて髪を下ろし、彼らしいラフな感じに仕上がった。

「馬子にも・・・だね、最上さん。」

蓮の控え室に、入りの挨拶に来たキョーコの姿を見て、蓮はそう声をかけた。

「似合ってないって・・・・はっきり言ってもらった方がすっきりします。」
「いや、そういうカッコ初めて見たから。いいんじゃない?そういうスポーティなのも。似合ってるよ。」

やっぱり・・・・。ホントにどうなのか聞いてみたいのに・・・・・。お世辞というか、人の事などどうでもいいというか・・・・。

悔しい・・・・・。

キョーコがまた一人肩を落とした様を蓮は気付かなかった。

「敦賀君、京子ちゃん、よろしくお願いしまーす。じゃ、最初の階段から降りてカウンターに座る所まで行きます。まずは歩いてくる所まで。・・・・・・・はい、スタート。」

蓮が階段を降りる背中をカメラが追い、正面からドアを開けてまっすぐにカウンターに向かう様を何度かに分けて各角度から撮っていく。店内は薄暗く、エキストラが数カップルテーブル席つき、京子は一人カウンターで飲んでいる。各所にはグラスに挿したポッキーがマドラー代わりに並んでいる。

京子はただ、そこで座っているだけ。ただ大人の女のように座っているだけ、という背中で演技をしなければいけない難しさに、何度かダメだしをもらった。その背中に余裕がないとダメなのだと監督に言われた。

背伸びをした演技に京子自身やはり戸惑いが出る。しかも相手は蓮。対等になるなど元から思っていないし、自分は「色気のない女」だと思っているから、研究の為にこの一週間、ひたすら自分が小悪魔女優だと思う女優の演技ビデオや写真を見つくした。家で一人台本のセリフを空んじて演技をしてみても、どうも自分の演技の色気というものがどうなのか、客観的に分からなかった。


次のシーンは、蓮がまっすぐ歩いてきて席に着くシーンで、蓮が席に着くたびに毎回「あら、遅かったわね」というセリフがあるだけ。その間キョーコは、またずっと座ったままグラスの中にあるマドラー代わりのポッキーで、その中の液体をかき回しているだけ。しかも、表情は関係ないはずなのだが、気を抜くと監督にダメだしをくらう。背中にその表情の通りの感情が写るという。

リハを何度かやってOKこそもらったが、監督は休憩を入れ、少し肩をおとした京子を気遣って、蓮は誰もいない控え室に呼び出した。

「すみません・・・・敦賀さん。本番は必ず「小悪魔」になりきりますから。表情もちゃんと崩さないようにします。」
「いや、やり直しはいいんだけどね。役作り・・・困ったの?」

蓮は、椅子にキョーコを座らせ自分も正面に座った。

「沢山・・・・小悪魔演技見てみたんですけど・・・どうも、あの強気な表情と色気を醸し出した・・・しなった体つきって難しくて。背中しか写らない分、飲んで少しリラックスした雰囲気で・・・しなったとこだけでもうまくやりたいんですけど・・・・。」
「本番はオレに合わせてくれればいいけど・・・・・でも、ところで君、小悪魔にさえなればいいと思ってる?」
「どういうこと・・・ですか?」

きょとんとした顔をしたキョーコに目を合わせた蓮はふっと笑った。

「CMだから流れる時間は短いけど、細かい設定がある分、考え方はドラマと同じだよね?よく考えて。この設定、君の役どころは?」
「毎日のようにバーで会う敦賀さん・・・を口説き倒す役柄。」
「じゃあ、その女の子が今までどんな気持ちでいつも一人でそこに来ていたか分かる?」

しばらくじっと蓮を見つめていたキョーコは、目を大きく見開いた。

「よく会うから・・・じゃない・・・会いたいからそこにいつも来ている・・・?」
「そうだね。でもお互い割り切れる、付きもしないし離れもしない大人同士。飲んでその日の話をしていただけの関係。そして、君はオレに会いたくて来てはいるが、強気でオレとも対等な女性。だとすればオレを見あげる表情に・・・もっと違う感情が入るだろ?」

「じゃあ・・・・・・・・・敦賀さんを好きになっていて・・・でも、それが「大人の割り切れる関係同士」だと分かっているから、言えずに強気にみせている女性・・・・・でも・・・じゃあなぜ、今回に限って急に口説くんだろう・・・・?本当に割切って・・・遊ぶため・・・・?」

独り言のようにブツブツと口にして、しばらく考え込み始めてしまったキョーコに、蓮は仕方ないな、とばかりに声をかけた。

「オレはその前に何をしに行ってきてる?」
「あ・・・・お見合い・・・・。」
「それを君に「いつもの通り」言うんだろ?」
「だから本音が・・・・?」
「・・・・そうだね。」
「分かりました。ありがとうございました!やってみます!」

キョーコはにっこり笑って蓮を見上げたが、二人の心中は甚だ穏やかではなかった。

蓮はキョーコが絶対に演技に詰まる事はわかっていたし、自分への気持ちなど無いと思っていて、しかも男という男を排除しているキョーコが割り切った関係の男などいるはずもなく。そんな子に口説き落とされ、自分も「大人の割り切った目」で誘われ負けしないといけないという設定に、この後一体どういう演技をするのか、蓮自身が楽しみなのと同時にキョーコに気付かれないよう小さな溜息をまた一つついた。

キョーコはキョーコで、物思いに耽ったまま控え室を後にした。

敦賀さんを好きになってるけど言えない役柄・・・・・。そんなの、どうにだってできる。この人鈍いから全く気付いてないけどね・・・・。どうしてそう、鈍いのかしら。私への気持ちが無い事も知ってる。大事な人、もういるし。だったらなお更・・・・この役は私にぴったり・・・・・・・。ぴったりすぎて・・・・いや。でもこんなCMのように割り切ってなんて・・・・私、出来ないけどね・・・。

一つ息をつくと、沈んだままのキョーコを気遣った蓮に気付いて、またにっこり見上げた。



*****



「じゃ、もう一度テスト入ります。」
スタートの合図と共に、蓮が途中から歩いてきて、椅子に座る。

「いつものを。」
「はい、かしこまりました。」

馴染み風な雰囲気のマスターに頼むとすぐにロックグラスが手渡される。蓮の座る位置はキョーコと身体がすぐに触れそうなぐらい近い位置にある。キョーコはくるりくるりとグラスを回していたが、グラスが蓮に手渡されるのを合図に、蓮を見上げた。

「あら、遅かったわね。」

先ほどとはうって変わって、驚くほど大人びた表情に変わったキョーコに蓮は内心ひどく驚いたが・・・それが蓮のスイッチを押した。

「やあ。」

ニッと笑った表情は本気の演技をした「大人の」蓮だった。

あ・・・・帝王だ・・・・・。そうくるのね・・・・・。

京子は内心蓮が帝王でくるなら私は女王よ、と負けじとさらに強く微笑んだ。

「見合いをね、したんだよ。緊張してね。」

蓮はグラスに口をつけて喉を潤わせる。中に入っているのは薄めたウーロン茶だから、いくら飲んでも平気なのだが、本当に飲んだかの様に、ふぅ、と一息入れた。

「ハイ、OK!!良かったよー!京子ちゃん、ちゃんとできるんじゃない。本番もその感じでね!」

今だけは敦賀さんが好きなことを顔に、態度に出していい・・・・。

監督のOKと共に、がたがたと、本番に向けてもう一度回りは動き出したが、キョーコはまたくるりくるり、とグラスを新しいポッキーを取り出して回し始めた。

憑いたかな・・・・・・。これはこのまま止めない方がいいかも・・・・・。

蓮はふっと微笑して、もう一度最初の立ち位置に立ち、始まった。

憑いたままの彼女は、ずっと顎を左手に乗せたままくるりと回し遊んでいて、蓮が座ってグラスを手渡されてからようやく動いたが、先程とは違ってその顎を乗せたまま、視線だけ蓮に向けてニッと笑った。勝気で仲の良い関係らしいその表情は、本当に割り切った大人の女のようだった。

「あら、遅かったわね。」
「やあ・・・。」

驚いて思わず蓮の声が、間延びした。

「見合いをね、したんだよ。緊張してね。」

蓮はどちらかというと、キョーコの表情に驚いて無表情を装い、誤魔化すようにグラスで喉を潤した。見合いをという下りの後に、キョーコが驚いたように一瞬目を大きく見開いたから。まるで、自分が責められた気分になった。

「はい、OK!!敦賀君ホント演技力あるよねぇ。一瞬お見合いの事を言ったあとの複雑な表情、良かったよ。友達以上恋人未満な感じがよく出てた。」
「・・・いえ。」

今のは彼女が引き出したもの。逆にオレは引きずられた・・・・・。

その事に蓮はとても複雑な感情を抱いた。負けたのが悔しいのか、引きずられるほど彼女の表情に動揺したのか・・・・。キョーコはテーブルに置いてあるグラスからまた新しいポッキーを取り出して、やはりくるりくるりとグラスを回しはじめた。

「京子ちゃん、そのグラスもう炭酸抜けたから新しいのに変えるから。」
「・・・・・・・・。」

キョーコは憑いているからか、強い目でそのスタッフを見上げてまた視線をグラスに戻した。蓮がフォローを入れるために「憑いてるんです」と苦笑しながら、とまどったスタッフを除けて、横に腰掛けた。

「・・・・・・新しいのに、変えれば?」
「・・・・・・別に?」

苦笑した蓮に、相変わらず勝気な表情で蓮を見上げて、中に入ったジンジャーエールをくい、と飲んで「美味しくないわ・・・・。」とキョーコは文句をたれた。

「だから、新しいのに変えれば?」
「そうね・・・・。忠告には素直に従った方がよさそうね。」
「で、何でそんなに元に戻らないわけ?拗ねてる?」

だから何よ?という顔に蓮はまた苦笑して、よしよし、と後頭部を撫でた。

「最上さん、元に戻っておいで。せっかく思い通りに憑いたのを離すのはいやだろうけど・・・・次もすぐ憑けなきゃいけないんだから。」

とまるでオバケでも憑いた子供をあやすようなものの言い草に、スタッフが笑った。

「・・・・・・・??????」
「戻ってきた?」
「・・・・・敦賀さんなんて、嫌いです。」


大嫌い・・・・・・。そんなに優しく頭を撫でないで。


蓮は元に戻されて不満そうなキョーコにぽん、とにっこり笑って頭に手をやった。

「ごめんね。でも次、進まないでしょ?」

キョーコが元に戻ったらしいとスタッフに聞いた監督が、拍手しながら二人に近づいた。

「京子ちゃん、良かったよ〜ホントに何か憑けてるの?敦賀君も良かったし、二人のキャラは次もそれでいこう。次はね、ええとお見合いの事を聞いた京子ちゃんが、敦賀君を口説くところから最後までね。さっきの憑いたのがあれば、京子ちゃんばっちりだから。もう少し用意が済むまで待っててね。やっぱり背中だけなのが惜しくなってきたなぁ・・・・。少しカメラ位置京子ちゃん用に調整しようかな・・・。」

監督はブツブツ言いながら、スタッフの輪の中に戻った。

「どう?掴めて来た?」
「どうですか?合ってます?私の答え。」
「いいんじゃないかな・・・。」

また引きずられた時の複雑な感情を思い出して、苦笑した。

「なら、良かったです。敦賀さんがお見合いをしたって聞いて、ちゃんと悔しくなりましたから。きっと役作りは間違ってないはずだと思いました。」

にこっと笑って、キョーコは嬉しそうにふぁぁと大きく伸びをした。

「こら、いつもと服装違うんだから伸びないの・・・・。」

蓮はびっくりして思わず本音がでた。

「あ、そうでした・・・・。見ましたね?」
「不可抗力。というか自業自得でしょ?」

ぴったりとした服装で、そう無防備に伸びられては蓮も目のやり場に困る。
しかも他のスタッフだっている。
蓮のげんなりとした表情にキョーコは逆切れした。

「ひどいですっ。おへそ見ておいて。」
「はいはい。ごめんなさい。だからもうやらないで下さいね。」
「敦賀さんっ、ハイは一回でいいって習いませんでした?」
「そうですね、習ったかもしれませんね。それはそうと京子さん?君こういうトコで飲んだ事無いのにまぁよくそんな演技が出来るね。」
「こういうお店で一人でなんて飲んだ事はありませんが、この一週間沢山研究しましたから!それよりも敦賀さんがぴたりと女の横に自然に並ぶ事に異常に慣れていらっしゃる事のほうが不思議です。本当にゴシップなしですか?実は裏で社長に頼んで潰してもらってるんでしょう。」

売り言葉に買い言葉で、どんどんキョーコは極悪面になっていく。

「演技だもん。慣れたフリなんて、なんとでも。君だってそうだろう?何とも思ってないオレにそういう感情抱いたフリできたでしょ?」

ほんとに私ってこの役にぴったり・・・・。
私が他の人相手に・・・こんなに役に恋愛感情を移入して憑く事なんて無いわね。憑いた上に更に自分の感情も乗ってるんだもの・・・・・。それにあなたが「フリ」を・・・演技をすれば「自分の感情」なんて隠せるんだって事、昔・・・私に・・・教えてくれたんじゃない・・・・・・。

キョーコは「意地悪な敦賀さんなんてもういいです」と言って膨れて押し黙った。
蓮はくすくす笑って、傍にいた社から水を受け取り、空いたグラスにそれを半分注いで、はい、とキョーコに渡した。

「喉ちゃんとケアしておかないとダメだよ。そんなにいつも声を上げてるとすぐに喉やられるから。今日は台詞少ないからいいけどね。水はちゃんと携帯しておいた方がいい。」
「はい・・・・・。」
「でもさぁ、キョーコちゃん今度蓮に連れてってもらいなよ。もうお酒、飲める歳でしょ?なんなら、今日の夜とかさ。打ち上げ代わりに。」

小さくなったキョーコに、社は声をかけた。

「え?えぇ・・・。」
「ね、蓮。」
「今度、運転していない時にね。今日は乗ってきちゃったから。うまく撮りあがったら連れて行ってあげるよ。」

くすくすまた笑って、社の横やりをやんわりと蓮はよけた。


実際そんなことになったら・・・困る。飲んで緩くなった自分の気持ちが、抑えられなくなったら困るから。酔いはしないだろうけど、彼女を酔わせてしまったら自分がどうなるか心配だから・・・。


「敦賀君、京子ちゃん始めるよー!!」

遠くから監督の声が聞こえて、話し込んだままだった事に気づき、二人はメイク係に近づき直してもらうと、またもとの位置に座った。

「じゃあリハ入ります。次は少し台詞の後、蓮がポッキーを渡して口説いた京子ちゃんに答えるトコね。京子ちゃん、次は、敦賀君を口説くとこは短い台詞だけだから雰囲気だせるように頑張ってね!敦賀君、うまくリードしてあげてよ。」

監督がそう声をかけて、ハイ、と二人は声を合わせた。

「どう、また憑けそう?」
「敦賀さん、あの変な笑いしてください。口元だけニッってやつ。」
「変な・・・・?いいけど・・・。」

ちょっとだけ待ってくださいね、と蓮は監督に言って、先ほどしたように、キョーコの顔の真近でニッと口元だけ笑って彼女の中にいる「京子」を挑発した。するとそれをじっと見ていた「京子」もしばらくして負けじとニッと笑い返し、それが合図になって、また憑いた。

「敦賀君、京子ちゃん良さそう?」
「マドラーで遊び始めたから、大丈夫なようですよ。」
「そう?じゃあ始めようか。」

スタートの合図と共に、キョーコはピタリ、と蓮に身体をつけた。蓮にその彼女の肌と体温が触れ、至極近い距離、お互いの息がかかりそうなその位置。左ひじをテーブルの上に置く蓮に、京子はまた右肘をテーブルについてその手の上に顎を置いて見上げる形で会話がスタートした。

「お見合いってどう・・・?いいもの?」
「君も経験してみれば分かるよ・・・・。」

苦笑してまたグラスに口をつけて、喉を潤す。

「そう・・・?」

京子ははぐらかされてしまった事に逆に小悪魔な笑みを作り、マドラーに使っていたポッキーを持ち上げた。

「ねぇ・・・・食べて・・・・みない?」

それを蓮の口元に持ってこられて、台本では確か渡されるだけだったはずで、一瞬目を見張った。

「それも・・・いいね・・・。」

ニッとまた笑って、その口元に差し出されたものを口で受け取った。周りのスタッフは一瞬ざわりとどよめき赤面したが、蓮は構わず食べかけのポッキーを左手でキョーコの飲んでいたグラスに戻すと、ポッキーのグラスから一本取り出して、逆に口元に入れ返し、京子はそのまま一口食べて、ニッとその蓮の答えに笑い返した。

「はいカット!でも待った!あの・・・・二人とも最後の渡し合うシーン、台本と違うんだけど・・・。しかもそんなに近くの位置で話さなくても・・・。でもまぁ、その方が割り切って遊ぶ大人の雰囲気か・・・。でもそこまでしあう・・・「恋人同士」って設定じゃ、ないんだけど。京子ちゃんがそこまでやってくれるなら・・・。おーい、カメラ位置と内容少し変えるから!ちょっとみんな集まって。もし続編依頼が来たら・・考えていた次の作品の脚本は練り直しだな・・・。敦賀君、本番もそれでいいから。でも、もう一度京子ちゃん、できるかな?」
「大丈夫ですよ。」

蓮は一言そう苦笑して返した。相変わらずまたマドラーでくるくると遊んでいる「京子」は、周りのざわざわした雰囲気を鬱陶しげに、ずっと食べかけのマドラーで遊び続けている。
それを見た蓮はすっと席から離れた。さっきまで新しいマドラーに変えていたのに、今度は変えなかったから・・・このまま近くにいて、憑いた彼女に本気で口説かれても困る。

「蓮、お前・・・・そういう顔できるんだな。」
「?」

社は赤面して、蓮の隣へ立った。

「いや・・・・どう考えてもべったべたの恋人同士だよ、今の演技。言っている事が台詞だって分かっていても、見ているスタッフも赤面して汗かいてた。京子ちゃんが役に入り込んでるのは分かるけど・・・お前がそこまでアドリブ返しするなんて珍しいなと思ってさ。もしかして本気で演技して、本気で引きずられた?まぁキョーコちゃんの今のカッコもメイクも似合ってるし、現実じゃ絶対言わないような台詞言ってるからね。」

くすくす笑って、蓮は水を口に含んだ。

「まぁ、憑いた彼女が何をしてくるか分からないですよね、実際。彼女のアドリブに面白がっているのはオレ自身かもしれないし、それに引きずられているかもしれませんね。でもまぁ、アレが彼女なりの背中で語る「小悪魔」の答えなようですよ。背中でしか語れない分、「お見合い」の話を聞いてからあとのシーン、オレとの距離を狭めることで「気持ち」を強調したんでしょう。オレはそれに合わせてるだけですよ。でもカメラ位置変えるって言っていたから、最後のトコ彼女、正面から写すんじゃないですかね?」

確かに、蓮の後ろにあったカメラが微妙に位置をずらしてセットしなおされていた。

「まぁいいけどさっ・・・。キョーコちゃんそれでもやっぱりすっごい可愛いし。もし正面から写して、悪魔から小悪魔なキョーコちゃんていうイメチェンが出来れば、キョーコちゃんにとってもプラスになるだろうしね。でもあんな男を手玉に取るようなキョーコちゃん、見られるのは面白いよねぇ。ホント蓮が相手じゃなかったら、あんな至近距離で口説かれるなんて、もうめろめろで演技どころじゃないよ・・・。」

また社は赤面して、そう言った。

・・・・・・やっぱりオレは引きずられているんだろうか・・・?

また悔しさに似た複雑な心境に陥る。キョーコが絶対言わないような台詞に表情。実際の彼女じゃないと思っても、奥底の心が反応する。息がかかる程の距離に、小悪魔の笑み。寄り添った体温に手を出したくなる。実際の彼女にそう言われた気になる。どんなにいつもの笑みで彼女をかわしても今回は効かない・・・・・。

二人で飲みになんて、絶対に行けそうにないな・・・・・・。

大きくため息を吐いて、蓮はセットしなおされて行く様子を傍観していた。



*****



しばらくしてまた先ほどのシーンが始まり何度か撮った。
徐々に憑きっぱなしで疲れてきた様子のキョーコに、蓮は声をかけた。

「大丈夫?」
「・・・・これくらい飲めるわよ。」

ジュースで酔っ払ったって事は・・・ないはずで。
憑いたままの京子は、「酔っていないか?」という意味に解釈したようだ。

「そう?」
「平気よ。ねぇ、そんな事はいいから・・・・。ねぇホントに食べてみない・・・?」

蓮は小悪魔の笑みでそう耳元で囁かれて、固まる。

「・・・・・いや。」
「合図に答えてくれたのに・・・・・?」

そして今度は、本気で泣きそうな「京子」の表情に動揺した。

「いや・・・ちょっと待って。次で最後だと思うから・・・その後に・・・ね?」
「絶対よ・・・・?」

・・・・・・・うっかりしてた・・・・・・・。

その様子に気付いたスタッフも、ぐったりした蓮とにこりと満足げに笑ったキョーコに「敦賀君、可哀想に」と苦笑をもらした。

「だいぶいい画が撮れてるけど、毎回少し京子ちゃんがぶれるから。これで最後ね。じゃ、お願いします。」

スタートがかかると、さらに身体をつけて見上げる京子にさすがの蓮も、動揺する。
まるで先ほど自分が口説かれたときのようで。

「お見合いってどう・・・?いいもの?」
「君も経験してみれば分かるよ・・・・。」
「そう・・・?」

・・・・・どうした?

一瞬泣きそうな複雑な顔に変わり、すぐにまた小悪魔な笑みに戻った。
そして、持ったマドラー代わりのポッキーを渡す前に一口自分で食べてしまった。

「ねぇ・・・・食べて・・・・みない?」

そして、その先を蓮の口元に付けた。


敦賀さんが、好き。キスしたい・・・・・。


驚いた蓮は先ほどよりも大きく眼を見張り、そしてまたいつものように、ふっと笑って答えた。

「それも・・・いいね・・・。」

蓮はそれを口で受け取り一口食べると、その食べたポッキーの先を左手で京子の口に返した。そして京子は満足げにニッと笑って口にした。

京子がもう一度食べ、カットが入る直前に蓮は、京子の顎に手をやった。
蓮は自分の顔を傾け反対側からキョーコが口にしているポッキーを直接口で折り、ほんの数センチの至近距離でニッと笑った。
京子も女優・・・負けじと小悪魔のようにニッと笑った。


あなたになんて、負けない。口説き落とすわよ。

君になんて、絶対負けてあげない。オレが口説き落とす・・・。


ほって置いたらすぐにキスでも始めそうな至近距離で甘く見つめ合ったままの二人の状況に、慌ててカットが入った。

「もうどんなに台本と代わってもいいや。うまくつないどくから、敦賀君も京子ちゃんも・・・・あとは俺たちに任せて、もうあがっていいから。」

蓮の甘い色気たっぷりの笑みと、京子の可愛い小悪魔な笑みを同時に見て、さすがの監督も赤面をしてそう告げた。

蓮が水を取りに席から離れると、まだ抜けきれない様子の京子は、口の中に残ったポッキーを食べ、新しいポッキーを取ると、再びマドラー代わりに遊び始めた。
その様子に、皆が苦笑した。

「敦賀君、京子ちゃん・・・元に戻してあげてよ・・・。」

他のどのスタッフが声をかけても無視をし続けるために、赤面しながらスタッフが蓮に声をかけた。

が、「終わった」から、蓮はしばらく京子をほったらかしにしていた。
ごまかした先ほどの問いに答えなきゃいけないのに困ったから・・・。

あーあ。ついにオレが本気でひきずられたよ・・・・・・・。

ふぅ、と一つため息をついて、蓮はキョーコの横に腰掛けた。

「ホラ、最上さん、もう終わったよ・・・?」

京子は無表情のまま、蓮を見上げると、そのままぎゅっと蓮の身体に抱きついた。

「も、最上さん・・・?」

腰にがっちり腕を回され、そのぴったりとした服装から柔らかな感触がして、蓮は身体を強張らせた。近くにいた社も、周りのスタッフも思わず赤面して固まる。

「さっき答えくれるって言ったわ。逃げるの?」

やっぱりまだ抜け切れていない彼女の様子に、蓮はぐったり脱力した。

「はいはい、いい子だから、戻っておいで。」


いやよ、離したくないの・・・・。離したらまた好きじゃない「フリ」に戻さなければいけないんだもの・・・・。一度出てしまった感情は留まる所が・・・・なくなるかもしれない。お願いだから、そんなに優しい手を私に向けないで。


蓮は苦笑してさっきそうしたように後頭部を撫で続け、しばらくすると、涙をたっぷり溜めたまま、「キョーコ」が顔を上げた。

「敦賀さん・・・・私きっと頭がおかしくなったんです。ん・・・・?あぁ!!私は敦賀さんになんてことを!!」

キョーコはびっくりしたように、ばっと蓮の身体から身を引いた。


ね?フリなんて簡単。あなたの傍にいられるなら・・・・貴方が望む「最上さん」なんて、いくらでもやってあげる。だから実際・・・小悪魔なのは私なのかもしれない・・・。


「ずっと憑いてたのを止めてなかったからね・・・・ホント君って面白いよね。ねぇ、なり切ってる時って、一体何考えてるの?」

「役になりきってますからよく覚えていません・・・。それで・・・あの・・・変な事してすみません。」


真っ赤になってキョーコはうつむいて素のフリを続けたが、それがなりきっているときはなりきった感情に身を任せている事を暗に蓮に教えてしまった事に気付いていないのだろう。


この子に催眠でもかけたらあっという間に抜けられなくなりそうだな・・・。


蓮の脳裏に恐ろしく変な想像が頭をよぎり、溜息と共に軽く頭を振った。

「もうあがっていいって。帰ろうよ。着替えてきて。送るから。」
「ハイ。」

キョーコは珍しく大人しく席を立つとぽてぽて歩き、ボーっとしながら周りの赤面する視線など目もくれず、控え室に戻っていった。

「蓮・・・・キョーコちゃんて・・・すごいよね。」
「そうですね・・・・。」
「思い切り蓮を引きずってたでしょ・・・・ついに抜かれるかもよ・・・?」
「くすくす、それは困りましたね。でもあんなに「憑いた」の、オレも久しぶりに見ましたよ。」
「蓮にも何か憑いているかのようだったけどね。このCMもまたすっごい反響呼びそうだよね。キョーコちゃんもだけど、蓮もこってりな恋愛ドラマ、覚悟しておいた方がいいかもよ。このCMが目に留まって相手女優がキョーコちゃんなんかになった日には・・・大変だねぇ。ふふふっ。」

社はにやり、と笑って蓮を見上げた。
蓮は再びぐったりと、それは困りましたね、と独り言のように呟いた。




*****





一月後。

オンエアーをされたCMを見て、キョーコと尚は叫んでいた。

演じていたキョーコ自身も、そこまで現場の皆が赤面した理由が分かっていなかった。

「な、何やってるの、私〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「何やってんだ、キョーコとアイツはっ!!!!!!!!!!」


薄暗い店にジャズピアノのBGMが流れ、その長身がすらりと入るところまでは全て引き気味に、背中と正面から写されている。そして慣れたようにいつもの席に座る。当初の予定通り、背中しか写らないキョーコは、タンクトップの裾が上がり少し腰が見えていて、一人つまらなそうな背中が写り、手を顎に乗せたままうつむいている。そしてポッキーのマドラーで遊んでいる手許だけがアップで写される。そして当たり前のように蓮が横に座り、マスターに声をかける。

「いつものを。」
「はい、かしこまりました。」

マスターからロックグラスが手渡されると、キョーコは至極近い位置まで身体を近づけて、蓮を見上げる。

「あら、遅かったわね。」
「やあ・・・・。」

ニッと笑う蓮は20代らしい、男の子と大人の狭間の微妙な色気を醸し出していて、
ぴったりと寄り添った二人は、ごく親しい関係を映し出している。

「見合いをね、したんだよ。緊張してね。」

グラスに口をつけ、すこし、ぐったりとした表情の蓮に、キョーコは続ける。

「お見合いってどう・・・?いいもの?」
「君も経験してみれば分かるよ・・・・。」

蓮は苦笑して、またグラスに口をつける。

「そう・・・?」

そう言ったあと、キョーコはグラスから出して手にしたマドラー代わりのポッキーを、渡す前に一口食べて蓮に至近距離まで顔を近づけて囁く。

「ねぇ・・・・食べて・・・・みない?」

食べたその先を、蓮の口元に付けて、そうされた蓮は大きく眼を見張るが、ふっといつもの帝王のような余裕の笑みで答える。

「それも・・・いいね・・・。」

蓮は食べかけのポッキーを口で受け取り一口食べて、食べたポッキーを京子の口に入れ、そこで始めて「京子」の口元が一瞬映し出される。

そのままキョーコの口元がニッと笑ったところだけが映し出され、その食べかけのポッキーを京子がまた食べ返す。

するとすぐに、蓮が京子の顎に手をやり、顔を傾けるとキョーコが口にしているポッキーを蓮の口が折る。実際の折る瞬間は蓮の斜めに傾けられた顔とキョーコの背中だけが写り、そしてすぐに二人の顔先で折れたポッキーが映し出される。

そこで、初めて京子の顔全体が映し出され、小悪魔のようにニッと笑った。

そのまま超至近距離でお互い蕩けるような目で見つめ合ったままの二人の横顔が写り、最後に横から二人の口元で折れたポッキーがアップで写り、「大人の恋はビターテイスト?」という白抜きのテロップとMen’sポッキーの写真と共にCMが終わった。


「いやー京子ちゃん、いいんじゃない?これっ。」
「あ、あれは!!引いた方が負けだったんです!!!!」

事務所で半分冷やかされるように声をかけられ、蓮ファンには恨みがましい目で見られ。散々な目を見たと、キョーコは蓮に膨れて文句を言うのだった。

このCMがどうなったというと。

やはり蓮の醸し出す大人の雰囲気と、いつにないワイルドな感じがする蓮に骨抜きにされた女性と、京子の小悪魔っぷりに惚れた同世代男性陣の圧倒的な支持を受けて、年間の高感度・注目度NO.1に輝いた。実際に蓮と京子がキスをしたのかしなかったのかと、その濁した写りも話題を呼んだようだ。

某社は二作連続で上半期下半期のNO.1を取れたこと、同世代の共感が取れたことにいたく喜んで、また蓮に次回作もシリーズで頼む事にした。

その話に一番頭を痛めたのは、監督と脚本家に違いない・・・・・・。











Special Thanks to sanaSEED様
「flagile」を読ませていただいたあと、衝撃的に妄想が浮かび、 感想と共に書かせていただきましたところ、作成ご快諾頂いた上掲載もOKいただきました。 数少ない我が家の作品が増えて潤いましたですv Sana様、いつもありがとうございます(^^)。 祭典出席当日に徹夜で書いていたというおりました・・・・萌えパワーってすごいですよね〜(笑)