Sweet Lil’ Devil V



「蓮の新しいポッキーのCMは、またドラマ仕立てだからね〜。」

そうご機嫌に口にした社に、ハンドルを握る蓮のコメカミはほんの少しだけ、ぴくり、と動いた。信号が赤になり、蓮は社に視線を向けた。

「クリゴさんからまた依頼来ていたんですか。」
「ちょっと驚かせてあげようと思ってね、ナイショにしておいたんだよ。だって相手役はやっぱりキョーコちゃんなんだから!」
「・・・・・・・。」
「続編だって。」
「小悪魔の…ですか?」
「どうだろう?」
「続編って・・・またバーですか?」
「いやーだからね、内容はオレに話しても仕方ないでしょ。顔合わせは今週末不死テレビの番組の収録が終わった後、傍のホテルグランパシフィックメリディ○ンの会議室だよ。先方が蓮に気を遣ってくれたみたい。キョーコちゃんは高校が終わったら直接入るって。」
「・・・・最上さんに社さんから連絡取ったんですか?」
「ふふふ・・・気になる?キョーコちゃんとのこっそり電話・・・ふふん〜…v」

げんなり、とした顔をした蓮は視線を逸らした。
社は「冗談だよ」とあっさり告げた。単に、蓮のテンションがココで下がってしまっては、次の仕事場でのテンションにまで差し支えると踏んだからだ。

「椹さんがオレに念のためって彼女の予定を言っただけだよ。マネージャーでも居ればいいんだけどさ。蓮が心配するような事なんてないよ。」

蓮は前方を見つめたまま、ふぅ、とほんの小さく息を吐いた。

「敦賀蓮、なのにねぇ…さすがだよね・・・。蓮の「骨」まで折られちゃオレとしては困るんだけどねー。ま、その辺彼女は幸いにして後輩だからね。会おうと思えばいつでも会えるし、会っていても変じゃない。」
「・・・・・。」

二人がそんな会話をしている頃、キョーコは受け取った台本を手にして、蓮と同じように「ふぅ」、と息を吐いていた事を、二人は知らない。


*********


ホテル付属の会議室の机の上に、いくつもペットボトルの水が並べられている。蓮と社は思ったよりも早く着き、指定された席に座って、蓮は明日の台本を、社は蓮のマネージング手帳の書き込みをして時間を過ごしていた。コンコン、とノックの音に二人はドアに顔を向ける。

「おはようございます、敦賀さん。さすが、お早いですね。」

夕方だが今日初めて会った蓮にキョーコはにこり、と笑って仕事挨拶をしながら入ってきた。蓮もキョーコに気づくと、優しい笑みを浮かべる。

「おはよう。久しぶりだね。」
「キョーコちゃん、ひさしぶり!!」
「お久しぶりです。」

ぺこり、と深々二人に頭を下げたキョーコに、社は「続編おめでとう、キョーコちゃん。」と声をかけた。

「ありがとうございますっ。今回もお手柔らかにお願いしたいです。」
「それはオレの台詞かな、小悪魔で評判の最上さん?」
「むぅ・・・。」

くすくす笑った蓮がふと扉に目をやると、ホテルの一室のドアが開いて、久しぶりの監督とクリゴの若い専務が姿を現した。

「お久しぶりですね、お二人とも。今回もどうぞよろしく。」

「改めてまして」と言って名刺を差し出した専務から、蓮とキョーコがそれを受け取る。「僕はすっかりCMと広報担当ですよ、元は営業だったんですけどね。」と、クリゴの「ぷっ☆ちんぷりん」や「ポッキー」でヒットCMを次々と飛ばす彼は、穏やかに笑いながらそう言った。社が蓮の代わりにLMEのロゴが入った名刺を専務に渡し挨拶を返すと、全員柔らかなソファに腰を下ろした。


腰を下ろすとすぐに専務の連れが「クリゴの新商品のお茶です」と言って全員にペットボトルと菓子がいくつも入ったクリゴらしい真っ赤な紙袋を配って歩いた。

「今日はお忙しい中、CM作成の為にお集まりいただきましてありがとうございます。今日は顔合わせだけですが、お願いしたスタッフは前回と全員同じですので、ご紹介は割愛させていただきます。さて…京子さんは確かカインドーさんのキュララのCMも出られていらっしゃいましたね。」
「あ、はいっ・・・よくご存知ですね。」
「もちろんご依頼の前にお仕事は全て拝見させていただいています。こんな席ですが、もし放映後の契約期間が過ぎていたらですが、この商品のCMにもぜひ。その袋に入っている物ですが、ポッキーその他弊社の甘い菓子と、それに合う様にブレンドしたメイプルロイヤルミルクティーです。今度そのCMに出て頂けるなら、甘いミルクティ同様可愛いらしい京子さんを演出する事をお約束しますよ。」

にこり、とまた彼は笑った。

「CMもう一本なんて・・・本当ですか?」
「よかったね、最上さん。」
「はい。」

にこっと蓮も嬉しそうにキョーコに微笑みかけた。「さて、前置きが長くなりましたが…」と続けた専務は、「今回は11月11日のポッキーの日限定のCMを作る為に、お二人にご協力を頂きたくお集まりいただきました。」と一転ビジネス口調でそう言った。

「え?コレは一日限定なんですか?」
「そうですね。その代わり一日で通常流すCM期間と同じ時間分各局に入れ込みますから。インパクトは大きいはずです。」
「はい。」
「とにかく、敦賀君には一作目二作目共に相当なインパクトを残して頂けて本当に良かった。今回は等身大の敦賀君をお願いする予定です。」

専務がそう伝えると、監督は「台本は渡してある通りだよ。どうも君たちに任せて好きに演じてもらうのが一番良さそうだからね。注文はそんなに無いよ。台本を自分の思うように解釈つけてやってくれればいい。むしろ何パターンか浮かんでいるなら先に意見が欲しいね。また収録前にもう一度詳細詰めるから時間よろしく。」と、前回と同じスタッフ、同じ俳優だけに慣れた様でそれだけ口にした。

「はい。」
「分かりました。」

蓮と京子は同時に頷く。専務は「お二人の感性と監督の腕があれば、きっとまた良い物が出来るでしょう。」と言った。

「『結局どうなったの、どうだったのか、あの二人とお見合い相手は。』と、クリゴの広報部に今でも続編要望が来るんですよ。ですから、その完結編をクリゴの日を記念して放送します。クリゴ完全提供の2時間ドラマ敦賀君と京子ちゃんで一本作ったらどうです?なんて意見もあるぐらいなんですよ。検討はしているんですけれどね。ふふ・・・。もしその際はお願いします。」

しばらく続いた談笑も、1時間程でお開きになった。蓮と京子は専務監督以下スタッフを見送ると、残った社と蓮と京子も、会議室を片付けるスタッフに挨拶を残して部屋を後にする。

「最上さん今日はコレでおしまい?」
「はい。」
「送るよ?乗っていけば?」

メリデ○アンの地下駐車場に入ると、キョーコは蓮の持つ赤い紙袋の中にそっと一つ重いものを入れて、そして一つ軽いものを抜き去った。

「最上さん?何してるの?」
「プリンはあげます。だけど、栄養補助食品は代わりに貰います。」
「?」
「このクリゴさんのプリンにいい思い出が無くて。」
「思い出ね・・・・。」

車のドアを開けながら蓮は一人繰り返す。
何が言いたいのかすぐに分かったのだろう。

「それに・・・このウエハースを敦賀さんが気に入ってしまったら、コレしか食べなくなってしまいそうですから。食べる前に没収です。お菓子なんて敦賀さん食べないでしょうし…。」
「この袋ごと最上さんにあげようと思っていたんだけどね。」
「い、いりませんっ。会社のおやつ箱に入れておくつもりなんですから。」
「じゃあコレも。じゃあ今度車で一緒に持ってくよ。ミルクティだけは味見しておいた方がいいんじゃない?CMの女王さん?」

CM依頼数業界トップの敦賀蓮に言われたくないわ…と心の隅でツッコミを入れつつ、キョーコも車に乗り込んだ。




つづく・・・(あれ?)




2006.11.11

60,000Hitリクエストとして。

今日はポッキーの日。リクエストは「Sweet Lil' Devilのような感じで」との事。じゃあ直に続きをってことで(笑)、とにかく今日の日付が欲しかったのでした(^^;。すみません、続きます。長編ほどでもないと思うんだけど。Tは、実はコレの4つ分ぐらいの長さがあります。ので、それぐらいかな?でも出来るだけすぐ書きます〜〜〜。