A Day of Love





今日は世界中の誰もが「愛」について考えるとても「ステキな」日。


それなのに煌めく電光がひどく厭味に見えて。


モー子さんも相手が出来てしまったし…マリアちゃんは同級生の男の子のパーティーにお呼ばれ。


だるまやの女将さんは気を使ってくれて、今日はお休みでいいよ、なんて言うし。「彼」が誰だか知っているから、仕方が無いのだけれど。


帰るに帰れないじゃない。
誰も相手などしてくれない「一人」の言い訳なんて。


こんな時仕事でも入っていれば、よほど簡単な言い訳が出来るというのに。


敦賀さんは・・・・お仕事、だものっ。
こんな日は何にも用事が無くても会いたかったけど・・・。


初めての、クリスマスだけど・・・・・。


そんなの・・・・・。


「はぁ……」


つい・・・マリアちゃんにまで幸薄いとまで言われた私の、数少ない幸が詰まった溜息が漏れてしまって。


昔からたった一言、「会いたい」が言えない私。


こんな気分の時には・・・せめてどんな誰でもいいから飲みにでも連れて行って欲しいわね。アイツ以外なら。


なのに、今日に限ってその「アイツ」に会わなければいけない。
アイツがこの局で仕事なの、今日しかなかったんだもの。
運命の神様って皮肉で本当に酷いわ・・・・。


「一人で何やってる訳?」
「だからアンタは却下。」
「え?」

ぱっと顔を上げるとショータローだと思った声の主は・・・会いたかった敦賀さんだった。

「な、す、す……」
「・・・・?」
「す、すみませんっっ!アイツだと思って……!」
「彼と、待ち合わせな…訳?」
「え、あ、はい…。」

はわっ・・・・!!!

しまった・・・・言ってなかった・・・・。
だって、アイツに会いに行くなんて・・・・。

「へぇ・・・・・・・デート?」
「えっ・・・・???なんで私がアイツとなんて。」
「今日はそういう日なんでしょ?」

なんで、そんな事、言うの・・・・?
私は、貴方に、会いたかったのに。我慢したのに。


敦賀さんは、「隣に座っても?」と言って、私が頷く前にもう座っていた。


「何で・・・敦賀さんこそ、こんな所でどうされたんです?」
「仕事だよ。もちろん君のスケジュールは押さえていたから・・・・事務所で君を拾うつもりだったけど・・・・。もう見つけたから。」
「そうだったんですかっ・・・・。」

約束なんてしていなかったのに・・・・。
そんな言葉だけで浮上できる私は、単純。

「で、なんでアイツに・・・今日、会うわけ?」
「いえ・・・大した用ではないんです。ただ、クリゴのCMに出たせいで昨日大量にもらい物したので・・・。」
「そういえば…この間クリスマスバージョン、見た。で?「それ」を彼にあげる訳だ・・・・。」
「ええ。」

手許にある袋には、50個分の「プッ☆チンプリン」・・・・。

こんなのを一人で食べたら太っちゃうもの。
かといって貰ったものを捨てるなんて事も出来ないし。

クリスマスプレゼントと称してプレゼントしてあげようかと。

そしてアイツが食べて丸くなって「こんな姿じゃ歌えねぇ〜〜〜〜!!!!」と泣いて叫ぶ所を見てやろうと思って持って来たのだけど。

べ、べつにっ・・・・アイツへの復讐が済んだ訳じゃないんだもの。
お仕事で貰った物をそんな事のために使うなんて言ったらまた・・・・怒られるんじゃないかって・・・思って・・・・・・・・・。


・・・・まさか敦賀さんに・・・・会うと思わなかったから・・・・。


「ふーん。そう。」

そして何故さっきから・・・・まるでもうすぐ「大魔王」になりそうな声でキラキラを飛ばすのかしら・・・・。

「つ、敦賀さん・・・・?」
「何かな。」
「あのー・・・ウチにもっとありますけど・・・もしかしてお好きだったんですか・・・・?クリゴのプリン・・・。」

――きらきらきらきらきら・・・・・

な、なんでっ・・・・さらにキラキラが増えるのかしら・・・・・。
わ、分からないわっ・・・・・。

「プリン?彼は、好きなんだ?」
「ええ、アイツは・・・コレがとにかく好きで・・・・。」
「へぇ。」

――きらきらきらきらきら・・・・きらきらきらきらきら・・・

――ぷすり、ぷすり・・・・

「あのう・・・どうか、されましたか・・・・?なんで、プリンは好きじゃないのに・・・怒っていらっしゃるんです・・・・。」

「怒ってなんて無いよ。クリスマスだしね、オレも君へのプレゼント、あげようか?」

い、いやぁぁぁぁっ・・・・・。
・・・・敦賀さんへのプレゼント・・・・・・・だって明日しか会えないって・・・。

「明日、だと思ってて・・・・・・・ご、ごめんなさいっ・・・・・・!!!!」
「だよね・・・そうだと思っていたけどね。いいよ、別に・・・彼以下だからね、オレは。」


――い、厭味っ・・・・・・・


「ご、ごめんなさいっ・・・・社さんの分も忘れてしまって・・・・。」
「いいよ、君へはあげる。オレのは・・・」

そこまで言って、敦賀さんは視線を上に向けた。
私も一緒に振り返ると、アイツが立っていて、一気に大量の冷や汗が流れた。

「キョーコ・・・・とお前はっ・・・。」


ショ、ショータロー・・・・!!!!!
お、お前って何よっ・・・・し、失礼にも・・・程がっ・・・・!!!!!

こっそりと敦賀さんの様子を伺ったら、敦賀さんは・・・・何故かキラキラの厭味な笑顔から・・・・いつものオブラート笑顔に変わって、アイツに「やぁ、久しぶりだね」と声をかけていた・・・・。

そしてアイツはそれを無視していた。

「ショー・・・・あんた挨拶も出来ないの?」
「おひさし・・・ぶり、ですね。」

顔をしかめながら、敦賀さんではなく私の顔を見てそう言った。
相変らず・・・・嫌い、なのね・・・・・。
何のしがらみも無いのにコレだけ嫌えるっていうのもすごい事だけど。

「はい、これ。絶対に“全部”食べてよね・・・・。ココまで運ぶの重かったんだから。」
「おう・・・・。」
「これ、好きなんだ?」

そう、敦賀さんが中身を言わないようにしてにっこり笑った後の・・・・アイツの顔は・・・・・面白いほどに歪んでいて、局だから本性を出すわけにも行かないのか、この二人のメンツに遠巻きにも隠れギャラリーがあるからなのか、必死に声をあげたいのを我慢しているようだった・・・・。

「ぶっ・・・・くっ・・・・。」

思わず私と敦賀さんは同時に笑っていて、アイツは最上級の不貞腐れた顔で私の横へどさり、と座った。

そして、私はアイツと敦賀さんに挟まれる形になって、その二人のなんとも言えない気配と、ギャラリーの視線に・・・・・逆に・・・・青ざめた。

「なに・・・。」
「お前・・・コレからどうするの?」
「は?」
「これの礼ぐらい、するけど。」
「い、いいわよ・・・貰いものだもの・・・。何、急に。」

妙に落ち着いた顔で・・・・そんな事言われると、困ってしまうじゃない・・・・・。

ショータローも世間も・・・・私と敦賀さんが付き合ってること・・・・知らないから・・・・・。

「つ、敦賀さんっ・・・とっ・・・これから事務所・・・だしっ・・・ね???そうですよねっ・・・?」

ヘルプの意味を込めて、にっこり笑って敦賀さんを振り返ると。

「そうだね・・・・君からのプレゼント・・・・貰わないとね。」

再びキラキラを飛ばし始めた敦賀さんに気付いた私は・・・・さらに、青ざめた。そして、なんとかこの最悪な状況を乗り切ろうと無理やり立ち上がった。

「じゃ、そーいうコトだからっ・・・・。じゃあね。」
「オレへのプレゼントは、コレだけ?」
「十分でしょ?」
「敦賀サンには・・・・何、やるの?お前の事だから・・・手作りケーキだろ、どうせ。」

・・・・・ドキっ・・・・・なんで・・・・分かるのよっ・・・・。

今日の夜作って・・・・明日渡そうと思ってたから・・・・。

「わ、悪いっ・・・・?」
「別に。」

アイツはそう言った後、なぜかじっと私を見ていて。

そんな視線に慣れていない私は、視線を敦賀さんに戻した。

「最上さん。」
「はい?」
「じゃあ今日は、アレ。くれない?」

立ち上がった敦賀さんは、にっこりと笑って私を見下ろしていた。

――ケーキは明日、だから・・・・

「アレ?」
「君の・・・・今夜の・・・・・。」
「ひゃぁっぁぁぁぁぁっ・・・・ま、待って。」

そ、それ以上は・・・・っい、言わないでっ・・・ココで言ったら・・・。

「夕飯。行こう?・・・くすくすくす・・・・。」
「敦賀さん・・・・。」

私が慌てた理由をわかったのだろう、一度吹いて、お腹を抱えていた。

「一緒に、行こう?」
「あの・・・・はい・・・・。」

にっこり笑った敦賀さんに、ただ、頷くしか出来なかった。

「・・・・・キョーコ。じゃ、オレは帰るから。これ、さんきゅ。」

あ、慌てていて・・・・アイツがいたの・・・・わ、忘れてたっ・・・・・。

「じゃーな。」

な、なによ・・・・なんでアンタが・・・・そんな真面目な顔、するのよっ・・・・。

そう思ったときには、くるりと背を向けて、行ってしまった。

「彼に・・・悪い事したかな?」
「何が、ですか?」

そう言うと敦賀さんはまた、ひとつだけくすり、と小さく笑って「いいや、なんでもないよ」とそう言っていた。







そして、その日の夜。

アイツから、「プリン2つ喰った。だけどお前!その顔じゃすぐに世間にバレるだろ。お前の前に立ち続けたオレが言うんだから絶対だぞ・・・。」と、メールが一通届いていた・・・・・。


「キョーコちゃん?」


その携帯をサイドボードに置いて、再び敦賀さんの腕の中に戻った。


「敦賀さん・・・・アイツに・・・・ばれちゃったみたいです。」
「そりゃあ、ね。君は・・・全部顔に出るから・・・・くすくす・・・・。」

すりすりと耳の下を指で撫でられて、穏やかにそう言われた。

「じゃあ、今私が何を考えているか・・・分かりますか?」
「そうだね・・・・・明日オレに仕事が無ければケーキ作り一緒に出来たのに?それとも・・・クリスマスに君と約束をしなかったから、酷い男ね?」

「そんな・・・違います・・・・。だって会いたいなんて・・・とても私からは言えなかった、から。」

「言ってくれるの待っていたのに。しかも今日、彼に会うなんて。」

「私も言って下さるのを待っていて・・・・なのに何も言って下さらなかったから。やっぱりまた一人で過ごすのかと・・・愛されていないのかと・・・思いました。アイツはたまたまですよ・・・・?」


そう言うと、ふっと微笑して身体をよじり、低く静かな声が直接耳を掠めた。


「じゃあ今は・・・・何を考えてる?」

「クリスマスっていい日、だったんですね・・・・。知りませんでした。」
「そう・・・だね。知らなかったな・・・・。」




そっと、肌と心が重なって。
再び指が、絡み合った。




そんな、世界中「愛」に溢れる日の、とある三人の出来事。
















2005.12.24