愛されている君へ

 

「敦賀さん・・・?一体、何をなさろうと・・・」

 

かなり引き気味にキョーコが壁際に追いやられて、引きつった笑顔で蓮を見つめる。

「何って、キスでもしようと思って」
「そんな・・・思ってするものなんですか」
「したいと思ったからするものだろう?」
「いや、あの、」

 

壁際でうろたえるキョーコをよそに、頬に、そして、唇に。
何度かついばめば、キョーコは弱々しく蓮の服の裾をつまみ、小さな抵抗を試みる。
蓮が空いた片方の手で、首筋に手を這わせれば、目も肩先も思い切り縮こまる。
髪に手を通して何度かすけば、耳元は真っ赤に染まっていく。

 

キョーコの緊張と、飛び出しそうなくらいドキンドキンと、鼓動する心臓の音が伝わりそうな距離。二人の間に流れる濃密で熱く、甘い。

 

「ね?君もしたくなっただろう?」
「・・・・・・・・・」

 

キョーコはしばらく指先でもじもじとして裾で遊び、そして、小さく頷く。

 

ふっと笑った蓮は、両腕ですっぽりとキョーコを包み込む。キョーコは少しだけ背伸びをして蓮の首に両腕を巻きつけて、蓮は首を傾ける。蓮は唇でキョーコの唇を開け、そしてゆったりと二人は・・・・・・・・

 

 

*****

 

「敦賀さん、敦賀さん」

 

目の前にはキョーコが立っている。

 

「えっと・・・」
「もうそろそろ時間です」
「あぁ、うん・・・ありがとう」

 

ぼんやりと、蓮はキョーコの顔を見つめる。まだ夢と現実とが行ったりきたりしている。
キョーコは、ぼんやりとして、かなり素の状態で瞬きもせず長い間(にキョーコには感じられた)見つめるものだから、まごまごして、あの・・・と言いながら、言葉を詰まらせた。

ふっと笑った蓮は、大きく腕を伸ばして体全体をほぐす。
ようやく立ち上がり、行こうか、と言ってキョーコと部屋から出た。

 

「本番前にうたた寝なんて、めずらしいですね。寝不足ぎみですか?」

 

横を歩く蓮にキョーコは声をかける。

 

「時間があったから少し休んでおこうと思って、そしたら、目が自然と閉じていたみたいだね」
「思っている以上にお疲れなんですよっ」
「そうかもしれないね」

 

そして急に蓮が足を止める。

 

「あ・・・・・」

 

先ほど見ていた夢は、どうやらこの廊下でキョーコを追い詰めていたらしい。
人気のない場所。同じポスターが飾ってあって、資料室、と書いてある。

 

「どうかしたんですか?」

 

蓮が歩みを止めたから、同じ方向をキョーコも見つめる。

 

「さっき見た夢の場面は、どうやらここだったらしい」

 

その壁にゆっくりとキョーコを囲い、追い詰めて、あれこれ・・・・。

 

「廊下でも歩いている夢ですか?」
「いいや」
「じゃあ、」
「うーん、そうだな、何ていえばいいかな。夢の夢」
「夢の夢?」
「夢じゃないかも、目標?」
「あ、分かりました!いつかやってみたい素敵な役を貰う夢ですねっ?」
「・・・そうだね、そんな感じだ」
「どんな役なんですか?」
「ん〜〜〜〜〜・・・・そうだな、とても甘い恋愛映画の、主人公。本当はとても愛されているんだけどね、相手は全然愛に気付かないから、オレが愛を教えるの」
「・・・・い、一体・・・どんな夢を見られていたんですか・・・・」

どこか照れるキョーコを、蓮は夢と同じように軽く壁に追い詰める。夢と同じように髪に手を差し入れ、口付ける事はしなかったけれども、耳元で囁いた。

 

「こんな感じだった。もっと聞きたい?甘いよ?」
「いえっ結構です・・・」
「そう?せっかく教えてあげようと思ったのにな」

あっという間に親密な空気を作り出す蓮に、キョーコは心臓が飛び出すかと思った。
蓮は笑ってキョーコを離し、再び廊下を歩くように促す。

 

キョーコは驚きすぎて、その感情を隠したいのか、「もういきなりびっくりさせないで下さい!」と言いながら、可愛く唇を尖らせぷりぷり怒っていて、蓮は「ごめんごめん」と笑いながらその感情を流していく。

 

--君は誰かにとても愛されているんだって、いつか気付くといいな

 

こっそりともう一度後ろを振り返れば、指からこぼれる柔らかな髪の感触と、あっという間に真っ赤になったキョーコの耳元だけは、蓮が夢で見たものと同じだった気がした。

 

 







2011.2.14

 

きっと社さんは気をきかせてどこかでお仕事しています(´v`*)