I love you , I love you more…

 

 

 

昼食休憩中に皆が集まり、撮影現場らしい会話が続いていた。
キョーコにも話が振られて、「京子さんて、どんな人がタイプなんですか?」と聞かれた所だった。少し困ったようにして、うーん・・・と考えてから、
「誠実な人・・・かなあ?」
とだけ、あたり障りの無いような意味のあるような無いような返事をした。
抽象的過ぎて、さらに聞かれる事も無いに違いない。

「確かに重要ですよね〜。でも・・・敦賀さんは違いますよね〜誠実とは程遠いというか」
ケラケラと可笑しそうに笑った「彼女」は、蓮を見て冗談めかしてそう言った。
蓮が反論する前に、皆が「え〜、いくらなんでもそれはひどい」と声をそろえた。
キョーコは、ただ、「そうですか?」と言って苦笑いをしただけで、何も感情を表さないようにしながら、蓮をちらっと見た。
「随分だなあ」
蓮も苦笑いを浮かべた。
「敦賀さん一見こんな穏やかですけど、もー絶対見せない何かは、めちゃめちゃ怖いんですから!やっぱり男の人っていうか。男の人って普段絶対女の人に手加減してますもん」
彼女は力説して、皆の顔を見回す。

「ハハ・・・。一応みんなに説明しておかないとオレに変な疑いがかかるから言っておくけど・・・彼女が言っている怖いっていうのは、以前共演した時の役柄の事を言っていると思うんだけど・・・・でも、怖いと不誠実って同じ意味じゃないよね?」
「違いますけど、でも〜あの時の顔、本当にちょー怖かったんですから〜!!あ、でもっ、もちろん、嫌いって意味じゃないですよ?」

彼女は蓮の仕事ぶりを面白そうに力説して笑った。
随分なことを言いながら、顔は至極楽しそうに見えた。

彼女はたぶん、蓮の事を一度本気で嫌いになり、そして、改めて今回の役柄で、蓮の事を好きになったのだろう。キョーコはそう感じていた。

 

以前の役柄では、彼女は蓮に散々な事をされた役柄だった。散々怖い目に合わされ、怖い言葉を言われ、冷たい目で見下ろされ、すごまれ、脅され、恐怖にかられたであろう事は、昔の自分に重ね合わせるようで、目に浮かぶようだった。

 

「あの時はだって、そもそも敵役のオレは、出来る限りみんなから離れているようにしていたし・・・誤解だと思うんだけどな」
「・・・冗談ですよ〜も〜敦賀さんっ!」

 

楽しそうに色々と力説する「彼女」に、キョーコは少しだけ胸がうずき、そして嫉妬のような、やきもちのような感覚を覚えた。まるで蓮をよく知っているよう。蓮の普段、普通は見せない奥深さも、もしかして理解した上で、好きになったのだろうか。

 

そして、えっ?と思った。蓮の強さも弱さも、本当は自分以外の誰にも見せてほしくないのだと。優越感的な。そんな事で喜んでいたのだろうか。そしてなぜ今そんな気持ちになるのだろう。少しの自己嫌悪。でも、もし蓮に正直にそう言ったら、それはそれでやきもちも独占欲も嬉しい、とでも言って喜びそう・・・。

 

蓮と久しぶりに一緒の仕事になり、気合を入れていた。成長したところも見て欲しかったし、公私混同しないように気をつけていた。だからこの仕事に入ってから、蓮とのプライベートの距離をあえて取っていた。
いつどこで、自分が蓮の足を引っ張ってしまうか分からないと思っていたからだった。

 

ふぅ、と一つ息を吐き出す。キョーコは気持ちを切り替えようと椅子から立ち上がると、その場を離れて、食事の並ぶ机の横にあるお茶のスペースの前に立った。小さな紙カップを二重にして、それを数個並べた。コーヒーと紅茶と緑茶を入れて、トレイを持ち上げた。
「お茶をいれてきました、よかったらどうぞ」
蓮がありがとう、と言いながらコーヒーを受け取り、彼女も、ありがとう!と紅茶を手に取った。
キョーコは一緒に食事をしていた数人にそれを配り、最後に残った緑茶のカップを手にした。キョーコはそれを静かに口にして、皆の会話に再び混ざった。

 

話題は今話題の新しい水族館の話になり、それを仕事でゲストとして見に行った人の話が続き、和やかな雰囲気の中、ゆったりと時間が過ぎていった。

 

キョーコがちらり、と、時計を見ると、
「そろそろ休憩時間終わりだね」
と蓮も、キョーコを見て言った。
「そうですね」
とキョーコは言って伸びをした。

 

自分でも理解できない心のさざ波を読まれたくなくて、隠したくて、目を合わせず、伸びをしてごまかした。敏感な蓮には何かの違和感は伝わってしまったかもしれない。

 

キョーコはすっと立ち上がり、お茶のカップを一つ持って、
「すみません、お先に失礼して、仕度し直してきます」
と皆を見回して伝えて頭を下げ、席を後にした。

 

――なんなのかしら、このざわつき

 

言葉にならないざらっとした感覚が胸のあたりにあった。
言葉にしようとしても言葉にならない感覚。

 

――仕事中に何考えているのかしら。

 

――さっさと切り替えるのよ・・・久しぶりの敦賀さんとの一緒のお仕事なのだから・・・

 

ぼんやりと、歯磨きをしながらキョーコは湧き上がる思いを静止しようとし続けていた。
遠くから、「京子ちゃん」とメイクスタッフに呼ばれ、キョーコは我に返る。
手を振り、もごもご返事をして、口をゆすいだ。

 

*****

 

『先生、こちらが頼まれたものです』
『ああ、ありがとう』

キョーコと蓮の数少ない会話。上司である蓮が部下のキョーコに視線を向けることは無い。
キョーコが手渡した資料に素早く目を通すと、蓮は『次の資料B-2、よろしく』と言い残し、慌しく部屋をあとにした。

「カット!」
「次はそっちのセットねー」

その声を聞き、蓮は次の場面の撮影に赴くべく、隣のセットの前に移動する。
キョーコに今日は今後もう出番は無い。
その後の予定も無く、着替えたのち、再びスタジオに戻った。
明日の撮影のために帰っても良かったけれども、久しぶりにただ蓮の仕事の様子や進行状況を自分の目で見ておこうと、キョーコ以外にも他の女優俳優たちも残っていた。

 

新しいセットに移った後、蓮の演技が続き、キョーコは久しぶりの蓮の仕事ぶりをを見て、ただただそれを目で追っていた。

蓮が、悲しくて静かに涙を流すシーンをじっと見ていた。
涙さえ、見映えよく、綺麗に流す。
本当は号泣したいような場面。腹を少し震わせて、手をきつく握る。
計算されているはずなのに、イヤな気持ちにさせないのも技術だろうか。

蓮の演技が、とても単純に、好きだな、と思う。
それは何故なんだろうと思う。
皆の好きという感情をさらっとひきつけてしまうのはどうしてだろう。
彼の日本人離れしたあの見た目と身なりじゃなかったら、そうは思わないのだろうか。
どんな役を与えても、それが例え一瞬の脇役だとしても、印象に残る居場所を必ず作ってしまう技術と、たゆまずひるまず続け続ける努力だろうか。
見た目を出来る限り磨くことはともかく、技術と努力なら、自分も獲る事が出来る。
頭で理解しようと思っても出来ない部分は、こうして現場でその息遣いや空気を見て、少しずつ得るしかない。

 

確認作業の続く現場、撮影スタッフは慌しく行き来し、ある意味部外者であるキョーコの隣には、いつの間にか社が立っていた。
「社さん。おつかれさまです」
「キョーコちゃん、帰らなくていいの?」
「はい、今日はもうお仕事終わりです。もう少しこの場の雰囲気を味わおうと思って」
こそこそこそっと耳元で会話する。
「そっか、蓮もやる気になるよ」
「そうですか?今更?」
「今更じゃないよ〜。なお更だよ〜」
「そうでしょうか・・・」
「そうです!マネージャーの太鼓判つきです。信じなくても信じてもそうなんです。男はかっこつけたがりだから、キョーコちゃんの前ではもっとよく仕事ぶりを見せたくて、絶対頑張っているはずなんだから!」
社はこそこそこそこそ、と、キョーコの耳に手を当てて力説した。
キョーコは少しはにかんで、恥ずかしそうにした。
「キョーコちゃんて、ホント可愛い〜っ(≫∇≪)」
「え?ななな何でですか」
「あ、もちろん、蓮が見たらって意味だよ?」
「何か、変な事しました?私」
「蓮の事考えたよね、考えたよね?今」
「・・・・・」
「いや〜ホント、蓮て愛されてるな〜と思って・・・グフ」
「社さん!耳元で変な笑いするのやめて下さいっ」
「ごめんごめん・・・だってさ〜(これが笑わずにはいられるかって!)」
「もー・・・」

キョーコは別に心底困ったわけではないけれど、何かからかわれた様な気がして、困ったような顔をして、社のスーツの腕をぽんっと手で軽く押して少し遠くへやった。
そこへ、たまたま通りがかった『彼女』がやってきて、
「京子さん、何か楽しいお話ですか〜?社さんといつもすごい仲良しですね〜」
と冷やかすように笑いながら声をかけて、撮影スタッフの中へ去って行った。

 

*****

 

 

帰宅する電車の中で、キョーコの携帯が震えて鳴る。
画面を見ると、蓮だった。電車の中で出る事が出来ない。
しばらくして、不在着信のマークが画面に出て、そして画面はすぐにブラックアウトした。

『おつかれさまです。いま、電車の中です。出られなくてごめんなさい』

と、蓮にメールを入れた。しばらくして、

 

『会いたい』

 

と、それはシンプルなメールが届いた。
どきり、とした。

 

『わかりました。今どこですか?』

 

とキョーコは返事をした。

 

『今、部屋に向かってる。うちに寄って。勝手に部屋に入っていいから』

 

と蓮から返事があった。

 

『分かりました、ちょうど夕飯の時間なので、何か食べ物を買って、持って行きます。食べてないですよね?』

 

とメールを返し、『うん』とだけ返事があり、そこでやり取りは途切れた。

 

バッグの中にいつも大事にしまってある、ルームキー。
それを、取り出して、バッグの中で眺める。
こんなもの一つで、全てを、許されている証しに、思えてしまう。こんなもので、愛されているような気がしてしまう。

 

――・・・・・・・・・・・・・

 

蓮からのメールに、言葉にならない、ざわざわがある。
期待と、不安と。
久しぶりに二人だけで会う、緊張。
そして甘さを、ただ感じるだけ。
うれしくて、急に足元がふわふわする。

 

こんな時、ただわかるのは、本当は自分だって会いたかったこと、それが、言えなかった事。よばれてうれしかったこと。本当に好きだということ。

 

向かう途中に、スーパーマーケットに寄る。いつも現場のお弁当か外食しかしない蓮に、温かいスープと新鮮なサラダくらい手作りしたい。
次に会えるのがいつかは分からない。
その日の夜のためだけに、一個ずつ、ばら売りの野菜を買うのは、いつも、とても贅沢で、とても愛しい時間に思えた。

 

 

*****

 

玄関のチャイムを一度鳴らし、中にキョーコは入った。
蓮が先に帰っていたようだった。迎えに出てきた。

「おかえり」と蓮は言った。
「おじゃまします」とキョーコは靴をそろえて言った。

 

「早かったね」
「そうですか?スープとサラダは作ろうと思ってコレ、買ってきました」
「ありがとう、食べに出ても良かったのに」

 

外に出て、好きなものを食べながら、デート・・・・それも捨てがたかったけれど。
出来るだけ、ただ、一緒に、いたかったから、買ってきてしまったと言ったら、蓮は笑うだろうか?

 

「オレの事を気にしてくれた?記事とか」
「いえ・・・自分のために・・・。えっとあのその・・・少しでもゆっくり一緒にいたくて・・・」
ちらり、とキョーコは蓮の顔を見上げた。
蓮は、そっと笑って、
「・・・そうだね」
と静かに言った。
持ってきた荷物をキョーコの手から受け取り、キッチンへ向かう。

 

蓮が、
「最後の方まで見ていてくれたよね。どうせなら最後まで待っていてくれたらよかったのに」
と言ったらから、キョーコは、
「会いたかったですけど・・・あの・・・敦賀さんはお仕事明日も早いですし・・・」
蓮は歩みを止めて、振り返った。
蓮は無言でじっとキョーコの目を見つめた。
キョーコは、何か変な事でも言ったのかしら、と、目を瞬く。
「あの・・・」
「会いに来て欲しい。オレの明日が早いと分かっていて、会いたいとわがままを言って・・・・・それがオレのわがまま。・・・・・OK?」
「・・・・はい」
キョーコは蓮に近づき、ぎゅっと、蓮のシャツの裾を握った。
蓮はキョーコの手を取る。うつむくキョーコの頬にもう片方の手を添える。添えた瞬間に、びくり、と肌が震えた。そろりそろりと蓮の方を見上げる。
蓮は目を合わせると、手を離し、髪を混ぜた。
「オレをただの恋人にして欲しい。恋人に会いに来るのに理由はいらない。オレが君に会うのに毎回理由を作りたくない。一緒に食事をして一緒に眠るだけでいいから、一緒にいたい」
「・・・そんなに一緒にって言われると、照れますね」
「だっ て一緒にいると安らぐんだもん」
「もー・・・ごはん、作っていいですか?」
「うん。手伝う」

 

蓮とキョーコは、不思議な静けさと共に食事をした。
感じていた本音を言わないからだった。
片付けた後、キョーコから切り出した。
ソファにて蓮の横に座り、蓮の手を取った。

 

「今日の撮影、私、ちゃんと出来ていましたか?」
「もちろん。なんで?」
「今日は雑念が多くて・・・反省しました」
「そうかな、大丈夫、切り替えられていたと思うけど。オレはね。少なくとも監督の目にはオッケーが出ていたんだからいいけど、集中できなかったのなら、確かに反省点だよね」
「お昼休みに・・・あの子・・・が、敦賀さんを好きでからかっているように見えたとき、不思議なやきもちのような気持ちがして・・・・敦賀さんに色々あったのを茶化されたようで、まるで、私たちの間に、敦賀さんの中に、土足で入ってこられたような気持ちになって、否定してあげたいのにそれも私の立場ではできなくて見守るしかなくて・・・。余裕のなさに自分で自分がいやになってしまって・・・。しかも、敦賀さんに色々あったこと、他の人が知ってたらと思うと、もっと何か嫌な感情が湧いてしまって・・・」
「・・・それで様子が変だったんだ?」
「・・・・そうです。何でこんなざわついた気持ちになるんだろうって」
「まあ、確かに、誠実じゃないのかもしれないけど」
「敦賀さんほど仕事に誠実な人はいません」
「仕事だけ?」
蓮は笑う。キョーコは、
「仕事に誠実だったから、見ず知らずの私にも最初からずっと誠実に、忠告をしてくれました」
「見ず知らずの男に、確かケンカ売ってきたよね、そういえば」
「見ず知らずだったから売れたんです」
キョーコは顔をそらして、そ知らぬ方を向いた。
「オレが君に不誠実だった事ってあったかな」
「・・・・・・・・・(ありましたとも!急にちゅーするとか。急にベッドに押し倒すとか!)」
「だって、その時も君が好きだったから」
「・・・・!」
「当たり?」
「やめてください、人の頭の中を覗くのっ」
「君がオレなんてどうとも思ってなかったからいけないんだ」
「わ、私のせいですか?」
「そうです。オレは君に会ってから君以外の女の子なんてどうでもよかったんだもん」
不誠実じゃないもんねーと言いたげに、胸をそらして蓮はキョーコを見る。
「・・・私がもし他の人を好きだったらどうしてくれるんですか・・・」
「そんなのヤだ。取り返す。ホラ、オレは本当に君以外いらないんだ。ね?誠実そのもの」
・・・・・この人、天性のたらしだわ、と思う。
「本当にオレは振られてばっかりだったから、昔は、自分ではしっかりしていたつもりだっただけで、他人には不誠実に写っていたのかもしれないと今になっては思うけど・・・。だからあの子が何を思ってオレを不誠実に思うかは分からないけど、オレの何かの仕草から、そんな事も読み取れるんだろう。それは否定しません」
「・・・・・・・(愛しすぎて不安になって、愛を確かめたくて振られてるって事も言ってあげるべきかしら・・・その振っただろう女の子たちが抱えていただろう気持ちも、すごく良くわかるんですけど・・・・)。あの子は、穏やかな敦賀さんがあんなに怖い顔で迫ったのを間近で見たから、それを面白く思っているだけに思います。それに過去も敦賀さん・・・が不誠実だったわけじゃないと思います・・・・もしかしたら、本当に、恋抜きでの恋愛もあったのかもしれませんけど・・・・」
蓮は、そうかもね、とそれだけ言った。
恋抜きの恋愛への否定もしないし、肯定もしない。
せめてうそでもいいから否定ぐらいしてくれてもいいのに。
「・・・・・君との間の事を恋愛と言うのであれば、今までの恋愛と呼んで来たものは全て、相手を深く知ろうと努力した時間・・・に過ぎなかったと思うんだよね・・・。だって君の事を好きになった時、知ろうと努力なんてしなくても好きになったんだから・・・・・そうだ、日本語で「初恋」って言うんだ」
「・・・・私が初恋・・・。喜んでいいのかそうでないのか分かりませんけど、今までの子たちと、ちょっと毛色が違うとか・・・・そういう」
「キョーコちゃん」
「はい」
蓮は首を左右に振った。キョーコが照れて軽口を叩こうとしたのを遮った。
「オレは、君が好き。他の男が君を愛する様子を思い浮かべるだけでイヤだ。・・・・あの子がね、社さんと君が付き合っているんだって、終わった後オレに力説していたよ」
「ええっ!なんで!!」
「いつも一緒にいるし、いつも君がすごい笑顔で、女の子らしくなっているって・・・」
「そんな事ないですよお・・・」
「自分ではそう思わない事も、他人の目から見たらそう見えるらしい」
「だって、敦賀さんは知っています」
「社さんと仲のいい君、というのを隠れ蓑に使っているつもりじゃないけど、あんなに可愛い顔を社さんだろうが他の男だろうが、親密な距離でされると、腹が立つんだ。君はそんな可愛い顔をしたつもりは無いと思うけど」
ぷいっと蓮は顔をそむける。
こんな時、子供みたいでかわいい、と思う。
自分がやきもちを焼いたように、蓮もやきもちを焼いてくれているのだろうか。
だから、急に呼ばれたのだろうか。
そうだとしたら。
少し、嬉しい。
「あ、あれはっ・・・親密な距離じゃなくて、音を出さないように声を控えていただけで・・・。社さんが、私が見ていると、敦賀さんがやる気になるからって言って・・・そんな今更?って言ったら、なお更だって言って・・・」
「・・・・・・・」
蓮はあきれたように首を左右に振った。
「あの人はすぐにオレの軽口を・・・」
「敦賀さんが愛されているんです」
「仕事だからね」
「もちろんそうですけど・・・本当に敦賀さんの事を大事に思ってくれています」
「まあね・・・」
「今日だって・・・社さんは本当にいつも敦賀さんの調子が良くなるように考えていて・・・。今日も、私が敦賀さんの事を考えていたよねって、すごくうれしそうな顔をしたって言って・・・」
「まったく・・・。でも、あんなに可愛い顔を、社さんに見せてあげる必要なんてありません」
「・・・つるがさーん・・・」

思い切りやきもちを焼かれて、キョーコは困って蓮の手を握る。
「ごめんなさい」、と、言いながら、ちゅ、と、音を立てて、一つ、唇に口付ける。
「ね?これでいいですか?」
ちらっとお伺いを立ててみる。
蓮は、「まだだめ、あの可愛い顔をオレに見せてくれなきゃヤダ」、と拗ねた。
そういわれても、どの顔の事を蓮が指しているのか分からない。
じっと蓮の顔を見つめてみても、どうになることも無く。
「・・・・いじわるです」
キョーコは諦めて、蓮の肩に右肩を寄せて、もたれかかった。
自分が誰かにやきもちを焼いていた事など、すっかり忘れていた。
単に、蓮に会えない欲求不満か蓮不足だったのかも、と思った。
すぐに飛んでいってしまいそうな蓮との絆を思うときと、こんなに深く、蓮が自分以外を大事にするなんて考えられないような気持ちになる時がある。

 

蓮とキョーコはしばらく無言で、意味無く流れていた蓮とキョーコが今撮り続けているドラマの放映を見続けた。
蓮が主演の女の子と恋愛をしはじめた画面に、キョーコは蓮の手を取った。
「やっぱり、俳優の仕事が好きだな、と思う。こんな風に色々な女優さんと仕事をしなければならなかったとしてもね」
と蓮は言った。
画面は、長く、恋愛を続けている。蓮は女優さんの肌の上での台詞が続いている。
「で、毎回、こういうトコだけは、いやでもやきもちを焼いちゃいます」
「やきもちを焼いてもらえるように、頑張るよ」
深く口付ける画面を見ながら、ぷくっとキョーコの頬が膨れる。

蓮は、キョーコ、と囁いて、そっと一度口付けた。
すぐに離して続ける。

「オレ達も」

と言った。

 

恋愛を続けるテレビ画面は、恋人たちの手で、止められた。

 

 

キョーコにとって、とても深い恋愛をする時、蓮が、理性を忘れて英語が混ざる時がある。そんな、理性を忘れた蓮を感じるのが、とても好きだった。意識していないと本人は言うけれど、英語で言われて体が反応するのはどうしてだろう。蓮が体の底から言ってくれているからだろうか。そんな蓮を感じると、自分も、体の底が感応するのだろうか。

 

 

ベッドの上、互いを腕の中に入れて、少しの間、英語で愛を囁き合う。

 

――愛してる

 

と、キョーコがシンプルな英語を言うと、

 

――もっと、愛してる

 

と、蓮は言う。
そう言って、蓮は、キョーコの額に自分の額を寄せる。
見つめながら、口付けて、キョーコの、少し乱れた息が蓮に届く。
再び蓮が英語で言う。

 

――あいしてる

 

キョーコが言い返す。

 

――もっと、あいしてる

 

この限りなくシンプルで、終わりの無いやり取りを、ただただ繰り返す。
それなのに、互いのつながりが深く深く愛しくなっていくのはどうしてだろう。
深く深く愛し合っている最中も、蓮がそう囁くと、キョーコのわずかに残る理性もどこかへかき消された。

 

うとうとしながら、キョーコはそれを、魔法の呪文みたい、と、囁いた。
蓮は、お菓子の家も、妖精の王国へもいけるんじゃないかな、と笑った。

 

何度か互いに繰り返したのち、キョーコから静かな寝息が聞こえた。
蓮は再び同じ言葉を繰り返して、目を閉じた。

 

 

――I love you・・・I love you more・・・

 

 

 

 

 

【FIN】

 

 

 

 

 







2014.4.21