「次はいつ君に・・・会える?」

「この椿の花が枯れたら来て。・・・・でもこれは誰にも内緒。二人だけの秘密。ねぇ、あなたのその気持ちは、一体どういうもの?」

「押さえ難い・・・同情と献身。」

「私の事を愛しているわけじゃないの?」

「今は・・・それを口にする時じゃないんだ・・・。」

「じゃあ・・・一生口にしないでね。」

@椿姫 デュマ・フィス

 


“応えられないなら・・・期待させないで・・・・・”


・・・・・・・全くその通りだと、思う・・・・・・。



Seasons Reverse 1 −Spring−椿姫



もう・・・無理かな。

枝を手に取ると、真赤な椿の花がぽとりと頭から落ちた。

これが、嫌な想像をさせるのだという。
芸能界だってあっという間に首切りは・・・される。
生きていたってそんな事はいくらでもある。

落ちた椿の花を拾って、水を張ったガラスの器に浮かべた。

「・・つぅ・・。」

花瓶から抜いた枝が指で滑って、勢いよく切れた。
流れ出た血の方がよほど嫌な想像をさせる。


迷信だな・・・椿の花の話なんて・・・・。


あの子がくれた真っ赤な椿の花。
あの子は何も知らないから。
オレの中で椿が何の象徴か、知らないから。

だから、これにも何の意味も無い。
これを飾る事にも、何の意味も無いのに。
でもどうしても捨てられなかった。


ただ・・・・本当は気づいてる。
・・・・・今までずっとあの子の気持ちも見ないフリをして、子ども扱いをして。
綺麗になっていく彼女を見ないフリをして。
オレの気持ちにも蓋をして鍵をかけて。

「敦賀さん、ドラマでのキスの仕方・・・教えて下さい。初めてで・・・分からなくて。」

半年以上前・・・ドラマでキスシーンがあるのだと、相談された。
共演相手ではなく・・・・どうしてオレに相談をしたのか分かっているくせに。
大人なフリをして指導だと自分の心に言い訳をして、カメラ位置と立ち位置を聞いて・・・。
唇にほんの少し触れるか触れないかだけの子供のキスを1度した。
それでも彼女は真っ赤になって大人しくなった。
だから・・・あの子が、初めてのキスを・・・オレにしたかったのだと・・・・・。

それまで、全然気づかなくて。子供なのだと思っていたから。

その離れたあとの・・・大人びた表情に・・・・驚いた。

あの子を見ているだけで、だんだん、女優だとか子供だとか、昔の思い出だとかオレの過去だとか・・・そんな事はどうでも良くなってしまう。

あの子が・・・・大人になったら・・・・・?
自分の気持ちを自覚してから、ずっと蓋をしたのに。

もう、その蓋が開きそうで。
あの子がオレに向ける視線が、オレの蓋の鍵を開けてしまいそうで。
あの子がオレへの気持ちが無かったから・・・閉めていられたのに。


雪道で、転びそうになった彼女の腕を引いて抱きとめて。それだけで、血が逆流する。

「リコさん、どう・・・?」
彼女がオレの目の前で・・・半眼で・・・上向きに口紅を塗ってもらっているその姿にさえ、欲情した。



頭がおかしくなる。
あと一月で、彼女はもう・・・卒業をして、大人の階段を一気に昇り始める。

大人になった彼女が・・・・他の誰かのものになって・・・。
その誰かに・・・全てに一直線の彼女が・・・眼差しをむけて・・・・恋をして愛して・・・結婚して・・・・。子供の顔を見ることにまでになったら・・・・?
そうしたらもうこの苦しさに慣れて・・・・逆に楽しみになったりするのだろうか・・・・?


「蓮、あのマフラーあげたの〜〜〜?」

社さんが彼女にあげたマフラーをこっそり指差して、にんまり囁いた。

「えぇ、風邪ひきそうだったんで。」
「へぇーほーっ・・・・。そう。蓮も風邪、引かないでよね。一人暮らしなんだから、引いたらキョーコちゃんに世話、してもらうから。耐えられる?」

・・・・・・・・・・・・・・。
代マネの時のようには・・・もう、いかないだろうな・・・・。

「大丈夫、ですよ。」
「何が?風邪が?それとも耐えられるってこと?」
「もちろん風邪が、ですよ。」
「ほんっと、蓮って・・・。ま、いいけど。・・・あの真っ白なの、蓮も似合ってたけど、キョーコちゃんも似合ってるね。・・・蓮、本当に早くしないと、もう・・・・取られるよ?業界でも最近多いんだから。「京子」ファン。男女共にね。」

「・・・・・・・・・そうですね・・・・・。」

社さんは、昔からずっとオレをどやし続けているから、すぐに勝手に話がそっちへ向かう。
好意でそうしてくれている事が分かっているから、何も言わない。
ただ随分昔にオレの気持ちはばれているらしいから、いつのまにかそれに慣れてしまって、こうやってたまに本心をもらしてしまう。

「敦賀さん、このドラマ、台本貸してくださいねっ。主人公の子、好きなんですよ〜。」

最近放送が始まったばかりのドラマのポスターを指差して、遠くであの子が笑った。
ポスターの前で立ち止まったままの彼女に二人で近づいて、そのポスターに触れた。

「いいよ。今度もって来るよ。何なら、まだ最後のトコ撮ってるから見に来る?」
「ホントですか?行きますっ。勉強になるんですよねぇ、敦賀さんの演技。あれ?」
「・・・何?」

彼女はおもむろにオレの手をとって、これ、と言った。

「あぁ・・昨日・・・切ったんだ。」
「痛そうですね・・・バンソウコした方が・・・。」
「なめとけばなおるよ。」
「まぁ敦賀さん、手のモデルさんじゃないからいいですけどねっ。でも見てるほうが痛々しいから、帰ったら付けてくださいね。・・・・男の人の手っていいですよね。大きくて好きなんですよ。だからつい、気になっちゃいましたっ・・・・。」

手のひらをぎゅっと握って、にっこり笑ってオレを見上げた。
無表情になったオレに気づいたのか、彼女は先に歩いていった。

「蓮、大丈夫?」
「何がです?」
「キョーコちゃん・・・・最近・・・実は、そうでしょ?言う事が可愛いよねぇ、ホント。その傷だって・・・そんなに大きくないのに・・・・。」
「・・・・・。」

「まさかあれが、何も意識してない子の言う事だったらすごいよね。まぁ・・・今までのキョーコちゃんの言動の不一致を考えると・・・往々にして・・・そういうこともあるかもしれないけど・・・。蓮だって、我慢しないでもいいのに。オレはむしろ、お前のためにいいと思ってるんだからさ。」

「・・・・・・・・。」

何も答えなかった。


その日の帰りにまた、真赤な椿を渡された。

何も知らない彼女にひどくじれったさを感じて、椿姫を示唆した話を口にした。
最近、どうも、自分の感情に合わせて口が勝手に動き出す・・・・。
言うつもりが・・・無いのに。
どうして、それでも気付いて振り向いて欲しいと・・・・。

昔からメルヘン思考な彼女は、「姫」物語が大好きで。
今でも「姫」だの「お嬢様」だのという言葉がまだ、大好きらしい。
自分の役だろうが他人の役だろうが、そんな設定を好んで、嬉しそうにする。

本当に、女の子らしい女の子で。

「そのあと姫は幸せか?」との問いに、あっさりと「幸せのはず」なんて答えが返ってきたりする。

彼女の女の子らしいメルヘン思考は嫌いじゃないし、それを崩すつもりも全く無いから、その問いに戸惑った彼女に、何かを言うつもりも全くないんだけれどね。

ただ、椿姫は、最終的に愛し合った女が男を置いて先に亡くなってしまう話・・・。
彼女が好きな、「王子様とめでたし」なんていう、夢物語ではないんだよね・・・。

原作では、亡くなる女性・・・マルグリッドが、椿を渡す・・・夜を誘うために・・・・。

オレが昔演じたのは、原作の方で・・・聞き役の・・作者の自身だったから、その椿を渡される男の役ではなかったけれど、それでもあのシーンはとても見ているのが好きだった。

女として恥じらいどころか誇り高く、男を誘う。
その誇り高い表情を傍から見るのが好きだった。

もちろんこれをオレに渡した彼女の表情は、それとは全く異なっていたけれど。
だから・・・・・無理やり「意味」をつけたがっているのはオレ自身。


最近、そうやってぼんやり考え事をしながらオレが歩くから、彼女は退屈なのか、あっというまに目の前からいなくなる。

「あっ・・・・。」

本当にあの子はあっちこっち勝手に動いて・・・・。
あの子も考え事したままあらぬ方向に歩いたり、何か気になれば、すぐにどこかへいってしまう。

「こら、最上さん、危ないからまっすぐ歩きなさい・・・・。」
「あぁ・・・・・逃げたっ。あっ・・・・すみませんっ・・・いつも見かける猫がいたので、つい・・・。」

君が猫みたいだ、とは言わなかった。
真っ白い、猫。
オレを惑わせたまま、好き勝手動いて、あっちへ行きこっちへ行き。
たまに優しく甘えてみたり、去ってみたり。
本当に何をしでかすか分からなくて。

事務所で初めて会った時は、傷だらけの手負いの猫だった気がする。
あまりに真っ白すぎて・・・・傷だらけで・・・。
「男」と名の付くもの全てに牙と爪を向けていた。
オレも・・・・最初からひっかかれて、噛まれて・・・・。
なのに、気まぐれに世話を始めたら、だんだん懐かれた。

逆に・・・・目が離せなくなった。

小さいときはどちらかと言うと、子犬っぽい子だったんだけどな・・・。
ご主人様、一筋の・・・・ね。
そのせいで変わってしまったけれど・・・・・。

それとも、女の子・・・というより女性と言うのはこういうものなんだろうか?
まぁ、確かに今までつき合った子達も、猫のように好き勝手やっていたか・・・・。

途中で待ったまま彼女は、オレがそこにたどりついても動かず、見上げてきた。

「敦賀さん、最近元気、ないですね・・・?大丈夫ですか?ちゃんとお休み、とれてます?またご飯ぐらい、作りにいきますから。食事も、ちゃんとしてくださいね。」

あぁ・・・・・。

「うん、大丈夫だよ、ごめんね、心配かけて・・・。」

「いえ・・・。最近よく考え事、されているから・・・。何か大変な役につきあたっているのかな、と思っていたんですけど。今のドラマも、すごくいいですよね。敦賀さんのキャラ、全体の中でもよく生きてますし。だから、大丈夫ですよっ。」

そうだよねぇ、オレがする考え事なんて、仕事の事ぐらいしか、想像つかないよね…。

「ありがと。期待に応えられててよかったよ。」
「敦賀さん・・・・は、あの役みたいに・・・タバコ、吸わないんですか?」

そりゃあ・・・まぁ・・・体のために・・・?

「吸わないよ・・・?何で?」
「・・・いえ、あの・・・手馴れた手つき・・・に見えたから、実は吸っているのかと・・・・。」
「まぁ、男だから勧められて付き合わなきゃならない事はあるけどね。普段は吸わないよ。」
「そ、そうですか・・・・・。」
「なに、オレがこっそり子供みたいに隠れて、吸ってると思ったの?」

くすくす笑って答えたら、あの子は慌て始めた。

「そ、そんな訳じゃなく。あの、・・・物思いに耽って・・・一人燻らして吸うシーン・・・あれ、シルエットだけでしたけど・・・・構図も映りも角度も良かったなと・・・思って。」

微妙に照れた彼女が・・・・とても可愛かった。

「それはどうも。最上さんは、まだ吸っちゃダメだよ?」
「吸いませんよ!!あんな煙いの。頭悪くなっちゃいます。」
「それはそれは良かった。高校生は高校生らしくね。もうそろそろ寝ないとね。」

しれっとした顔をして見下ろしたら、思い通りの反応が返ってきた。

「こ、子供扱いっ・・・・・。もういいです、送ってもらってありがとうございました。もう、寝ますからっ。おやすみなさいっ・・・・。」

勢いよく頭を下げると、バタバタと家に駆け込んで入って行った。

・・・・・丸め込まないと・・・最近は本当に・・・まずい。
最近はこうやって子ども扱いして・・・怒らせて、オレから離して・・・・。
全て演技でごまかして。





あぁ・・・・確かに・・今・・・・タバコが・・・・・・欲しい。








次に彼女に会ったとき、事務所のロビーのソファに座った琴南さんの横で、彼女はぐっすり眠っていた。

「敦賀さん、迎えに来てくださったんですよね?任せました!!」

「えっ・・・・・。なに、こんなトコで・・・・ずっと寝てるの?」
「この子、寝るの得意ですよ。あっという間に寝ますから。あれ、知りませんでした?」

ニヤリ、と挑戦的に笑って、オレを見上げたが。

何・・・この子・・・・オレの事・・・・・試してるのか・・・?
この子が眠るとき・・・・一緒にいたことがあるのか・・・・・と。

喰えない子だな・・・・・。

「・・・・・琴南さんの方が親友だし、適役だと思うよ?起きたら呼んでよ。」

努めて笑顔で返したが、彼女には見抜かれているような気もする。

「この子、敦賀さんの方が懐いてますよ。親友にあるまじき行為ですよね。」
「じゃあ・・・・・・リコちゃんに頼むよ。」
「なすりあい・・・・ですか?」

なんで彼女から、オレがこんなに挑戦状をもらわねばならないのか・・・?
彼女に手を出すつもりが無いなら、近づくな・・・という事なのだろうか?

「・・・・・・分かったよ、今日はもう帰るだけだから。起きたら連れて帰る。」

彼女が欲しかったであろう答えを返すと、なぜかにっこり引き下がった。

「じゃあ、お願いしますね。私にはあいにく送ってくれる人なんていないですから。もう帰らないと。」

「一緒に乗っていけば?送るよ?」
「いえ、いいです。その子起きるの多分まだまだですから。待つの、嫌ですもん。じゃ、お願いしますね。失礼します。」

あっという間に身を翻すと、入り口方面へ消えていった。

・・・・・はっきりした・・・子だなぁ・・・・。
さすが、彼女の親友・・・・・・ともいうか・・・。

本当にぐっすり眠って起きない彼女に、着ていたジャケットをかけると、する事も無く、台本を読み始めた。
身体が傾いてオレの横にもたれかかったがそのままにして、その拍子に落ちたジャケットを拾ってもう一度掛けなおした。

珍しくオレが人目の付く所で台本を読んでいるのが目立つのか、遠巻きにコソコソ話し声が聞こえる。「京子」ファンらしき男達の視線も気になったが、無視した。


「敦賀さんっ・・・・。うわー・・・なんかっ・・・・・。」
「あれリコちゃん・・・久しぶりだね。座らない?」
「いいですか、横座って。」
「もちろん?」

リコちゃんって、本当にナイショ話体勢・・・好きだな。
まあ、ロビーは音、響くからね・・・。

「・・・・敦賀さんって意外と・・・・。あの、驚いたんですよ。この子の為にまさか、肩貸してるなんて。起きるまで待つんですか?」

「・・・・そのつもり・・・なんだけど。よく寝てるし。」
「あれ、社さんは?」
「まだデスクで事務処理中。」

「そうなんですか。」
関係ない彼女が・・・・社さんの心配をするってことは・・・・。

「残念・・・・?」
「いえっ・・・・そんな事はっ・・・・・。」

急いで視線を逸らすあたり図星なのだろうけれど。

「私・・・この子とも敦賀さんとも社さんとも仲良くさせてもらってるんで・・・いつも聞くだけ聞ける・・・一番卑怯な立場にいるんですけど・・・・。あのぅ・・・。その、この子の事・・・実際・・・。今見ていて思ったんですけど・・・その・・・・ジャケットを掛け直した敦賀さんの表情が・・・・あまりに穏やかだったのでびっくりして・・・・。」

「あぁ・・・・。」

社さんもよくそんな事を口にするな・・・・。
そんなに顔に出ているのだろうか?

「否定・・・しないんですか?」

「リコちゃんだからね。ずっと・・・この子の世話してくれているし。立ち回り・・・上手でしょ?」

「それって・・・・褒められてます?嫌な女だと思っています?」

「褒めてるんだよ。賢いし不必要な事は絶対口外しないし。信用を置いているってこと。」

「なら・・・いいんですけどね。私も敦賀さんの事信用しているからこそ、今尋ねさせてもらいました。だから・・・この子の事任せたいんです。琴南さんもきっと同じですよ。あの子も口には出さないけど・・この子のこと、大好きですから。愛されてるんですよね、この子。まぁ、どちらかというと、素直すぎと言うか無防備すぎて、心配なんですけど。たまに考え込んでは不安定になるし・・・。本人気付いているかどうか知らないですけど・・・・。私が好きなんだから、しょうがないんです。敦賀さんも、ですよね?」

オレはくすくす笑ってごまかして、何も答えなかった。

「あぁ、それならもう、じれったいなぁ・・・本当に。どうしてそう、こんなトコで・・・ぐっすり眠れるかな、この子はっ。少しは今の状況と私の親心を知りなさいっ・・・・。」

「あぁっ・・・。」
止めたのに、ぎゅっとリコちゃんは彼女の頬をつねって、無理やり起こした。

「・・・・・たい・・・。」
「痛いでしょうよ・・・。んもう、いつまで寝てるの。」
「・・・・?リコさん・・・?」
「早く、起きなさい。キョーコちゃん、大先輩がお待ちよ?」

はっと目を覚ました彼女はさぁっと青ざめた。

「おはようございます。ご、ごめんなさいっ・・・・。待っていたら・・・・その・・・逆に寝てしまいまして・・・。・・・・あれモー子さんは?」

「彼女は帰ったよ。随分遅い・・・おはようだね。」
「あぁぁぁぁぁ・・・・すみません、怒ってます・・・・よね?」

「いや?ぜんぜん。最上さん・・・思い切り歯軋りしてたよ。なに、ストレスでも溜まってるの?」

もちろん歯軋りなどしてないけど・・・・。

「えぇぇっ・・・うそぉっ・・・・すみません・・・・。」

「っくくくくっく・・・お、おなか痛い・・・・。」

全てを分かっているリコちゃんは、オレが彼女で遊んでいるのが分かったのか、おなかを抱えて笑い出したから、オレも苛めて遊ぶのはやめた。

だから少しだけ、仕返しをした。

「ねぇ、リコちゃんも、一緒に乗ってく?・・・・社さんも呼びに行くけど。」

「あぁっ・・・そうだっ・・・私は、まだあの・・・・仕事の途中だったんだ。キョーコちゃん、明日のメイク、11時集合ね。じゃっ・・・・、失礼します!!」

きょとんと、リコちゃんの背を見送っていた彼女は、不意にオレのジャケットに顔を埋めた。彼女もリコちゃんのコトを知っていて、笑いをこらえていたのだろうか?

ホント、この子の周りにいる子って面白い子が多いな・・・・。
無防備な彼女に比べると・・・しっかりした子が多いと言うか・・。
リコちゃんも、しっかりしているけど意外とからかい甲斐がある子なのかもしれない・・・・・。

その帰り道、彼女はなんと、「椿姫」を読んだといった。
絶対最初のさわりだけで、諦めると思っていたのに。
しかも、最期まで純粋に愛し愛された男が・・・いたことで「姫」は成り立つのだと言う。

「生きてさえいれば・・・別々になってもまたいつか会えますから。私が恋心を隠したまま、もし今もうすぐ死ぬのかもと考えたら…どう思うかなって…。」

今、どんな表情でそれを言っているか・・・・分かってる・・・・?・・・・最上さん。

生きてさえいえれば・・・・・また会える・・・・・・。
まぁ・・・確かにそうだね・・・・・・キョーコちゃん・・・・。
君は知らないだろうけれど・・・ね。

もし、オレが・・・もう死んだら・・・・この気持ちを伝えないまま死んだら・・・?

それもいいかもしれない。
この苦しみから解放されるなら・・・・・・。
苦しくて・・・・苦しいまま・・・ずっといるぐらいなら。

だから・・・世間一般の言いそうな・・・当たり障りのない返事を返した。

あんなに純情に・・・・一人の女一筋になんて・・・・オレになれるはずが・・・


「敦賀さん、ちょっとそこで待っててくださいね。すぐ戻りますから。」

固まったままのオレに背を向けると、家へ入ってしまった。
オレは大きなため息と共に、このやりきれない気持ちをどうしたものかと、本当にタバコに手を出そうかと思った。
口が寂しいわけではない。
ただ気持ちに鍵をかけなおしたいだけ。
正常に・・・・。

戻ってきた彼女は、なんだかとても思いつめた顔をしていた。
妙にかすれた声がして、オレに屈むように言った。

「前にもらっちゃって・・・ずっとしてなかったみたいだったから・・・。今日の帰りくらいは役立ちますからっ・・・。お誕生日…おめでとうございます。」


あぁ・・・・・・・・・・・・・・・タバコが・・・・・ほしい・・・・・・。


嬉しい、本当に嬉しかったけれど。
わざわざオレの誕生日を覚えて…合わせて作ってくれたことがどんなに嬉しかったか。

ただ・・・・・・。
これ以上オレを刺激しないで欲しい・・・・。


「最上さんのにおい、する。」

なんとか笑みをもらしたものの、この場から逃げたい衝動にかられる。
すごく柔らかい・・・こんなに彼女の香りがしたものを身に着けていたら・・・。

かけてくれたマフラーの端に、また・・・・椿の模様の入ったタグをみつけた・・・・。

頭の中で・・・・鍵が壊れる音がする・・・・・。


「明日もし時間が合えば…ケーキ、食べましょう。あっ、お祝い、してくれる彼女いるなら邪魔しませんからっ。また次の機会でいいんですけど・・・。」

明日会わなければ・・・・次に彼女に会うのは・・・・1ヶ月以上先のこと・・・。

明日会わなければ・・・・・。

ただここで明日祝ってくれる誰かがいるかどうか・・・・言い訳するのか?
この子に・・・?

明日の夜予定があると言えば、この子はきっとオレに他の女がいると勘違いして・・・また傷つくかもしれないのに・・・・?

気持ちにこたえてあげたい・・・・もう・・・・・大人の・・・いい先輩のフリをするのはやめる・・・・・。

心にかけた鍵が壊れて。
・・・・・・覚悟を決めた。

「明日は夜・・・予定ないよ・・・お祝いしてくれる?もし時間があったら…明日ウチに寄っていかない?。」


それでも明日オレはきっと・・・後悔・・・・するのだろう・・・・。
手を出さないように帰すのが関の山・・・・なんだろうな・・・・。





やっぱり彼女が作る料理はとても美味しくて・・・黙って食べてしまう。
人の作る料理はどれでも同じだと、思っていたのだけれど・・・・。

「敦賀さんのドラマだ・・・・。そっか、今日でしたね!うっかりしてました。」

あぁ・・・・局・・・変えるの忘れた・・・。

「そういえば・・・、もう撮影終了しちゃいました?」
「あ、ごめん・・・終わっちゃったよ・・・・。」
「・・・・残念です・・・・。この女優さんの演技も生で見てみたかったです。」
「誘っておいて・・・・ごめんね?」
「いえ・・・ぜひまた今度誘ってくださいね。楽しみにしておきます。」
「ねぇドラマ・・・・もう、番組変えない?」
「えっ、ダメですよっ。思いっきり忘れてて、今日の分ビデオ撮ってないんですから。来週・・・話が繋がらなくなっちゃいます。」

・・・・・だってその後見せたくないシーンなんだから・・・・。

「敦賀さんて・・・・ホント、こういうシーンの見せ方もうまいですね・・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・そう?・・・・普通だよ。カメラ位置さえ把握して、あとはね、」

努めて、俳優同士の会話にして流そうと・・・思ったのだけれど。

「・・・・場数ですか?あぁ、敦賀さん・・・・そうですよね。・・・映画もそういうの多いですしね。色々な人の相手を沢山しなきゃいけないからそれはそれで・・・大変でしょうね。相手の女優さんも良く見せるために・・・それなりにその気になるだろうし・・・・。私にはまだそんな余裕は無くですね。やれと言われたらきっと困ります。かといって、女優を続けるならいつまでもそういうのが無い仕事ばかりじゃ・・・いられないんでしょうけれど・・・・。」


場数って・・・・・。

冷静に分析しないで欲しい・・・・・人のそういうシーン・・・。
言ってる事、分かっているのか?
純粋に・・・・仕事にはひたむきなんだろうね・・・。
でもキス撮りすら嫌で駄々をこねた子の言うことじゃ、ない気がするけど・・・・。
女優として、一視聴者として、そう判断する、それだけの事なんだろうけど。

つい彼女の目の中から、何かそれ以上の感情を探り出そうとして、彼女を凝視してしまう。
ドラマなんて、どうでもよかった。


「最上さん、TVに見入ってて、箸・・・進んでない。」
「こんな・・・熱いシーン見ながら、食が進む敦賀さんが異常なんですよ・・・。」
「やってるのオレだもん。まさか自分にも・・・ましてや相手に感情移入なんてしないし。」

君じゃなければ・・・・・誰を相手にしたって・・・ねぇ。


「・・・・・そうですか。」
「さぁ、ちゃんとたべて。ケーキが遅くなったら・・・太るよ?」
「そ、そうだった・・・。困ります、それは。でもドラマが気になりますっ・・・。」

何とか話題を変えようと努力して見た所でまったく状況は変わらず、彼女は真剣に見入っていた。

だから、今週の回はそういうシーンの応酬で・・・・なんてタイミングの悪い週だったのだと、オレが横でぐったりしていたことにきっと君は気付かないんだろう。

あまりに何も気付かないから、半分悔しさもあって、キッチンで子供のようにつけたクリームを舐め取って・・・からかって遊んで見たら、予想以上の反応が返ってきて面白かったけれど。

ただ、めずらしくプライベートの彼女にうっすらついた化粧と、薄いピンクの唇が少し、オレを誘った。

それでも、我慢できていると、今日はもう、大丈夫だと思った矢先に。
やっぱり最後、またオレはまたこの子に刺激されて理性を飛ばしかけた。

もらったチョコの中にまた小さな小さな椿が・・・入っていたから。
どうしてこう、オレの理性を飛ばす方向へ・・・・持って行くかな。
タイムリーな花、というだけで、選んだのは分かっているけれど・・・。

無意識とはいえ、誘われた気分のオレはどうすればいい・・・・・。
ここにはオレと君しかいないんだぞ・・・・?

今まで何とも無かった、ウチでのただの「食事」。
ここで手を出したら・・・?
彼女は・・・・・・・・・?


「甘い・・・・・。」

赤い椿と白い椿・・・。
オレは白い椿の方を口にした。

どうして白い方なのか、気付かない?
君へのオレの答え。
誘われたオレの答え・・・・。

ねぇ・・・・誘い返してくれない・・・・?


「そりゃあ・・・・砂糖ですから。」


・・・・・・・・・。

だろうねぇ・・・・。

オレも笑って、コーヒーでその「ただの砂糖の塊」を胃に流し込んだ。



そして、今までもらっていた椿と今日のお礼を返した。
椿のピン。
贈りあったものが被ったのは・・・たまたまだろう。

『オレを誘って』

彼女は、それをバッグの外側につけようとするので、オレはそれがどうしても嫌で、変な理由をつけて、内側につけてもらった。
マルグリッドのように、椿を見せつけて歩くなんて、絶対に嫌だった。
「私を誘って」・・・・・・なんて、他の男なんかに、死んでも見せたくなかった。

・・・・・彼女の「椿」には、何も意味がないのにね。
意味をつけているのはオレだって分かっているのにね。

それでも。

オレと君だけのお互いの誘いの印。
誰にも見せないで。
誰にも言わないで。

ずっと誘われ続けてあげるから。



「最上さん、オレね、これから京都の撮影所に篭るんだ。しばらく東京に戻らないから。帰ってくるの、1月以上先になりそう。送れないから・・・夜道、気をつけて。」

「そうなんですか。お気をつけて・・・。京都、これからが一番綺麗になりますから。撮影中、時間があったら色々見て・・・楽しんできてくださいね。」

「うん。・・・・でもあと1月したら・・・その制服姿も見られなくなるんだね。今日で見納めかな?入ったと思ったらもう卒業なんて・・・早いね。」

「そうですね・・・。寂しいけど、楽しかったです。普通の女子高生が出来て。社長さんのおかげで・・・。このお礼は卒業したら、いっぱい働いて返さないと。式はちょうど来月の今日なんですよね。あと、一ヶ月・・・・・・。制服着るの・・・大好きでした。もうちょっと着ていたかったかな・・・・・。」

彼女が下をうつむいたから・・・・手を顔に添えそうになって、止めた。
ばっと顔をあげて、オレを見つめたから・・・・。

「敦賀さんっ・・・・・・。」

何か言いかけた彼女はそのまま何も言わず、「今日は楽しかったです・・・。」とだけ口にした。

「オレこそ・・・ありがとう美味しかったよ。じゃぁ、また今度。チョコ、ちゃんと明日社さんに渡しておくよ。」

何か言いかけた言葉を待たずに、オレはきびすを返して彼女のもとを去った。
1ヶ月は長いから・・・・・・。
今日は・・・・我慢できたけれど。

次に会ったときは・・・・・・・・?






「蓮〜〜。今日で前半の撮りは、もうおしまいだって。良かったね、随分早く終わって。やっぱり新開監督のダメだし・・・蓮が少ないから順調だったんだな。」

「・・・そうですか。」

「久しぶりに東京に戻れるなぁ・・・早く帰りたい!・・・・キョーコちゃんっ・・・どうしてるかなぁ〜。制服姿また見たいなぁ・・・・あれ、そろそろって社長が言って・・・?・・・・・・・蓮!!!今日、キョーコちゃんの卒業式!!!いいから、早く東京帰ろう。もう、上がりでいいって言ってたんだから。」

知ってる。最後に会った時今日だと言っていた。

「・・・いいんです?もうホントに帰って・・・。」

「新開監督だから大丈夫だよ。頼まれごと、よく聞いてるし。ダメって言われたら、後半時に貸し一つでOKだって。いいから、帰ろう。昼過ぎには東京着けるからっ。」
「な、なんで社さんがそんなに急ぐんです・・・・。」
「何でって・・・キョーコちゃん、今日で制服最後だよ?見なくていいの?」
「別に・・・制服が見たいなんて・・・思いませんけど・・・。」

オレは固まったまま、自分の気持ちを・・・・探った。
そんなこと、分かっているんだけれど・・・・。

でも・・・・・次に会ったら・・・・。

「ちがうよ!!いい?女の子が制服じゃなくなったら・・・もう大人だよ?蓮は・・・どうするの?絶対キョーコちゃんだって蓮に・・・・会いたいに決まってる。もう1ヶ月も会ってないんだから。どうして、気付いてやらないの。」
「・・・・分かりました。帰りましょう・・・・。」

思わず無表情で答えた言葉に、社さんはしゅんと小さくなった。

「れ、蓮・・・。ごめん、言い過ぎた。お前の事情も気持ちも、あるんだよな・・・。」
「いえ・・・。帰りましょう?きっと、あの子のことだから、ずっと学校で一人でいるはずですよ。まだずっと制服が着たいって・・・言っていたから。」

その時の様子を思い出して、苦笑した。
制服が好きなんだなと思ったけれど、多分、子供から大人になるのが嫌なのかもしれない。
ちょうど、精神的にも・・・境目だしね・・・・。

「蓮・・・・。お前・・・・そこまでキョーコちゃんのこと分かっていて・・・・・。」

「さぁ・・・行きましょう?帰るんでしょう?社さんもあの子の制服姿、好きでしたよね。見納め、しに行きましょうか。」


学校の前に車を止めて、社さんを残したまま校舎に足を踏み入れた。
もう卒業式が済んで、忙しい芸能課らしく人はいなかった。

「敦賀さん。」
「・・・???」

こんな所で声をかけられるとは思わなかったから、知らない顔だったけれど立ち止まった。
ファンて・・・雰囲気でもないな・・・・。

「あの子、あの教室にいますよ。」
「・・・・・あの子?」
「最上キョーコ・・・・探しに来たんじゃ、ないんですか?」
「・・・・・・・なぜ?」
「・・・・・あなたといる所をよく見かけただけです。敦賀さん、あの子、お願いだから、手離さないでくださいね。そうじゃないと、私が困りますから。」
「・・・・???知り合いだったっけ・・・オレと君。」
「いえ。全然!!じゃぁ、失礼します・・・・。」

な、何なんだ・・・・あの子は・・・??


指を指された教室を覗くと、彼女は本当に一人で・・・寝ていた。


どこでも・・・・よく・・・・寝る子だな・・・・・。


机につっぷしたまま、すやすや寝ていた。
どこでも寝れるっていい特技だとは思うけれど。
危ないから・・・あまりして欲しくはないな・・・・。

夕日が差し込んではいたが、まだまだ寒かったから、コートをかけてオレは後ろの席で彼女の背中を眺めていた。
彼女の手に握られているのは・・・・あの石。
また・・・あの石に頼ったんだな・・・・。

『ちがうよ!!いい?女の子が制服じゃなくなったら・・・もう大人だよ?蓮は・・・どうするの?』


ずっと、子供だと・・・思っていたんだけれど・・・・。
寝顔は子供そのものの、可愛い寝顔で・・・・。
でももう・・・・・。

「ん・・・・・。」

起きた彼女は、まだ夢うつつで、ぼんやり外を眺めていた。

「・・・・おはよう。」

声をかけたら、彼女はいつもの反応をした。

久しぶりだな・・・・。

そんなことも、とても懐かしく思えた。


「間に合ってよかった。最後の・・・君の制服姿、見ておきたかったんだ。」

昔入った頃に言った言葉と全く同じ言葉を口にした。
彼女はまた固まってしまって・・・・。
固まってる彼女も可愛くて好きだけれど。

少しだけ大人びた表情で口を開いた。

「お久しぶり・・・ですね。京都、きれいだったでしょう?」

「うん、沢山花が咲いて…寺も時間があればあちこち見て回ったよ。そんなに有名な所へはいけなかったけれど、逆に誰も来ない寺はゆっくりと時間を過ごすには良かった。セリフを覚えるのにはもってこいだな、あの場は。」

誰も来ないから、セリフも役作りも・・・とても集中できてはかどったせいか、撮影もあっという間に撮り上がった。
君のおかげかな・・・・それとも無意識に卒業式までに帰ろうと思っていたのだろうか?

花々が咲き乱れて・・・静かで・・・昔の日本人はその静寂の空間美を・・・楽しんだりしたのだろうか?

彼女をもう一度だけ・・・教師役として覗いてみようとして、教壇の上にたった。


「昔、君と共演した時オレは教師役で・・・君を生徒役に演じた事があったけれど・・・本当に君はもう卒業するんだな・・・・。」

けれど。

教師は聖職・・・・だという。
もし、今オレが実際教師で・・・この子が生徒だったら・・・・・。
耐えられるか・・・?

昔彼女と・・・・初めて共演したドラマで・・・この子への気持ちに気付いてからもう随分たったんだな・・・。

降りて彼女の許へ近寄ると、机の上に、あの石と、椿の花が・・・赤と、白と。
なんで・・今日に限ってまた・・椿を・・・持っているんだ・・・・。

ぷつり、と糸がきれた。

「その白い椿、オレにくれない?」

いい加減・・・気付いて。
ねぇ。気付いてよ・・・・。

「これは・・・大将から貰った・・・・卒業のお祝いで・・・・。」


・・・・・・苦しい・・・・・・・。
この苦しさから開放されたい・・・・。



彼女に、途中で買った薔薇の花束を渡した。
さすがに・・・・椿の花束など・・・選べなかった。

もうあまりに馬鹿馬鹿しく、帰ろうと思ってコートを羽織り、もらったマフラーを捲いた。

マフラーからはもう彼女の香りはしない・・・・・。

しばらくだまっていて、そのバラの花束に顔を寄せた彼女は・・・オレに言った。

「・・・・やっぱりこの椿あげます。来てくれて嬉しかったから。敦賀さんなら・・・この椿も・・大事にしてくれると思うし。今度・・・見に行かせてくださいね。」

白い椿の花が手渡されたから・・・。
オレは・・・―あの男のように―・・・ボタンの穴にさした。

彼女が、椿の意味もしぐさも何も・・・ちっとも気付いていなかったけれど・・・・。

もう・・・・。

今までもらっていた赤い椿が・・・白に変わる・・・。
少女から大人に・・・・・。

大事にしたいのは椿じゃない・・・・・。


バレンタインのお返しに、飴を彼女の口にほおりこんで、オレはずっと口にしたかったことを口にした。

「本当の実物の「椿姫」・・・マルグリッド・・・は夜、男遊びに出るとき・・・赤と白の椿を両方好んで付けてた。その椿をね、その夜一緒になりたい人に渡したんだよ。でもね、1ヶ月のうち白い椿は1日だけしか付けなかった。だから、「白い椿」は特別の証。誘いの印。あなただけのものになるっていう意味で使ったんだよ・・・オレが君に「その白い椿くれない?」と言った意味、分かる?」


上を向かせて目を合わせると、気付いて照れた彼女の表情は、もう、子供ではなかった。

身体を傾けて、その震える赤い唇に・・・口付けた。

優しく優しく・・・。

ずっと焦がれた唇。
それはとても柔らかくて、何度もその柔らかさを楽しんだ。
息を呑んだままの彼女を抱き寄せて、唇を割って、大人の、口付けを繰り返した。
そういうコトが初めてだろう震えた優しい舌の反応が気持ちよくて、彼女のそれを吸い上げた。

甘い甘い味がした。

「甘い・・・・・。」

唇を離した後の照れた彼女の反応がとても可愛かった。

「卒業・・・おめでとう。もう大人の仲間入り、少し・・・したでしょ?」

彼女が怒るのが目に見えていたから、さっさと廊下へ足を向けた。

「さぁ帰ろう・・・・白い椿ももらった事だし?夜は・・・長いよね、まだ春前だし。大人の仲間入り、本格指導してあげようか?」

冗談を言ったつもりだったんだけれど・・・・また彼女は固まって、動かなくなった。

そんなに一気に手を出したら・・・・止まれなくなるよ・・・・。
一度抱いたら・・・・多分もう止まれないから。


これから・・・ゆっくり育てて・・・・いつか真っ白で綺麗なオレだけの姫に・・・・。