SNOW




「お嬢。」

一目連が呼んだ先にいた少女は、ゆっくりと振り返る。北の果てまでも仕事となれば来る。少女は、そのどこまでも広がる白い雪の平原にただひとつの黒い点のように、一人ぽつり、と長いこと佇んでいた。その後ろからふ・・・と不意に現れた若い男が、その少女に語りかける。

「雪が。」
「一目連。」

その黒く艶やかな髪に、華奢な肩に、はらはら降り積もる雪を振り払うこともなく、制服を着た少女はただ、飽きることなくその銀色の世界を眺めていた。一目連と呼ばれた男は、その髪に降り積もってしまった雪をそっと払う。彼の手で漆黒の髪は、一瞬だけその黒さを取り戻した。

「仕事。」

そう短く口にした彼女は、まだ髪を撫でる一目連を見上げた。

「ここで・・・?」
「あと、一日で、来る。」
「へぇ・・・。こんな何もない所に来るのかねぇ。」
「浄化、されに。」
「雪にでも浄化してもらおうって魂胆なのかい?」
「・・・・・・・。」
「恨みを晴らそうって人間が浄化してもらおうなんて・・・一体全体どんな奴かねえ。で、俺がここにいるってことは、担当は誰?骨女?」
「そう。」
「ふーん。ま、お嬢をこんなトコに一人にしとくのもアレだ。お嬢、まだいるんだろ?」

ゆっくりと頷いた少女に、手にしていた傘を開いて一目連はその雪を遮った。

「お嬢が風邪をひいたら困るからね。」
「風邪、ひかない。」
「ひかなくてもね。」
「雪は、真っ白。綺麗。」
「そうだな・・・。」


一目連がお嬢と同じ先に視線を動かすと、ぴょこっと一目連の足元から、さらに幼い少女が現れた。


「はい、お土産。」
「きくり・・・。」
「椿。真っ赤な椿。椿は雪が一番似合う〜。真っ白な世界に、たった一つの赤。その方が、綺麗。はい、一目連。赤、貴方は赤い色。」
「あ?あぁ・・・。」

「きくり」が、その手にしていた一輪の椿を一目連に渡すと、その姿はまたどこかへ消えた。


「じゃあ・・・椿はお嬢の髪に・・・・。」


ぬばたまの黒い髪を染め上げる、赤。
一目連は、どこから出したのか、ヘアピンにうまく花を差し込んで、お嬢の髪に挿した。


「雪もいいけど、お嬢もいいね。」
「・・・・・・。」
「『居明かして 君をば待たむ ぬばたまの 我が黒髪に 霜は降るとも』、かな。」
「『我が背子が かく恋ふれこそ ぬばたまの 夢に見えつつ 寝ねらえずけれ』・・・。 」
「はは。お嬢のほうが一枚上手、ってやつかな。」
「・・・年の功・・・・。」
「でもオレの方がお嬢を思っているってのは合ってるかな?だから、風邪をひかないように、ね?」


にこり、とひとつ笑みをもらした一目連を見たお嬢はまた、一面の雪に目を移した。
そっと、まだ雪の残るお嬢の髪を一目連が撫で払う。
ぬばたまの黒髪の「二人」は、漆黒の夜、丸い月と共に、長いことその場を動かなかった。



そして、いつしか降り積もっていた一目連の肩の雪を、そっと払ったのはお嬢だった。


「傘、半分になってない。」
「そりゃあオレは男だし、お嬢に本当に風邪ひかれちゃ困る。」
「帰ろう。一目連が風邪を引いたら明日の仕事にならない。」
「もう、雪はいいの?」
「いい。浄化、した。」
「何を浄化してもらった?」
「・・・・・・・・。」
「オレも、明日は浄化してもらうかな・・・・。雪に似合うのは、「真っ赤なもの」ってね・・・。体に染み付く「赤」をこの一面の「白」で浄化してみたいよ・・・・。」





お嬢の髪に映える椿を飾りなおした一目連がそっとお嬢の肩を抱くと、いつしかその黒い点は無くなり、その世界は、一面の銀色世界と月の光だけになっていた。







2007.02.20

地獄少女アニメ版より。連あい万歳。
あまりに二籠#17話連過去編に燃えて燃えて・・・v


参考。
「ぬばたま」は、「髪・夢・夜・月」などの黒や闇を思わせる物の枕詞。

居明かして 君をば待たむ ぬばたまの 我が黒髪に 霜は降るとも
→夜を明かして君を待とう。例え私の黒髪に霜が降りても。

我が背子が かく恋ふれこそ ぬばたまの 夢に見えつつ 寝ねらえずけれ
→私の思う人が、こんなにも私を思ってくれているので、私の夢にまで出てきた。だからよく眠れなかったのです。



藍的らぶ風現代語訳(笑)。



BGMはアニメ主題歌SNOWさんの歌とB'zさんのSNOWとダブルで。