魔法の国のキョーコさん2@郵便鳥の胡蝶さん。


魔法の国という場所に、キョーコさんと、キョーコさんの大好きな蓮様が、妖精の森の中で仲良く一緒に住んでいました。


二人はいつも魔法の勉強をして、お仕事とあれば魔法を使い、お休みのときは二人でのんびりと妖精の森の中を探検したり、泉のそばで、水遊びをしたり。


そんな夏のある日、キョーコさんのおうちに、一羽の郵便鳥がやってきました。二本足でぴょこぴょこ跳ねながら歩き、キョーコさんがどうぞ、といって引いた椅子の上に、器用にちょこん、と座りました。


「こんにちは、胡蝶さん。いつも遠い所をどうもありがとう!今日は、どんなすてきなものを運んできてくれたのかしら?」


キョーコさんはワクワクした顔をして、そう言いました。
キョーコさんの顔なじみの郵便鳥さんの名前は、胡蝶さんというようです。


いつも、胡蝶さんが運んできてくれるものはとても楽しいものばかりでした。かつて、今でもキョーコさんが大事にしている王様からの秘密の宝箱を運んできてくれたのも胡蝶さんです。


ちょうど三時のお茶を用意していたところに来た胡蝶さん。
キョーコさんが焼いた美味しいスコーンと、紅茶を飲んで、一息をつくと、ようやく今日来た目的を口にしました。



「今日はね、恋の手紙を運んできたのさ。」


郵便鳥さんがそう言った時、奥から、来客を確かめようと、蓮様が出てきました。


「お、蓮様こんにちは。ごきげんいかがです?」
「やぁ、胡蝶さん、久しぶり。元気だった?」
「えぇ、日々、父王にこき使われ・・・いえ、大事にしてもらって、太る暇もありませんです。」
「くすくす・・・父は君をとても気に入っているから・・・。許してやってくれないかな。今度、日々の労いに、美味しい食事を沢山出すよう伝えておくよ。それにしても、相変わらず綺麗な羽だ。いい艶だね。」


蓮様がにっこり笑ってそういうと、少々機嫌を良くした郵便鳥の胡蝶さん。頼まれてもいないのに、今自分が運んできた荷物の事を話し始めました。


「キョーコちゃん、キョーコちゃん。コレはね、なんと、キョーコちゃん宛のラブレターなのさ。」


少々前かがみ気味に、内緒話でもするかのように胡蝶さんはそう言います。


「ラ、ラブレター????ですか・・・・?私に・・・・?どなたからでしょう?」

キョーコさんは、思わず箱と、蓮様の顔を見比べてしまいました。そもそもあまり多くの殿方との面識の無いキョーコさん。そんな親しい相手など殆どいません。しかも国をあげて結婚までしている相手にラブレターなど送ってくる人間など、キョーコさんには一人として思い浮かぶはずもありません。


蓮様の脳裏には何人かは浮かびましたが、わざわざ王宮経由で送ってくる人間など、たった一人・・・・かつて浮気草の汁をキョーコさんに塗った隣の国の王子・・・・しか思い浮かびませんでした。


少々難しい顔をした蓮様にキョーコさんも何かを感じたのか気を遣って、しばらく、開けていいのかどうなのか、迷って、眺めたり、触れたり、振ってみたりしていました。

蓮様は、その箱を手にしながら、差出人名を探してみました。
が、やはり特に何も書かれていません。

「あまり開けたくはないかな。」
「せっかくこんな遠くまで運んで来たのに。」

尖ったくちばしをさらに突き出し、唇を尖らせている様子です。
そして、どちらかというと胡蝶さんが一番、中身が気になって仕方の無い様子です。
その郵便物を引っ掛けてきた長い首をさらに長くするかのように、身を乗り出します。

「コレ、父王は何か言っていた?箱の外からでもこの箱を見ただろう?」
「ええ。特に問題は無いようだと父王は仰っておりましたが。」
「でも、コレが何故ラブレターだと知っているんだい?」
「いえね、コレを運んできた郵便鳥も、『ラブレター』だと言って運んできたんですよ。なので、一体どんな物が入っているのか気になって気になって・・・。」
「なるほどねえ・・・。」


蓮様は開けるべきか迷いながらも、キョーコさんはすっかり面白がって目を輝かせているので、開けてみる事にしました。しかし、一応何かあっては心配だったので、魔法で中を透かして、覗いてみることにしました。


――ぽん☆


ぼんやりと見える箱の中には、さらにちいさな箱が入っているようです。何と厳重な事か。
一回の魔法では見えなかったために、とりあえず、箱から箱を取り出しました。


取り出すと、それは綺麗な宝石で彩られた、金色の箱でした。エメラルドグリーンの石が縁どられ、キョーコさんが大事に持っている石のような菫色の石が散りばめ、箱のふたには、ダイヤモンドがキラキラと輝いています。どう考えても高価そうな箱です。ますます、蓮様は「あの男」しかいないと、思いました。


「キョーコちゃん、コレ、本当に開けるの?ビックリ箱かもしれないよ?開けたら、闇にのまれてこの家がどこかに行ってしまうとか・・・もしかしたら、開けた人間に呪いが掛かるとか。きっと、ラブレターと聞いて、君とオレの性格上、オレが開けてみる事を相手は分かっていると思うんだけど。」
「・・・じゃあじゃあ、責任を持って私が開けます。何かあっても自分の責任です!」


それはそれで心配だし困ってしまう、と蓮様は思います。
うーん、と言いながら、蓮様は何とか諦めてもらえはしないかと、キョーコさんの頬を撫でながら、「オレはいいけど、君が心配なんだ。何かあってオレが君を守れなかったら困るだろう?」と言いました。キョーコさんは、しばらく蓮様を見つめた後、「でも・・・こんなに手の掛かる贈り物ですよ・・・?」と、あまり相手を疑った風も無く、そう言います。


そんな二人の毎度ながらのラブラブな様子にあてられながら、見守っていた胡蝶さん。結局はラブレターという名目が、このラブカップルには重荷だったのだ、と思い、やっぱり荷物は受け取れない、持ってかえってと言われるのもしゃくであるし、中を見たいのは自分であるので、「じゃあ、私が開けましょう。何かあってもいいように、泉のほとりで開けるっていうのはどうです?あそこなら、神に祝福されている泉、どんな魔物も入り込めないですから。」と、提案しました。

「・・・・それもそうだね。」
「そうしましょう!」


キラキラしいその箱を、また胡蝶さんはバッグに入れて、運ぼうとしました。すると、ガサゴソ、と変な動きをしたのを感じて、「本当に悪魔でも入っていたらどうしよう」と、出るはずもない冷や汗が背中を伝った気がしました。

しかし、自ら見てみようと言ったからには逃げ出すわけにも行きませんから、半分怖いもの見たさで、やっぱりやめましょう、とは言えませんでした。ちょっとだけ緊張したせいで、楽しそうに泉のほとりへのお散歩の準備を始めたキョーコさんの事を見ながらも、二人の会話はあまり耳に入っては来ませんでした。



*****



――ガサ、ガサ、ゴソ、ゴソ。


・・・・・一体コレは何が入っているんだろう?どう考えても何かの生き物だろう、と、胡蝶さんは思います。


その蝶のように美しい模様が描かれた、優雅な羽を存分に広げながら、胡蝶さんは歩く蓮様とキョーコさんの横を飛んでいきます。


「キョーコちゃん、もし、何かあったら困るから、オレの手を離してはいけないよ?」
「はい☆」


どうやって開けるのか、開けた後どうするか、そんな会話も全てが胡蝶さんにはノロケにしか聞こえず、まるで、しあわせ鳥のつがいのようだと思いました。


「そうだ胡蝶さん。」


蓮様が不意に声をかけると、「へぁっ・・・」と、意味不明な返事を返し、「な、何でしょう?蓮様」、と、言いました。


「そろそろ胡蝶さんのパートナー、見つけないとね。」
「わ、私ですか?」

胡蝶さんは自分に恋の話が振られた事を、意外そうに聞いていました。


「胡蝶さんもそろそろ結婚しても良い歳でしょう?お見合いというのは、オレはあまり好きじゃないので・・・今度、父王にお願いして綺麗なメスの鳥を沢山集めてもらうって言うのはどうです?美人鳥たちのハーレム。」
「「は、ハーレムっ・・・・?」」

キョーコさんと胡蝶さんは声をそろえて蓮様を見ます。
胡蝶さんは思いも寄らない言葉を想像し、照れて、バタバタ、と先に飛んでいってしまいました。

「敦賀さん、沢山の美人な姫がいる、ハーレム・・・というのを、敦賀さんも持っているんですか?」
「・・・・お、オレ??何でオレが?」
「いえ、私に出会う前は、色々なラブレター・・・とか、どうしていたのかな?って思う事はあるんです。その・・・王宮にも、ハーレム・・・・実は王様や王子様達しか知らない場所にあったりするのかなって・・・・。」

ぶぅ、と膨れたキョーコさんに、蓮様は「仕方ないなぁ」といった顔をして、

「無いよ。この国は一夫一婦制だろう?父王は率先して一夫一婦を貫いていらっしゃる。オレも当然。たまにオレが王宮に仕事をしに一人で帰っているの、もしかして、そういう事も、気になっていたりしたのかな?」

キョーコさんの、まるで嫉妬心のような、焼きもちのような言葉を喜んでしまった蓮様。にっこり、と意味深に笑った蓮様に、キョーコさんはすっかり真っ赤で、「違います、そんな事、思ったこともありません!!」と、強く否定します。

「そうなんだ?」

そう言いながら、蓮様はニコニコ、と、嬉しそうにしながら、歩きます。


「敦賀さんなんて、敦賀さんなんて〜〜〜〜!!!!」


キョーコさんは照れを振り払うように、先に行ってしまった胡蝶さんを追いかけるようにして走り出しました。


*****




キョーコさんと蓮様が泉に着いた時、胡蝶さんは既に箱を前に、構えていました。
ちょん、と足でつついてみても、当然ながらそれだけでは開く様子はありません。


だんだんと夕方にさしかかり、辺りが夕焼けに染まり始めてきています。


夜になっても困るから、そろそろ開けようか、と蓮様がそう言うと、仕方なく、胡蝶さんは、そのくちばしを使って、鍵を開けました。


――パカリ。


ピン、と錠の外れた高い音がして、胡蝶さんは、その音だけで腰を抜かし、その場にしりもちをつきました。


中には魔法が掛かっていたのか、パン、と、乾いた魔法の解ける音がして、その音と共に、無数の黒い物体が光の中から現れ、飛び出しました。さすがにキョーコさんもビックリして、蓮様の手をぎゅう、と握りました。


出てきたその黒いちいさなものは、自ら発光している様子で、あたり一面が金色に光り始めました。



「・・・・・蛍だ。久しぶりに見たよ・・・。」

蓮様は、なんだ、と、半分息を吐き出しながら安堵の声を出して、キョーコさんの方を見ます。


「こんばんは、私は蛍の妖精です。」


はじめまして、と、そのちいさく、黒い身なりをした妖精はぺこり、と頭を下げました。


「はじめまして、蛍の妖精さん!たった10日しか人間界にいられないのに、よく私の所まで来てくださいました☆☆☆」
「今日は、私のご主人様に伝言を受けて、やってまいりました。」


・・・・・何やら嫌な展開かもしれない、と、蓮様は思いました。ので、


「蛍の妖精殿、君のご主人の名前は誰だい・・・?」


と、率直に聞いてみる事にしました。


「偉大なるローリィ皇帝です。」
「・・・・・・・・なるほど。」

蓮様は、ほっとしたのか、ふぅ、と息を吐きました。


「皇帝が、愛するマリア様のために今度パーティを開きたいと仰るので、その招待状と、ご伝言です。招待状は、この中に。」


その小箱の底には、綺麗な紙で包まれた手紙が入っているようです。
それが招待状なのでしょう。

「そして、キョーコ様におかれましては、マリア様から「プレゼント」との事で、こちらをお預かり致しております。」


蛍の妖精は、どこからとも無く鳥かごを取り出すと、「どうぞ」と言って、一羽の鳥が入った籠を渡しました。


「恋教え鳥です。」
「恋教え鳥さん・・・ですか?」
「わが国ニッポンでは、セキレイとも言います。恋を教える鳥です。こちらの国のしあわせ鳥のようなものです。」

そう蛍の妖精が言うと、

「でも、蛍も恋の虫、とも言うだろう?君たちは恋するために輝いていると聞く。君は、今年はいい恋が出来た?」

と、蓮様は問います。

「ええ、毎年皇帝に恋をしておりますゆえ・・・たった10日しかいられない日数を、すでに3日程費やしてしまいました。これから国へ帰り、我がマスターの元で、発光したいと存じます。」


にっこり、と嬉しそうに笑った蛍の妖精は、自分の主を思って、すぐに帰りたいと思ったのか、「では、失礼致します」と言って、目の前から消えました。


ただただ、初めて見る妖精に腰を抜かしている胡蝶さんは、しばらくして、ようやくそこに届いた、初めて見る恋教え鳥のあまりの羽の美しさに見とれて、ボンヤリとしています。

恋教え鳥にぽ〜っと見とれている胡蝶さんに気付いた蓮様は、キョーコさんに目配せをして、「我が家じゃなくて王宮でいいよね?」と言うと、キョーコさんも頷きながらにっこり笑いました。


「胡蝶さん、コレは王宮の父王へ預けて欲しいな。王宮内の動物の園に新しい場所を設けてほしいと、伝えてくれないかな。」


蓮様は、胡蝶さんが、全くもって一目ぼれしているらしいのを、内心大変珍しくも面白く思いながら、目を覚ますために声をかけました。


「え、えぇ、喜んでお持ちします・・・・。」


綺麗な綺麗なセキレイに、「こんばんは」と声をかけると、その恋教え鳥セキレイさんは、「こんばんは」と素敵な声で言いながらも初めて見ている風景に戸惑った風で、どうしたら良いのか分からないと、見回しています。


「キョーコちゃん、蛍が光り始めたよ。沢山恋し始めたね。」
「蛍のハーレムです!」
「・・・・ふ、そうだね。」


蓮様とキョーコさんは、しばらく蛍鑑賞をすると言いましたが、胡蝶さんは新しいお届け物を預かると、それは大事そうに、一目散に王宮に飛んで帰って行ってしまいました。


「胡蝶さんにハーレムはいらないようだね。」
「きっと、恋教え鳥さんに、恋を教えてもらえると思います☆」


誰も邪魔しなくなった泉のほとりでは、美しくも儚く恋をしている蛍たちが沢山います。


夜の妖精さん達も、その初めて見る美しさを愛でに、沢山集まってきました。


蓮様とキョーコさんは、そっと、手をつなぎなおして、しん、と静まり返った泉のほとりで、いつまでも、その恋の光を眺めているのでした。








2008.05.15


2nd.シリーズ。
どこまで続くか分かりませんが、また、お付き合い頂ければ嬉しいです。