魔法の国のきょーこたん@赤ずきんちゃんと犬の王子様


――随分と昔のお話。まだきょーこたんが一人だった頃の話です。



「今日もいい天気っ♪泉までお散歩いこう〜♪」



キョーコさんは、ご自慢の赤ずきんを羽織り、レースが何重にも重なったふわふわのスカートをはいて、ご機嫌で今日のお散歩の用意を始めました。


「サンドイッチに、コーヒーはミルクたっぷり♪魔法の本と、そうそう、お守りっ☆」


いつものバスケットの中に沢山詰めて、大事なお守りを胸のポケットにしまって、お出かけの準備をしました。ぽかぽかの陽気に、キョーコさんの胸も高鳴ります。


「いってきまーす!」

誰もいないログハウスの中、大きな声でお出かけの挨拶をして、おうちの妖精たちにご挨拶しました。

『行ってらっしゃい!気をつけてね、キョーコちゃん!何かあったら呼んでね!』

妖精たちが口々にキョーコさんに返事をしました。

「ありがとう!」


いつものお散歩コースは、小さな森の中の泉までです。そこでお昼を食べて、魔法の本を読み、夕方までにおうちに帰ります。夜はお風呂に入って美味しい夕飯を食べ、魔法の本を読み、そしてベッドの中では大好きな童話の本を読み、毎日寝ます。


今日は、幼馴染のショータローはおうちにいなかったので、一人で森まで歩きます。


『ねぇねぇ、お嬢さん。」

呼びかけられたので振り向くと、そこには誰もおらず、ただ、真っ黒で、土で泥だらけの大きな犬がいました。

「私、動物の声まで聞けるようになったのかしら?」
『オレの声、聞こえるの?』
「だって、今、呼びかけたでしょう?」
『オレを、泉まで連れて行ってくれないか?』
「いいけど・・・。」

キョーコさんの後ろをおとなしく付いてくる犬の上に、綺麗な虹色をした鳥が乗りました。


――サルでも付いてきたら私これから何か退治にでも行かなきゃ行けないかしら?
――ああ違う、そうじゃないわ・・・。犬の上に鳥が乗ること自体が、変。
――何なのかしらこの大きな犬。


「それにしても本当に汚い・・・。」
『・・・・・・・・・・・・。』
「どうしたらそんなに泥だらけになれるの?あぁ、野良犬だったの?」
『違うよ。昨晩雨が降ったから。』
「ふーん・・・・?さあ泉に付いた。さよならの前に、洗って綺麗にしてあげるっ。そのままじゃ、ご主人様も気付いてくれないかもしれないわっ、くすくす。」


キョーコさんは泉に着くとすぐに、犬を淵に座らせて、水をかけてやります。暖かい陽気のせいで、犬は気持ちよさそうに地面に伏せました。


「毛の艶、とても綺麗。ご主人様にすごーく可愛がられているのね。」


徐々に土が洗い流されて、真っ黒な毛並みは整っていて、手で撫でてあげるのがだんだんと気持ちよくなってきました。


「さあ、伏せはやめて、おなかも洗ってあげるから。」
『おなかは大丈夫!泉で泳げばいいからね。』


そう言うと犬は立ち上がり、しっぽを振って勢い良く泉に入りました。
上手に泳いで、その犬は泉を一周して、そしてまたキョーコさんのもとに戻ってきました。


『綺麗にしてくれてどうもありがとう。』
「人間の食べ物食べられる?」
『うん。』
「それなら、いっしょにお昼にしましょう!」


赤いチェックの敷物を芝生の上にひき、キョーコさんは可愛らしい靴を脱ぎます。

「サンドイッチ作ってきたの。コーヒーはミルクはたっぷりだけど・・・・飲めないよね?」
『飲む。』
「あなたとってもすごいのね。人間と同じ食べ物が食べられるなんて。」
『・・・・美味しい。』
「そう???嬉しいなっ。」


キョーコさんが差し出すサンドイッチを全てたいらげた黒い犬は、最後に本当にコーヒーを舐めて飲み、再度『美味しかった』と言いました。


「ね、ね、一緒に遊びましょう!!」


キョーコさんはその話ができる黒い犬をとても気に入ってしまったので、泉で遊ぶことにしました。


「投げた枝を取ってきてね。」
『・・・・・・・・・・・。』
「いや?」
『いいけど。』
「犬って、取ってきてって言われたら取って来るんだと思ってたわ。・・・・あ、そうね、私あなたのご主人様じゃないものね。じゃあ一緒に、泉で遊びましょう。この泉はね、誰も来ないの。魔法を使える人しか来ないから、この辺りじゃ誰も来ないわ。」
『そう。』


するするする、とご自慢の赤ずきんを取り、レースの付いた白いシャツのボタンを外し、可愛らしい赤いチェック柄の白いレースが付いた下着が見えたところで、犬は、わんわんわん、と初めて大きな声で吠えました。


『・・・・ま、待った。』
「なあに?」
『遊ぶって、この泉で泳ぐの?』
「そうよ?」
『危ないよ。君は女の子だろう?』
「だって、誰も来ないし、いつも一人で水浴びはしているわ。ここの泉はとても気持ちがいいもの。それにあなたと遊ぶのは泉の中のほうがいいのかと思って。だって、泉に行きたいって言ったでしょう?」
『わかったよ、枝を取ってくるから、水浴びは今日はやめよう?』


いつの間にか犬に心配されている事も気付かずに、キョーコさんは楽しそうに枝を投げて、拾ってきた真っ黒な犬を抱きしめては「よく出来ました」と言って、嬉しそうに笑います。自慢の赤ずきんは、もう着ていても泉の水でびしょびしょです。


「着ていても、脱いでいてももう、おんなじだわ。」
『・・・・じゃあ、日向ぼっこをしよう。オレも身体を乾かさないと。』
「そうね。」


チェックのシートの上で横になったキョーコさん。
遊びつかれてすぐに夢の中です。
魔法のご本を枕にすやすや寝息を立てて、眠りました。


『あーあ・・・・。こんな無防備でよく今まで・・・・』


そんな犬のため息はちっとも聞こえません。すやすやと眠り、一度寝返りを打って、黒い犬がおなかにかけたブランケットはあえなく剥いでしまいました。


『とんだ赤ずきんちゃんだ。』


一時間後、真っ黒い犬がそう漏らした時、がさがさがさ、と音がして、金色の毛並みをした珍しいヒョウが入ってきました。





長くなったので続きます☆


200.03.17