魔法の国のきょーこたん@やさしさに包まれたなら






「魔法はもう覚えた?」
「あと、もうちょっと待って下さい。ね?」


ゆっくりと頬を撫でた蓮様の腕の中で、抱きかかえているキョーコさんはくすぐったそうに穏やかに笑います。その動きでキョーコさんの香りがそっと香り、蓮様の鼻孔をくすぐりました。蓮様も穏やかに微笑みます。


「じゃあ、あと十五分ね?」
「早すぎますっ。・・・・ね、ね。敦賀さん。」
「うん?」
「あのね?」
「何?」
「見開き一ページをあと十五分で覚える方法を教えて下さい。」
「そうだね・・・。」


蓮様が笑った穏やかな空気が部屋を包み、その答えを考えるでもなくぼんやりと、蓮様はキョーコさんの髪をいじり、肌を撫でて遊びます。


「敦賀さん。」
「うん?」
「あと十五分で覚える方法、分かりました。」
「何?」
「敦賀さんがあと十五分だけ私を我慢してくれればいいんです。じっとしていて下さるのが一番です。」
「・・・・それはそうだね。」


今度はキョーコさんが笑った穏やかな空気が部屋を包み、ブランケットをキョーコさんの肩にかけて、蓮様がソファから立ちあがりました。


「二十分で、戻ってくるよ。」
「・・・・?どこへ行くんですか?」
「シャワーでも浴びてくる。」
「はーい・・・・。」


穏やかな空気を纏う人物が部屋からいなくなると、キョーコさんは最初の一分はその去った背中が出て行った扉を眺めました。

次の一分で覚えなければならない最後の部分に目を落とします。そのまま、次の三分をぼんやりと過ごし、ブランケットをかけ直しました。


次の五分で、一ページを何とか覚え、ふ〜・・・と息を吐き出します。


何とも落ち着かない気分がしました。


「あとリミット五分だけど集中しているのかな?」
「ぬあっ・・・・・。」


驚いてびくりと肩を振るわせて、キョーコさんが扉へもう一度視線を戻します。真っ白でふわふわのバスローブを羽織った蓮様が、入り口で斜めに寄りかかってキョーコさんを眺めていました。


「敦賀さん。あと五分で覚える最短の魔法は、やっぱり敦賀さんがそこに居てくれることみたいです。いつも一緒に覚えるからなんだか落ち着かないです。ここでじっとしてて下さい。ね?」
「じっとしててだの、君を我慢しろだの・・・難しい注文ばかりだね。」
「そうですか?」
「とってもね。」


蓮様は元の位置で、再びキョーコさんを抱えてあげます。シャワーを浴びたての蓮様の石鹸の香りがキョーコさんの鼻をくすぐります。

「石鹸のいいにおい」と言って、大きく息を吸い込み、吐き出しました。頭の中がすっきりして、とてもいい気分です。そして少しだけ冷えたキョーコさんの手を、蓮様のぬくぬくの手が覆いました。

「あったかいです・・・。」
「暑いから・・・冷たくてちょうどいい。」
「じゃあ、あと五分だけ、そうしていて下さい・・・。」


蓮様はもう片方の空いた手でキョーコさんの髪をつまんでは離し、肌を撫でたりキョーコさんを抱きしめたりして、難しい顔をするキョーコさんの横で楽しみます。遊んでいるうちに落ちてしまったブランケットをもう一度かけ直してあげました。しばらくすると、キョーコさんの手が徐々に温かくなっていくのを感じる事ができました。

五分後、キョーコさんはぱたりととても厚く重い魔法の本を閉じました。


「大丈夫です。」
「覚えたの?」
「はいっ。もう、明日の朝には絶対出来ます♪」
「すごいね。」
「だって、敦賀さんがあと五分で覚えてって言いました。」
「・・・・そうだけど。」
「敦賀さんがそこにいてくれると、覚えるの早いです。」
「何で・・・?」
「何ででしょう?敦賀さんの腕の中はくすぐったくてどこか落ち着かないのに、でもとっても、落ち着くんです。」
「何それ?落ち着かないのに落ち着くの?何かの謎かけ?くすくす・・・・。」


蓮様は立ち上がり、キョーコさんの膝の上の重い本を取り上げて、ガラステーブルの上に置きました。


「敦賀さんは、あったかくて、優しくて、安心するんです。」
「オレは、湯たんぽか何か?」
「だって、敦賀さんは天然のテラピストです。」
「何それ?・・・・さあ、そろそろ寝よう。」
「はいっ。」


ぱちり、とリビングの電気が消えてから、ベッドに入るまで三分。ベッドサイドの薄い明かりが灯り、蓮様はキョーコさんの肩の上まで毛布を引っ張り、掛け直してあげます。


「おやすみ。」
「おやすみなさい・・・うふふ・・・。」
「ご機嫌だね。」
「今日は魔法を沢山覚えたので、ご褒美下さい。」
「何?」
「敦賀さん、先に眠らないで下さい。」
「じゃあ眠るまで手を繋いでいてあげるから、眠って。」
「うふふ。・・・おやすみなさい。」
「おやすみ、きょーこちゃん・・・。」



蓮様が目を閉じるキョーコさんのまぶたにおやすみのキスを落とすと、キョーコさんは目を閉じたまま、穏やかに微笑みました。繋いだ手を頬に当てて、蓮様の手の甲におやすみなさいのキスをして、そして、首をすくめて毛布に包まりました。


一分。


その晩は、たった一分で、キョーコさんは穏やかな眠りにつきました。すぅすぅ穏やかな寝息を立てています。


その姿をとても優しい表情で蓮様は見守っています。そしてその毛布ごと蓮様はキョーコさんを腕で包み、蓮様もその日の眠りに、つきました。










2007.03.07

ACT.100ネタxユーミンさんの「やさしさに包まれたなら」。
魔法の国のキョーコさんの毎朝は同曲歌詞風希望。
結構ぴゅあきょーこたんにはまる歌詞なのだ☆