魔法の国のキョーコさん@花のワルツ 4






そんな時、蓮様の肩に小さな妖精が乗り、蓮様の頬をぺちぺちぺち、と妖精のほんの小さな力で叩かれました。

『蓮様約束を守ってくれてありがとう!!!』


真っ赤に赤くなって、酔っ払っているらしい木こりの斧の妖精は、人の目にもちらちらと姿が見えたり消えたりしていました。


「蓮、なんだその肩のちっこいのは。」
「妖精だよ。」
『オレは木こりの斧の妖精だ。蓮様には助けて貰った恩があるんだ!』
「なんと。初めて見たが・・・妖精とは随分と陽気なのだな。」
「酔っ払ってる・・・けどまあ普段から陽気は陽気、かな。」
「木こりの斧の妖精殿、オレはレオだ。蓮の国からは随分と遠い国にいる。ローマ、という国にいるのだ。蓮の友人だよ。」
『はじめましてレオ殿。レオ殿の国に妖精はいるか?』
「いるよ、もちろん。何せ妖精の国の入り口はローマの近くにもあると言われているんだからね。妖精を見たのは今日が初めてだが・・・そういえば妖精と言うのは、近場をあちこち望んだ場所まで移動できるのではなかったか?」
『スゴイだろう。尊敬しろ。』
「ははっ・・・確かに酔っているかな?・・・じゃあ、木こりの斧の妖精殿。貴殿が望んだ場所に行けるなら、キョーコ姫を探してきてはくれまいか?」
『キョーコちゃん?いないのか。妖精の祝福の酒をぜひ飲んでもらおうと思ったのに!探せばいいんだな?じゃあそこらの妖精皆で探そう。そうだ、蓮様、妖精の木の実一つをものすごく大きく出来るかい?キョーコちゃんを見つけた者の褒美に、大きくしてやってくれ。」
「分かったもっと大きくしよう。キョーコちゃんは多分、レイノ・・・殿下・・・と共にいるだろう。」
『何?レイノだって?分かった。・・・・お〜〜〜〜〜い!!』


木こりの斧の妖精がそこらにいた妖精に声をかけると、次々と大広間から妖精たちはいなくなりました。


「蓮、お前・・・妖精と友達なのか。」
「キョーコちゃんがね。あの子にとっては妖精も人間も動物も皆どれでも同じなんだ。」
「へぇ・・・・。お前の姫はスゴイ特技の持ち主なんだな・・・・。」
「魔法も使えるよ。オレより強い力があるかもしれない。」
「なら夫婦喧嘩はしないことだ。お前が犬や猫にでも変えられた話が社交界に届いた日には、少しは笑えるな。」
「・・・そうだね・・・。」

蓮様は、くすり、と少しだけ笑うと、レオさんと別れ広間を出て、倖一さんを探しに行きました。




*****


「さ、さむいっ・・・・。」

ぶるるっ・・・とキョーコさんは小さく震えました。それはそのはず、雪が舞い、両肩が出ているドレスで外を歩いているからです。



――ぽん!


「コレを羽織ればいい。」


レイノさんは真っ白でふわふわの毛で出来た美しいストールをいとも簡単に何もないところから取り出し、キョーコさんの肩にふわり、とかけます。そんなレイノさんにキョーコさんはビックリしました。

「レイノ様は魔法も使えるのですか?」
「まぁ王家の王子のたしなみ、みたいなものだろう。この力があるから国を纏めているだけだ。それにお前だって使えるだろう・・・。」
「はい、使えますが、良く知っていらっしゃいますね?」
「オレを・・・魔法の勉強中に・・・ビーグルの姿に変えて遊んでいたのは、ほかでもないお前だぞ。」
「・・・・・?ビーグル?犬の?」
「・・・・覚えていないだろうがな。」
「なんだか、レイノさんは・・・私を昔から知っていたような口ぶりでお話をされますね。どこかでお会いした事がありましたか?私、忘れてしまっているのでしょうか。」

広間を抜け、中庭を抜けると、ひっそりとした裏庭に着きました。レイノさんがまっすぐ指をさした先には、大きな小屋がありました。


「あそこにヒツジがいる。」
「わぁ・・・・。」


レイノさんは、キョーコさんの問いには答えませんでした。目を輝かせて、わくわくしている純粋な目をしたキョーコさんを見ていると、おかしな気分になってきます。こんな姫にはやはり、一度も会った事がありません。



――・・・他の王家の王子の姫・・・
――・・・絶対に手に入らないと分かっているから・・・欲しいのか・・・・
――・・・それともまさか・・・・



「キョーコ。今の時間は、ヒツジの周りを飛ぶ祝福の精霊が見えるかもしれない。コレを貰った時についでに着いて来たモノだが・・・お前にとっての妖精と同じだと思っていい。神の使いだ。天使とも言われるな。精霊は普段あまり姿を現さないが・・・・お前の前なら・・・現れるかもしれない。」
「精霊さん???・・・・それにあの・・・レイノ様は妖精さんも見えるのですか?」
「・・・・妖精だろうと人間だろうと動物だろうと・・・なんでも皆同じだろう。魂が入っている器が少々違うだけで・・・・。神や精霊や天使は更にその上にいてオレたちを見ている。」
「私、私以外に普通に妖精が見える人に初めて会いました。敦賀さん・・・蓮も、見えるようになるまでに時間がかかりました。」
「・・・・(そんな事も前に言っていたな・・・・)見えていいと思ったことなどない。お前に見えるかどうかは分からないが・・・オレにはいいものも悪いものも全て見える。お前の国に異次元の妖精の国が隣接していて・・・お前の王が守っているように、オレの国にも異次元の魔界が通じている。王は魔界の入り口を守り監視しているのだ。オレも将来はその立場になるだろう。」
「魔界!一体どんなところですか?」
「さあ。この世の悪しきものは皆その入り口から紛れ込んでいると言われているな。そして、罪に穢れた魂が行き着く場だとも言われる。オレも将来は多分・・・そこに居るのだろうがな。」
「ご自分でそんな事を言ってはいけません!!」
「・・・・・・・・・・・・・。」

レイノさんはキョーコさんに怒られて、少々驚きました。この国でレイノさんに声を上げられるのは親と兄弟だけだからです。「む」、と表情を強張らせて目を見つめて怒ったキョーコさんに、レイノさんは、「怒られたのは久しぶりだ。そういえばお前は人を立場で見ないのだったな・・・」と呟きました。

「ご、ゴメンなさい・・・・でも・・・お仕事・・・大変なのですね?」
「お前の国の王が・・・妖精の国の入り口を守るのを大変だと思わないのと同じだ。生まれたときからそこに魔界はあった。それが当たり前で、単なる近所付き合いみたいなものだ。」
「・・・・・ご近所付き合い・・・・?」

雪の小道を、話をしながらゆっくりと二人は歩き、ついに、ヒツジ小屋の前にキョーコさんは立ちました。思っていたような、それは大きなふわふわの動物に、キョーコさんは目をキラキラ輝かせました。


「ヒ、ヒツジさん〜〜〜ふわふわ〜〜〜〜☆」
「・・・・・。」

レイノさんは、キョーコさんならきっとするであろうと予想していた、無垢な満面の笑顔と表情をそのまま向けられて、一瞬キョーコさんの手を引きかけて、そんな自分に驚き、無言のまま、その姿を見守っていました。


「で、でも鳴きませんね?病気でしょうか。」
「あぁ・・・・もう寝ているからな・・・・。お前の飼っている幸せ鳥とは少し生態が違う。」

レイノさんがそう言うと、どこからともなく透き通った、それは綺麗な声が聞こえてきました。キョーコさんがきょろきょろ、と見渡すと、ヒツジさんの上に、それはそれは美しい、この世のものとは思えない可憐な女性が座っていました。その女性をとりまくきらきらと輝く何かの光のおかげで、夜なのにその場だけが明るくなったように感じます。まっくらな中を歩いてきたキョーコさんは、その輝きに慣れるまでしばらく目をぱちぱちぱち・・・と驚き瞬きました。


『・・・・レイノ。久しぶりだ。』
「・・・来たか。今夜は待っていた。」
『最近お前はここに寄らないからな・・・。彼女がお前の新しい姫なのか?』
「・・・・・キョーコ。彼女が祝福の精霊の長のミュスカだ。」
「キョッ・・・キョーコですっ・・・・。は、初めまして、ミュスカ様。わたくし、と、隣の魔法の国に住んでいます。妖精さんは沢山お友達がいますが、精霊さんには初めてお会いします。神様のお使いなのですよね?」
『お前、私が見えるのか?私はミュスカ。レイノ以外に見えるお方がいるとは思わなかったぞ。いかにも神の使いだ。』

レイノさんの周りにも、何か不思議な銀色の光が浮かび始めました。キョーコさんは再び目をぱちぱちさせています。

『彼女は妖精の森に隣の国の王子と住んでいる。妖精と共にな。』
『ほう?魔法の国の王家に入った姫か・・・そういえば聞いた事がある。妖精と心を交わす少女が王家に入ったと。それなら・・・私が見えても不思議ではないな。』
『ミュスカ、彼女がヒツジを飼いたいそうだ。今度彼女がヒツジを飼った時には・・・数が増えるよう祝福の精霊を付けてやってくれ。』
『じゃあお前がまた会いに来る事で・・・・私の同士を付けてやるが?」
『いいだろう。』
『まったく・・・お前は精霊が見えるのにどうしてその力を真面目に神官として使わぬのだ。神の媒体が出来うるお前はいわば私と同じ。どうしてそう闇にいたがる。堕天して魔界に堕ちるなよ。私でも助けられなくなる。』
『・・・・オレ達一族はこの力があるから王家の人間なのだ。どうせそのうちイヤでも使う事になる。堕天?さぁ・・・なるようになるだろ・・・。』
『なるほど?では私はお前が一生堕ちないように祝福してやろう。どうもお前はその力を無くそうとしているようだからな・・・私にもお前の心は全て見えているぞ・・・ふふ・・・・。』

神の国の言葉で話すレイノさんとミュスカさんに、キョーコさんはちっとも分からずちんぷんかんぷんで、不思議そうに首を行ったり来たりさせています。笑ったミュスカさんからレイノさんは視線を外すと、キョーコさんに視線を戻し、言いました。


「・・・キョーコ。オレからお前へのクリスマスプレゼントは、祝福の精霊だ。お前からしか幸せ鳥が貰えないのと同じで・・・これはオレからキョーコへしか出来ないプレゼントだろう。ヒツジはどこにでもいるから自分で探してくれ。予言してやる。お前なら必ず精霊とも仲良くなるだろう。祝福の精霊と仲良くなったら、お前がその時祝福したいものの傍に寄ってもらえば良い。ヒツジに乗せたっていいし自分の肩に乗せたって良い。お前は悪用するような魂の穢れは一切ない。」
「あ、ありがとうございます☆精霊さんが私の国にも沢山来ます様に!」

少し笑みを浮かべたミュスカさんは、独り言のように神の言葉を話し出しました。再び分からないキョーコさんは、じっとミュスカさんをみつめます。

『・・・レイノの予言は当たる。私にも見えている・・・この娘、昔・・・神に直接祝福されているだろう?・・・・人間の中では絶品の魂の持ち主だな・・・意識が心地よい・・・。レイノ、お前にも見えているのだろう?どうしようもなく惹かれているのはそこか・・・?ふふ・・・お前にしては珍しいタイプだな・・・。ただし人のものだ、しかも神の祝福を直接受けた人間・・・・・絶対に穢してはならない・・・残念だが我慢するんだな・・・。・・・キョーコといったか・・・キョーコの夫の王子も・・・随分と神に祝福されているな・・・体中から神々しいオーラが見えるが・・・・一度直接会って意識に触れてみたいものだ・・・・・・。』
『・・・・・・。ミュスカ。お前、今度はオレの「幸せ鳥」の為に祝福してやってくれ。キョーコから貰った。オレは増やさねばならない。が・・・普段悪しきモノがオレの傍には多いからな。すぐに弱るだろう。鳥が居なくなるのは国が困るからな。鳥はオレの部屋に居る。オレがここまで会いに来ずともそれで会えるだろう。』
『ようやくお前の部屋に入れてくれるか。それならレイノの恋路の邪魔はコレにて終わりにしよう。ふふふ・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・。」


『キョーコ、ではまた会おう。いつか私の同士が傍に寄ったときは歓迎してやってくれ。』
「はい☆もちろん!さようなら、ミュスカ様。いいクリスマスを!」
『そうだな。キョーコもいいクリスマスを。』


ミュスカがふっと不敵に笑い、闇に消え入るように姿を消すと、キョーコさんは、「素敵な方ですね!!」と、目を輝かせて言いました。キョーコさんはもう一度、名残を惜しむようにヒツジを見て、嬉しそうに笑い、「私たちも戻りましょう?」とレイノさんに声をかけました。


「もう少し散歩をしよう。」
「でも、もう戻らないと、蓮が・・・心配しますから。」
「大丈夫だろう。アレだけ踊りの申し込みをされる男だ。まだ踊っても踊っても終わらないだろう。」

ふいに蓮様を囲む煌びやかで美しい姫たちの顔が浮かび、キョーコさんはまた、胸がちくり、と痛みました。

「お前・・・そんな顔をするとは・・・・今更だが・・・お前の夫がかつて舞踏会の花だったのは知らない・・・・のだろうな・・・?」
「・・・・・・・(こくり)。」

レオさんやレイノさんが言うような、かつての蓮様のことを知らないキョーコさんは、少しだけ残念そうに、小さく頷きました。

さくさく、と新雪を踏みしめて、レイノさんはとある花壇に近づき、屈みました。そして雪を払うとその雪の下に、枯れずに咲いている花を数本抜き、キョーコさんに手渡します。それは、幸せの花ダイアナと、もう一つは、とても美しい、けれども、知らない花でした。

「ここにも幸せの花があるのですね☆とっても綺麗な紫色。こっちは・・・?」
「・・・・どうしてお前はあの者の后なのだ・・・?」
「・・・・レイノ様・・・・?」

幸せの花ともう一つの見たことが無い美しい花を受け取り、不思議そうな顔をしたキョーコさんに、レイノさんは少しずつ寄り、壁に追い詰めます。そっと顎の下に手を置いたレイノさん。



「オレにも、お前の神の祝福を分けてくれ・・・コレぐらいならお前の魂を穢すまい・・・・?」



そっと頬に口付け、手を取りその甲に口付け、腕に抱きしめ抱えたレイノさんに、キョーコさんは驚いて目をぱちぱちぱち、と瞬き、やはり、くらくらくら・・・と目を回すのでした。



「レ、レイノ様・・・・?」






まだまだ続きます☆



2007.05.12

花のワルツを書くにあたりヒツジを出す事は「ふわふわ・り様」を知る前には決まっていたのに、先日出逢ったこのサイト様には赤ずきんちゃんとヒツジ絵が沢山、そして私のツボを突いてくれた今回のこの背景がどうしても使いたくて、こんなお話が頭に降ってきました。背景様様です。ありがたや〜☆。