魔法の国のキョーコさん@夏の夜の夢 3




「貴方もおうちに帰らないと・・・この辺の夜は・・・初めての人には夜のいたずらっ子の妖精がいたずらしたくて騒ぎ出しますよ?」
「あぁ・・・別に。帰る方法などいくらでもある。」
「そうですか。じゃあ、今日は敦賀さんもおうちに帰ってこないし・・・夕飯も一緒に食べますか?私の手料理で良ければごちそうしますよ?」
「じゃあ・・・そうしよう。」


一緒に歩いて、いつもの帰り道を蓮様とは違う人物と歩くキョーコさんを見かけた、木の妖精さんたちは、一斉に騒ぎ出しました。


『キョーコちゃんが、蓮様とは違う人と歩いているよ!』
『あいつはさっき僕達にキョーコちゃんに会いたいといったヤツなんだ!』
『でも、一緒に歩いているからお友達なのかな?』
『悪い事しないよね?』
『キョーコちゃんに何かしたら、僕達があいつをやっつけるんだ!』
『了解!』


「(・・・・・・本当ににぎやかな森だな・・・・・・。)」


レイノさんがふと耳を澄ますと沢山の会話が耳に飛び込み、キョーコさんの周りに沢山の妖精が集まってきました。

『キョーコちゃん、キョーコちゃん!』
『ねぇねぇ!』
『気をつけてね!』
『気をつけて帰るんだよ!!』
『変な人はおうちに入れたらダメだよ!』

「いつもありがとう、妖精さん!」

にっこり笑って、近寄ってきた妖精たちに声をかけると、キョーコさんは、「あの赤い屋根のおうちです。」と言って、指さしました。

しばらく歩いて着くと、その家は木こりのログハウスのように全てが木で出来ていて、赤い屋根が印象的です。家の玄関の右横には、魔法の木が植えられ、左横には沢山の花が植えられています。キョーコさんが帰ってきたのに気付いた家の妖精たちが一斉に『キョーコちゃんお帰り!!』と言って出迎えています。

玄関に大きなカメたっぷりに魔法水が蓄えられているのに気付いたレイノさんは、言いました。

「お前は魔法を使うのか・・・?」
「はいっ。今でも敦賀さんの下で学んでますっ。」
「ほう・・・。」

その魔法水を少し掬い、ぺろり、と舐めると、「いい魔法水だな・・・」と言いました。

「あの泉の水を使っているんです!魔法水にはオススメですよっ。貴方も魔法を使うのですか?」
「・・・・まぁね。」


玄関から入ると、大きなキッチンに、大きなソファが置かれたリビング。書斎らしき本が山ほど並んだ部屋と、二人の寝室と、そしてその奥に一つの扉があります。

その扉には、「妖精の国入り口」と書いてある札が掲げてあって、如何にも開ければ妖精の国へ行って来られそうです。

「まさかあの扉を開けると妖精の国へ行けるのか・・・・?」
「あ、アレですかっ??くすくす、違いますよっ・・・アレは単なる勝手口です。開けてみれば分かります。レイノさんも・・・敦賀さんと同じ事言うんですねっ・・・くすくす。」

キョーコさんが面白おかしそうに笑いながら、その扉を開けると、一面に花々が咲き乱れ、季節の野菜のなった畑、そして、国鳥の幸せ鳥が仲良さそうにたくさん大きな囲いの中で身を寄せ合っていました。

「アレが・・・幸せ鳥・・・・初めて見た。」

「とても珍しい鳥なのでしょう?あんなにたくさん・・・子供が育つのも珍しいのですって!だから少しだけ、私が餌を置くときに、親鳥が私に卵を分けてくれるようになったんです。この私の魔法水と妖精に守られた、この森の土地が合うのじゃないかって・・・いま国の研究者達が研究をしているんですよっ。」

「へぇ・・・。じゃあどうしてこの扉が・・・・妖精の国入り口って書かれている?」

「えっと・・・この庭には妖精さんがたくさん住んでいるんです。妖精の国は、この森のどこかで繋がっていて、この森には彼らは遊びに来ているんです。とても綺麗で優しくて、機嫌がいいと素敵な声で歌うんです。私・・・小さいときからこの森に住んでいたからあまり人間のお友達はいないんですけど・・・妖精さんは沢山沢山お友達がいます!!敦賀さんもその一人です。昔から妖精の王子様たる金色の羽を持っていて、綺麗で素敵でとても優しかったんですっ(力)!!!!」

「・・・・・・(何の話だ・・・ノロケなのか・・・?)・・・・。」

・・・・妖精の国入り口で、すっかり妖精の国の住民と化したキョーコさん。レイノさんは、そんなキョーコさんを横目に、その妖精の国入り口の扉を閉じました。


「久しぶりに、いい物を見た・・・。国鳥、大事にするんだな。沢山生まれていらなくなったらオレに二羽分けてくれ。」
「あ、はいっ。敦賀さんがいいって言ってくれたら、いつかツガイであげますね?」
「・・・・(あの男がいいと言うわけはないだろうが、な。)・・・・」


レイノさんをリビングに通すと、キョーコさんはいそいそと食事の支度をして、そして二人で大人しく食事をします。美味しそうに食べるキョーコさんを目の前にして、レイノさんはまた、余計な心がやってきて困っています。

食事後、キョーコさんは魔法の本を読み始め、何事かブツブツと練習し始めると、とたんにレイノさんはその餌食になりました。


――ぽん☆
――ぽん☆


何度も姿が変わってはレイノさんは自力で戻り、だんだん疲れてきました。

「おい、キョーコ。」
「・・・・!」
「魔法の練習はいいが・・・オレまで巻き込むのはやめてくれ・・・・。」
「えっ?あ、姿変わっちゃいました?敦賀さんはいつも平気なので・・・。ごめんなさい。じゃあもう今日はコレでおしまいにします。レイノさん、どうしますか?一人で帰れますか?森の入り口まで送りましょうか?」
「いや・・・・軒先さえ貸してくれればどうにでも眠れる。お前は今日は一人なのか?」
「えぇ・・・敦賀さんは明日の夜にならないと帰ってきません。」
「そう・・・・。じゃあ・・・軒先を借りる。」


そう言って、レイノさんはすたすたと出て行ってしまいました。
取り残されたキョーコさんは、つまらなくなったので、眠ることにしました。


「レイノ君!!やっと出てきたっ!」

お供の彼は、家の外で一人待っていた様子でした。

「あぁ・・・。」
「どうだったの?こんな小さな家に何の用事なのさ!」
「ちょっとね。気になる赤ずきんが居てね。」
「えぇ!!!レイノ君、女の子ならこんな外れの女の子じゃなくてもっともっとイイ姫がたくさんいるじゃないかっ。」
「イイ姫、というのが誰にでもイイとは限らないだろ。あぁ、そうだ・・・ちょっと耳を。」


ぼそぼそぼそ・・・・と彼の耳元で囁いたレイノ君。レイノ君が囁いたのは、レイノさんの王国の城の裏庭にひっそりと生えている、浮気草と、月の女神ダイアナの花を数本ずつ抜いて来いというものでした。

浮気草は、その花の汁を目蓋に塗るとたちまち、その目にしたものと恋に落ち、その目の前のものが無いと恋焦がれて死んでしまうという毒をもったもので、国では絶滅しそうになった動物に使用したりする為に大事に栽培され、その薬を作ります。そして、それを治し元に戻る月の女神ダイアナの花も同様に大事に栽培されています。


お供の彼は、驚いた顔で、「本当に使うの?アレっ!!」と言って、一瞬ためらいました。


「たまには一夜の夢を見るのも悪くは無い。」
「あ、あの少女で・・・?」
「あの無垢さが気に入った。だが・・・アレは一応王族と結婚している身、だからな・・・。今国が戦争を起こすわけには行かない。あの花々を使えば全てが夢になる。」


「わかったよ、待ってて」と言って消え、しばらくして、再び姿を現したお供の彼は、さすがに気が引けたのか、両方の花を遠慮がちに手渡しました。

「・・・・・レイノ君、気をつけてね。オレはもう城に戻っているから、明日の朝になったら迎えに来るよ。」
「あぁ、そうしておいてくれ。」


再び静かな夜のとばりに包まれたキョーコさんの家。消された数々の夜のランプの妖精たちが、レイノさんの持っている花に気付き、気付かれないよう静かに騒ぎ出しました。


『蓮様に報告しなきゃっ!!!』
『あの花をつかったら、キョーコちゃん、あの男に食べられちゃう〜〜〜〜!!!』
『キョーコちゃんがあぶないよっ!!!』


――ぽん☆
――ぽん☆
――ぽん☆


ランプの妖精たちが一斉に姿を消しました。

レイノさんは、すやすやと寝息を立てて眠るキョーコさんのベッドサイドに腰掛けて、その頬に手を置きます。


「うふふ・・・・・☆」


何の夢を見ているやら、キョーコさんは嬉しそうな寝言を言って、笑みを浮かべました。



「悪いな・・・。でも一人にしたアイツが悪い。オレも・・・お前のその幸せそうな夢の中に一夜だけ出演させてもらおう。・・・明日の朝になればオレの存在も何もかも全て忘れる。」



レイノさんは、ついに、浮気草の花の汁をキョーコさんの両目蓋の上に、指で塗りました。







2007.04.09