『その者にこの浮気草の花の汁を目蓋の上に塗ってやるが良い。さすれば目が覚めて何を見ようと、それがその者のまことの恋人。眠りから覚めて、その目が最初に見止めたもの、それが恋人となる。何か忌まわしいものが近づいてきた時、その者は、その眠りから覚めるがいい。』


               ―シェイクスピア 夏の夜の夢 第二幕第二場 
       妖精の国の王オーベロンが妖精パックへ頼み事をする場面―





魔法の国のキョーコさん@夏の夜の夢






蓮様とキョーコさんが暮らす魔法の国の、お隣の国。
その国も大変魔法の力の強い国です。

拮抗した力関係は、今は大変賢い王達のおかげで、争う事も無く互いを尊重し、穏やかな友好を築き、誰もが皆平和に暮らしています。


その国の王子の一人、レイノさんは、朝から憂鬱そうです。



「それでっ。お兄様!!!聞いてくださらない?」

「何なんだ・・・まだ続くのか。オレが朝苦手なのを知っているだろう。」


妹姫が朝からレイノさんのベッドサイドでピーチクパーチク、朝の鳥のようにおしゃべりをしています。

「・・・・・この所、行く先々のパーティで一切お隣の国の二番目の王子の蓮様にお会いできないと思っていたら。ご結婚されていたらしいの!!!!」

「あ、そ・・・。」

「あ、そ・・・・じゃありませんわっ!!!!どうして誰もわたしに言って下さらなかったのかしら・・・・。」

「(そんなのお前の恋心と面子とそのプライドの為に・・・王が国中に緘口令を敷いていたからに決まっているだろう・・・・。)・・・・・どうした・・・お前らしくないな・・・・?もう少し声を抑えてくれないか・・・。頭に響く。」

「だって、誰もが私の夫にと・・・・わたくしも努力を重ねてまいりましたのに・・・・なんと蓮様がご結婚されたのがただの街娘・・・・いえ、街には住んでおりませんの。森の中に住んでいて・・・異世界の妖精の国へも平気で行ったりきたりする不思議な少女だというのです。いったいコレはどういうことなのかしら??お兄様、お隣の国へ行ってその方がどんなに器量良しなのか、どんなに私が劣っているのかを確かめてきてくださらない?わたくし、至らなかった部分を直さねば気がすみません・・・。もし大したことのない娘だったとしたら、そんな普通の女性などを娶る王子を好きだった自分の・・・・殿方を見る目が至らなかったのです。」

「そんな事なら・・・・自分の使いたちを使ったらいいだろう。」

「イヤですわ、他人に頼むなんて。もしこの国の姫ともあろうものが未練たらしくしているなんて隣国にまで噂が流れてしまったらわたくし一生の汚点ですわ。恥ずかしい。」

「・・・(どうでもいいが・・・そのプライドをもっと別のところに使ってくれ・・・・)・・・。」


男にはさっぱり分からない、女のプライドという名の嫉妬心に、レイノさんは朝からすっかり疲れてしまいました。

「お兄様?」
「分かった。行ってくれば良いんだろう。その妖精少女を見に。」
「くれぐれも、私の用事だとは気づかれないようにして下さいませね。」

用件を言い終わると、その姫はいそいそと部屋を出て行き、そして、レイノさんは「面倒だな・・・・」と言って、さっさともう一眠りにつきました。


お昼ごろ、ようやく起きて、部屋でぼんやりとしていたレイノさんの所へ、彼のお取巻きの1人がやってきました。

「レイノくーん。」
「・・・・・・・。」

相変わらず半分ぼんやりとしていた、アンニュイ王子は、彼に一つ魔法をかけました。


――ぽん☆

小さくなった彼は、レイノさんのベッドの上に、ぽとり、と落ちました。

「な・・・何?レイノ君。なんかオレ・・・小さくない?」
「妖精風にしてやった。」
「???」
「それで・・・お前は望んだところへ瞬間的に飛んでいける。」
「へぇ〜〜〜〜レイノくんさすが〜〜〜〜〜!!!」


自分の状況はどうでもいいのか、抜けているのか、彼は初めてなる『妖精』というものにひどく喜んでいる様子です。そして、急にいなくなると、少しして戻ってきました。

「ミロクさんの所まで行ってきたよ。驚いてた。」
「アイツに・・・しばらくこっそりと出かけるから会議は任せた、と伝えて。」
「はーい。」

再び消えて、しばらくして戻ってきて、そして、

「ところでさぁ、何でボクはこんな姿にされたわけ?」

とようやく自分が置かれた状況を少し把握する気になったようでした。

「出かけるから・・・お前も着いて来い。」
「え〜〜〜〜♪オレがレイノ君と一緒に出かけるの?ミロクさんとじゃなく?」
「アイツはオレの代わりにやる仕事が溜まってるからな。お前はその姿で逐一オレとミロクの間を飛び回ればいい。」
「なるほど〜。どこにいても国のために、だね?さすがレイノ君!将来の王たる配慮だよね!!」


別にそんな事を考えているわけではないが・・・・と心の中で思ったレイノさんではありましたが、たんなる使い魔・・・・だと彼が気付かないのは、レイノさんにとっては大変好都合でした。


――ぽん☆


歩くのが面倒なレイノさんは、コウモリの姿に化けると、ぱっと飛び出しました。


「まって〜〜〜レイノくーん!!!」


彼に今、瞬間移動できる力があっても所詮は小さな身体。あまり魔法力も無い為その姿から鳥などに変わる事も出来ず、仕方無くレイノさんの気配を追って、とにかく瞬間移動の繰り返しをして、レイノさんを追いかけます。


そして、隣の国の街までやってきました。


「きゃあ・・・・アレ・・・・レイノ様じゃない?」
「レ・・・レイノ様よっ・・・・。今日お城でパーティでもあるのかしら?」
「蓮様も今お城にお戻りになられていらっしゃると聞いたし・・・そうじゃない?」
「めったに・・・こちらへはいらっしゃらないレイノ様が拝めるなんて・・・・。」
「「「「しあわせ〜〜〜〜〜〜v」」」」


街娘達のレイノさんを絶賛する声に、なぜかお供の彼が鼻高々そうに自慢げな表情を浮かべます。


「すまん・・・・。」
「「「「きゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」」」」


レイノさんがその街娘に声をかけると、極限まで高い声を発して、彼女達はレイノさんの周りを取り囲みました。


「「「「なんでしょう???」」」」
「・・・・妖精の国を行ったりきたりする少女というのを探しているんだが・・・。」
「・・・キョーコ様の事かしら?妖精が沢山住む家で住まわれていらっしゃる・・・・。」
「キョーコ、と言うのか、その少女は。」
「えぇ、蓮様が心から大事にしていらっしゃる奥様ですわ。」
「蓮・・・というのは、この国の第二王子だろう?」
「そうですわ・・・とても凛々しくて美しい・・・・。」

蓮様を脳裏に思い出したらしい街娘はうっとりと、レイノさんに答えます。

「その・・・キョーコ・・・様に会いたいんだけど。城に行けばいいのか?」
「いえ・・・・キョーコ様と蓮様はお城にはお住まいになっていらっしゃいません。キョーコ様が元々お住まいになっていた妖精の森の奥深くに普段は住んでいらっしゃいます。今は蓮様がお城にお戻りになっていらっしゃるから・・・お一人で森にいらっしゃるのかしら?それともご一緒にお城にいらっしゃるのかしら。わたくしには分かりませんわ。」
「へぇ・・・。じゃあ、その妖精の森はどこにある?」
「この城の門を抜けて、南へまっすぐずっと行ってぶつかった先にある森ですわ。迷う事はありません。けれど、キョーコ様はもう蓮様とご結婚なさっていらっしゃるから・・・・レイノ様のお后様には向きませんことよ?」
「いや・・・オレの相手…というわけでは無いから心配無用。ありがとう。」

にっこり、と綺麗な微笑を浮かべて礼を述べ、足早に去ったレイノさんを、


「「「「う、麗しすぎますわ〜〜〜〜〜〜〜。」」」」」


と・・・街娘たちは狐につままれがとごく固まったまま、レイノさんの姿が遥か彼方、点となって見えなくなるまで、その姿を見送りました。

レイノさんは足早に城門へ近づくと再びコウモリの姿に変わり、まっすぐ南へと飛び立ちました。












2007.04.08 


またつづくのです☆
日々ちょっとずつ連載します〜。