魔法の国のキョーコさん@犬の王子様番外編
―― 最高に不幸せで最高に幸せだった蓮王子の一日編 ―― 








――キョーコさんに会う一日前のこと。蓮様のお部屋にて。



「蓮様っ、何でもいいですから、泉で身を清めて来て下さい。」
「あぁ、はいはい。分かったよ。今から行って来る。」


一週間後には二十歳になる魔法の国の王子様のお一人、蓮様は、宰相の一人にせっつかれて、仕方なく身を清める準備を始めました。


「蓮様っ。」
「次は、何?」
「蓮様宛てのお写真、沢山届いております!もう、二十歳になればご結婚には遅いぐらい。どの姫も大変器量良く、蓮様のお眼鏡にかなう方がいるはずですぞ!!」
「あぁ・・・。」

部屋に高く積み上げられた各国の姫の写真に、うんざり、といった顔をした蓮様は、その世話焼きの白髪混じりの爺を横目に、「倖一さん」と傍で控えていた、眼鏡を掛けた切れ長の目の、蓮様と同じぐらいの年齢の男に一言声をかけました。

「はい。」
「コレ・・・。」
「はい。」

蓮様がその積み上げられた写真を指差すと、倖一さんはそれを抱えて、蓮様の部屋の奥へとしまいに行きます。


「蓮様っ!!!!しっかり見てくださらないと困りますっ。」
「見るよ。泉から帰ったらね。」
「そんなにご結婚がいやなら、ご結婚だけされて他の姫と遊んだらいいでしょう。御子だって誰が生んでもいいんですから。」
「違いますよ。結婚が嫌なわけではない。オレの理想が現れないだけでね。」
「わかりましたぞ。蓮様の御理想が高すぎるのでしょう?各国の美姫たちの誰もが蓮様と、とこうして山積みに写真を送ってくださるのに・・・。隣の国の姫など誰もが認める美しい姫、先日のパーティで蓮様も仲良くしていらしたでしょう。いや、蓮様は誰とでも仲良くしすぎるのです。顔の問題ではないなら、どの姫にしても魔法の力も国力も相当。一体どこが気に入らないというのです。」
「そうだねぇ・・・・気に入らないわけじゃ無いんだけどね。・・・・・倖一さん。」


戻ってきた倖一さんに、もう一度蓮様が声をかけると、「はい」と言った倖一さんはいいました。

「そういえば・・・葵様と楓様が呼んでおられましたよ。」
「なに、葵さまが?なぜそれを先に言わん!」


ばたばたばた、と忙しそうに出て行った宰相に、一つため息をついた蓮様に、倖一さんは「お写真は、いつもの棚にしまっておきました。」とだけ、声をかけました。

「悪い人ではないんだけどね。ただ、オレの幸せと国の幸せだけが心配なだけなんだよ。彼が居ないと王も成り立たないからね。」
「そうですけどね。」


――三時間後。


ようやく、目的の泉の近くまでついた蓮様と倖一さん。鳥がさえずる森の中を、少しだけ迷いながらも、水の音がするほうへ歩いていきます。


「・・・・・・・・ぶうどっ!!!」



――ぽんっ☆・・・


「ゆ、倖一さん?」


虹色の鳥になった倖一さんは、土の上に落ち、驚いて羽をはばたかせて、何とか木の枝に止まります。


「れ、蓮様〜〜〜〜!!!と、鳥に〜〜〜〜!!!!元に戻してくださいっ。」



「れーなにつぶうどっ!!!



――ぽんっ☆・・・・



今度は、まっくろなラブラドールレトリバーになった蓮様がそこにいました。


「何に変えられた?・・・・おかしいな、元に戻る呪文をかけても戻らない・・・・倖一さん、戻りませんね。」
「蓮様っ!!!蓮様は犬、真っ黒な犬です。」
「オレは犬になってる?さっきの声がした方を追おう。倖一さん、誰か人がいたら教えてください。」
「わかりました。」


倖一さんは空から、蓮様は鼻が随分ときくようになったので陸から、人のにおいがする方、声がする方を追っていきました。しばらくすると、目の前には元の目的の泉が、赤いフードを羽織った女の子が一人いました。

「あの子だ・・・・。」
「蓮様、様子を見ましょう。近づけばまた魔法をかけられるかもしれない。」
「そうですね・・・。」

じっと女の子の様子を見守っていると、泉の前でシートを開き、その上でパンを食べながら、魔法の本を開きブツブツと唱えています。

「魔法使いの娘のようだな。」
「そうですね。どうしますか?」
「そうだな・・・・。」

蓮様と倖一さんが思案していると、

「・・・・あ〜〜〜〜〜!!!!!」


大きな声がして、もう一度二人は視線を戻します。すると、女の子が持っていたパンはまっ黒こげで女の子の手の中にあり、びっくりしてそれを芝生に投げ落としました。


「せ、せっかく作ったのにぃ・・・っ・・・・。」


「ぶっ・・・。くすくす・・・・。あんな魔法を唱えながら食べるからだ・・・・。」
「なんの魔法ですか?」
「火の魔法の一つを唱えていたんだけどね・・・右手から火の玉を出す魔法だったのに詠唱間違えて左手から出した。あの子力があるのに・・・おかしな子だな。パンを燃やすなんて・・・くすくす。」
「蓮様。楽しんでいる場合ではないでしょう。」
「そうだね。」

女の子は黒焦げのパンに泉の水をかけて、ごめんなさい、と言うと、

「もう〜〜〜〜〜。水浴びでもして身を清め直そうっ!!!」


ばさばさと赤いフードと洋服を脱ぎ始めました。


「う、うそぉっ・・・。こんなトコで女の子が水浴びなんて、危ないよっ!!!」


倖一さんは驚いて後ろを向き、蓮様も驚いて、木の幹まで下がりました。


「女の子のすることじゃないな・・・・。」


――ばしゃばしゃっ・・・・
――ばしゃんっ・・・・


「気持ちいい〜〜〜〜〜っ!!!!やっぱり、ココの泉はとても綺麗で最高っ☆魔法が上手になる気がするものっ♪」



そんな声と共にばしゃばしゃ水を立てて遊ぶ音が響き、木陰に隠れている蓮様は、大きなため息をつきました。


『なんて無防備な赤ずきんちゃんなんだ・・・・・。』









また続きます☆



2007.03.23