いつくしむ



 
 この後の予告兼番外編風です。
10の時期より少し後の話です。




 


 
 
「ねえ、どっちを選ぶの?」
 
 
と、夢の中で二人はキョーコを追い掛け回し、言った。
 
 

 
いつくしむ 番外編    キケンな二人


 
 
その日の撮影も終わり、帰る人もあれば、セットの中でくつろぐ人もあり、いつもののんびりとした撮影上がりの時間が続いている。
 
「はいどうぞ、お嬢さん」
 
と、蓮がキョーコの目の前に置いたラテのカップに、白く丸いパンダが乗っている。
 
「パンダ!」
 
とキョーコが目を輝かせて言うと、
 
「お返し」
 
蓮はそう言った。
 
「これ、いつものミルクの泡ではないですね?」
 
キョーコがそれをすくおうとしてパンダが全て持ち上がった。蓮を見上げて言う。
 
「うん、マシュマロ。京都の和マシュマロだって。だからマシュマロラテ」
 
「マシュマロ!ありがとうございます、しかも京都なんて・・・取り寄せて下さったのですか?」
 
にこにこ、と、キョーコは嬉しそうに笑いそう言った。蓮は「うん、パンダのマシュマロって探したらそれが出てきたんだ」と言った。
キョーコはいつも通り、まずは携帯電話の写真に収めた。
 
「いつも思うんですけど、ラテ絵は崩すのが勿体なくて、飲めなくなります」
 
キョーコはカップの上でぷかぷかと気持ちよさそうに浮くパンダを、スプーンで、つん、つん、と、突いた。
 
「そう?でも、よかったら飲んで」
 
「ありがとうございます、いただきます」
 
 
キョーコが嬉しそうに、美味しそうに飲む。
それだけで、蓮も、嬉しそうに笑った。
 
 
「あ〜京子ちゃん!可愛いの飲んでる〜!!!」
 
誰かがキョーコのカップを見てそう言った。

 
「佐保だから」
「佐保だし」
「英嗣君は佐保ちゃんのカップだけ特別だもんね」

 
最早佐保のためなら何でもする英嗣の事をよく理解している皆が、蓮とキョーコを交互に見比べてそう言った。「そうですね、ありがたいですね」と言いながら、キョーコは苦笑いを浮かべる。毎回蓮が新しい技を覚えては、キョーコの上がりのコーヒーに淹れて出している。
 
「見せて見せてー!!」

 
たくさんの共演俳優たちに囲まれ言われて見せると、皆が「飲みたーい」と言った。

 
蓮も苦笑いで、「いいですよ」と言いながら、作り始める。

 
作ったラテは全て同じように葉っぱで、皆が「パンダは佐保だから」と言った。

「もう京子ちゃん、特別すぎ」と誰かが言い、「いいなあ」と誰かが言った。
 
「・・・その。あの」
 
と、キョーコはそう言われても、今日は三月十四日で、蓮からのお返しラテとは言えなかった。
 
バレンタインデーは、蓮のためにチョコラテを作って、皆に内緒で置いた。

だから今日はその内緒の返歌のようなものだ。


蓮は穏やかに笑うのみで、皆の声を静かに受け流している。

 
「佐保だからナァ」
 
と、浮かぶパンダを見て、男性スタッフまでもそう言って笑った。
 

「もうホント特別って感じですよね〜」
 
と誰かが言った。

 
卓也役のユウトが、遠くからやってきて、

「おつかれさまでーす。はい、皆さんに」そう言って、チョコピザを配り始めた。

ざらめとバターの乗ったバターシュガーピザに、チョコレートソースで模様が沢山描かれている。

 
「わぁ〜今度はピザ!すごーーい!!腕上げたね〜!!」

「最近楽しいんですよ、作るの。平面がありさえすれば、何でも描けるって。最初トーストでやってたんですけど、最近家で焼けるピザ生地売ってるんで、家で練習に焼いて描いていたんです。あと平面ではないですけどオムライスも最近気に入って描いて食べてます」
 
そう言いながらキョーコにも、「どうぞ」と言った。
 
「ありがとうございます!!」 
 
その綺麗な模様を見てキョーコはまた写真を撮った。
 
 
「なんかこの現場にいると美味しいコーヒーと美味しいデザートとかパスタとか食べられるから嬉しいわよね」
 

キョーコの前に座るベテラン女優がキョーコに話しかける。キョーコも、モグモグ口を動かしながら、首だけ、うんうん、と、頷いて相槌を打った。

現場スタッフも合わせてこのコーヒータイムが毎日の小さな打ち上げで、それがとてもいい雰囲気で進行している。

「やっぱり仕事上がりにコーヒーとかお酒とか飲むって大事よ。京子ちゃん、また今度行きましょ。毎回コーヒーもいいけど、みんなで打ち上げもいいわよね」

と、ベテラン女優はキョーコに言った。

「ぜひ!」

とキョーコが言い、誰かも、「やだ私も行きたいです〜」と続いた。

「みんなでね。私ごちそうするから」

「やったー」

と言った声が増えた。

「まだ出欠募ってないのに参加人数が随分急に増えたわ」

「増えましたね」

キョーコが笑った。

「いつも明るくて楽しい良い現場ね」

ベテラン女優はそう言って、蓮の作ったコーヒーを最後まで一気に飲み干した。

「おいしかったわ、敦賀君、ユウト君。毎回ありがとう」

「お疲れ様です」

飲み終えたマグカップを当然のように蓮は受け取り、笑顔で言った。

「みんなで食事の時は敦賀君もユウト君も来てね。あなた達が出るって言ったら、多分もっと参加人数が増えるから。沢山お金は用意しておくから」

蓮にウィンクをしながら「お疲れ様」と言って踵を返して女優はマネージャーを伴って帰っていく。

「あんな台詞、いつか言ってみたーい」

と誰かが言った。

聞いていたのか、遠くから、そのベテラン女優が、「よかったら当日カンパしてくれてもいいわよぉ」と笑って答えて、誰かが「ごちそうさまでーす」と笑って答えた。
 
 
 
*****
 
 
 
社は今日は事務所寄るからと言って、一人事務所に向かい、蓮とキョーコは二人で帰った。

帰りの車の中で、蓮に改めて、
 
「美味しいマシュマロラテありがとうございました」
 
とキョーコは言った。
 
「どういたしまして」
 
蓮はなんていう事もない涼しい顔でそう言った。
 
「あれはチョコラテを貰ったお返しだから」

と言って、送り届ける途中で、
 
「はい」
 
と言って、一つバッグから取り出して渡した。
 
 
「?」
 
「この間言っていたやつ」
 
「あ・・・」
 
「約束通り」
 
「ありがとう、ございます」
 
 
貰い受けたものを開けて見て、すぐに閉じて、キョーコは目を伏せた。

 
「社さんにこれの話をしてあったから、今日はさすがに気をつかったんじゃないかな」

 
蓮は、おかしそうに笑う。
 
キョーコは黙って、少し顔を赤くして頷いた。
 
「・・・ありがとう、ございます」

 
再度言った。

 
「どういたしまして」
 
 
 
少し沈黙が流れる車内で、キョーコの方が先に口を開いた。
 
 
「あの、今日見た夢はですね」

「うん?」

「敦賀さんと、金色の髪をした敦賀さんが出てきてですね・・・『どっちにするの、どっちがいいの』って散々問われ追い掛けまわされる夢を見ました・・・」

「え?」

「なんかもう、目が覚めても、朝だって最初気づかなくて」

「はは・・・」
 
「・・・どっちも、好きなので、そう言われてもと困って朝からすっかり疲れてしまいました」

「・・・・(困るんだけどな、簡単に「好き」とか言ってくれると・・・送ろうと思っているのに・・・)オレの家、いく?」

「ふぇ?いいえ、もうつきまし・・・」
 
蓮はシートベルトを外して体を折り、キョーコの「つきましたよ」と続けようとした唇に自らの唇を置いて続きを塞いだ。

蓮はキョーコの唇と舌とを散々好きなだけ食べた。食べられないように逃げて逃げて、時々蓮の歯に捕まって甘噛みされてキョーコの舌先が捕まった。

キョーコの唇を好きなだけ食べて満足した蓮は、にっこり、と、満面の笑みで笑って離れた。


「ホワイトデーだけどね。おいしい」

「・・・・(あわあわあわあわ・・・・)」


何も言えずに目を大きく見開くキョーコは、ただただ何とか言い返そうとした。


「く、車の中も、結構撮られますけど」

「いいんじゃない?どっちでも」

「・・・(敦賀さんてこんな人だった・・・?)」

「で、この髪のオレと、金色のオレ、どっちがいいの?」

「え?夢の中ですよ?別にどちらでも敦賀さんは敦賀さんですから」

「どっち?」

「ええ!決められません!!」

「決めてくれたらオレイメージチェンジするのに」

「えええ。私の一存で『敦賀蓮』を決めるなんてできません!メイクさんやスタイリストさんたちに決めて頂かないと!」

「君が金色がいいって言ったらすぐにでも金色にして帰ってくるのに」

「・・・(それはそれで目のやり場に困りますけど・・・)」
 
 
蓮は、零れ落ちそうな程大きな目で蓮を見ながら、どこかの世界に行って帰ってこないキョーコの顔に、くすり、と、笑った。
 
 
「私はどっちでも構いません、どっちも、夢の中では二人になって散々私を追い掛け回してくれて、本当に大変だったので。ネズミとネコの追い掛けまわる話みたいで」

キョーコは可笑しそうに思い出してくすくすと笑った。

そして、手渡された物を持って車を降りようとすると、「それ」と、蓮が言って、


「練習用のだからうまくないかもしれないけどね。また改めて作って渡す」

と続けた。

「・・・ありがとうございます」

とキョーコは答えた。

中々、話が終わらなくて、いつまでも、車の中から降りられない。
だから蓮が、
 

「やっぱり、オレの家、いく?」

 
と促した。キョーコの顔は、すぽん、と、真顔になって、

 
「いいえ!帰らせて頂きますっ」
 
 
シートベルトをさくりと外して、ドアを開けた。

 
「おやすみなさい、ありがとうございました」

 
正しく美しい姿勢で挨拶をしてドアを閉めた。
 
 
 


部屋に戻ってもらったものを開ける。
 
先ほど開けてみたものの下に、箱がもう一つ。

箱を開けると、その中に、飴も一粒入っていた。

まるで宝石箱の中に、綺麗な、ダイヤモンドのようにカットされた宝石のような飴。


「きれい・・・」


なんて美しい飴。


「これ、食べられません、敦賀さん・・・」


だから飾って、期限いっぱい眺める事にした。
 

 
夜遅くに、蓮の作った甘いマシュマロコーヒーを飲んだせいなのか、蓮の唇と舌先を散々食べさせられたせいなのか。
 

――飴より甘い・・・・


すっかり眠れないキョーコは、横になりながら、手元に置いたプレゼントを眺めた。
 

飴の箱の裏に何かがあるのに気付いた。

蓮の字で、「飴のカットの形、「ブリリアントカット」って言うんだって。光輝くって意味。君に」と書いてあった。


 
――もう、敦賀さんてば、全然眠れなくなってしまうじゃない・・・・

 
 
キョーコは全てを蓮のせいにする事にした。


「おやすみなさい」、と、枕元に置いた、蓮からもらってきた歴代の沢山のプレゼント達に声をかけた。



そして、更に冴えてしまった目を閉じた。





 
 
 




 



 







 







2019.3.14



予告風です。仲良しな二人。
息抜きにどうぞです。