いつくしむ



 
十三


 
次の日に蓮の部屋に行くと、蓮はもう金色の髪になっていて、最初にキョーコがしたことは、蓮の髪を散々と眺める事だった。

「わああ・・・・」

どうして記憶に残る色に、そんなに似た色なのだろう。

一緒に絵を描いていたって、台詞を覚えていたって、ちらりちらりとキョーコは蓮を見た。蓮が、あまりにキョーコが見るから、おかしくて、「もう休もう」と言った。

それから、キョーコに、したい事をすれば、と、言った。

「描きたいんだろ?」

「もちろんです、でも」

「でも?」

「あの、すみません・・・すごっく触ってみたい、んですけど・・・」

キョーコは非常に遠慮しながらそう伝えた。

蓮が触ってもいいと言うから、キョーコは蓮の部屋で散々と触らせてもらった。

キョーコがソファに座っていて、蓮はソファに頭だけ乗せて床に座った。背はソファにもたれてくつろぎ、黙って触られていた。

キョーコの指に、手に、ただただワンコにでもなったかのよう。
蓮はただとても癒されていた。
だから随分と長い時間、目をつぶってそれを受けていた。

この行為はまるで、恋人のようだと、キョーコは思わないのだろうか?

「きれいです」

キョーコはそう言うに留めたけれども、蓮は、全てを分かっているから、ただただ穏やかに笑うだけだった。

髪を縛ってもいいですか?とキョーコが聞いて、蓮がどうぞ、と言って、縛ってみたりした。

縛っても似合うのは蓮だからなのか。

しげしげと見つめるキョーコに、蓮は笑いを耐えかねて、「髪が縛ってあると落ちてこなくて絵が描きやすいかも」と言った。

しばらくそれで描いてみて、「今度からこうするよ」と言った。

蓮の髪を元に戻して、キョーコはまた、きれい、と、言った。 

「やっぱり描きたくなる?」

と蓮が問うと、キョーコは、首を縦に何度も振った。

「オレ、こっちの方がいい?」
「いえ・・・そういう訳ではないです」
「感激の仕方が違うというか」
「そ、そんな事は」

キョーコは本心を知られたのではないかとドキドキする。

蓮が誰に似ているのか説明するのは非常に難しい話になる。

キョーコは、さらさらと零れる蓮の髪に、再度触れた。

「これになると、最上さんは触ってくれるんだ?触りたくなるの?」

むぅぅぅ・・・と唇を尖らせて、キョーコは蓮の質問への答えを避けた。その質問は非常に困る。

「触りたいなら触りたいって言ってくれないと」

「・・・・触りたい、です」

「どうぞ」

髪に触れると、やはり感触も何もかもが似ている気がして、キョーコは、泣きたいような気持になる。

蓮も、分かっていて、黙って触られていた。

誰を思い出しているのか、顔を見れば一目瞭然だし、何を思って蓮に言えないのかも、大体理解できる。

この色にするのには多少社長とテンと協議を重ねたけれども、蓮の決心は固かった。

いつもの色で。

そう頼んだ。キョーコを得たい、幸せにしたい、守りたい、そう決心をしたのと同じように、それが、何か引き換えのような気がした。本当の事を伝えてもいいし、伝えなくてもいい。状況に任せるつもりだった。

「似合う?」

「はい」

キョーコは素直に言った。
蓮はにこり、と、笑うだけ。
キョーコは、蓮の髪に触り続けた。

「ちょっとだけ・・・」

キョーコはそう言って、蓮を抱きしめた。

「ハグ、ですよ?」

「なんで言い訳するの?オレたちは今、許可なんていらないという約束なんじゃない?」

「・・・・そう、ですね」

キョーコは、少し申し訳なさそうに答えた。

誰を思ってハグをしたのか、誰の代わりにされているのか、それとも、蓮を思ってなのか分からないのが、蓮には悔しかっただけ。敦賀蓮である時に自ら正面からハグをしたことが無いキョーコが、この色になっただけでそうするというのが、蓮にはとても悔しいような、嬉しいような。
 
「会いたい人がいるんだろう?」

蓮は敢えて言った。

「・・・そうですね」

「それが、君の、好きな人?」

「・・・・いえ・・・違いますよ、すごく、よくしてくれた、お友達、です・・・。たまにしか会えないですし、いつ会えるのかも、私にはわからないので・・・つい。懐かしくて。ごめんなさい」

キョーコは蓮から離れて言った。

「その人と会ったらこうしたいんだ?」

「そういう訳では。でも、話は聞いてあげたいとはいつも思うんです。私はその人に会うと、いつも、自分の話ばかりしてしまって・・・。どうしたのって聞いてくれるからつい・・・」

「オレも、どうしたの、って聞いたら、それを、話してくれるのかな・・・」

「いえ!!そんな!!敦賀さんにお聞かせするような、大した話では、」

そう言った所で、蓮は正面からまたキョーコを抱えて、その言葉を止めた。

「へえ・・・その友達には言えて、オレには言えない事を話すの?なんで?」

「・・・あの、背中からって約束なんですけど・・・」

「妬ける」

「は?」

「オレは君を愛していると、何度言ったと思ってるの。答えを急ぐつもりはないけど、そのうち、きちんと聞かせて」

キョーコはしばらく何の表情も読み取れない顔で蓮を見つめ続けた。蓮も同じようにキョーコを見つめ続けた。

合い続けた目を先に外したのはキョーコだった。

「この、仕事が、終わって、放映が終わって、三カ月か半年か一年以上して、一切この仕事に、関わることも終わって、そのあと、一切私と敦賀さんが同じ仕事をしない日が続いたら、お答えします」

「それは長いね。オレはその間待たなきゃならない?」

「・・・・別の人を、好きになっても、いいですよ」

「それは、もうフラれているという事なのかな」

キョーコは首を振る。

「あの、答えは、待って、ください」

今すぐにだって、愛していると、大好きだと、言いたい。

愛される権利を、今、目の前にして思う。
怖い。何もかもが怖い。

今のバランスでうまくいっていることが、その均衡を崩すことで全て崩れてしまいかねない程、蓮を愛しているという事。

好きなんて言葉で言い表せない程好きなのに、次の仕事に移ったら、もう、忘れ去られるとか、関係が終わるとか、想像しただけで、今決まっている半年以上先の仕事まで、一切手抜きなくやり通せる自信が無い。

仕事にとって恋愛が邪魔だとは言わないけれど、今、最も仕事がよく増えてきた時に、それにうつつを抜かして、油断をして、さらに、心の全てをさらけ出してしまったのに、そこがぽっかりと無くなってしまったら。

今、蓮が何かの幻想の中で自分の事を勘違いしているだけかもしれないのだから、改めて違う仕事をして、一切キョーコの事など忘れて、別のもっと素敵な女性とまたこうして腕の中に閉じ込めて、愛を囁き、口づけている様子だって思い浮かんでしまう。

どんな男性に好きだと言われても何とも思わないのに、どうして蓮の言葉だけはこんなに心に刺さるのだろう。

キョーコはまた、涙を浮かべて、それを見られたくなくて、蓮の体の中にすっぽりと納まった。

でも、肩先が震えるから泣いているのだと蓮は分かって、そっと、キョーコを抱き締めた。

「どうして・・・どうして、泣いたらこうしてオレの腕の中を頼ってくれるのに、君がこの髪を見たら思い出す友人になら話せる事が、オレには言えないのかな・・・。でも、オレは君に泣かれたら、こうする以外知らないし、抱き締めてほしいと思っているからこの腕の中にいると思っているのに・・・」


蓮には、理解できないというような声を出した。

「・・・・ごめんなさい、わたしの、わがままばかり聞いてもらって・・・今だけ、ごめんなさい」

くぐもった声が腕の中からする。

蓮はキョーコの頭に頬を寄せた。

「愛してる」

そう、何度も、何度も、ただ、続けた。

「それ以外の言葉が、見つからない」

蓮は寂しそうに言った。

喉まで、ギリギリの所まで、出かかっている。
「好き」という言葉。

言ったら、それは、もう、責任が取れない範囲まで今、愛されるのだろうと思う。
めくるめく自分の知らない世界を垣間見る事になるとも思う。
愛していると、それ以外の言葉が見つからないのは、自分の方だと、キョーコは思う。

そんな蓮にとっては百個の恋愛のうちの一つ、たった一パーセントの恋愛であっても、キョーコにとって、一つの中の一つ、百パーセントの恋愛。愛しているから、蓮にとって、ただの、一つの些細な経験の一つになるくらいなら、蓮の本当の事を知らないでいたい。理性はそう言う。でも、本能は、知れるうちに知ってしまえば?と言う。

自分の中のそんな戯言に付き合わない。


いつも、こうして蓮の腕の中で、甘い気持ちを味わえば味わう程、新たに心に鍵をかけていく。


心の宝箱の中に、蓮への気持ちと、全人生をかけた愛情だけを閉じ込めて・・・。


そんな重たいもの、蓮が欲しい訳が無い。


こんなに愛していると知り「ごめん、そこまでのつもりはなかったんだけど」などと言われた日には、立ち直る事すらできなくなるかもしれない。


歴代の蓮と付き合った女の子たちは、恐らくほぼ間違いなく自分と同じ過ち、蓮を愛しすぎて、ついていけない蓮が愛想をつかすか、その気持ちを推し量ろうとして試しては地雷を踏み、禁忌を犯して、蓮と別れて行ったと思うのに・・・。


分かっているのに。


でも、それでも、今、腕の中で、甘やかしてくれる蓮の腕が嬉しくて、切なくて、だから、キョーコは、蓮の体を思いきり抱き締めて、泣いた。

愛していると言えるのは、この体だけ。声は出せない。

「こんなに、オレは君に求められていると感じるのに」


蓮は、キョーコの体から、その本当の事には本能的には全て気づいている。


それでも、キョーコのために、何もしないでいてくれるのも、分かる。


それが蓮の、いわゆる思いやりとか優しさで、かりそめであっても、愛されていると、思う。


気持ちを試しているのは、自分だと、思う。
それでも、怖い。


普段どんなことも積極的に動けるのに、蓮の事だけは、石橋を叩きすぎて、壊す自信さえ、ある。


「・・・オレが、怖くて言えないなら、言わなくていい。でも、いつか、教えて。君の好きな人。そうしたら、オレは、君を諦めるから」


キョーコは、自分も蓮を諦める日が来る事が、悲しくて、もっと泣いて、肩を震わせた。


「その友達になら、本当の事が、言えるのかな・・・とても羨ましい。代わって欲しい」


蓮はキョーコの髪を散々撫でた。


「友達にもなれない、恋人にもなれない、オレは君のよき先輩であるだけで、好きでいる事も、君には迷惑なのかもしれないね。ごめんね・・・」


蓮がやっぱり悲しそうに言うから、キョーコは左右にただただ強く首を振った。


「それでも、ただ、君が好き」


蓮は、キョーコの後頭部に、一度だけ、唇を落とした。
 
 
 
一時間以上、二人は抱き合ったままでいて、落ち着いてきたキョーコは蓮の体温と泣きはらした目のせいで、少し、ぼぅっとして、うとうとし始めた。

その様子を見て、蓮は、なんて可愛いんだろうと、見ながら思う。

キョーコの背中を撫で続けながら、言った。


「こんなに、ただの恋人同士より、愛し合っていて、近い気がするのに」

「・・・・ごめんなさい・・・」

「オレ、フラれるのやだ・・・それが半年も一年も待ってから更に言われるんだろう?それなら今ここで言ってくれない?オレも英嗣と同じぐらいは待てるとは思うけど、英嗣は佐保が心底愛してくれているのを知っているから十年だって待てるのであって、結果が分かっているなら、生殺しはすごく辛いです。キョーコさん」

「・・・ふってなんていません」

「実質フラれているも同然だもん。オレはその君が好きな彼からオレに変えてもらえるように、じゃあ、その半年?一年?分からないけど、努力するよ・・・その猶予期間だとでも思っておくよ。オレは今何が足りないのかな・・・」

蓮は、仕方なさそうに笑った。

「敦賀さんは、大丈夫ですよ、ホラ、百発百中で、誰でも愛してくれます」

「・・・君にフラれたら、百中じゃないんだけど」

「私は、カウントしなくていいですよ、例外」

「ホント君はオレをバカにしていると思うんだよね」

「してませんって」

「していなかったらそんな言葉出てこない」

「そんな事、無いんです。敦賀さんのお仕事、本当に大好きですし、尊敬しているし・・・」

キョーコは、少し照れながら言った。

「仕事以外は、なんだね」

「・・・・・・・」

答えないキョーコに、蓮は、ふぅ、と、息を吐きだした。

「仕事でなら、君は心の底からオレを愛してくれるなら、オレは、一生英嗣でもいいよ」

「・・・ふふ・・・」

「オレは、英嗣と同じ位君を好きってこと。それは分かっていてね」

「ほかの女優さんだってきっと、同じですよ」

「なんで他の人が出てくるの?オレは、仕事とプライベートは混同しない」

社もそんな事をキョーコに言ったと思った。

「・・・そうです、かね」

蓮はキョーコの泣きはらした頬っぺたを両方つまんで、ぎゅう、と、引っ張った。

「本当にオレの事なんだと思ってるの。本当に尊敬なんてしてくれているのかどうかすらも怪しいじゃないか。・・・でも、君との間だけは、混同しているかもね」

「・・・ですよね・・・」

キョーコは、何とか笑みを浮かべ、やっぱり、と、思う。

「混同しているというか、利用しているというか。君が佐保である事をいい事につい手が出る。それは社長にも社さんにもたしなめられた」

「もう・・・」

「責任がきちんと取れる方法でいいなら、もう、君ともっと恋愛したいのに。子供が出来ない方法なんていくらでも」

蓮はさらりと言って、キョーコは力強く、バシン、と音をたてて平手で力強く蓮の鎖骨のあたりを叩いた。少し赤くなった。

「まだ、半年後、ですよ、英嗣さん」

「・・・はいはい、そうですね、佐保さん」

「ホント、英嗣さんは我慢が出来ない」

「佐保さんが可愛いからです。君のせい」

ぷい、と、蓮は顔をそむけて、そして、叩かれた鎖骨のあたりを指で触れた。

キョーコが、モデルもする蓮の体なのに、つい恥ずかしくて八つ当たりをしたことを申し訳なく思って、

「ごめんなさい・・・爪、当たってないですか?」

と、謝った。

「ホント、君のそういう所、だと思うんだよね。オレが我慢できなくなるの・・・」

キョーコは、蓮の中の何かの恋愛のツボを、押してしまったらしい、と、思った。

でも、ハグするだけで、唇は、降りてこない。


今だけは、答えは出せないけれども、それでもほんの少しだけ佐保に乗じて、蓮にキスしてしまいたいような気がしていた。だからキョーコは精一杯の愛情と少しの勇気を出して、蓮の頬に、そっと、唇を置いた。


「今、私が、できる事は、これ位、ですけど・・・。たくさん、腕の中に居させていただいて、ごめんなさい、ありがとうございます・・・」

「・・・・もう、本当に君は」

蓮は、キョーコをぐい、と、引き離して、

「もう抱きしめるの、ムリ。部屋、行って鍵をかけて。冗談でも、今、オレ、君に飢えに飢えてるのに、本当に、責任取れない事をしそう」

「何を、ですか?私の嫌な事しないです」

「・・・一応、男、なんだけど、オレ」

「知ってますよ」

何今更、というような恋愛音痴のキョーコの顔を見て、蓮は、ふっと笑った。 

口説き文句を認識するどころか、異性としての男性としてさえ認識されていないのだろうかと思うと、蓮も、もう笑うしかない。

「性別の事じゃなくて。好きな女の子が腕の中にいて、キスをされて、とても可愛かったら、したい事は一つしかない。行く?」

プリーズ、と、蓮は自分の寝室の方を親指で指さした。

「・・・・・」

キョーコはくるり、と、回れ右をして、心臓が飛び出るくらいの勢いでどきりとした顔を隠した。

「・・・女の子は、ムリです。心がついてこないと、できません」

「だろ?だから、部屋に鍵をかけてね。あとは、オレが、英嗣でも、敦賀蓮でもなく、ただの男だって事も、忘れないで」

よく知ってますよ、敦賀さん・・・と、キョーコは思う。

知らない、分からないフリをしないと辛いから、分からないフリをしただけだ。

蓮が、今、自分とどうこうなりたいと、願っている事は、すぐに分かった。

だから、「分からないフリ」をして、演技でごまかした。

ウブで、恋愛を知らず、純粋で、鈍感で、そして、可愛くない子を瞬時に演じた。
そうしなければ、多分、蓮はすぐにキスをしただろうし、流されるように寝室に行ったかもしれない。万が一そうなったら、本心を半年以上隠して待つなんて無理だと思った。
 
 
おやすみなさい、とだけ告げて、キョーコは蓮の元を離れた。

泣きはらした目を見るため、洗面台に向かう。ひどい顔だった。よくこの泣きはらしたひどい顔の持ち主を前にして、理性が無くなるような事をしたいと言ったものだと思う。あばたもえくぼ、とは、こんな事を言うに違いない。蓮は今、本当に自分を好きでいてくれているのかもしれない。

もう痛すぎて、変な笑いさえこみあげてくる。

蓮が体の中に今持っている、恋の幻想という薬は、そんなに強力なものなのだろうか。
 
――それは、自分が良く知ってる・・・
 

子供の頃から、自分の恋心の、本来なら明らかに答えが出ていた事の、全ての場面。それを受け入れられない自分の心。見えているのに恋の幻想というフィルターをかけて、見ないフリをして、尽くし続けた日々を・・・
 
今、恋の幻想の前で、すっかり、こんなひどい顔の持ち主の前で、フィルター越しに自分につまづいている蓮を思って、キョーコは、申し訳なく思った。

恋愛初心者にとって、その恋愛幻想フィルターは、非常に強力な事も知っている。忘れられない、自らそれを剥ぎ取る事も出来ない。それを知っている。

だから、ふと「自分は一体何をしていたのだろう」と、いつか、恋のフィルターが消え、我に返った時に責めるのも、自分だと知っている。

愛されているのに、愛しているのに、愛したらいけない人、なんて、いるのだろうか。

ダイヤモンドはダイヤモンドでしか研磨できないのよ、敦賀蓮がこんな小さな石でつまづいていたら、輝かないじゃない、と。キョーコは思う。
 
 
――受け入れさえすれば、少しの間、一か月位は、恋人になる事もできる権利を今目の前にしているのに・・・
 
 
キョーコは恋の幻想などとっくに超えている。
蓮を愛しすぎて、何もかもが痛い。
幻想であっても、恋人になろうと思えない事も。

そしてただ横にあるだけのことにさえ自信が無いことを、全部蓮のためと偽って・・・。
 
「・・・・もう、本当にバカ・・・」
 
ゲストルームに向かいながら、キョーコは小さく呟いた。
また涙声だった。
 
幻想といはいえ愛されているのに、蓮を思えば思う程、それを諦めなければならないと思う、自らへの自信の無さと、悲しさ。

好きになりすぎると、何かが、壊れる。

まるで英嗣のように。佐保のように。
 
 
キョーコは、もう目が開かなくなるのではないかとさえ思う程、ベッドの中で、泣いた。



 
 
 



 







 







2019.4.8