君の背中に隠した嘘を教えて。

もうお互い隠し事なんて・・・終わりにしない?

オレも君だけで、いいんだって、そろそろ教えてあげないと。

君もオレも意地っ張りだから。

君が何よりも大切なんだって・・・・・・・。



Hide&Seek 5 ALL IN ALL


「?」

オレがすっかり台本に夢中になっている間に、変な視線を感じて、振り向いた。


あの子だ。


あの子はどうも一人になって台本を読むオレを探し出すのが得意らしい。今はあの子と共演のドラマを撮っているから、一緒になる時間が多い。最近では仕事が一緒の時に社さんが携帯をクラッシュさせるたび、彼はあの子に頼むようになってしまった。


普段なら近寄ってくるのに、なぜか彼女はぢぃぃぃぃっとオレを後ろのほうから見ていたようだ。オレはあの子の意味深な視線に弱い。大体オレに何かいいたいことがあるか、オレが怒るのではないかと待ち構えているかのどちらかだ・・・・。


「・・・やぁ・・・」


近づいて声をかけると、びくりと肩を震わせた彼女は「おはようございます・・・」と上目遣いでオレを見やり、頭を下げた。



「何?社さんから頼まれたの?」
「え、いえ、あの。」
「どうした?」
「あのぅぅぅ、・・・お邪魔してすみませんでした・・・・。」



また小さく丸まって頭を下げる彼女に、ついきゅらりと笑顔をあげてしまう。
彼女はそれに気づくと、はっっとした表情を浮かべてやっぱりビンゴだという表情を浮かべた。

「いや・・・邪魔されて怒っているわけじゃ・・・ないんだけどね。君の変な視線を感じて気になっただけ。後ろから見られるなんて、あまり気持ちのいいもんじゃないしね。何かいいたい事があったんじゃないの?普段の君ならオレを見つけたらすぐ近づくじゃないか。」

これは確かだと思う。

「すっ、すみませんっ・・・や、あのっ、今度からは後ろからは見ないようにします。」


なぜか彼女は何か隠していたことを当てられたかのようにかぁぁぁぁぁっと顔を真っ赤にしてうつむいた。


何なんだ?

ふぅ、とオレは一つ息を吐いた。


「分かった分かった。いいよ、そんなに言いたくないなら聞かないから。」


つい冷たい言葉を吐いてしまう。どうしてこう、この子はオレのスイッチをすぐ押すのだろう。こんな事がいいたい訳ではないのに、つい本音と逆が出る。


「すみません・・・・」

またやってしまった・・・・・。さらにうつむいてしまった彼女に、なぐさめようとうつむいた顔に視線を合わせるように膝を折って屈んだ。


「なんか、変だぞ、今日の君・・・。言えないならいいけど・・・撮影・・・の事?それとも役作りに悩んでいるの?それなら聞いてあげられる・・・と思うけど。まだ時間あるしね。」

そう言って彼女の顎に手をやって、上を向かせる。彼女は青くなって小さくふるふると首を振って、「ご、ごめんなさいっ・・・・失礼します。」とそれだけ言って、くるりと背中を向けた。とても納得がいかなくて、走って逃げようとする彼女の手首を思わずつかんで・・・離した。


「蓮?どこに行ったのかと思ったよっ。探したんだから〜。電波の届くところにいてよね。・・・・キョーコちゃん?あれ?ゴメン、取り込み中だった?」


社さんが下から探しに来たのか、息を切らせて近寄る。さらにオレが彼女の手首を掴んでいたのと、その彼女が逃げようとしている体勢に慌てふためいて、赤くなったり青くなったりしている。


彼もまた「とにかく、もうすぐリハ入るから」と言って背を向けようとした。彼はオレが彼女のことを好きだと思っているからなおさらこの状況に、敏感に反応したようだ。オレはまだ自分の気持ちをもちろん誰にも言っていない。


「社さん・・・大したことじゃないんで、行きましょう。さ、最上さんもね。」
「はい。」


彼女はバツが悪そうにそういうと、「社さん、おはようございます」と声をかけて、結局そのまま彼に下の撮影現場まで近況報告を行っていた。



それから彼女がオレにしばらく、びくびくと上目遣いだったのは気のせいではなかった。









それから1年、彼女がオレを後ろから“ぢぃ”っと見つめる事はなくなたが、今度は横に座った時にそれを真近でするようになった。


撮影の待ち時間中に、壁際の椅子に座って一人、次の撮りのために台本に目を通していた時、すぐ横に立っていた彼女の視線をまた・・・感じた。


「何かな?」
「いえ、見てるんです。」
「そんな事分かってるよ・・・。昔にも言ったことあるけど・・・なぜ後ろをじっとみる?あぁ・・・後ろまで目が届かないから・・・何か変か?オレ。」
「いえっ、とんでもない・・・です。そんな事日本中の誰が思いますか。」
「じゃあ何?」


じぃぃっとオレの顔を見つめて、意を決したように口を開いた彼女の発した言葉は。


「あの〜ぅ・・・・・・背中・・・・・・触ってもいいですか?」

「はっ????」


その意味の分からない答えに、固まった。横に社さんも誰もいなくてよかったと・・・思う。きっとポーカーフェイスが崩れていたと・・思うから。


「いやっ、すみませんっ・・・・・・っ。」


真っ赤になってまたうつむいてしまった彼女は、「だから言わなかったのに」、とか、はぁぁぁぁっとため息をついて、ぶつぶつ呟いている。


「いや、・・・まさかそういう答えが返ってくるとは思わなかったから。」


なぜかオレまで赤面しそうで、いつものようにそれを隠してまた続けた。


「いいけど・・・ここでするの?いや、変な意味じゃなくてさ、周りが見たらおかしいだろ?」

彼女はもうぐるぐると思考が回って停止してしまったようだ。


「あの、いいです、また誰もいないところで今度・・・・・・。」

訳の分からない返答に、オレは吹き出した。
いいのに、今度?今度誰もいないところでするのか?この子?


「くっくっくっくっ・・・・あはははははっ・・・・。おなか痛い。」


珍しくオレが声を上げて笑っているのを背中で感じたのか、他のマネージャー達と立っていた社さんがオレを見つけて近寄ってきた。


「どうしたの〜?蓮がそんなにおなか抱えて笑うなんて珍しいね。」

彼女は「もういいです!!」、と真っ赤になって逆切れした。

「くっくっくっ・・・。おかしい・・・、最上さん、それ、男への誘い文句?くすくす。」
「へっ?誘い文句?キョーコちゃんが?蓮に?!」
「つーるーがーさーーーーーーん!!!!!!」

そんなことだとは思っていなかったであろう彼女は真っ赤になったまま、社さんに、「これは違う、違う、いい間違えた」、と体中で身振り手振りをして言い繕っていた。その様子が可笑しくて、さらにおなかを抱えた。














それからしばらくして、オレが一人で台本を読んでいる時にあの子に見つけられた。


すたっと横に座ると神妙な面持ちでまた背中を見て、さわさわとさわられた。
なぜそんな神妙な面持ちなのかが疑問だが、不意打ちを受けたような気分だった。


「ほんとに・・・誰もいないところでやったね?」
「だって、「いいけど」っていいましたもんっ!」
「いや、言ったけどさ・・・何・・・?ホントにオレを・・・誘ってるの?」


くすり、と笑って、彼女の見開かれた目に視線を合わせた。彼女の顎に手をやってさらに上を向かせてみる。彼女は視線が彷徨って、あらぬ方向へそらした。


「いやっ・・・・・あのっ・・・・。だから、そんなつもりは・・・・・。」


しばらくその様子を伺っていたのだが、あまりに間抜けな逃げの体勢に、オレは吹き出してしまった。


「ぶっ・・・ふっ・・・・っ。」


顎においていた手をはずして、逃がしてあげる。


「君、今まで・・・恋愛もの・・・やったことなかったっけ?イヤ・・・せめてもう少し・・・ぶふっ・・・色っぽく・・・。」

彼女はどうも、「地味だ」「色気がない」の言葉に対しても何か異常な反応を示す・・・のは覚えていたのだが、本当に真っ赤になって怒り始めた。


「敦賀さん、そういうの、“セクハラ”っていうんですよ?!いいですか?上司が部下にですねぇ・・・」


そういう彼女の言葉をさえぎって、顔を覗き込んだ。


「じゃぁ君のそれは“逆セクハラ”か?」
「何でですか?!」
「不意打ちで人の背中を撫でるなんて・・・じゃぁ何か?オレが「君の背中を触りたい」って言っておきさえすれば、オレが触ってもいいのか?」
「どうぞ?いいですよ、減るもんじゃなし。」


何言ってるの、この人、といった表情で、勝気にオレを見上げたが。
だが、それは売り言葉に買い言葉というものだろう。


「本当に・・・君は・・・・バカだね。オレが背中じゃなくて腰だとか足だとか言い出したらどうするつもりなの?」

つい、対抗してきゅらきゅらとにっこり迫ってみる。


「うっ・・・敦賀さんが・・・そんな人だったなんて・・・。世の中の女性が泣きますよ?」


今度はなにやら軽蔑の眼差しで見るので、さらにきゅらきゅらを強くする。


「イヤ、オレはまだ何もしてないだろう?君に忠告をしただけだよ?オレだからいいけどね、それ、他の人にもやってみたら?君が泣くはめになるんだから。」
「・・・・他の人にはしませんもん。いいんです、私「敦賀さんの」背中に触りたかっただけなんですから。」


言っていることは口説き文句なのに、その表情は相反して、何か文句ある?といった彼女の顔を見て、ふっと表情をゆるめた。


「だーかーらー、それ、オレを誘ってるの?いいよ、何なら誘われてあげようか?ホラ、こっちに顔向けて・・・・・。」
「・・・・っ違いますよ、だからーーー・・・・・・・・・」


結局、その後もオレと彼女は、全く色気がありそうでない応酬を続けたのだった。










「・・・・・っ・・・・・・れん、れんっ・・・やぁっ・・・んっ・・・・。」


―――あぁ、もう意識とんでるな・・・・。


オレの下で可愛く動く彼女は意識を飛ばすとオレの名前を連呼して背中を探し始める。そのことを一度彼女に言ってみたら、真っ赤になって否定していたから本人は無意識のようだ。


なぜ、彼女がそんなに背中を撫でるのが好きなのか、今でも知らない。時折今でも思い出したように触るし、ベッドの上でまどろんでいる時は尚更だ。ゆるゆるとオレの背中をなぞっては見上げる。


「そんなに・・・背中、好き?」
「・・・・うん。」
「背中だけが・・・?」
「背中・・・だけじゃぁ・・・ないけど・・・。でも蓮の背中がすき。・・・私だけのものにしたい。」

微笑しながら背中から腰に指をするりと移動させて・・・・・・オレを挑発しているのか?


「ホラやっぱり、誘ってる。」
「ふふっ・・・昔もそんな事・・・言われたっけ。あの時はそんなつもりじゃないって・・・逃げたけど・・・。」
「いいけどね、別に・・・君にしか触らせないし。」
「ふふ、嘘でもありがと・・・。でもね、ドラマで一緒に主演になることなんて・・・何度も無いから・・・蓮の相手の女優さんにすごく・・・嫉妬する。蓮の背中に触って・・・台詞を言わないでって・・・。ベッドシーンで蓮に触っているのは・・・・もっとイヤだけど・・・ね。」


ぎゅっとオレの腰を引き寄せた彼女はとても可愛くて、再び彼女を可愛がることにしたのだった。


おかげでまた理由を聞きそびれてしまった。




あれからまた一年たって、彼女はすっかり大人の仲間入りをした。


どんどん増えていく彼女の仕事は、オレ達の会う時間さえ奪う。今日は久しぶりに彼女が「早く終わったの」、と家に寄った。ソファで台詞を覚えていて、オレは横でソファに身を埋めてオレも久々にゆったりとグラスを傾けていた。


猫のアリーがナァ、と啼いて彼女の膝の上に飛び乗る。アリーは彼女がとてもお気に入りだ。二人同時に見つけるとなぜか飼い主のオレよりも先に挨拶にあがる。雄猫だからだろうか?彼女は「アリーも久しぶりね」と言って、彼女の柔らかな頬をアリーの後頭部に摺り寄せた。確かにアリーのさわり心地はとてもいいのだけれど・・・・。


アリーもごろごろと彼女の指を楽しんでいて、正直彼女のアリーへの素直な行動に嫉妬する。そのままアリーを膝の上で撫でてながら、台詞を覚えている。


アリーはオレの視線に気付いたのかどうなのか、すたっと彼女の膝から降りて、オレに擦り寄った。オレはその立ち回りのよさに苦笑して、撫でてやった。


「いいなぁ・・・・」

ぽつりと彼女がつぶやいた。

「何が?」
「アリーは・・・蓮の横へ行ったら無条件で撫でてもらえるもの。いつも一緒だし。」

オレは苦笑して、彼女を手招いた。

「なら、素直に横へ来れば?」
「いやっ・・・そういうわけじゃないんだけど・・・。猫だったら蓮と話せないし・・・。」

彼女らしい変な理由は無視して、アリーを下に降ろすと、オレが先に近寄った。

「猫だったら、これもできないね。」

そう言って彼女に軽くキスを落とす。照れた彼女は真っ赤になって逃げた。

「だからっ・・・誘ったわけじゃ・・・ないの。久しぶりに会えたから、ちょっと・・・その。」
「そうでも、そうじゃなくてもいいけどさ。お嬢様、どうする?オレと仲良くする?台本、完璧にする?」
「だ、台本!!!!」

どうしてこう、素直じゃないと言うか、慣れないというか。もう付き合ってかなりたつし、身体を合わせた事だって沢山ある。なのに本当に慣れない。その初々しさがまたオレを誘うって事、分かってる?



「・・・・じゃぁ背中・・・貸してあげようか?」
「ホント?背中・・・よりかかって・・・いい?」


そう言って今度は珍しく素直に、オレの背中に寄りかかって・・・本当に台本に集中し始めた。


まさか本当に台本に集中するとは思わなくて内心苦笑したのだが、完璧主義な彼女らしい、完全暗記を心がけているようだ。彼女のラブミー部での元相方の子はすぐに台本を暗記できる特技があるとかで、負けないように頑張るのだと、昔言っていた。


オレはしょうがなくまたアリーを撫でながらグラスに目を向けていた。
しばらくそうしていた彼女の重みが背中から消えて、オレの腰に腕を回した。
背中にその頬の感触がした。


「蓮・・・・。」
「どうした?台本、覚えられない?」
「・・・・今度の役ね、こうやって・・・背中に・・・相手の俳優の背中に・・・抱きつかなきゃいけないシーン・・・あるの。」

恋愛ドラマだから、そういうのがあっても・・・しょうがないだろう・・・けど・・・?

「そう・・・・。で、練習?」
「んーん・・・。そのシーンがたまらなくイヤ。やりたくない。役に入り込んでいる時はその人のこと、とても愛しいと思って・・・いるから、なおさらイヤ。」


イヤ、ちょっとまて。役に入り込んでいて相手をとても愛しいと思わなければいけないと思うところがイヤなら、オレだって突っ込みどころがあるだろうに・・なぜ、背中のシーンだけ?


「また・・・背中?何がそんなに君を、背中にこだわらせる?そろそろオレにも答えをくれてもいい頃だろう?」
「みんなが・・・・」
「?????」
「みんな私に背を向けたから。私が信じて追いかける背はいつも向こうを向いてしまうから。だからずっと・・・会った時から怒っても・・・でもずっと背を向けないでいてくれた、蓮のだけで・・・いいの。」



――――あぁ・・・・・



「分かった。ごめん、もういいから。」

それだけ伝えた。彼女はふるふると頭を振って、続けた。

「最初は・・・本当に蓮の演技に憧れたの。一緒に共演できるだけでその背中を追いかけられるだけでよかった。そのうちにね、優しい蓮に触れて・・・・どんどん好きになってその背中を自分のモノだけにしたくなった。蓮は私一人だけのものじゃないって必死に思い込むようになって・・・。」


さらにぎゅっと背中を強く抱きしめられて、オレは彼女の両手に触れた。
彼女は少し安心したようにオレの手を握った。


「君がオレに・・・・自ら仕事を辞めないでって言った時・・・・オレは本当に苦しかったよ。一生君の側にいられる権利と同時に・・・いい先輩として・・・・一生君を得られないのかって・・・・。君がオレのことを何とも思っていなかっただろう?まぁ・・・不破の事も・・・あったからね。」


「知ってた?蓮に「誘ってる?」って言われてキスされそうになった時、本当はしたかった・・・。でもそうしたら止まれなくなるから。だから逃げた。ずっと逃げてた。その背中がいつか私に背を向けてもこれ以上辛くならないようにって。だから、蓮が先に・・・私に手を差し伸べてくれた時本当に、もう死んでもいいと思うくらい嬉しかった。蓮は本当に私を大事にしてくれるから。でも今度はね、仕事は辞めないでしょ?蓮。ただ・・・・いつか私の元を去るかもしれないと思ったら・・・・・・付き合っていて・・・・すごく幸せなんだけど・・・・たまに確認したくなる。傍にいる事。だからね、今でもたまに、どうしても触りたくなる。だから・・・もう少し・・・このままでいさせて・・・。」



そう言って彼女はさらに強くオレに回す腕に力を込めた。オレはその腕は解かずに身体だけ少し反転させて、アリーを撫でたように彼女の背中も撫でてやった。


確かに彼女は人に対してどこか不安になることがある。人に絶対的信頼を置くことへの恐怖感がどこかにある・・・。だから彼女が本音を言うことは、いつも避けるのかもしれない。オレは彼女を愛しているし、だからそれを取ってあげなければならない義務がある。


「キョーコちゃん・・・もう少ししたら・・・結婚・・・しよう?」


「えっ・・・・。」
「オレの背中なら、君だけにあげるから・・・ね?仕事も君より先に辞めないし、オレの背中でいいなら、君にあげる。だから・・・もう不安にならないで・・・。」
「・・・・・・うれしい・・・・・。」
「・・・よかった・・・・・・君を一番愛してる・・・・・・。」


彼女の少し涙を浮かべた、本当に嬉しそうで幸せそうな顔が目に入って。


オレは彼女を引き寄せて、その晩、その幸せを一緒に分かち合うことにしたのだった。