積もったそれが戻る事はない。

だから。

オレはまだしばらくこの積もったそれの中でその身を横たえていたい。

優しく抱かれて・・・ゆるりとしていたあの時はもう、ない。


Hide&Seek 3 Flap Away


このコーヒー・・・・不味い。自販だからしょうがないか。
つか、おせーよ祥子さん。
このオレが局に一人で居たら、誰かファンに捕まるだろ・・・。

オレは見つからないように帽子を深々とかぶり、ソファに身を沈めた。
これからこの嫌な・・・雰囲気満点の局で歌番組に出演しなければならない。

ったく、なんだよ、このポスターと音楽。

流れるのはあのドラマの主題歌。壁一面に同じポスター。天井の吊りにもあのポスター。

鬱陶しい。

PVの撮影後しばらくアイツとは会わなかった。その間に、「オレのPV」を見たという監督がアイツをこのドラマに引き抜いたと聞いた。オレの元を去ってまだ1年も経たないうちに本当に局に出入りするどころかドラマまで出ていやがる。

最近そのドラマが放送されて、あの敦賀蓮の演技がいいのだと、全国の女が骨抜きなんだという。どーでもいいが、キョーコの役どころは最悪だな、オイ。すげー目・・・こぇーよ。あれがあの「キョーコ」かと思うと信じられん。ドラマを毎週見ているわけじゃないが、局のロビーでもCMでもダイジェスト版があちらこちらで流れているから嫌でも目にする。

まぁ・・・オレのPVに出た時の悪魔のようなアイツがよくて引き抜かれたんだから、しょうがないんだろうが。これはある意味、今度の仕事にも影響しそーだな。出てきてすぐに、キョーコのイメージがこの悪魔みたいな表情で固まったら、今度はそれを払拭するのは・・・大変だぞ。

PVを見たファンの反応は面白いほどに、壊れたアイツに集中してた。ポチリが可愛そうなくらい印象に残らなかったらしい。確かにあの目から流れ落ちる液体にオレもすこーしだけ固まったのは事実。あの目は苦手だ。オレのPVにこのドラマ。アイツ、悪魔の役しか来なくなるんじゃねーか・・・・?・・・・きゅららのCMが嘘のようだな。

最近アイツはどうもあの敦賀蓮とも親しいらしい。なぜ(オレも知らない)携帯の番号を教えあってる?入ったばかりの新人が、ちょっとCM取った位であの敦賀が声をかけるのか?

そういえば・・・キョーコはオレ以外の「芸能人」という、それそのもの・・・に興味なかったはず・・・。LMEには人が少ない・・・なんてことも、ウチの事務所と規模は張るんだからあるはずがない。女がいてもおかしくないだろう敦賀がなぜキョーコなんだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。社さんの負けですね。」
「あっ・・・・・・・あぁぁぁっ・・・うそぉぉっ。」
「そんな上の空でどうしたんです?」
「あぁっ・・、これは、蓮のせい・・・いや、将棋じゃないからだよっ、将棋で勝負やり直しっ。」

ロビーで祥子さんを待っていた耳におかしな声が入ってきた。
オレが座るロビーの、廊下を挟んだ反対側から聞こえた。

・・・・・・・・あの男じゃねーか・・・・・。
ってか、なんでキョーコもいるんだよ。しかも制服・・・?
あの変なピンクの服じゃねーじゃねーか・・・学校・・・・行っているのか?

大きな植物がいくつも並んでいるせいで向こう側がはっきりと見えるわけじゃない。
だがちょうど敦賀とキョーコが正面に見えた。

「どうしたんですかっ?社さん負けちゃったんですか?」

アイツの顔の横から、キョーコが何の気もなしに、ひょいと顔出せる・・・って事は、アイツと相当親しいはずなのだろう。ドラマに共演したからおいそれと、 TVに出たての新人がLMEの看板と言われる男の横に台本を読みながら一緒に・・・なんているはずがない。

「社さん、そんな子供みたいな言い訳・・・なしですよ。勝負は勝負。食事、おごってくださいね。」
「わ、分かったよ。そうだ、キョーコちゃんも一緒に・・・ね?」
「ほ、本当ですかぁ〜。」

なんだ、それ。なんでこんな局のロビーで他人の目も気にせず遊んでんだ?マジ、目障りだからどっか別のトコでやれっての。それとキョーコ・・・その顔・・・・そんな笑った顔、今までオレ以外の前でしたコトないだろうに・・・。

「蓮、じゃあ何食べたい?予約入れるから。」

そう切り出してアイツのマネージャーが席を立った。
オレは横目で向こう側の状況を見ていた。

「んー・・・・・最上さんの好きなので、いいよ。」
「えっ・・・?敦賀さんが勝負に勝たれたんですよね?いいです、敦賀さんの好きなので・・・・。」
「じゃぁ・・・食べ損ねた姿焼き?」
「いえ、あの。」
「蓮〜〜〜〜〜〜〜何にするの?何、姿焼きって。」
「ははっ、何でもないですよ。分かった、じゃぁ、ハンバーグの美味しいお店で。」
「ハンバーグ?そんなのでいいの?蓮。」
「いいですよ。ね?最上さん。」
「行きます!どこまでも着いていきます!!」

マネージャーは「じゃぁ予約してくるから」とその場を離れて電波の入る場所まで移動した。

つか、何で敦賀蓮がキョーコの好物を聞かないでも知ってるんだっつの・・・・。
ハンバーグ・・・はキョーコの一番好きなもの・・・・を知ってる敦賀は少なくとも一度はキョーコとハンバーグを食べた事があるか、その話をした事になる。

キョーコ・・・ってすぐに自分の事を話すほど、そんなに他人に気を許すヤツだったか・・・?



オレだけが知っていると思っていたキョーコのあれこれ。
キョーコも・・・・オレの好物も苦手も全部知ってる。


あり得ないほど嬉しそうなキョーコの顔、久々に見たな・・・・。


それとどうでもいいが・・・・あの顔、敦賀の微笑!!!
見るに耐えられん・・・・のに、つい状況が気になって見ちまうじゃねーかっ・・・・・。
てめぇ・・・ドラマでそんな顔したことあったか?適当な演技しやがって・・・・。


「蓮、店は近くにしておいたけどいいよね。それにしても先生遅いね、ちょっと部屋寄って先に声かけていこうよ。挨拶だけなんだしさ。」
「そうですね。じゃ、行きましょうか。」

こちらに気付かれないように、オレはさらに深々と帽子を押さえて、横目でその様子を確認していた。

立った敦賀はキョーコを後ろから促して廊下に出た。
アイツの気付かせない・・・何気ないエスコートにキョーコが「楽しみですね」と嬉しそうに言ってアイツを見上げた。アイツはまた微笑して「そうだね」と言った。
そうして行こう、とキョーコの背中を軽く押して、マネージャーを引き連れて、行ってしまった。


しばらく廊下からはアイツを見つけた女どものざわめきとため息が聞こえていた。



あぁ、疲れたな・・・・・・・・・。


オレは更にソファーに身を沈め、不味いコーヒーに口を付けて、更に嫌な気分になった。


「尚、ごめん、お待たせ。あら、どうしたの?」

祥子さんが・・・気付いたら目の前に立っていた。

「あぁ、何でも。」

「そう?怖い顔してたから。待たせてごめんね。途中で次のプロモの新しいプロデューサーに捉っちゃって・・・・聞いてくれる?今度「二人で食事にでも」ですって。嫌に決まってるじゃない・・・・・・やっぱり麻生さんに戻して欲しいわ。・・・尚?聞いてくれてる?」

「あぁ。ごめん。聞いてる。食事、誘われた時はオレに言えよな。・・・邪魔、するから。」

「うん。そうする・・・・。」

祥子さんを適当にあやして促して、オレは今日の仕事場に向かった。

皮肉にも、いつものあの悪魔の衣装に着替えた。


スタジオで、はらはらと羽が舞う。


結局俺たちは今までも・・・・今日も、少しすれ違っただけ。
ずっと横にいたはず・・・だったんだけど。


兄弟のように育った・・・ずっとオレの後ろについて回る。
春も夏も秋も冬もずっと一緒に・・・。
ずっと・・・・。
それが当たり前の日々・・・アイツがいてオレがいる。


「あんたが格好付けでよかったわ。」

そう言ったアイツの言葉が頭をよぎる。


オレは生きている限り、多分真実を偽り続けるだろう。
親にすら嫌いなものも偽って、マネージャーにも全てが好きだと見せかけて。


知られている、オレの嫌いなものは『敦賀 蓮』。
それだけ。

嗜好も思考も全てお互いが分かり合ってる相手なんてアイツしかいない。
いつかそれが全て言える、分かる他人など・・・・いるのだろうか?
それを許して、一緒にいられる相手など・・・・いるのだろうか?

天井から落ちる天使の羽が散って、オレの横で舞う。


オレの腕の中にいた無垢なそれ・・・・。
このオレの周りに散る羽がアイツが置いて行った心のようで。
この散った羽に埋もれて、息もできない位埋もれたら・・・少しは安らげるだろうか?


散った無垢でやわらかなそれは・・・・もう二度と元には戻らないのだろうか・・・・・。



この積もったやわらかい羽の中で、オレはまだ動けないまま・・・・。



「私、ショーちゃんがいれば、何も、いらない・・・ショーちゃんだけで・・・いいの・・・。」

























Special Thanks to sanaSEEDさま

読んでいただきました記念に差し上げました。 初めて作品をHPに飾って頂いた作品です。 いつも本当にありがとうございますvv