存在とは何なのだろうか?

オレはなぜここに『在る』?

存在感があるという意味、それがどういうモノか、オレは分からない。

そこに『在る』ということ。それを説明できる?

神が創ったものなのか、偶然なのか必然なのか。

当たり前のように「目の前にいる」こと。

それ自体が神がかり的な確率なのに。



Hide&Seek 2  自己忘却のParadox



彼女は演じることが好きなのだという。
確かに未緒を演じている時にはそれが「憑いて」いるかのように演じ切れていたし、「仕事」というよりも、「自分を創る過程」なのだと言う。

一たび役に入ればいとも簡単にその役を掴む。それは本当に演技を始めたばかりの子だとは思えないほどで、役作りに悩む事はあっても、少しその役についての会話を続ければ、たちどころに掴んでしまう。それは彼女の天性かもしれない。もともと努力好きな彼女だけに、台詞もきっちり頭に入れるし、共演者の評判もすこぶる良い。

彼女は「自分を創る」前は本当に不破のためだけに生きてきたのだろう。
自分の為に演技を続けると言った彼女に、ひどく安心を覚えた事を思い出していた。

「復讐」――最初に聞いた理由。

それは、同じ俳優としては許されるべきことではないと思っていたから。もし純粋に女優になりたい者が聞いたら、蹴落とすべき敵以外の何ものでもないだろう。

最初からそんな理由でいがみ合っていたから、オレは彼女の本当の理由を聞くまでに時間がかかった。でもなぜ、オレは許されるべき相手ではない、動機が気に入らないと思っていたにも拘らず、こうも彼女が気になったのだろうか。

彼女のひた向きなプロ根性だろうか?

それともオレとあの子の石の繋がりか?


じゃあもし、石の繋がりがなく、お互い一個人として今まで接していたら、オレはどうしていただろう・・・・・?

好きになったのか?嫌いなままだったか?一共演者だったか?

そんな命題をオレは自覚してから延々と繰り返している。
・・・・答えは出ない。

あの石の繋がりが、今でもオレを過去に縛るし、実際、彼女に言い寄る他の男よりも「優越感」を感じているとは・・・・思う。


不破は多分・・・オレよりもさらにその「優越感」があるのだろう・・・・・。


「復讐」と「自己創造」の共存。

オレはその心の中を、少し覗きたい気分でいた。


「つ、敦賀さん・・・・(・0・)////////?」
「蓮・・・・・・っ(@0@)//////////。」
「な、何?」

ぼんやりと頭で考え事をしていて、急に呼ばれて我に返った。

「蓮・・・・お前っ・・・・その。」
「あのぅ・・・どうかされました?」

わたわたした二人が、同じ種類の人間に見えて可笑しかった。

「どうもしないよ?何で?」
「蓮・・・・キョーコちゃんを・・・そんな顔で・・・・見つめたまま固まるなよ・・・・こっちが恥ずかしいから。」

なぜ社さんがそんなに慌てるんだ?

「あぁ・・・・考え事をしてたんだ。ごめんね?最上さん。・・・・美味しそうに食べてるから、良かったなと思って・・・・見てたんだよ。」

考え事をするとつい相手を凝視するクセがあるの、忘れてた。

「そ、そうですか?もっと何か深刻な・・・考え事のように思えたので。いや、あの、いいんですけどね。悩んでいらしても。」

「聞いてくれるの?」

そう言ったら、彼女は少し固まった。
どうも最近この子はよく・・・固まるなと思う。

「私が・・・・聞けるような事なら・・・って敦賀さんでも悩むこと、あるんですね。」
「蓮、なんかあったのか?」

オレは持っていたフォークとナイフを置いて、水を口にした。

「ねぇ、最上さん。最上さんは前オレに、演じる事は「自分を創ること」だって言ったでしょ?どう?進んでる?」
「敦賀さんも・・・ご自分を創られてるんですか?」

彼女は面食らったように、きょとんとした顔でオレを見上げた。

「まぁ・・・仕事でもあるし、好きなことだからね。君ほどでは無いにしても、そういう事はあると思うよ。」
「へぇ・・・そうなんですか。私は・・・そうですね。少しずつですけど、新しい役をもらえる度に違う人、演じられて・・・うん、いい感じに進んでいるとは・・・思います。まだまだ敦賀さんのように演じきる事はできてないんですけどね。役作りも敦賀さんに相談しちゃったりするし。まだまだ修行中です。」

苦笑して彼女もフォークとナイフを置いた。

「演じている時と、それが終わった後は・・・とても楽しそうだな、君は。」
「えぇ、楽しいですよ?自分を忘れられて。その人物になり切るって、すごい充実感ですよね。敦賀さん・・・は楽しくないんですか?」
「楽しいよ。感情移入する事だってある。だけど君ほどじゃ、ないだろうねぇ・・・・。」

くすくす笑うと、彼女は憤慨したように口を尖らせた。

「どうせ・・・今でも憑いてますよ、未緒。素で未緒って言われてるんですから。」

「ははっ。君が怒ると確かに未緒だね。でも実際あの未緒は良かったよ。オレを憎憎しげに見上げて、本当に殺されるかと思ったしね。未緒に感情移入して、嘉月のオレ、殺したく・・・なった?」

「へっ?なりませんよ。だって、殺しませんもん、実際。結末を知ってるし・・・そんな。」
「そう?」

またオレはくすくす笑って、食事を続けた。
彼女も社さんもそのあと黙ったまま、いぶかしげにオレを見つめていた。

やっぱり彼女は憑いているときに、自分を忘れているんだろう・・・・。
その時「復讐」の事は頭にはない。
役者として本当に羨ましい。


自分の事をすっかり忘れているのに・・・・自分の心からの充実感を、幸せを、得ている。



オレはこういう場面だからこう、この性格だからこう、と頭の片隅に自分の声が聞こえる。
どこか冷静に自分を自己評価している。

感情移入など、あり得なかった・・・・・・。

それが嘉月をやって少しは崩れたかもしれない。
百瀬さんの演じる美月をこの子に置き換えて見て・・・感情移入した。
だから未緒がオレを憎憎しげに見た時に、素のオレが何か別の気持ちを持ったことも確かで。


自分を忘れて・・・・一瞬でいいから何もかも忘れてみたい。


最近の彼女を見るたびにそう思う。
この子が目の前にいる限り、オレは自分を捨てられなくなる。
言うつもりすらないのに、勝手に自分の気持ちは膨らむばかりで。

一度しかない人生を、復讐の為に使うべきではないとは思う。
でも、オレは彼女にそれ以上を・・・今は見せてあげられないから。


自分を全て忘れて・・・同時に心の奥の、底なき深みを取り除いたら。
オレも・・・一瞬の永遠が、幸せが・・・・・見られるだろうか?


この子と一緒にいられる今この愛しい一瞬が・・・。
永遠に刻み込まれて・・・・・留まるだろうか?