Hide&Seek 10   Black or White




世界中の享楽が集まる街というらしいラスベガスに居る。人の持つ気は真っ赤に燃え、そして、どすぐろくくすんだ色を放つ人間が多くて居心地がいい…ただそれだけで、今はここにいる。生活には困らない。

「あいつが来たぜ…」そういう英単語を覚えた。ニッとその言葉を発した人間に、にっこりと笑みを返す。すると、彼らは動かなくなる。そういう人間は餌にならない。彼らは常連らしい。大概の人間があちらの台へ動きこちらの台へ動き、小金で遊ぶ。何となくカジノをやった気になって、ショーを見て帰るようだ…。

一つの台に座った。ものすごく、どす黒い色の気を持つアメリカ人。今日の相手は彼に決めた。彼に負けず劣らず、台全体が真っ黒で居心地が良さそうだった。

ディーラーと目が合う。ニッ…と笑うと、ディーラーの動きが少々鈍くなる。さすがプロ中のプロだから、ここの従業員の気は鋼鉄のように強い。ディーラーもオレの顔を知っている。でも関係ない。手持ちカードが2枚配られる。カジノ用コインを数枚置いた。テーブルの上のカードと照らし合わせても大した役がない。ちらり、と横のカモがオレの顔を見た。目が合ったから笑った。彼もにや・・・と口角を半分上げた汚い笑顔を見せた。

「レイズ。」

さらに賭け金を上乗せする。にこり、ともう一度隣の男に笑みを見せたら、彼も笑った。ごく単純な男なのだろう…どす黒いオーラは少し薄まった。先程のラウンドよりも機嫌が良くなったらしい。手はいいのだろう。オレは一枚変える。勝てないと見込んだのか途中一人降りる。もう一人降りた。残るはオレを含めて3人。

「レイズ」

さらに釣上げる。隣の男は目を大きくむいた。一瞬悩んで、「Bet.」と言い、コインを置く。最後の男は「Fold.」と両手を上げて大きな溜息をついて言い、残るはオレと彼の二人になった。「どうするんだ?」といいたげな視線を、隣の男がよこした。

「レイズ。」

彼はじっとオレの顔を見て、「Bet…」と口元をさらに右に持ち上げてそう言った。

「Show down.」

無機質な声がして、隣の男は「Four of a kind.(フォーカード)」と言って札を置いた。

「残念、ストレートフラッシュ・・・全部貰う。」

日本語でそう言って札を置くと、彼は驚いたように目をむいた。「Unbelievable!」その英単語も覚えた。彼がそう言ったって仕方ない。ディーラーがそう配るんだから。確立上七万分の一だろうと、ロイヤルフラッシュだってここで何度か出した。そう配ってくれるんだから仕方ない。おかげでオレはここにいる限り金には困らない。別に遊ぶのはカードでなくてもいい。相性の良さそうな機械を選べば、コインゲームだって当たる。要は相性の問題だろう。座ってくれとばかりに目に見えているのだから、仕方ない。


次のラウンドが始まったが、大した手ではなかった。それでも最初のストレートが効いたのか、最終的には全員が降りてしまい心理戦で勝った。ポーカーフェイスが全く出来ない男がポーカーをやる滑稽さを味わいつつ、数回続けて勝った。オレのチップは徐々に増え、隣の男の気は徐々にどす黒さを増す。何と居心地がいいのか…。隣の男はオレの手を読もうと必死で、ようやく下手なポーカーフェイスを保つようになった。最後、彼はもう一度自信満々にカードを置いた。

「おや・・・ロイヤルフラッシュみたいだよ。」

あんぐりと口を開けた隣の男は、真っ赤になって怒り出した。たまに居る。自分の見ている「現実」が信じられなくて、逆切れされる。仕方ない。それが六十五万分の一だろうとなんだろうと、そう、ディーラーが配ってくれるんだから・・・。


隣の男に掴み上げられたが、立ち上がるとオレの方が10センチほど背が高く、逆にオレが冷たく見下ろして、「離せ」と日本語で言った。オレとその男の間に、傍にいたミロクが割って入り、彼がミロク越しに何か汚い英単語を俺に罵っている間に、ガタイのいいセキュリティポリスが、彼を掴みだした。

「Sorry , have a good time.」

物凄く無愛想な物言いの、その英単語も聞き取れるようになった。ただし、オレの身体と、プレイしていたテーブルを隅々まで検査したあとで。

「レイノ、お前やりすぎだろう。」
「オレは何もしてない。他の人間が弱いのと、カードがそう来るんだからしかたないだろう。オレは今日も清く正しく働いた。あの警備員の汚い手が気持ち悪かった・・・。さっさと帰ってシャワー浴びさせろ。」
「ストレートの次に立て続けにロイヤル・・・はさすがにまずいだろう。目つけられるぜ。全世界のカジノが立ち入り禁止になる。」
「別にオレは悪い事してない。いいだろ。どうせ暇つぶしだし・・・。オレぐらい稼ぐプロなんて沢山居る。」


金が儲かる暇つぶし。そんな毎日に飽きた頃、毎回日本へ帰る。また暇つぶししたければあそこへ行けばいい。日本には公営のカジノなどないから、暇つぶしは、ミロクが提案する事をする。今は何故か歌を歌っている。いつものカッコで歌でも歌えば、生活できるらしい。




今ロビーで、マネージャーが帰ってくるのを待ちながらする暇つぶし。一番人間観察が面白い。この世界の人間のオーラは様々。しかし弱肉強食。弱者の弱りきった気、それがいい。今は、隣のスペースで、煩くはしゃいで媚を使い、今後の仕事でも取ろうとしているのだろう女の強く黒い気と、偉そうな口ぶりと、打算をしようとするプロデューサーの真っ黒い気が大変心地いい。


「おや・・・・チェック・・・ん?メイトか?・・・・社さんの負けですね。」
「あっ・・・・・・・あぁぁぁっ・・・うそぉぉっ。」
「そんな上の空でどうしたんです?」
「あぁっ・・、これは、蓮のせい・・・いや、将棋じゃないからだよっ、将棋で勝負やり直しっ。」


廊下を挟んだ隣のロビーでも暇つぶしをしているらしい声が聞こえた。チェスをして暇をつぶしているんだろう…。負けた男の言い訳が何とも虚しく聞こえる。勝った男と負けた男がどんなオーラなのか見ようと目を向けると、そこに居たのはキョーコ。敦賀蓮と一緒に居るキョーコだった。

「・・・・レイノ。」
「何?」
「今はダメだ。次の仕事が控えてる。」
「わかってるよ・・・。」

ミロクはオレの身体を押さえて首を振った。オレはその手をどけて、足を組みなおす。キョーコは、敦賀蓮の顔の横からひょい、とそのチェス盤を覗き込んでいた。敦賀蓮がいるからなのか、オレの視線と気配に全く気づかないらしい。敦賀蓮の気が、キョーコを覆っているからか。

今、あの敦賀蓮という男の気は、金色に満ちて見える。キングのゴールド。何をやらしても負けないだろう。確かに今、俳優界のキングらしい。抱かれたい男ランキングとかいうヤツで不破よりも上だったと、いつだかメンバーの誰かが笑いながらオレに下らない情報を与えてくれた時、鬱陶しく聞いていたのを思い出した。


「どうしたんですかっ?社さん負けちゃったんですか?」


キョーコが敦賀蓮の耳元で無邪気にそう言うと、敦賀蓮を覆う金色の気は、揺れた。少し翳ったか・・・・?その部分だけはオレに近い属性に見えた。


「社さん、そんな子供みたいな言い訳・・・なしですよ。勝負は勝負。さぁ、食事。おごってくださいね。」
「わ、分かったよ。そうだ、キョーコちゃんも一緒に・・・ね?」
「ほ、本当ですかぁ〜。」
「蓮、じゃあ何食べたい?予約入れるから。」
「んー・・・・・最上さんの好きなので、いいよ。」
「えっ・・・?敦賀さんが勝負に勝たれたんですよね?いいです、敦賀さんの好きなので・・・・。」
「じゃぁ・・・食べ損ねた姿焼き?」
「いえ、あの。」
「蓮〜〜〜〜〜〜〜何にするの?何、姿焼きって。」
「ははっ、何でもないですよ。分かった、じゃぁ、ハンバーグの美味しいお店で。」
「ハンバーグ?そんなのでいいの?蓮。」
「いいですよ。ね?最上さん。」
「行きます!どこまでも着いていきます!!」
「じゃぁ予約してくるから、ちょっと待ってて。」


あの負けた男が居なくなると、キョーコは敦賀蓮に、「チェス・・・片付けますね。」そう言って、甲斐甲斐しくチェス盤を端まで動かした。「ありがとう」という敦賀蓮に、笑顔で、「私まで便乗させてもらってすみません。」と言った。


「いや・・・社さんが誘ったんだから。良かったね。」
「はいっ。」
「くすくす・・・嬉しそうだね・・・勝った甲斐が、あったかな。」
「えへへ・・・ハンバーグ、ハンバーグっ。」


ゴールドの気を持つ敦賀蓮・・・今カジノに連れて行ったら、多分ストレートは固いだろうと、ふっ、と笑いが漏れた。そして、あの負けた男の気は、銀色・・・。だが、何か不思議な色だな・・・。キョーコの周りにはおかしな気を持つ人間が多い・・・・。


「蓮、店は近くにしておいたけどいいよね。それにしても先生遅いね、ちょっと部屋寄って先に声かけていこうよ。挨拶だけなんだしさ。」
「そうですね。じゃ、行きましょうか。」
「楽しみですね!」
「ん・・・そうだね。」


オレには見せた事がない女らしい最大の笑顔で立ち上がったキョーコの気は、綺麗でくすみのない白色だった。プラチナホワイト。オレの欲しい、白。手に入れて触れたらさぞかし心地いいだろう。それが、キョーコの背中を押した敦賀蓮のゴールドと混じる。二人を取り巻く気が、混じり合い、異常に眩しい・・・。


「見てられん。目が腐る。」
「は?」

どすぐろい感情というのは、こういう事を言うのだろうか。面白さだけで生きるオレの気は、今最大に黒くなっているに違いない。多分、今オレがカジノに行っても、敦賀蓮に同等か、再び、ロイヤルフラッシュは固いだろう。


「尚、ごめん、お待たせ。あら、どうしたの?」

・・・・・・・・不破?


不破らしい男が、離れた場所にいたらしい。
その男は帽子を被っていたから、不破だと気づかなかった。

「レイノ、不破がいるみたいだぜ。」
「・・・・・・・・。」
「そっちもダメだ。理由はさっきと同じ。」
「こんな所でヤツの前なんかに行くか。」


そんな事より・・・・。
アイツがあそこに居て、キョーコの声が届かなかったはずがない。
見ていたか・・・・?


「あぁ、何でも。」
「そう?怖い顔してたから。待たせてごめんね。途中で次のプロモの新しいプロデューサーに捉っちゃって・・・・聞いてくれる?今度「二人で食事にでも」ですって。嫌に決まってるじゃない・・・・・・やっぱり麻生さんに戻して欲しいわ。・・・尚?聞いてくれてる?」
「あぁ。ごめん。聞いてる。食事、誘われた時はオレに言えよな。・・・邪魔、するから。」
「うん。そうする・・・・。」


不機嫌そうに返事をする適当な声が聞こえる。
ヤツは隣を見ていたに違いない・・・。
キョーコの妙に嬉しそうな顔と声をな・・・・。


マネージャーらしき女を連れて、深々と帽子を被って不破はロビーを反対方向へ出て行った。

「くっ・・・くっ・・・・。」
「レイノ?」
「しばらく・・・暇つぶし、には困らなさそうだな・・・。」
「それは良かった・・・今からカジノにでも行きたいとか言い出したらどうしようかと思った。」
「じゃあ今日の仕事が終わったら行こう。今なら負ける気がしない。ちなみに今日のオレは黒。完璧な黒だよ。」
「調子、いいんだな。ならいい。」
「何が。」
「いや?お前が調子悪いとバンドが機能しないからな。」
「あ、そ。」


「レイノ、ミロク。お待たせ。他の三人はもう控え室入ってる。」


マネージャーが息を切らして来た。
真っ赤な興奮した気。何かあったのか。


「は?オレらに連絡無しになんでいるんだ?なぁ?レイノ。」
「いや・・・控え室より面白かったからいい。」
「・・・・?」


立ち上がったオレは、片付けてあったチェスの黒いキングの駒をつまんだ。

「チェック、メイト・・・・・・・・ね。」


敦賀蓮のあの金色の気に隠れた黒い部分をさらに黒く変えてみたい・・・・。一体どうなるだろう・・・・そんな面白い感覚にとらわれた。そうしたらキョーコはあいつから離れるか・・・・?


「く・・・・面白い・・・・。」
「レイノ、絶好調なんだな・・・良かったよ・・・。」
「レイノ、ミロク、そろそろ行こう。」
「了解。レイノ、行こう。」


あのキングのゴールドと、オレのブラック。あのゴールドを抑えてブラックに変えて、クイーンのプラチナホワイトをチェックメイトするのは、それは愉しいだろう。


「く・・・・くく・・・・。白黒、つけようじゃないか・・・・。」













2006.11.29

久しぶりのHide&Seek。レイノ君。ブラックですな。どんどん思考がブラックになってくれます。でも書けてよかった・・・vうーん。モー子さんやマリアちゃんより先に出来てしまった・・・。それもこれも、レイノ絵が好きだからです、性格は置いておくとしてね(笑)。だって最初蓮の兄弟かと勘違いしたんだから好きな部類の顔なんでしょう(^^;。