【Daydream 5 -I am ・・・・・.-】



敦賀蓮は、車で学校まで送ってくれた。そして、自分の携帯の番号とメールアドレスを控えると渡してくれた。私も自分の物を控えて渡すと、「今度例の仕事しているお店、教えてね。教えてくれなければ土屋さんに聞くよ?」と言って笑っていた。

敦賀蓮の目の前で「仕事」をするなんて、正直な所何を言われるか分かったものではない。「こんな程度で仕事?」と厭味を言うのに決まっている…けれど。今度からピアノを教えてもらうのだから、私の実力なんていやでもばれる。お店がばれるのも時間の問題。

部屋に帰ると、モー子さんがにやり、と笑った。

「あんた・・・敦賀蓮の「恋人」なの?」
「ち、ちがうっ。」
「この映像あんたでしょ?」

指差したTVの奥には、昨日のパーティ会場の映像・・・・・。
ワイドショーの司会者の解説つきで、私が敦賀蓮の恋人だと繰り返す。
そして、不破尚に腕を引っ張られて出て行く私の姿も映り、三角関係か?と取りざたされていた。

「こ、これはっ、ラブミー部のお仕事っ!!!本当はモー子さんに話が行くはずだったんだからっ。」

「知ってるわよ。敦賀さんが何か次の仕事をくれるって言うんで待っていたのに、時間になっても来なかったからすっぽかされたと思ったの。だけどあんたが敦賀さんと話していたと誰かが噂してたし・・・・。あんた一応名前は「キョーコ」よね?だから敦賀蓮が探している「キョーコ」はあんたかと思ったの。それで・・・・あんたは初の朝帰り。さ、白状しなさい。あんたが「大嫌い」だと言っていた敦賀蓮となんで「朝帰り」なの?それとも「不破尚」と朝帰り?」

モー子さんに敦賀蓮から貰ったCDを渡して、敦賀さんと、と一言だけ言った。

「へぇ〜・・・「大嫌い」な敦賀蓮とね・・・・。まさか、あんた私に「嫌い」なんて言っておいて実は「好き」だったの?それからこのCD・・・まだ日本じゃ売ってないの。発売日は今月末だもの・・・。本当に敦賀蓮と一緒だったのねぇ・・・。」

モー子さんはまたにやりと笑って、私を半分疑った眼差しで見た。私は、違う、とまた反論して、昨日の一連の事を話した。ぶつかったこと、お仕事だと言う事、ショータローの事、そして、ホテルでの事・・・・。

「でもさ、敦賀蓮はあんたのこと気に入ったのねぇ。同じ「キョーコ」だからかしら?」
「面白いんだって。あの人の肩書きを気にしないのが。」

「まぁ・・・確かにこの業界に生きていて歳も近い上にコンクール優勝者よ?正面きって「あなたが大嫌い」なんて言うのなんてあんたぐらいじゃない?まぁ音を聞いた事が無かったんだから仕方ないにしても、ね。でもあんたが聞いても音、良かったんでしょ?いいわね・・・凱旋公演今のトコ未定じゃない・・・・。彼の生演奏をタダで聞けたのよ?私が聞けるはずだったのに・・・・。こんなTVの断片映像じゃ満足できないわね。」

「モー子さん・・・も、敦賀さんの事、好きなの?」
「音楽家としてね。間違っても周りのように「顔」が好きなんじゃないから安心して。」

「ふふっ。モー子さんらしい。そういえば敦賀さんてね、モー子さんと同じぐらい早く譜面が覚えられるの。モー子さん以外で初めて見てびっくりしちゃった。」
「ふぅんそう・・・・。あんた・・・・敦賀さんの事、嫌いじゃなくなったのね。」
「へ?」
「敦賀蓮の話をするときの顔が、怖くなくなったわ・・・・。」

「そ、それは勝手な思い込みしていたのは悪かったわよ…音楽家としては尊敬するけど。でもね、あの人、人としては冷たいの。でもね、私が泣くと優しくて・・・・。」

「で、朝帰り、ね。ま、あんたが敦賀さんと付き合おうが不破尚と付き合おうが、どっちでもいいけど。TVで言うように二股だけはやめなさいよね。それじゃなくてもあんたこの学校で「不破尚」の名前で損しているんだから。これに敦賀蓮の名前が乗ったら…大変ね。」

「二股なんて。私はショータローだけでいいの。だけど・・・・敦賀さんのお友達・・・・これからやらなきゃいけないの。」

そう言うと、モー子さんは、はぁぁぁと、ため息をついた。

「あんたも不憫ねぇ・・・・私すっぽかされて良かったわ。」

それだけ言っていた。


まだまだ続くTVでの敦賀蓮情報。彼の探していた恋人の「キョーコちゃん」について、漢字は「京子」でピアニスト、あのネックレスを出したのは会えた証拠、と・・・・敦賀蓮が決めた勝手な設定を告げていた。

モー子さんは騙されているわねぇ・・・・とぷぷっと笑って言っていた。

「そういえばこの間のニュースで言ってたけど。本物の「キョーコちゃん」は、会ったとき京都に住んでいて「キョーコちゃん」って呼んでいたんだって。泣いてばかりいたから、別れる時にお守りを渡したんだそうよ。でね、例の優勝した国際コンクールでいつか優勝したらまた会いに来ると・・・・約束したんだって。優勝したから探しているのね。まぁ気の長い約束だこと。あんたも敦賀蓮から聞いた?」


・・・・・・・・・・??????

「え?」
「え?って。「キョーコちゃん」。」
「敦賀蓮があげたお守りって・・・・何?」
「さぁ・・・TVではコレぐらいの大きさの、日に透かすと色が変わる青い石って言っていたけど。」

モー子さんは親指と人差し指で円を作った。

・・・・・・・・・・・・・。

え・・・・・?????

――ど、どこかで聞いた事がある話・・・・・。


「そ、それ以外の情報は???」
「会った時にはね、名前を「コーン」と・・・・名乗っていたらしいけど。なんでそんな名前にしたのかまでは言ってなかったわ。どうしたのあんた、やっぱり敦賀さんに恋でもしたの?」


かくかく、と足が震えて、その場にへたり込んだ。


――探している「キョーコちゃん」は・・・・私だ・・・・・。


私はまた涙が止まらなくなってしまった。


「どっ、どーしたのよっ!!!本当に敦賀さんを好きになったの?あんた、「キョーコちゃん」の話、敦賀蓮から聞いていたんじゃないの?」

モー子さんはぼろぼろまた泣いてしまった私を気遣って、慰めてくれた。


――会いたかったの、会いたかったの。


どれだけ、私があのお守りに、あの思い出に救われてきたか知れない・・・・。
会いたかった。私だと・・・・言いたい。

けれど、私が「好き」なのは、アイツ。
敦賀さんは「キョーコちゃん」に「本気」・・・・・。

コーンとの約束を忘れた日は無い。毎年のコンクールの優勝者の名前を、入賞者の名前をチェックしなかった年は無い。今年も「コーン」はいなかったと、がっかりした。


――言えない。


敦賀さんには悪いけれど・・・。私が敦賀さんに私が「キョーコ」だと言ったらがっかりするだろう・・・・。あの頃の純粋培養な私では無いし、彼もあの頃のコーンではなかった。もう15年近く年が経てば仕方が無い事・・・・。私は知れただけ、幸せ。コーンは約束を守ってくれた。だから、私もコーンとショータローとの約束を守らなければいけない。いつか敦賀さんに私だと名乗る日が来るとしたら、約束を果たした日・・・・。


次に敦賀さんに会った時、普通でいられるように今から「暗示」をかけ続けなければ・・・・きっと「コーン」、と懐かしい名前で呼びかけてしまいそう・・・・。

大好きだったコーン。妖精のように綺麗で優しくて、天使の声をしたコーン・・・・。

たくさんの優しい思い出が脳裏に溢れた。敦賀さんが泣いた私に優しかったのは、建前ではなく彼の本当の姿かもしれない・・・・。泣いた私に優しかった敦賀さんと、昔泣いた私に優しかったコーンの姿が重なって、それだけは変わっていないと・・・・また涙が止まらなかった。


「も〜〜〜〜〜どうしたのよ〜〜〜〜〜!!!!わ、悪かったわよ。あんたがそんな一日で男に落ちるなんて思わなかったからっ。しかも大嫌いって言っていたから・・・。」
「だ、大嫌いっ・・・・でもっ・・・・話に感動しただけっ・・・・。」

モー子さんにはこの「お守り」を見せた事が無い。泣いてしまった今、コレを出して涙を止める訳に行かない。

――モー子さんにも、いつか、話すから。
――今はゴメンね。

「もう、平気。ゴメンね、モー子さん。」

泣き笑って、無理やり涙を止めた。



コーンはやっぱりすごいね、とその日の夜、お守りに心の中で告げた。
約束を果たしたコーン。果たせない私。
もし私が先に果たしたら、「私も」会いに行くと「約束」した。
私を待っている敦賀蓮を思ったら、あまりに申し訳なくて、実力不足が情けなくて、またベッドの中で、じわりと涙が浮かんだ。











   

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2006.02.26