【Daydream 5.5 -Sleeping Beauty Op.66《眠り姫》- 】



会ってからたった数時間でホテルに連れて帰り、彼女とベッドを共にした・・・と言うには少々語弊があるものの、彼女がオレの横で寝て、オレも眠った。誰かと共に眠る、という経験自体、物心ついてから初めてだった。いつもは必ず帰していたのに…。泣いた彼女は帰せなかった。「そういう意味」での「気にいった子」では無かったからなのかは、分からない。ただ、あの状態で帰したくなかった。

いくら「気に入った」子でも・・・・初めて会ってから数時間、は無かったと思う。「気に入った」訳でもなく、自分のした事で大粒の涙を見せた彼女を、ただ泣いている彼女をほって置けなくて抱きとめた。自分のせいで彼女が傷ついたと、半分自己擁護のためとはいえ、抱えてあげなければと、とっさに思った。大泣きするその様子を見ていたら、帰したくなくなった。

「抱えていてあげるから、眠って」と、オレの勝手な言い分に、彼女は先程のように反論はしなかった。そっと抱えると、再びオレの背中に腕を回して、そっと身体をオレの胸に預けた。そして「おやすみなさい」と言ってすぐに、また静かに涙が伝った。

彼女はしばらくして落ち着いたのか疲れたのか、うとうと・・・とオレの腕の中で寝息をたて始めた。

それを見た瞬間。「気に入らない」男がいるか?とオレでも思うぐらいに、無防備でその安心しきった寝顔に正直なところ「参った」。自分の腕の中で小さく寝息をたてる彼女を見ていたら、なぜか自分が癒されていた事に気付いた。

撫でている背中はとても小さくて、それなのにオレの腕の中で、身体中ありったけの大きな声で隠しもせずぼろぼろ大きな涙を零した彼女。そしてオレを罵りながら、それにも拘らずオレの腕の中で背中に腕を回してがっちり抱きつき、大泣きした彼女。素直で隠さないその感情に正直羨ましさがこみ上げた。だからオレを嫌いだと言うのが本当の彼女なら、オレの腕の中で安心しきって、子供のように規則正しく寝息をたてている彼女も、本当の彼女なのかもしれないと、思わせた。そして思わず腰に腕を回して、引き寄せていた。

可愛い、と思った。

他の男のために泣いているのに…なぜか可愛かった。他の男の為にこんなに泣く彼女が辛くて、全てを割り切ってここまできた自分を思うと、ここまで深く思ってもらえる不破を羨ましく思った。

どうもオレは彼女を気に入ったらしい。

どういう気に入り方なのかは分からないけれど、もう少しこのままで、と思って抱きとめ続けた。オレを大嫌いだと正面から言うこの子も、こうしてオレの腕の中で大泣きする彼女も、彼女。素直な感情のまま生きている彼女は、オレとは全く逆の人間で、正直面白くて羨ましいと思う。そして、この子が不破のために流した涙が、羨ましかった。オレはコレだけ泣けるような恋などした事は無い。いつか会いたかった「キョーコちゃん」に会えた時でも、多分「久しぶりだね」で終わる気がする。

割り切ってしまう。

割り切る、大人のフリをするクセが直らない。どこか少し引いて冷静な自分でいないと気がすまないのか、飲み込まれない為の自衛手段なのか・・・。彼女ほどのめりこむ恋愛を、彼女としてみたらきっと楽しいだろうなと、ふと思って、やっぱりオレは彼女の事を気に入ったらしい、と再自覚した。

彼女が一言「すき」と寝言を言った。
不破の夢を見ているんだろう・・・。
夢の中で彼女は、不破に謝罪をしてもう一度「すき」と告げ、そして、オレのことを「本当は大嫌いなの」、と告げているに違いない。

彼女の夢の中で二人はうまく行っただろうか?

彼女を再び抱きとめ直すと、彼女は嬉しそうに笑った。オレは不破に置き換えられているらしい。夢の中で、彼女と不破はこうして抱き合っているのだろうか?彼女は今、不破と幸せな「愛の夢」を見ているだろうか。

「キョーコちゃん・・・・」

彼女を「キョーコちゃん」に見立てて呼びかけてみたけれど。オレの心は動かなかった。
オレも彼女をずっと「恋人役」にしていたら、そんな夢が見られるだろうか?

彼女と不破を、とても羨ましく思った。











  


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2006.02.27