Daydream 21 −12 Etudes op.10-3 E-dur "Chanson de l'adieu"《別れの曲》−




「・・・・・泣きやむ歌は歌わなくていいですから・・・少しだけ泣かせてください・・・・。」
「・・・・うん・・・・。」


我慢しても小さく声が漏れる。
抱き寄せて、何度も背中を撫でてくれる。
いつか落ち着いたとき、「音」がした。



――とくり、とくり、とくり・・・・・・・。



この世で一番の、至高の音。
この世で一番いい音は、とても優しく、温かい。
耳の奥に響く、敦賀さんの腕の中の、生きている、音。
大好きだよ、と繰り返す、十五年前と変わらない、正確な、リズム。


「・・・・ふぇ・・・・。」
「おやどうした・・・まだ落ち着かない?」
「・・・・・・・・ずずっ・・・。」
「あーあ。ウサギ目だ。」


敦賀さんが背中を撫でてくれて、そっと笑う。
あたたかい。安心する、腕の中。
十五年前も、とても安心した、腕の中。


*******


――教会で、コーンが聞かせてくれた歌を聴いた。


幸せだった頃を思い出して、どうしようもなく涙が出た。
あの頃はとても幸せだった。
ショータローがいて、コーンがいて、ショータローと名づけたピアノがあった。
毎日が楽しかった。

今は、敦賀さんがいて、先生がいて、コーンと名づけたピアノがあって・・・・ショータローがいて・・・・、レオさんがいて、土屋さん夫婦がいて・・・・。


やっぱり、今も、幸せね・・・・・。


敦賀さんと一緒にいられるのはあと数日。遠足前のようなわくわく感は、いつの間にか敦賀さんの新しい公演を見るわくわくに変わり、それも全て終わり、一緒にいるのはあと数日だと、それに気づいたとき、どうして敦賀さんが最近今まで以上に傍にいて、夜な夜な私を甘えさせてくれたのかを、理解した。



――「今度帰ってきたあとは・・・長いよ・・・」



少なく見積もっても、一年は会えないに違いない。
もう、あと数日でしばらくの間、またお別れしなくてはいけない。
・・・・・・寂しい・・・・・。
それは、とても静かに、心に降ってきた。


一年敦賀さんと会えないかもしれない。そう思ったら、不意に寂しくて、教会で不謹慎にも敦賀さんに寄りそって、その手を確かめた。そっと握り返してくれた敦賀さんは、にこり、と笑った。そのあとで響いた歌は、コーンの歌。とても大事な、歌。寝る前に口ずさみ、学校で一人の時に口ずさみ、寂しいときに口ずさんだ。大事な石と一緒に・・・。


小さな頃の思い出が溢れ出し、ショータローと、コーンと、敦賀さんと、私の全てが倒錯して、気づいたら涙が溢れた。光が射し込むステンドグラスの赤・青・黄色が何重にも重なり、まるで万華鏡の中にいるようだった。そしてその光の中コーンの歌が静かに降ってきて、それはそれは幻想的な世界に変わっていった。

神々しい朝陽の光の中に、まるで小さな頃のコーンが目の前に降りて来て、私の前で歌ってくれているような気がして、涙は止まらなくなった。



――いつか、この教会の真ん中を、二人で歩きたい・・・・



今まで思いもしなかった「愛の夢」が一気に目の前を過ぎ去った。それは私が一生懸命読んだ夢物語から、現実の事のように目の前に現れた。それはとても優しくて幸せな光景。ああ、今、私はこの繋いだ手を永遠に信じていたいのだと思った・・・・。


だから敦賀さんの手を強く握り締めて、神様に、懺悔とお願いをした。


――敦賀さん、嘘をついて、約束も守らずに傍にいて、ゴメンなさい
――いつかもう一度、コーンと、敦賀さんと一緒に、ここに来られますように・・・・


だけど・・・・。


敦賀さんは、大人で、「割り切れる人」。別に「割り切っているなら」私でなくてもいい。ショータローだって、好きだと言ったって、そうだった。そして敦賀さんも、一年後、確実に、傍に戻ってくる、とは限らない。何の「約束」も無ければ確証も無い。かつてのショータローと同じ。同じ国にいないだけ、さらにその壁は高いかもしれない。

そして、一年の間に名前が売れれば確実に、その次の一年も、またその次も・・・・と世界各国を渡り歩く。敦賀さんの音を望んでいる国は沢山あるだろう。そして、時間が経てば立場が変わればまた、心も変わる。

そして、敦賀さんが、最近、私を見る目がとても、寂しそうだった。敦賀さんだって、同じなのだろう。敦賀さんに愛されて愛されて、心から愛してくれているのがわかっているから、もし誰もいないなら回るはずの公演、国を、敦賀さんなら確実に私のために一年に一公演は避けて会いに来てくれるだろう。何度も間を見ては泣いていないか心配で、私に会いに日本へ帰るだろう。



――王子さまとね、おんなじぐらい王女さまも頑張らないといけないの。



私は、まだ、全ての約束を、果たしていない。
会える資格など、本当は無かった。
そう、コレは、全て夢。幸せすぎる愛の夢の中。

でも敦賀さんとあの日ぶつからなければ、きっと今でも、ラブミー部の中でコンクールにも出られず、きっと、テレビで敦賀さんが探すキョーコちゃんに気づいたとしても大嫌いな敦賀蓮、言い出せずに夢物語、コーンもショータローも全ての約束を諦め、忘れて、ただの、一介のピアノ講師で一生を終わっただろう。今のままでは、敦賀さんの傍にいる資格など到底無い。


「諦めなければ夢は夢じゃなく傍にある。オレはキョーコちゃんに会いたいんだ・・・それが、今も昔も変わらないオレの夢だよ。」

ショータローに負けて敦賀さんの腕の中で大泣きした晩、敦賀さんが私に囁いた。あの時にはもう、私がキョーコちゃんだと知っていたのだろう・・・・・。



ピアノをもっとうまくなりたい。ただそれだけ。
そして、その果てに、いつか、探している本当のキョーコちゃんとして、コーンに、会いたい。
それが、私の、夢。



だから・・・・・。


******



今はもうホテルをチェックアウトして、最後の日々を過ごすべく、敦賀さんが昔住んでいたおうちに、案内してくれた。敦賀さんは使わないから、土屋さんがこちらに来たときにだけ使っているらしい。横にいたレオさんが、ウサギ目の私を見て、とても哀しそうな顔をした。

土屋さんが敦賀さんを責めようとしたので、「土屋さん、敦賀さんが小さい時に歌っていた教会で、歌を・・・・・聞いたんです。とても、とても感動して泣いてしまって・・・・。」と言うと、土屋さんは、驚いたように目を見張って、そして、しばらく固まったまま、目だけを敦賀さんに移してその名前を呼んだ。私たちが、互いに分かっていて、そして口には出さずに傍にいることを、驚いたようだ。

「蓮様・・・・。」
「・・・はい。」
「いえ・・・・。そう、そうなの・・・。」

そして、もう一度私を見た土屋さんは、そっと、目を伏せた。

「レン、あっちの部屋にあったピアノ、直しておいたよ。」
「ゴメン・・・・・ありがとう。」
「あのピアノ・・・・どうしてあんないいピアノ、使わないんだ?お前がイギリスで使っていたピアノと同じか・・・・いや、それ以上の年代物だろう。」
「・・・・ある日から、使えなくなったんだよ・・・・。開ける鍵が、無くなったんだ。」
「そう・・・。・・・・鍵は、すぐ傍に、あったけどね。」
「そうだね・・・すぐ傍に、答えは置いてあったんだけどね・・・。」
「キョーコ、君の大好きな大きなピアノが、あっちにあるよ。」
「キョーコちゃん、行こう。ピアノの部屋を、見せてあげよう。」
「はい。」
「レン、オレと土屋女史はオレのホテルに泊まるからごゆっくり。けどリミットは明日の夕日が落ちるまで、だからね。」
「・・・気を使わせて悪い。」

じゃあ、と言って背を向けたレオさんに土屋さんは、「何が飲みたい?」と尋ねて、「美味しい真っ赤なワイン。」と答えて、「それは夜にしましょう。」とたしなめられて、出て行った。扉が閉まったと思ったら開いて、「蓮様、キョーコちゃん泣かせたらだめよ?」と一言付け加えてまた閉まった。



廊下の壁には、沢山の絵と、沢山の古い楽譜が飾られている。

「コレは母さんが描いた絵。こっちは父さんが書いた楽譜。」
「綺麗・・・・。」
「そうだ、この飾ってあるヴァイオリンは、君にあげる。母さんの父親が持っていたヴァイオリン。それなりにいい音がしたはずだよ。」

どう考えても厳重に保管をされている戸棚を開け、敦賀さんはケースを開けた。

「い、い、い、いりませんっ、駄目ですっ、こ、こんな高いのっ・・・・!!!」


見ただけで、プロであるショータローの母親が持っていたのと同じかそれ以上の楽器だと分かった。ゼロなんていくつ付くのか分からない。弾いたら、それはいい音がするだろう。

「楽器は使われなくなったらただのガラクタと同じ。弾けるなら、趣味でいいから楽しく弾いてあげて欲しいんだ。いらなくなったらまた、誰か弾ける人にあげて欲しい。それで、いい。売りたいとは思わないから。人づてに、よくしてくれる人に渡ればそれで。オレは君に、あげたい。・・・ヴァイオリンの肩当でついたその首の赤い痕を、ずっと絶やさないで・・・・。」


それは、暗に敦賀さんのモノでいていい、って言ってくれていると・・・・思いあがってみたかった。すりすりすり、と私の痕を親指で撫でる。その手が嬉しい。そして敦賀さんはヴァイオリンのケースを私に渡した。

「・・・・・・・はい。いつかオレにも君のヴァイオリンの音を聴かせて欲しい。」
「はい・・・。」


そして、ピアノの置いてある部屋に入った。レオさんが褒めるのも分かる、本当にいいピアノがそこにあった。蓋に触れた敦賀さんは、懐かしそうにその上をなぞった。


「毎日のように、「キョーコちゃんに会いたい」「泣いてないかな」って・・・心配しながら練習してた。意味も分からず、世界で一番になるんだって・・・・思ってね。」
「敦賀さん・・・・・。」
「おいで。」


よばれたから傍によると、体ごともちあげられて、ピアノの上に置かれてしまった。そんな行儀の悪い事など、生まれてこの方した事が無い。慌てて降りようとする私の足から、サンダルを取り去った。

「だ、だめですっ・・・・こんないいピアノの上に〜〜〜〜。」
「オレのピアノだから。」
「で、でもっ・・・・。」

ためらう私の唇を塞ぎ、穏やかに笑う。

「オレにとって、ピアノも、君も、同義語だから。」
「え・・・・・・・。」
「「キョーコちゃん」。このピアノに、名前をつけるなら、きっとそう付けていただろう。」


もう、十分。
そう思って、お別れの決意を、した。



「敦賀さん・・・・。」
「うん・・・?」
「私を、ちゃんと「割り切って」くださいね。」
「本気で、言ってる・・・・?」
「あと何日後かにお別れしたら、きっぱり、私のことなんて・・・・。」
「いいよ、無理しなくて・・・・・君が目を逸らす時は何時も、ウソついている時だよ・・・。」
「・・・・敦賀さんなんて、嫌いっ・・・・大嫌いです。割り切って・・・・。」


ちっとも演技なんて出来なくて、敦賀さんは私を抱きしめて、私の名前を、息を吐き出しながら呼んだ。


「・・・・キョーコちゃん・・・・。」
「・・・・・・蓮。」
「違う・・・オレが欲しいのは演技なんかじゃない・・・。」

心が痛くて、顔など上げられない。

「・・・・・・だからっ・・・私には、割り切れないって・・・・。」
「じゃあオレも割り切らない。どうして、そんなにオレに割り切って欲しいの?」
「・・・・・・・・・・・世界に、敦賀さんの探す『キョーコちゃん』は『一人』で、いいんです・・・・・。二人も、いりません・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だから。お願い。いつか、敦賀さんの前に、『キョーコちゃん』が現れる前に、敦賀さんの恋人役の「京子」はもう、「ラブミー部のお仕事」はもう、終わりにさせてください。」
「ゴメン、オレが・・・はっきり言わなかったから・・・・君にオレが言い出せない嫌な役を押し付けたね・・・。」
「・・・・・・・。」
「ウソでも言い出せなかったんだ・・・オレを割り切って、なんて・・・・。ねえ、どうして、今までオレがずっと割り切って来たのか、君は、本当に分かってる?」
「・・・・・・・・・・。」


私のウサギ目の目蓋に、鼻先に、頬に、敦賀さんはそっと口付ける。
私の唇を少しだけ食んで、まっすぐ目を合わせたまま、唇越しに伝えてくれた。


「キョーコちゃん・・・さっき言ったけれど・・・・「キョーコちゃん」とピアノは同じ意味だと・・・・。まるでピアノは「キョーコちゃん」。大事に、大事に・・・。そしてその内「キョーコちゃん」は、いつしかオレの中で唯一絶対になってしまった。いつか会えるまでは、それ以上なんていらない、いや、そこで違う子を心から好きになるなんてそんな事をしたら、ピアノ自体が弾けなくなってしまう、そんな恐怖感さえあったよね・・・・・・・。オレにとって、キョーコちゃんは大事すぎたんだ・・・。」


――私は、先生のピアノに、「コーン」って名づけているもの・・・。
――私にとって、「コーン」は、唯一絶対の、優しさの象徴だったもの・・・・。
――私だって、コーンに会いたいもの・・・・。


「敦賀さん・・・。だから、ホンモノの、キョーコちゃんは、世界に一人で、いいと、おもいませんか・・・・?」
「・・・・・・望みどおり君を割り切ろう・・・・。オレが日本に立ち寄った時ぐらいは、相手をしてくれると、嬉しい。」
「その時は、沢山、割り切ったキスを。」
「うん・・・そうだね・・・限りなく愛に近い、割り切ったキスを、ね。」
「他の国でも、どの国でも、今後私以外全員を・・・・割り切ってくれたらいいのにって・・・・そう思います。「約束」なんて、何にもないけど・・・・いつかホンモノの「キョーコちゃん」が現れるまで・・・・・。」
「もう、女の子なんて、「キョーコちゃん」だけで沢山だよ・・・・。」
「ふふ・・・・・そうだと、嬉しい・・・・。」
「君が先生のピアノにつけているだろう名前も、想像つくけど・・・・ね・・・?オレが思っている名前、が付いているんだろうな・・・・。くすくす・・・・・。」
「そうです、コニーですっ。」
「はは、コニー・・・・ね。たしかに、「コ・・・・」だね。」
「そうですっ。」


おもむろにピアノの蓋を開けた敦賀さんは、椅子に座る。
天板の上に置かれたままの私は上から敦賀さんを見下ろす形になった。


「弾いてあげるよ・・・ショパンコンクール課題曲・・・・。」



――別れの曲・・・・・。



とても切ない、切ない、愛を吐露した旋律。
体中に、敦賀さんの音が直接響く。
私が「弾いてください」と言った曲を、立て続けに弾く。
敦賀さんの音が、愛が、体中にビリビリ電流のように体中を駆け巡り、響く。
最後に、あの教会の曲を、弾いて、敦賀さんはまた蓋を閉めた。




「十数年ぶりにこのピアノを弾いたよ・・・・・・・このピアノも、君にあげる。良かったら使って。」
「・・・・・・え・・・・・・?」
「言っただろ?使わなかったら、ただのガラクタだったって。せっかくレオが命を吹き込んでくれたから、もう一度、生かしてあげて欲しいんだ。きっと、君なら本当に大事に使ってくれるだろう。」
「だ、ダメですっ・・・・。」
「・・・このあと日本に帰ったら、元の不破の部屋・・・・君に行くんだろう?あの部屋は大きなピアノでも置けるし・・・・君は部屋にピアノを持っていなかったはずだ。それに『たまたま』君と同じ名前と意味を持つピアノ。もう、君にしか、触らせたくない。いらないなら、ガラクタだからね。捨てる。もしコレを捨てたら、オレはきっと、君を割り切って、そして「キョーコちゃん」も、もう探さないだろう。そして今後二度とピアノに名前なんて付けられないだろうね。」
「敦賀さん・・・・・。」
「オレの最後のお願いだ・・・・貰って・・・・。オレのピアノで、世界を目指して・・・・オレはもう、君の傍に、いてあげられない・・・・せめてピアノだけでも君の傍に・・・・。」
「敦賀さん・・・このピアノには「蓮」って・・・・名前をつけて、いいですか?大事に、大事に・・・・使いますから・・・・。・・・・・ふ・・・っ・・・っ・・・。」


答えの代わりに食んだままだった唇を塞がれ、激しく絡められた。外して互いにあちこちにキスマークを着け合う。「敦賀さんの首もとの痕も、一生消えなければいいのに・・・・。」そう言って、さらに肌に着くキスマークは、色をいっそう鮮やかにした。愛していると、互いの目が、心が、告げる。口には出せない。敦賀さんが足先に口付け、せり上がり、ピリ・・・と痛みが走った太ももにもキスマークが着く。押し上げられたシャツ、押し上げられた下着、ピアノが揺れて、敦賀さんの舌が、体中を舐める。



―――とくとく、とくとく・・・・



高い音が漏れて、互いの脈打つ生きている証は、そのリズムがとても早くなる。愛しい、愛しい、音。この世で一番やさしい音楽。


今まで、何度口付け合っただろう。何度、互いの名前を呼び合っただろう。
何度、抱き合っただろう。幾晩、共に愛していると告げあっただろう。


寂しい、寂しい、寂しい・・・・。


再びやってきたその気持ちで、敦賀さんの首に腕を回して、体勢を保って、耳元で、直接一言だけ告げた。

「敦賀さん・・・・恋人役の京子としての、最後のプレゼント、貰ってください・・・・。」
「うん・・・・。」
「『コーン・・・・大好き・・・・愛してるわ・・・・。』」
「・・・・キョーコちゃん・・・・ありがとう・・・・。」


敦賀さんの伏せた目から、不意に一筋だけ流れ落ちた涙を唇で受け止めた。その涙の跡が愛おしくて仕方が無かった。


私は寂しさでどうしようもなく涙が流れ落ちて、最後の最後まで、泣いて泣いて、その限りなく優しい腕の中で夜通し敦賀さんに甘えて、心から愛し合い、お別れを、した。敦賀さんは空港で、私に口付ける代わりに、私の首にかかっているネックレスを手にとって、一度口付けた。




「身体に気をつけて。絶対に、無理したらだめだよ?それからね、音楽以外のことも沢山してごらん。音楽漬けだけは、ダメだよ・・・・。」
「はい・・・・先生・・・・。」
「はは、そうだった。オレは、君の師でもあったね・・・・。何かあったらメールして。」





――大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・





飛行機の中ではずっと頭から毛布を被っていた。さびしさで流れ落ちる涙と共に、あの大事な石の中に、しばらくの間、敦賀さんへの恋を、甘えたい気持ちを、封印した。




「蓮」と名づけたピアノが元のショータローの部屋に運び込まれた時には、もう、紅葉もだいぶ進み、秋も終わりを告げていた。








第三部 了  第四部 →Thanks! See you soon.








2007.03.11


第一部の第一話で、蓮と言えばショパンの「幻想即興曲」、ショパンのピアノと言えば「別れの曲」。「それが使われたりしたら・・・」と言って下さった方がいて、読みの鋭さには舌を巻いたのですが、その時には既に使うつもりで、変に言葉を濁した覚えがあります。・・・・ようやく出せて嬉しいです(笑)。