【Daydream 17 -Jeux d'eau《水の戯れ》-】





「ストップ…そこはペダルを踏みすぎたらダメだよ…。」

なぜか、私はイタリアの地で敦賀さんの指導を受けている。

「ラヴェルの曲はペダルで音をぼんやりさせてはダメだ。譜面に忠実な君らしくないね。弾いて見せるから変ろう。あぁ、ピアノが一台しかないのが不便だな…。」

敦賀さんの変らない一音へのこだわり。数回繰り返してくれる。ペダルのタイミングと音を楽譜に書き入れ耳で覚えて、「ありがとうございます」と告げた。

「OK?」
「はい。」

お出かけをする予定だった。けれど、あいにくの雨。少し降りは弱まってきた。けれど敦賀さんは、まだしばらくここにいるからいつでも出られると言って、「ピアノ、聴かせて」と言った。フランスに行くなら、と、ドビュッシー、サティ、ラヴェル…と数冊持ってきていた楽譜のうちの一冊、ラヴェルの「水の戯れ」を弾いていて、今に至る。




*****




早朝ふいに目覚めると、すぐそばに敦賀さんの閉じた長いまつげ。穏やかな息。頬は勝手に照れる。シャワーでも浴びようと、起こさないように上掛けをそっと剥いで出ようとすると、「おはよう。」とその長い腕に引き戻された。

「ひゃあ。び、びっくりしました…起きていたんですね…おはようございます…。」
「シャワーなら一緒に浴びよう…お湯張って…バブルバスにして…。」

寝ぼけているのか本気なのか…目を閉じたまま、敦賀さんはそう言って、私の背を無意識なのか撫でてくれた。

「あ・・・・あのっ・・・。お、お手洗いにっ…。」
「うん・・・起きる時声かけて・・・。」

下手な言い逃れと共にベッドを出た。腕の力を抜いた敦賀さんはすぅ、と意識を手放した。まだ夜明けの月がうっすらと傍にあって、暗い。大きな重圧と緊張から解き放たれ、夜中まで私の相手をしてくれた敦賀さんは、穏やかに寝息を立て続けた。私といえば所謂時差ぼけ・・・で、目が覚めてしまって、シャワーを浴びると起こしてしまうし…と、簡単なカッコをして、鍵だけ持って部屋の外に出た。

真夏のイタリア、この時間はまだいくぶん涼しい。鳥の朝の囀りを聴いて、日本よりも鳴く音が高い…コレはソ♯…コレは…と勝手に脳が分析を繰り返しているうちに、空も白ばみ、日が出てきた。

「おーカワイーオジョーさん。オハヨー!」
「・・・・?あ、あれ???お、おはよう、ございます。」

たくさんの花を抱えて現れたのが昨日のお花屋さんで、彼は「ココも僕の仕事場」とそう言って、お花のたくさん入った箱を何箱もエントランス近くに置いた。

「オ〜…。」

彼は目をぱちぱちとさせて、独り言の用に「ちょっと待っていて」と英語で言うと、花がたくさん積まれている車に戻り、またたくさんの花束を作り私に手渡した。

「レンも君が可愛くて、仕方ないんだよね。綺麗な花だね。」

そう流暢な英語で言って、自分の喉仏の辺りを指差した。

「ゃ・・・・・やあ・・・・・。」
「ハハ、カワイ〜!」

付いていた敦賀さんの跡を、「他の男に見せないように花で隠しなさい」と言って、彼はまた私の髪を自然と梳いた。敦賀さんと同じぐらいの背丈のある彼を見上げると、朝日のきらきらした太陽の逆光で、その髪は濃い茶色が薄茶に透けて、綺麗だった。

「オオ、オジョウサン、目の前に怖い人が。」

その綺麗な色に見とれていたら、くるり、と腰に手を回されて身体を返されて、私の身体の前で彼は両手を組んで、腕の中に入っていた。


「キョーコちゃん…。」
「つ、敦賀さん…。」
「やあ、レン。久しぶり。」
「久しぶりだね。だけどそれはオレの。返してもらおう。」

彼の腕を解いてくれた敦賀さんは私の肩を抱いた。

「おお怖い。キョーコ、こんなに怖い男はやめて、僕にしよう!」
「・・・・・?敦賀さん…あの…昨日、彼が席がお隣だったお花屋さんで花束をくれた方なんです。」
「知ってるよ。もちろん見えてた。レオ。女とあればすぐに口説くのやめないか。」
「口説いてナイ〜…カワイーオジョーサン、ホメル、トウゼン!キョーコ、カワイー!」
「あとその変な日本語もね。オレはそんな変な日本語教えたつもりは無いんだけど。」
「あれ?日本語、通じて無い?もちろん英語は君に通じているだろ?」
「あ、あの…敦賀さん?」
「彼はイギリスに居た時の同部屋の相方だよ。土屋さんを口説いてすぐに振られて、振られついでに土屋さんに引き抜かれてモデル仲間にまでなってる。専門は調律なんだ。花屋と調律の兼業が家業でね。あの劇場で弾けたのも彼のおかげだし、彼に調律法を習ったのはありがたかったけど…。ったく…隙あらばすぐに女に手を出す。君が昨日くれた花もレオが仕立てたのは分かってはいたけどまさか昨日の今日で…。」
「何?レン、難しい日本語オレには分からない。」
「手を出すのが早いイタリア人、って言ったんだ。」
「チガウ!!キョーコ、チガウ〜…キョーコカワイイ!!レン、キョーコがカワイー、ダカラ、カゲンしない!!ソレ、ダカラ、キョーコ、ハナ〜〜〜〜!!!」

くすくすくす…と必死に変な(とても一生懸命な)日本語で私に弁明する彼に笑いが漏れた。気づいた敦賀さんが花束に隠れた私の首元の赤い跡の辺りをすっと撫でて、「彼女はオレの。コレはオレのモノの印。だからレオでもダメ。」そう英語で言って逆に私の身体を彼がしたのを同じように、両手を前に組んで腕で身体の中に入れた。レオ、と呼ばれた彼は「知ってる。」そう一言またあの大きな優しい笑顔で返した。


「レン、・・・・・・・・・・・」
「Yes.」

その後二人はすごいスピードの英語でまくし立て始めたから、私には良く分からなかった。昨日の話や久しぶりの日常会話をしているようだった。

「あのね、今度君の音を聞きたいってレオが言ってる。」

四・五分ほど立ち話を続けていた二人が、私を見た。

「え?えぇ、お花のお礼にならいくらでも・・・。敦賀さんのようには弾けませんけど…。」
「いいって、良かったな、レオ。」
「オー、キョーコ!!タノシー!」

レオさんはどうも日本語をあまり知らないらしい…。その単純な日本語のせいで、どうしてもくすくすと笑いが漏れてしまって、敦賀さんとの真面目な会話などそっちのけで、一人なごんでしまう。

「キョーコ?レン、グレイテストピアニストー。ダカラ、ズット、ソバ、イテネ。」
「あ、あの。」
「レン、キョーコ、イナイトダメ。」
「・・・?」
「レオ。やめないか。」
「おや。レンを怒らすと怖いからね。照れなくたっていいのに。恥かしがり屋さんだねえ。」
「レオ。」
「ハハ。だから、キョーコ、レンをよろしく頼んだよ。君次第だ。」
「・・・・?え?何、なんて言ったんです?早くて聞き取れなかったです。」
「オレの傍にいてあげて欲しいと、そう言っただけだよ。」
「ぼくとレンはトモダチ。だから、キョーコと僕もトモダチ。またアイマショー!!オー、シゴト〜!!バイ!!レン、キョーコ泣かしたら僕のものにするよ〜。」

箱を抱えて大きな笑顔を残して彼は行ってしまった。まるで太陽のように元気なパワーを内包した彼。そして、敦賀さんが珍しく人に気を許す。彼にそれを許すのは分かる気がした。彼の屈託のない大きな笑顔が、何もかもを許してしまう。まったく、と言いながらふぅ、と息をついた敦賀さんも、嫌がってはいないようだった。


「キョーコちゃん?ベッド出るなら起こして、って言ったのに…。」
「はい…でも、あの。起こしちゃうの悪くて…。」
「じゃあ、今夜一緒にバスで大目に見てあげよう。」
「えぇ〜〜〜〜。」
「えー、じゃないよ。どうせバブルバスにしたら顔しか見えない。ぬる湯にして楽譜でも読めばいい・・・・・・・・おや、雨が降ってきたね。部屋に戻ろう。」
「・・・・・・・・はい。」




*****




「うん、そう、そのまま正確にテンポを保って・・・・待った、その小節の5の指はゆるく・・・・あぁ、そう・・・・いいね。うん。少し、休憩にしよう。」
「敦賀さんの…まるでメトロノームのようなタイムコントロール程うまくは行きませんが、この曲キラキラした水の音が跳ねて、まるで川辺で妖精が舞っているみたいで好きなんです。リストの「泉のほとりで」は、敦賀さんに弾いて欲しいです。「愛の夢」と一緒に…。」
「そうだね、今度弾いてあげるよ。オレはそのうちリストレパートリー、コンプリートするんじゃないかな?それにしてもラヴェルの曲まで君にかかると…妖精なんて…全く「君らしい」よね…くすくす。」


「君らしい」・・・・・・・?敦賀さん、私が妖精好きだと知っていたかしら?と、ふと疑問が浮かんだ。敦賀さんが知っている「キョーコちゃん」のように振舞ってきたのは確かだけれど。彼に確か、私はシンデレラが好きだとは言ったけれど、妖精さんが大好きとは一言も言っていない。

まさか・・・・私が、「本人」だと、気づかれて、いるの・・・・?
だから、急に「手を出さない」と言っていたのに、「好きだ」と言い出したの・・・・?
だから、傍に、いてくれるの・・・?
敦賀さんに、「まるでキョーコちゃんのように」振舞おうとしたのは私…。


最近、いつでも「キョーコちゃん」と私を呼んでいたのは、知っていたけれど。


「つ、敦賀さんっ・・・・あのっ・・・・その・・・。」
「ん?どうした?」
「わ、私の・・・あの・・・・何処が好きでその・・・・こんなに良くして下さるんです・・・・?」
「・・・・・?何?どうしてとか、理由が欲しいなら、幾らでもつけてあげるけど?」
「いえ・・・いいんです。」
「・・・・・・・・・その、ネックレス・・・・土屋さんが、君に渡したんだろ?」

そう言って、私の首元の敦賀さんのネックレスに触れる。

「・・・・・」
「顔色が悪いね。冷房で冷えた?温まろう。おいで。少し早いけど、バスにお湯溜めて一緒に入ろう。」

軽く私の唇を吸って、彼は腕を引っ張った。
彼は会うたび「愛してる」と、囁いてくれる。
それなのに、どうして、こんなに不安なのだろう。

湯を半分張り、いい香りのする液体を落とした。シャワーを勢いよくあてる。見る見るうちに、泡が立っていった。普段ならお姫様のようで初めて見て喜ぶだろうそれを、ぼんやりと眺めていた。

されるがまま、するすると私の服を取り去り、ネックレスはそのままに、私を湯に沈めた。ぬるいお湯と、いい香りのするシャボン玉が心地いい…そして、敦賀さんの広い背が私を抱きとめて、彼は後ろから、ぼんやりとする私の身体を抱きしめてくれた。

「どうした?何か、不安にさせてる?」
「いえ・・・とんでもない・・・。」
「その敬語も、プライベートの時はもう、やめて欲しい。オレにもっと我侭を言ったっていいんだよ?」
「・・・・・・・・。」

ふるふるふると首を振った。ぎゅっと身体を抱きしめる敦賀さんは、無言で胸元のネックレスをもてあそぶ。

「土屋さんが、「もう預かれないから敦賀さんに」って。だから、コレはお返しします。私が付けていていいモノじゃないから・・・。イヤリングは、土屋さんのものだったのに・・・私にって下さったんです。」

ネックレスをはずして敦賀さんを振り返り、そして敦賀さんにつけ返した。

「・・・・・・・・。」

目を見開いたまま、敦賀さんは首を振った。
何を言ったらいいのか、考えている・・・。


「それは、ホントの「キョーコちゃん」に・・・・。」
「それが、君を不安にさせてる要因?」
「・・・・・・ち、違いますっ・・・。」
「君を愛してると囁いておきながら、違う女も追っている、と。」
「だから、違うんですっ・・・・あ・・・ご、ごめんなさい・・・・。」


声が大きくなって、お風呂じゅうに響いた。また敦賀さんに背を向けて座った。
ぱしゃん、と敦賀さんの手のひらが、沢山浮かぶ泡を掬ってもてあそぶ。


いい香りの中、徐々に心が落ち着いてくる。
敦賀さんは湯の中の私の手を探し出して握ってくれた。
愛されていると、思う。

自分で自分に嫉妬して…敦賀さんに八つ当たりして。
最低…と自己嫌悪で背中が丸まった。
キョーコちゃんのように振舞おうと決めたのは自分だったのに。


「このネックレス…は別にキョーコちゃんにあげなくてもいいんだけどね。単に探す口実に使っただけで…。普段は…単にオフの時着けてただけ…。」
「・・・・・・・・・。」
「キョーコちゃんがね、持っているだろう石と同じ石が入ってる。土屋さんがくれたイヤリングもそう。」
「・・・・・・・・・。」

土屋さんが私に話してくれた事は内緒だから、何も言えなかった。
ぎゅう、と手を強く握ってくれる。


「君を、愛してるのは、本当…。」
「はい・・・。」
「でもね、キョーコちゃんに会いたいのも、本当…。」
「はい・・・。」
「キョーコちゃん・・・。」
「つるが、さん・・・・。」
「レオが言うとおりだよ・・・・オレは、君がいないとダメで、君が悲しい顔するだけで、こんなにも脆い。」
「……。」

右耳を食んで囁いて、背中を抱きしめて子供のようなすがり方をした彼に、これ以上駄々を捏ねるのをやめた。

「そのネックレスに、嫉妬を、しました…。羨ましくて…そして、重かった。だから、お返しします。イヤリングも…本当は私が持っていていいモノじゃないのに…でも土屋さんが、くれたから…もし、それもキョーコちゃんに渡すなら、お返しします。」
「っ・・・・・・。」

拗ねているんだって、ひどい我侭を言って困らせているんだって分かってる。自分がその当人で、言わないくせに、拗ねて、徐々にイヤな女になっているんだって、でも、でも、でも・・・・・。

「キョーコちゃん・・・・。コレは、君に。」

そう言って、敦賀さんはもう一度首にネックレスを戻した。

「え、だって、それは、「キョーコちゃん」にっ・・・・。」
「いいんだよ。新しくネックレスやイヤリングのペアを君の為に作らせても君はまた、コレに嫉妬するだろう?「キョーコちゃん」に新しい何かを作ればいい…。こんなモノで、君が悲しむ事は無いんだよ?こんな物で君を縛っておけるなら、持っていて。こんな物で、オレを愛していると、つけて主張してくれるなら、持っていて…。」

敦賀さんの舌が、唇に忍び込む。身体を彼に向け、腕を彼の首に巻きつける。ぱしゃん、と水が戯れる音がした。ネックレスが敦賀さんの肌と私の肌の間で擦れる。


「ん・・・っ・・・・はっ・・・・つるが、さんっ・・・・。」
「ね、このまま、君を抱いていい?」
「・・・・・・・・っ・・・・・」
「すごく、抱きたい。でも本当に加減出来ないかもしれない・・・・。」
「・・・・思うとおりに・・・敦賀さんの気持ちを・・・・そのまま身体に伝えて下さい・・・っ・・・・。」
「キョーコちゃん・・・・・・・可愛い我侭・・・誰にも、渡さない。君はオレのモノだ・・・・。」



泡が、ふわふわと舞う。温まった身体は、あっという間に真っ赤にのぼせた。規則的な音符が並ぶ「水の戯れ」。まるでその譜面のように、規則的に水が跳ねて、踊る。きらきらと光と水が戯れる。敦賀さんの愛してくれている気持ちは、それは激しく伝わった。私の気持ちは、どうだったかな・・・・・。

いやと言うほどキスをして、好きだと言い合い、互いの全てを貪りあう様に、抱き合った。ベッドに入るとまた、敦賀さんはキスをねだり、濃厚なキスを続けるうちに、気づくとパジャマは無くなっている。肌の感触が気持ちよくて、するすると撫であっていると、敦賀さんの身体の上で、ネックレスが敦賀さんの肌を遊ぶようにつつく。


――キョーコも、キョーコちゃんも、全身で貴方を愛してる


まるで私が言えないそれを、代弁してくれているかのように・・・・。





「敦賀さん…起きてますか…?」
「うん…。」
「私、敦賀さんに沢山謝らなきゃ…。」
「うん、何…?」
「アイツに…好きだと言われました…。」
「…そう…。」
「そして、キスを、されました。」
「…うん。」
「比べてみろって…随分前に敦賀さんが言ったのを、思い出しました。」
「・・・・・・。」
「でも、よく分からなかった。ただ、舌を、噛んでやりました。」
「くすくす…君にキスの仕方を教えておいて良かった、かな…。」
「でも敦賀さんの前でしか泣かないっていう約束は、破りました…。泣いてしまったんです。」
「・・・・何故?まさか何か、もっとイヤなことを・・・・。」
「いえ、・・・・彼、芸能界を休んで…イギリスにピアノの為に留学すると…。ずっと、傍にいてくれたから・・・・やっぱり涙が止まらなくて・・・ごめんなさい。」
「イギリス、に…?」
「敦賀さんの師事していらした先生に付くと…そう言っていました。」
「・・・・・・・・。」

じっと天井を見続けている敦賀さんに、口付けを一つ落とす。
手を探して、握った。

「敦賀さんと同じ、コンクールを、受けるんだそうです。」
「そう・・・・・・。」
「彼の父親は、敦賀さんと同じ、コンクールで、優勝しましたから・・・・。」

そう、コーンも、ショータローも…「約束」した「コンクール」。


敦賀さんは、じっと私の目を見たまま。「あ・・・・・」と声を発したまま、その後を続ける事は無かった。


――やっぱり、私が「そう」だと、気づいて、いたのね・・・・・・。



先程とは違って、どうしようもない不安にかられる事はなく、ふふっと、穏やかな笑みが漏れた。


――私が、コーンと敦賀さんを同時に愛しているように、キョーコとして、キョーコちゃんとして、丸ごと愛してくれているのは、敦賀さんも一緒なのかな・・・・そう、自惚れてみてもいいかな・・・・。


ちう、と敦賀さんの唇を吸った。
敦賀さんの指が、弱く私の手を握る。
少し戸惑ってる。迷ってる。そんな指先だった。


「あの、だから・・・あともう一つ謝らなきゃ・・・。」
「うん、それは聞かないよ…くすくす…もう、寝よう。」
「なぜです・・・・・?」
「くすくす、さあね、君が…言うべき時が満ちたら、もう一度、その謝罪は聞くよ…。」



『君が言うべき時が満ちたら。』



全てを分かって言葉を発してくれた敦賀さんの指先は、もう迷うことなく、私の手のひらを撫でていた。ぱたぱた自然と落ちた涙に、敦賀さんは苦笑した。


「敦賀さん・・・・・。」
「君がオレのために泣くのは、可愛いからいいけど、ね・・・・。」

すっと頬に手を置いて、涙を拭ってくれた。
その手でネックレスに触れて、口付ける。

「オレの心なら、君に全て。さっき、レオはね、オレの全ては君次第だ、と言ったんだよ。レオもオレの事情全て知ってる。君がこのネックレスをして、キョーコだと名乗ったのが本当に嬉しかったらしい。」
「敦賀さん・・・・。」


お花屋さんは、最初から知っていたのだ。
だから、ずっと、私に優しかったの・・・・。


互いを抱き合うようにして、眠った。
それはまるで、懺悔を終えて、
神に全てを許された神の子のように、安らかな眠りだった。





第二部完 : 続第三部


2006.12.10