「れんのこと、好き、一番…好き。」

オレが一人帰宅して最初に聞いた言葉に、オレは戸惑う・・・・。

本音の彼女の、本音の気持ち。

オレはもうすぐアメリカに行くのに。




Night Cross 4 ―Passionate―





16歳まで成長していた彼女は、しばらくまた子供返りをした。それ以上成長したくないとでも言うかのように、図ったように子供がえりをする。

オレは彼女の兄であり、父であり、友人であり、最近はどうもそれ以上の感情も彼女の中に存在しているように見える。子供がえりしている間にも、彼女のさらに最奥の無意識は勝手に成長しているようだ。オレも覚えていないと思って、全て本音で接していたせいかもしれない。

それが、無意識ではない、本人の意識の方へもどうも影響し始めている。

オレがリュークで、彼女がイリアとして撮影中、終わっても中々彼女は役が抜けない。
その目がオレを愛しげに見上げる。もっと傍にいて、と…。

そしてしばらくして、役が抜けたと思っても、見上げる目に何か意思が入っている。

多分・・・不破の予感は的中したのだと思う…。

彼女がどんどんイリアと京子の境目がなくなっているのはオレにも分かった。酔っていない彼女が、リュークに対しても敦賀蓮に対してもその向ける目が変わりが無くなって来ているから。本人にその自覚があるのか無いのか、ふいに目をそらす。

それを不破が見逃す分けがないだろう・・・。
撮影中おとなしく座っているが。

そして、気付くとまたシラフの彼女はあの石に相談をしていた。
飲まそうかとも考えたが、飲ませると結局また子供がえりしそうなのでやめた。

強情を張る彼女に苛立って、先ほど、飲まないシラフの彼女にまた、練習と称して手を出した。明日ベッドシーン撮りだったから、まぁ、色々と探しておくには丁度よかったと言えば良かったと、勝手で無理やりな納得をした。

練習だと…言ったはずなのに、そのシラフの彼女の今までにない扇情的な表情に、オレはいとも簡単に落ちた。抱くつもりは無かったが、深く口付けて、彼女の身体のすみずみを撫で上げて確かめて。声をあげる彼女が可愛くてつい余計にしてしまい、彼女が最後膨れた。

その後、駆け込むようにして入った風呂から上がった彼女は、今度はのぼせてリビングで倒れこみ、間違ってオレの水割りを一気に飲んだ。

普段ストレートをロックグラスでしか飲まない俺が、たまたま貰った酒を普通のグラスに入れて飲んだのが間違いだった。あれほど酔った彼女は初めてだった。

「れ〜〜〜んっ!!なんで、最初に会った時、あたしに冷たくしたのぅぅ???」
「あぁっ・・・これ・・・飲んだね、風呂上りに・・・全く・・・明日残っても知らないからね。ホラ水、飲んで。」
「なーんのことーーー????れんっ、敦賀さんとしてあらしと会ったとき、なーんで、あんなに冷たかったのよぅぅ。あんなのれんじゃないっ・・・・。」

最初に会った時、確かに彼女がLMEに入る理由で怒った事は確か。
それを言っているのだろうか。

「あーあ、ひどい酔っ払いようだね・・・。で、君、今日は何歳?」
「歳を聞くとはひどいっ…初めて会った時は若かったとかいうんでしょ?」

若いも何も、君まだ未成年でしょ?と…さすがに突っ込む気にもならなくて、苦笑した。

「言わないよ…。キョーコちゃん、さぁ、教えて。」
「れんだと「キョーコちゃん」って優しく呼んでくれるのに、あらしが「京子」でれんが「敦賀 蓮」だと、すっごい怖い。いぢめだわ。だから、教えないっ!!れん、もっと優しくしてくれなきゃ、いやっ。」

全く人の話もろくに聞いていない様子・・・。ただ、どうも既に会った後のようではある。そして、「れん」と「敦賀蓮」は同人物で別物として酔った彼女の中では処理されているようだ。ただ・・・・・「いや」、と言われても困る。あれは仕事上オレの「敦賀蓮」像なのだから。ただ、酔った彼女に対しては最初からその像を崩しっぱなしだったから、余計彼女の怒りを買うのだろうけれど。

「分かった、もう聞かない。今、じゃぁ、キョーコちゃんは、何を演じているのかな?」
「イリア。」

リアルタイム・・・・。

「そう…今、どんなシーンを撮っているの?楽しい?」
「明日、敦賀さんとベッドシーン…ショータローとも…。楽しい・・・かなんて、しらないっ!!ショータローとなんてっ・・・・・・・。」

ぶっすぅと、顔が歪んだ。
本当にリアルタイムの彼女のままのようだ。
だが、これは「最上さん」ではなく、本音の「キョーコちゃん」の方・・・・。

「はいはい、そうだね…明日は不破ともオレともそういうシーンだね。さっき、練習したじゃないか。」
「練習・・?何のこと?れん、あしたあたしと一緒にベッドシーン・・・するんだよ?いやじゃないの?」
「いや…?別に。仕事だし。」

最上さんとだしね。

「じゃぁ言う。あたし、れんが好き。だからショータローとするの、いや。」

本当に彼女は酔っているのか?仕事の話を平然とするなんて・・・。

じっと見つめた彼女はまたいつものように、くらり、と目を彷徨わせた。

「ははっ、不破が一番で、オレは二番だったんだろう?」

オレはそれから逃げるように濁そうとしたが、本音しか言わない彼女はろれつがまわらないまでも、至極まじめに答えた。

「れん、あたしがいつも、うそいったこと・・・ある?ないでしょ?あたし、れんがすき。一番すき。誰よりもすき。だから、そーいうの、ほかの人にみられるのいや。れん、リュークとしてイリアを見るんだよ。あたしじゃないもん・・・・あたし、イリアになったら、れんはリュークとしてすきになってくれるんでしょ?イリアになりたい・・・。イリアだったら、リュークの傍にずっといられるもん。リュークあたしのこと、すきっていってくれるもん。」

最後は泣き上戸になって崩れた。

リュークとオレへの感情とが入り混じって混乱しているのは分かった。

・・・今更・・・オレはどうすればいい?

「分かった、分かったから。シャツ、離して…。」

しっかりとにぎられたシャツの裾を離そうとして、彼女はさらに顔を近づけて覗き込んだ。

「いーやっ、れん、あたしがきらい?いつもすきっていってくれてるもん。でもっ、れん、リュークになったらイリアがすきなんでしょ?リュークじゃなくなったら、あらしのことはきらい・・・?」

そんなすがるような目で・・・見ないで欲しい。
さっき腕に抱いて離した感触が思い出されて、止まれなくなる。
明日の朝覚えていないと分かるから、本気で抱きたくなる。

「すきだよ・・・キョーコちゃんの事は・・・でも・・・・。」

さらに続けようとして、彼女が先にオレに口付けて塞がれた。

「すきなひとにする、んでしょ?あたしれんが一番すき。れんもあたしのことすきでしょ?」

そして。再び口付けられてそっと入れられた舌に、オレは我慢をしなかった。
逆に舌を絡め返して、先ほどしたように彼女の身体を撫でて上気させていく。
押し付けられた身体が、風呂上りのせいで上半身下着を着けていないのが分かって、さらに理性が飛びそうになり、声をあげさせて、その表情を楽しんでいた。

酔った彼女はさらにさらにオレを誘い、目がオレを好きだと訴えた。
絡め返した舌がどんどん奥へと誘い、口腔内を貪らせる。
オレの足の上へ身体全体を乗せ、上から口付けられていたのだが、攻め倒したくなって、上着のボタンをはずしつつ、ソファーに横にした。

あらわになった前に、オレはまた眩暈を覚えた。
多分、このままでは絶対に最後まで止まれない。

彼女を離せない。

オレは彼女をうつぶせに返して首の後ろから背中にかけて、彼女の身も心も俺のものだと、不破に向けて一つだけ印をまた付けた。
彼女はきっとこの痕には明日の朝気付かないだろう。

それでいい・・・・。

すっかり酔っていたせいで、上気した身体はすぐにくたりと背中を向けたまま動かなくなった。特に何もしなかったが、刺激が強かったのか軽く意識を飛ばしたようだ。

全く、人の気も知らないで・・・・・。

結局オレはその夜、一人冷めない熱を背負わなければならなくなった。

次の日オレと彼女の撮影が始まる前、やはり不破はオレに噛み付いた。
オレは無視を続けたが、彼はオレの性格も彼女の性格も気付いているようだ。

手を出し切れない。

仕方が無い。意識が無い彼女をどうしろという。抱いたところで起きて気付いた彼女にとっては、強姦以外のなんでもないだろう・・・。不破は酔った彼女とは知らないから、本当にオレと彼女がどうこうなっているのだと勘違いしたようだが・・・・。

また眠れない夜をすごしていた所に彼女が来て、しらふの彼女がオレに言った。「不破への復讐をやめるつもりがない」と。現在の意識に、「酔った無意識の彼女の意識」が少しずつ表側に影響しているとはいえ、彼女はその内側から来る感情を持て余していて、不破への長い間蓄積された思いのほうが大きな障害になっているのは明らかだった。オレは卑怯だと思ったが、不破への復讐をやめるべきだと伝えた。しかし彼女は言っている意味がよく分からなかったようだ。

そして、一度シラフの彼女に告げておきたかった本音を言った。目を合わせられなかったオレに近寄って目を合わせてきた彼女は、目に涙を浮かべて、「じゃぁ・・・・・敦賀さんなら・・・・アイツのこと・・・忘れさせてくれますか?」と言った・・・。

オレは正直どうするか迷って、固まった。


忘れさせる自信などいくらでもある。彼女が彼を思った分以上にオレが彼女を大事に出来る自信はある。そうしてあげたい。オレだけのものにしたい。

女性らしいその彼女の瞳に、オレがはっきり写っていて、その大きい目に吸い込まれるように彼女に触れかけて、止めた。

オレはもうすぐ、アメリカへいく。

そのことが頭を過ぎって消えた。彼女を守りきれない。
なら、意識上の彼女には最初から期待させないほうがいい。

オレはありきたりの台詞を彼女に告げて、彼女を部屋から出すつもりだった。なのに。
彼女はその大きな目から大粒の涙をこぼした。

どうして泣く?
君は不破の事がまだ残っているだろう?
愛してほしいんだろう?

いけないと分かっているのにまた彼女を胸に抱いて、引き寄せてしまう。

だんだん「意識上」の彼女と「酔って無意識」の彼女に対する区別が自分でも出来なくなってきているのだろう・・・・。
抱きしめて彼女の髪に頬をすりよせて、慰めてしまう。
つい、いつもの小さな「キョーコちゃん」にしているように・・・・。

彼女は一瞬身を強張らせたが、泣き止むまでオレの腕の中で静かだった。



彼女はその後酔うと、オレを口説くようになった。
逆に子供がえりをする事がなくなった。
オレが帰る前に既に飲んでいて、帰るなり好きだと口説かれたこともある。

もしかしたら、彼女の意識が無意識のそれを少し思い出しているのかもしれない。

意識上の彼女は、本音ではオレを求めていても、理性が働いていて気付かない…いや、気付きたくないのだろう。
彼女はオレが他の女性を思っていると信じ込んでいるから。
だから、その理性を開放したいのかもしれない。
いつアルコール中毒になっても知らない、オレは。

しかしオレは結局彼女には手を出していないし、逆に手を出されそうになっては、いつものように印を付けるだけで終える。

まったくオレの気も知って欲しい。
どこに好きな女に迫られているのに手も出せないという男がいるというのか。

もうすぐオレと彼女とのゲームも終わる。
このお互いが本音が言えない、隠し事だらけの生活も。


そしてアメリカに行けば、彼女はもう…居ない。

忘れなければならない。