「復讐のためよ!!悪い?!」

そう言ってオレを憎憎しげに見上げた彼女。

今でも彼女は彼を忘れない。

彼もあの子を忘れられない。

オレの入る隙間が・・・・無い。

・・・・・・でも。




Night Cross 3 ―Crevice―





最近彼女は、オレに付き合って飲むようになってしまった。

オレは正直彼女が、なぜこうも嫌がっていた酒を飲むのが好きになったのかが疑問だったが、それを尋ねると、「次の日元気になるから」と言った。まるで何か忘れたい事があるサラリーマンのような回答に腹を抱えて笑った。

記憶が無い彼女がなぜそうなるのかは分からないが、それでも最近元気が無い彼女がそう思うならいい。止めなければならない立場を忘れて、結局今日も彼女の相手をする…というよりは、遊ぶ。

最近は、14歳になってみたり、はたまた5歳くらいになってみたりと、彼女の移動年齢は特に限定はされていないようだった。まだオレと会った後の16歳の彼女には会っていない。先日彼女がとても疲れていて、元気が無かったので、いつもの店に誘ったときは、なぜか彼女は変わらなかった。この家で飲む時だけ変わるようだ。

ただ、「最上さん」から「キョーコちゃん」に変わる前、彼女のオレをみる目がだんだん変わってきているのは…分かってる。
あれも本音の内、と取るべきかどうか正直困っている。
変わる直前まで彼女はオレのことを「敦賀さん」と呼ぶから、そう呼ばれているうちは「最上さん」の意識なのだろう・・・。
だからよけいに困る。
アメリカへ行きたくなくなって、このまま残りたい気持ちが占拠しそうで。

それにしても、今日まで会ってきた彼女の話で、本当に小さい時からずっと不破とその両親、自分の母親への色目使いで生きてきたことは分かった。あまりに本人の自覚が無い忠誠心に、それを聞いているこちらがいたたまれなくなってしまう。

だからこそ、不破に捨てられた時に、その事に気付いて、彼女は復讐…を誓ったのだろう。

不破はオレに直接部屋まで会いに来た。たまたま社さんが居なくて良かったと思う。
クランクイン前の顔合わせ直後の事・・・・。

「TV…見ましたよ。でも、あいつはオレのモノですから。」
「・・・なんのこと?」

「何いってるんですか、敦賀さん。あの顔、誰に向けているか分かってますよ。アイツ、でもダメでしょ?全然あんたのこと、男として認識しないでしょ?」

不破はくっくっと喉の奥で笑った。

「人は何かの所有物じゃない、モノ扱いは、しないでほしいな…。」

語尾がつい強くなってしまったのが分かった。

「ふっ…。図星ですか?キョーコは本当にオレだけだから。そうなるようにオレがしてきたしね。今回の映画、いいんじゃないですか?オレはキョーコを取り戻すかもしれないし、敦賀サンが奪うかもしれない。本当に映画のようで・・・。」

そう言って挑発する不破にオレは逆に平静さを取り戻して、話した。

「残念だけどね、それは別にどうでもいい事なんだ。オレはこの映画が終わったら、アメリカへ行くことになっているから。君が言うように、もしかしたらオレの手の中に入るかもしれないし、入らないかもしれない。ただあのインタビューは、オレの気持ちを素直に話しただけだよ。ただ、彼女をまた傷つけるなら…それは何があろうと君から離すだろうね。」

「はん・・・そうですか。あと1月半ですか。アイツは鈍感で気付かないだろうから。あぁ…あんたがアメリカに行くと知ったら気付くかもしれないな…。どうせあんたのことだから言わずにこっそりとアメリカ行こうとしているんでしょう?世間はまだ知らないからな。それでもしその時、キョーコがオレじゃなくあんたを選んでいて、それを見逃してアメリカへ渡ったら、オレはあんたを許さない。あんたがキョーコを傷つける事もあるということを覚えておいて下さいよ。その時はオレは容赦なくキョーコを手の内へ戻しますから。」

「君は、彼女を手に入れると言っておきながら、まるで彼女がオレを好きだという風に聞こえるが?オレはまだ彼女に会って3年だ。君には16年分もハンデがあるのに自信が無いのか?それとも捨てたという罪悪感か?」

「捨てたつもりは…さらさら無いデスヨ。ただアイツが出て行っただけ。それと、アイツ。単純だから分かりやすいですよ…それ位知ってるでしょ?芸能人に全く興味がないキョーコが、珍しく長いことあんたにくっついて回ってるんだ。まぁ今日見てても、あんたのことは嫌いじゃないはずだと思っただけですよ。ま、いいですけどね。あと一ヶ月でしょ?クランクインしたら、頑張りましょう?」

そう言って不破は俺の控え室を勝手に出て行った。
オレは既に練習と称して彼女の唇を奪っているし、正直彼の言葉が耳に痛いとは思った。
分かっているのだが、目の前にいるせいで止められない。


彼女のオレを見る目が変わってきているから、手放せなくなる・・・・。

カラン…とグラスが鳴って、オレは横にいた彼女に視線をやった。
彼女ももう、くらり、と来たのか、手で顔を覆っている。

「もう・・・ダメなら、横に・・・・。」
「れん・・・・?」

・・・すでにもう変わっていたのか・・・・。

「あぁ…大丈夫?」
「うん、れん、あれ、なんか…敦賀蓮に・・・・似てる・・・?もしかして本物?」

ついに、彼女はオレに気付いたようだった。

「あぁ、うん・・・。」
「ひ、ひっどぉぉぉぉい・・・・。ショーちゃんの大嫌いな「敦賀 蓮」・・が、れんだったなんてぇぇぇぇぇぇ。私、ショーちゃんになんて顔向けしていいのか分からないっっ!!もうショーちゃんに嫌われるっ・・・・。」

どうも、彼女はちょうど初めて会う前ぐらいの年齢だろうか?
不破のことをまだショーちゃんと呼んでいるから。

「何?オレが敦賀蓮だったら問題があるのか?」
「だってぇぇ…ショーちゃん…敦賀蓮のこと大嫌いなんだもん・・・・。顔だけ俳優・敦賀蓮・・・・って。」

オレはそう言われていたのだと理解して、苦笑した。

「そうだろうねぇ・・・。嫌われているね…。だから、君もオレを嫌いか?」
「・・・・敦賀蓮は・・・嫌い。でもれんは友達だし…だから好き・・・。でもれんは敦賀蓮で・・・・どうしよう・・・。あ、ここにいるのが、れんだと思えばいいのかっ!だから、大丈夫。」

・・・何が大丈夫なんだろう。

彼女が最初にオレを見たときに打ちひしがれた様子が目に浮かんで、苦笑した。彼女はオレを毛嫌いしていたわけだ。どこかの誰かの刷り込みによって…。
まぁ、オレも彼女の芸能界へ入る理由がとても気に入らなかったから、お互い犬猿だった事は確かで。今ではそれは仕方なかったと思っているけどね・・・。

「れん、ショーちゃんに会ったことある?同じゲーノー人…なんでしょ?」
「彼とは会ったこと…あるよ。やっぱり今でも嫌われてるね。」

「ショーちゃん、いい人なんだよ。私、大好きなの、だかられん、嫌いにならないで…。でもね、ショーちゃんね、最近…帰ってこないんだ。全然会ってないの。だから、れん、今度会ったら帰ってきてって伝えてね。私一生懸命ご飯作ってあのマンションで待ってるんだけどな。ショーちゃんが好きなプリンも買ってあるし・・・。でもね、いいの。頑張ってて忙しいんだよね?ね?ね?」

必死でオレに「Yes」を言わせようと、しがみ付かれてオレは答えに困った。
彼女が高校へも行かずに、結婚もしていない彼をけなげに待っている…。
そんな事はお構いなしに好き勝手にしてきた不破。

それが過去の彼女の記憶が見せる表情だったとしても、彼女のその必死な表情と、不破に対する一途な思いにオレは嫉妬して彼女を抱き寄せた。

「れ・・・ん・・・?」
「アイツのことなんて忘れろ…忘れてしまえばいいのに。」
「れん…?何を…言っているの、や、やだっ…は、離して…。」

じたばたと腕の中でもがかれたが、オレは離さなかった。

「離さない。アイツになんて…渡さない。」
「れん?怖い…いつものれんじゃないっ・・・・。ショーちゃんにだってこんな事…された事ないもの…。ねぇっ・・・やだっ、ショーちゃんっ、ショーちゃっ・・・。」
「アイツの…名前なんて…呼ばなければいいのに・・・・。」

覚えていないことを理由にオレも正直な気持ちを彼女に吐いた。

そしてオレは彼女の唇を無理やり塞いで不破の名前を呼ぶ声を止めた。
昼間の不破の言葉が、オレを煽ったのかもしれなかった。
舌を絡めてきつく吸い、逃げようとする身体も舌も全て引き寄せる。
少しだけ、吐息の間から酒気がした。

「んっ・・・んぅぅっ・・・」

一生懸命逃げようとしていた手が諦めたようにくたりと…落ちた。
もともと酔っているせいで、オレを見上げる目に熱がこもる。

「・・・・ごめん、キョーコちゃん・・・・。」

その目を見てオレはとどまった。身体を両腕で離したが、力が入らないようだった。
きゅっとオレのシャツを握り返して、言った。

「れん・・私・・ショーちゃんとも・・・したこと・・・ないんだよ。」
「うん…ごめん、オレの気持ちを押し付けた…。」

「なんで…謝るの?れん、あたしの事、すきなの?あたし、れんのこと、ショーちゃんの次に・・・・すきだと・・・・思うの・・・。あたしっ・・・・すっごい・・うわきものみたい。ショーちゃんがいるのに、れんのきす、いやじゃなかった。あたし・・・・。」

そう言って困惑した顔で見上げる彼女を引き寄せて耳元でささやいた。

「キョーコちゃん・・・じゃぁ、二番目でいいから、オレに君の気持ち、欲しいんだけど・・・・。」
「二番目・・?あたし、ショーちゃんとれん、比べるなんてできないよ。ショーちゃんは居てくれるだけでいいの。れんはあたしにとって大事な大事なお友達で、でも・・・。れんも・・・・おとこの・・・人、なんだよね・・・。あたし、おとこの人って良くわからない。ショーちゃんは一緒に居られればそれで良いの。だから、きすしたいって思ったことが無い・・・。本当は思うもの?でもね、れんのきす、すき。へん?言ってることよく・・・わからなくなってきちゃった・・・・。あたしのきもち、れんにあげればいいの?」

そう言ってじっとオレをみつめて、彼女はオレの頬を引き寄せて、ほんの軽く唇を重ねた。

「どう・・・?合ってる・・・?あたし、きすの仕方なんて知らないから。れんのようには出来ないけど・・・・。あたし、れんときすするの・・・いやじゃ、ないみたい。きすは、ほんとうにすきな人とだけ…するんだよね…あたし、れんも…すごくすきだよ。」

どうも、それも…本音なのだろう。不破とは一緒に暮らしていも、特に男女関係は無かったようだし、彼女の記憶の中ではまた、これが最初のキスという事になるのだろう。

でも不破よりも下か…苦笑して、いいよ、ありがとうとだけ、言った。

16歳といっても、酔っているせいでどうも子供返りしているような口調が気にはなるのだが…全てがひらがなで話しているように聞こえる。
しかも話すその内容にも全くつながりがない。

本音といえども、どうも子供の初恋話を聞いているようであまり実感が沸かない。

そんなこととはつゆしらず、彼女はにっこり笑って、照れてクッションに顔を押し付けていた。