「ショータローが昔オレの前以外では飲むなって言ったんです。飲むと、私暴れるんだそうです。」

彼女の言葉にひどく嫉妬した。

不破はその彼女のその癖を知っていたのだろう・・・。




Night Cross 2 ―Vice―




オレがついにマスコミに追いかけられるようになった前日…あのインタビューの放映の日。社長が「前祝」と言ってくれた金色の包みに入っているルイ。社長らしい選択物の琥珀色のこれを、彼女に渡すべきかどうかオレはとても悩んでいた。車を運転していて、青信号に変わったのに気づかなかった。社さんが「どうしたの〜?」とのんびりとした声で横から声をかけてくる。

1週間前、オレが社長と話をしている時点で、オレが本当に好きなのがあの子だという事を横で知った彼は、本当に得意げだった。車の中だけではあきたらず、結局食事をしに行った先まで話を続けなければならなかった。社さんは、オレがアメリカに行こうとも、行く前にあの子とくっつくように祈っている、と嬉しそうに言っていた。何で彼はそんなにオレの色恋沙汰に嬉しそうなんだろう…。自分は一体どうしているっていうんだ。風邪でダウンした時オレに絶対来るな、家族を呼ぶから、なんて必死で言っていたけれど・・・?

「何?キョーコちゃんと何かあったの?」
「ないですよ・・・・。」
「そう?一緒に住んでみてどう?彼女前、「料理・掃除・洗濯が得意」って言ってたらしいね。オーディションも桂剥きしたって?相当な腕なんじゃないの?だからいいでしょ、実際?楽で。」
「あぁ・・・そんな事も・・・言ってましたね・・・。確か。別に楽だとは…思ってないですよ。料理は…そうですね、おいしいですよ。社さんも今夜来ます?」
「いやっ、邪魔しちゃ悪いからさ。そのうちにね。でもさぁ、食べ物に興味が無い蓮が美味しいっていうんだから、普通の人が食べたら相当美味しいんだろうなぁ。」

なぜか最初から彼女の作る料理は昔からとても相性がよかった気がする・・・。

「でもさ、代マネやってくれた時だってキョーコちゃん何日も一緒に泊り込んだんでしょ?蓮、めったに自分のテリトリーには人、入らせないのに。だから、今回も社長キョーコちゃんに頼んだんだと思うよ。キョーコちゃんって、一人で3人分くらいにぎやかだから、静か過ぎるほど静かな蓮にはちょーどいいって。いいなぁっ。」

なぜかとても楽しそうに言う社さんを横目に、オレはまた、社長のくれた派手なそれをどうするものか、と思考に走った。

結局また迷った挙句、彼女の心の鍵を開けてみたい衝動には勝てなかった。

オレが帰ると「語りの彷徨」のイントロが聞こえた。その音がする方へ足をやると、彼女はリビングでオレのインタビューに見入っていて、オレが帰ってきたことに気づかなかった。ソファでずっと膝を抱えてクッションに顎をのせたまま、ふぅと言う位だ。
結局30分間、先生のコメントまで彼女は微動だにしなかった。

オレが本気で君に告白しているんだけど。

悔しいので心の中でそうつぶやいて、全く動かない彼女をからかってみることにした。

「・・・・愛してるよ・・・・」

実際言うつもりが無いだけで…。

耳元で言ってみたら、彼女は予想外に面白い悲鳴を上げた。君はどうしてそう、いちいちリアクションが面白いんだろう。普通じゃないよ、絶対。

オレはなかなか笑いが止まらなくなってしまって、彼女はむぅ、と口を尖らせた。

「いや、あまりにオレのインタビューに集中して見ていたみたいだから・・・オレが実は最初のほうから居たの、気付いてなかったでしょ。」
「そこに・・・ずっと・・・・いたんですか?」

そう目を見開いた彼女の表情はオレが予想していたものと違って、戸惑った。
彼女はオレにすがるような、目を向けた。

インタビューが彼女に響いたのだろうか・・・?

オレは自分の感情を抑えるように、彼女に笑顔を放つだけ。彼女は長いため息とともに、俺の横を目をあわさないようにしてすり抜けようとするので、呼び止めて手に持ってたものを渡した。

「これからのオレの受難に社長が前祝をくれたんだ。」
「・・・シャンパン・・・?私、暴れますよ・・・。」
自分が暴れると思っている彼女は、その表情がどこか暗い。

「大丈夫だよ。・・・君はオレの前ではそんなに暴れないから。すぐに寝ちゃうし。」
それは確かにそうなんだけど、オレは嘘をついた。

「うわー…綺麗な包み・・・」とつぶやきながらキッチンへ向かう彼女は、オレの魂胆を知らない。今日は子供の彼女が何を言い出すのだろうと、ほのかな期待と不安と、楽しみな気持ちが覆って消えた。

インタビューについて、ゴシップになると本気で心配してくれる彼女が、可愛かった。そしてぶつぶつとオレに文句をたれた彼女が、夜遅く食べても太らないか聞いたので、「太れない体質なんだ」と告げると、そこにあった琥珀色のシャンパンを一気に開けた。

彼女は未成年・・・飲み方なんて知らないか・・・・。

そして一気に回った彼女に、年齢を確かめると、「13歳」と言った。
何で成長しているんだ・・・・。日に日に成長するものなのか?
まぁ、この理論なんて全く通じない彼女らしいといえば彼女らしいのだが・・・。
ばたりと倒れられても困るので、彼女をソファの上へ誘った。
彼女は、「れん、元気だった?」と久しぶりに会った友達のように声をかけてきた。

「今日はねー、学校で英語をね、習ったの。れん、得意?」
「英語・・・?まぁ普通には・・・。」
「ほんと?私ね、また英語、スペル1箇所だけ間違えてテストだめだったんだぁ。蓮、どうやって勉強した?いっぱい書いた?」
「また・・・おこられたのか?」

彼女の質問には答えず、その先にある彼女の不安に直接問いかける。

「・・・・・うん。」

彼女は一気に暗くなった。
本当に不破と母親のテストの点数への伺いだけで生きてきたのだろう。
高校へ入れてもらえると言った時の、彼女の必死になっていた姿が目に浮かんだ。

「また・・・あの石に聞いてもらったのか?」
「・・・・・うん、またあの場所に行って、コーンは・・・いないから、このね、石にね。」
「誰か・・・聞いてくれる友達は・・・。」
「友達?・・・いない・・・・だってショーちゃんをすきでいる為だったらそれはしょうがないの。みんなね、ショーちゃんがすきなの。ショーちゃん、ホントにかっこよくなって、私、仲良くしてもらえるだけでいいんだ。ショーちゃんがいれば、いいの。でも、こうやってたまにれんが会ってくれるでしょ?だからいいの。また聞いてくれたし。れんは何か、悲しいこと、ない?れんが悲しいと私も悲しいから・・・。」

彼女はそう言って、またオレをまっすぐに覗き込んだ。
彼女は自分のことはいつもそっちのけでこうやって生きてきたから…人のために一生懸命になれるんだろう。
首を振って大丈夫、と彼女の頭を撫でた。
それを嬉しそうに受ける彼女は、ある意味今の彼女とは違って、素直な女の子らしい女の子で。

彼女がずっとずっと心に不破を置いてそれを支えにずっと今日まで来たのだろう。この素直な彼女を作ったのは不破。そして、もともと本当に素直な彼女があそこまで「心憎い」という表情をさせるようにしたのも不破だ。やはり彼女は不破がとても好きなのだ。

それは今でも彼女にしっかりと組み込まれて、彼を忘れたくても忘れられないのだろう。
いつか復讐は終了するかもしれない。でも彼女はそれを望んでいるだろうか。復讐と誓った果てに、彼との永遠の繋がりがあって、それが今の彼女を作っているのだとしたら・・?

「えっとねぇ、「ナンシーは、今日、昼間、テニスをしました。」でしょ、それから「サムは今読書をしています。」でしょ・・・合ってる?」

ニコニコとオレに笑顔を向けて、彼女は今日習ったという英語をオレに聞かせる。日本語らしい彼女の英語ぶりがおかしくて笑ってしまって、彼女が機嫌を斜めにした。

「なんでー間違ってる?おかしい?一生懸命覚えたんだけどなぁ・・・。」
「い、いや、合ってるよ・・・。それが英語教科書の例文なの?面白いね。」
「面白いの?蓮は教科書使わなかったの?」
「いや・・・・・。」

オレは苦笑して、むぅと膨れた彼女にぼそぼそと耳元でつぶやいた。

「なに、何って言ったの?早くてよく聞き取れなかった。れん、英語上手。先生みたい!」
「ナイショ。ナイショ話だよ。沢山英語、勉強して・・・いつか思い出してごらん・・・。」
「れんのけちっ。」

そう言って彼女はまた口を尖らせた。


オレは彼女に「大きくなったらオレの元へおいで」と言っただけ・・・・。