【Cross 7】






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最近は彼女も、マスコミ対応に慣れたのか割と身体は楽そうだった。

食事を済ませてリビングに行くと、バラバラと置かれたオレの荷物の中から、彼女はオレの次の映画の台本を見つけた。

「つ、敦賀さん、これ、例の映画の・・・・・台本・・・・見てもいいですか?」

本当にきらきらとして無邪気に言っていた。
その姿がとても可愛くて、どうぞ、と渡した。

「これ、この本知ってます!読んだんですよ〜。ヒロインは皇女様で・・・・。」


ぱぁぁぁと目を輝かせてオレを見る。
メルヘン好きの彼女らしく、その設定にとても惹かれたのだと、言った。

「その台本、ちょうど一番最後の所だから、初めて見るにはオススメではないんだけどね。・・・寝室に台本まとめて置いてあるから、持ってきて見たら?」

そんなオレの言葉をよそに、彼女はぶつぶつと、そのヒロイン台詞を追っていく。
彼女は、演じるのが・・・というか、演じたその人物になりきるのが好きなようだ。

周りを忘れて熱中する彼女を・・・・横で見ていたはずだったのだが、オレは不意にもソファの上で・・・・うとうとと意識を手放してしまった。



「あなたのためなら、この血を・・・あげる・・・・。」


その言葉が耳に入って、オレは・・・ドクリ、と心臓が掴まれた気がした。

オレは・・・その後の展開を・・・・知っていたから、卑怯だと分かっていて・・・・身体を起こして、彼女の耳元でささやいて・・・続けた。

「そうしたら・・・オレはお前を・・・・永遠に失ってしまう・・・そんな事は・・・」

彼女は一瞬驚いたような目を向けたような気がしたが、真意を確かめるようにオレの目をじっとのぞいて、オレが練習に付き合ったのだと理解したのか、また続けた。


「ねぇ・・・私はあなたと生きる長さは違うけれど・・・私は・・・私の血は・・・あなたの中で一緒に生きられるの・・・ねぇ・・・私・・・あなたの側に一生いたいの。永遠に一緒だわ・・・。」

そうオレを見上げる彼女の目が・・・オレをとても愛しくてしょうがないという目で・・・オレはただ「演じているだけ」であろう彼女に対して、心の中で、「どうせ映画でもするんだし」、と言い訳をして手を伸ばした。

オレは彼女の唇に優しく触れて・・・驚きに目を見開いて文句を言おうとするその唇をオレのそれで塞いだ。彼女のやわらかい唇と舌をもっと感じたくて、逃げる彼女の舌を追いかけた。息をしようと・・唇をはずそうとする彼女を無理やり腕の中に引き寄せて、その息さえも絡めとって、閉じ込めた。

「・・・・っ・・・・っふっ・・・・・・」

無意識に出てしまう彼女の甘い吐息がオレの頬をくすぐって、消える。また彼女の舌を絡めて、唇を舌でなぞる。彼女の口の端から流れた透明な液体を舐めとって、また彼女の唇を割る。

彼女を引き寄せて、オレのうでの中にすっぽりと納まるその細い身体を確かめるように、腰に腕を回し、空いたもう片方の手で、彼女のその華奢な背中をなで上げると、彼女の身体がソファに崩れそうになって、頭を支えながら横たえた。

オレの腕の中でオレのシャツをぎゅっと握って力を込めていた手が徐々にその力が弱くなっていく。

「んっ・・・・っ・・・・」

最後彼女は・・・少し身体を起こすと、唇を割るオレの舌に自分のそれを自ら絡めた。

半分意識を手放している彼女のオレを見上げる目が・・・女のそれで・・・オレは・・・・。
 
無理やり唇を離して、半眼でぼぅっとしている彼女の耳を甘噛みすると、彼女の身体はびくりとしなった。

「これで・・・永遠に・・・・一緒だ・・・・愛しているよ・・・・」

最後の台詞を、続けた。

彼女のうなじにかかるその柔らかな髪を手でどけて、唇をその彼女の白い鎖骨に寄せた。強く吸い上げると、彼女はびくりと身体を震わせた。

一つだけ彼女に跡をつけて・・・オレは離れた。


しばらく、天井を見たまま、焦点が合っていなかった目が、だんだんと状況を把握したのか、動いた。

見ていて面白いほど真っ赤にその顔が染まっていく。

「最後・・・イリアの名前呼ぶの忘れちゃった。」

ぺろり、とオレは舌をだして、にっこりと彼女を見下げた。

「つ・・・・・・敦賀さん・・・・台詞の練習・・・・じゃ・・・・なかったんですか?」

彼女は身体を起こしながら、ぺろり、とその濡れた唇を舐めた。
その仕草にとてもそそられた。

その後はっと気付いて、唇をぬぐい始めた。

「リアリティの追求。」

それだけ言って、ぐしぐしと唇をぬぐって止めない彼女の手を止めた。

「だって、最上さん?女優になるなら、そういうシーンはいくらでもあるじゃない?いちいち気にしていたら・・・・・あ、そっか、不破ともした事がなかった?ごめんね。」

クスリ、と笑っていつもの毒吐きスマイルを残すと、彼女は正論に憤慨したのか、不破との事に憤慨したのか、オレを叩いた。

「あんまりです!もう!最近敦賀さん、元気が無かったから・・・心配してたのに!損しました!」
「心配・・・してくれたの?」

まじめな顔を装って、彼女の頬に触れると、彼女の目がこぼれそうな程見開かれて、オレは吹き出した。

彼女は真っ赤な顔でソファから立ち上がると、ゲストルームに向かおうとする。

「おやすみなさい!」

そうテレを隠すように背を向けて言う彼女に、最後続けた。

「そうそう、この映画・・・・のヒロイン・・・・・・君だから。社長がオレとの練習できるだけ・・・しておけって・・・役が掴みやすいだろうからって。」
「えっ・・・・そうなんですか?」

きょとんとした後、ぱぁぁぁぁと顔が輝いた。

「つ、敦賀さん、よろしくお願いします・・・!でも・・・あまりあの・・・そういうシーンは・・・お手柔らかに・・・」

もじもじとする彼女が可笑しくて、吹き出した。
また憤慨した彼女はもういいです、と言って赤い顔のまま出て行ってしまった。


「・・・この映画・・・ベッドシーン・・・オレとも不破とも・・・あるんだけどな・・・」


オレは一人ごちて、まだ手に残る彼女の感触に、一つため息をついた。