【Cross 3】






「なんだ・・・・?このインタビュー。」
「今、あなたに同じ質問したら、尚、あなたは何てこたえるのかしらね?」

祥子さんの質問には答えずに、オレは手にしていたビールを煽った。


何だこれは・・・?なぜ今ここでこんな事言いやがるんだあいつ。・・・あいつ、キョーコのこと本気だとでも言うのか・・・?次の映画でオレはこいつとキョーコと確か共演するんだったよな・・・。


先日TV局で見かけたアイツとキョーコ。キョーコは気付いていないようだったが、エレベーター前で明らかに優しい表情で愛しそうにキョーコを見つめるアイツが居た。その表情そのままに、告げる事ができないというアイツへの独白が続いている。


まさかと思って、隠れてその様子を伺っていたが本気だったとは・・・・。
今ここでこのタイミングで、発表するなんて事は、今度の映画で共演するオレへの宣戦布告か?おもしれぇ。オレからキョーコを取り上げられるものなら、とってみろ。
キョーコはオレを忘れられない。
オレはキョーコを渡すつもりなんかないからな・・・・・・。


「尚?あなた変よ?」
「こんなくだらない番組を見たからだって。」
「尚?」
「オレには祥子さんだけだから・・・。」

そういって、祥子さんをぐいと掻き抱いた。

その晩祥子さんの声が、オレのくだらない思考をしばらく塞いでくれた。




*****



少々時は遡る。





蓮のインタビュー収録終了後、プロデューサーが内容と今後を気遣って社長にビデオを送った。その送ビデオを見た社長に、俺と蓮は呼ばれた。

社長が、マネージャーの俺も同席するようにと伝言をよこしたので、つきそって、同席した。

「お前のインタビューの件、さっき編集前の撮り下ろしが届いてなぁ・・・見たぞ。」

そう言う社長の感情は読み取れない。

「はい。」
「彼女の名前は・・・マスコミには絶対に言うなよ?守ってやれ。というのはオレ個人の言い分で、社長としてはだな、彼女を潰したくないんだ。まだ彼女はお前の名前の前に潰されるかもしれない。もっと彼女の演技がオレも見たいんでね。まだまだ伸びる余地も綺麗になる余地もある。」
 
再び「はい」といって蓮は目を伏せた。

「マスコミ対策と仕事への影響は、オレのほうから手を回しておくから。ま、お前が初めてオレに色恋沙汰のお願いに来たからな。それぐらいやってやる。でもなぁ・・・お前、惚れた女が屋根一つ下にいるっていうのに、男として何にもしないつもりなのか?別に、結婚できない年じゃなし。」

蓮はなにも否定しなかった。

・・・・という事は、蓮の想い人は、やっぱりキョーコちゃんだったんだ・・・。
ずっとそうだと思っていたんだけど。
蓮はどうして言ってくれなかったんだろう?

「何もしない・・・つもりです。多分・・・・。でも既にその自信は微妙ですけどね。」

「せっかくオレが・・・消極的なお前に状況をセッティングしてやってだな・・・」

ぶつくさと文句を垂れている社長をよそ目に、蓮はため息をついた。

「次の仕事・・・彼女がオレの相手役なんですよね・・・?そして更に不破・・・。オレはこの状況だけでも自分がどんどんと壊れて行きそうな気がしているんです。これ以上彼女との事を進めたら、手放せなくなる。オレは何もかも忘れて彼女の元へと走りたくなってしまう。でもそれは、オレにとって最良の選択では・・・ない。いつかまた別の後悔をしてしまう。だったら、彼女がオレへの気持ちが無いうちに、オレは・・・」

蓮は目を伏せたまま独白している。

「分かった、分かった。もういい。お前の彼女への気持ちはビデオで嫌ってほどわかったから。そんな、自己犠牲の愛なんて、成り立つかぁ?そうしている間に彼女が別人と本当の恋をしてみろ。お前は後悔しないのか?」

「先生も・・・そうおっしゃっていましたけど、オレにとって、演じることは、恋愛よりも重い…比べられる事じゃないんですよ。そのうち、いつかそうなる時が来るでしょうけれど、オレはその時は彼女を祝福しますよ。」
「ばかだね、お前は。」

社長は、葉巻を大げさに吹かして足を組みなおした。

「そうですか?」

「うちの会社にとっちゃ、別にいいんだけど。まぁ・・・ここでこんな会話したからって、別にそれに義理立てしないでいいんだからな。彼女を家どうこうしたって、一向に構わない。むしろ、彼女はお前の愛を知るべきだ。彼女は少々愛される喜びを知らなさ過ぎる。蓮ならその喜びを存分に引き出してやれると踏んだんだがなぁ・・・。」

彼女の事情を知っている蓮は苦笑して、席を立った。

「では、社長・・・よろしくお願いします。」
「おう・・・・映画も、いい仕事してこいよ。」
「はい。」



蓮とオレは、社長室を後にして、二人並んで廊下を進む。

「れーん〜〜〜〜〜?」


蓮はしまったというか、ぎょっとした表情を浮かべて、「いや、あの、車の中で。」とだけ言った。



もちろん車の中では、オレがキョーコちゃんのことについて散々プッシュしていた事をもちあげて、隠していた事を憤慨した。蓮は、言うタイミングが・・・とか何とか言い訳していたが、信じなかった。きっとずっと前から彼女を好きだったのに。なぜ今この時に。言わないなら言わないで、TVでも言わなければいいのに、と更に憤慨したら、

「それでも男としての・・・けじめ・・・かな?本人には告げられなくても、どうしても、自分が言っておきたかったんですよ。」

とだけ洩らした。