【Cross 25】





リンディはグレッグの看病あって、とても早く回復して行った。

3ヶ月ほどして誰を入れても大丈夫になって、病院に彼女が私たちを呼んだ。

彼女は「レンの元へは戻らないわ…もう戻れないし。今度はグレッグについて、彼のマネージングをしたいの。」と言った。
敦賀さんはそれを拒まず、「今までありがとう」と言った。

そして、彼女は後ろに控えていた私を呼んで言った。
「キョーコ?こっちに。」
リンディは手を伸ばして私を手招いた。
私は彼女の前に立ち、彼女に、持っていた花束を渡した。

「キョーコ…私はあなたがとても羨ましかった。私と違って…レンに一心に愛されているあなたがとても羨ましかった…今まで嫌な事を続けて…どんどん自分の心が醜くなっていくのを感じてた。でも止められなった。グレッグもレンも誰も私の側から居なくなってしまう・・・と思ったら、怖かったの。あなたの5年をフイにしてしまったかもしれない。許されるべき事ではないけれど、一度ちゃんと謝りたかったの。ごめんなさい・・・」

最後は涙ながらに言う彼女の頭を抱き寄せて、「大丈夫、大丈夫よ」とだけ言った。

「リンディ・・・?私もね、昔ね、長い間好きだった人にあっさりと捨てられた経験があるの。その後あなたも救われたように、私には蓮がずっといてくれたの。だけどあなた、グレッグに捨てられてないじゃない?ずっと昔から…側にいてくれるんだもの・・・どうなっても大丈夫。ま、あなたがなんと言おうと蓮は私が貰うけどね。」

ウインクして、彼女の背中を叩いたら、彼女はふふっと笑って、また泣いていた。


そうして、私は蓮を、グレッグはリンディを・・・取り戻した。












******



彼の家へ一緒に住む事になって、私の家へ迎えに来てくれてときのこと。

初めて入った私の家の中で、彼は呆然と立ち尽くして、爆笑した。
グレッグがそうしたように。

「なんでそんなにみんな爆笑するのよ!」と憤慨したら「こ、こんなにごてごてな家初めて見た」ってグレッグと同じ感想が返ってきて、懐かしかった。
だってこれ社長が用意してくれたんだもの。
私が買ったんじゃないもの。

彼の家へ行って、通されたリビングには彼が好きそうなソファとクッションを見つけて、日本でそうしたように膝に抱えて座った。

横に白いふさふさの猫が一匹ちょこんと座った。
あまりに可愛いので、手を出すとナァと啼いて、喉をごろごろと鳴らした。
そのまま面白くてお腹をなでてやると、コロンとひっくり返って、あまりに可愛いのでそのまま撫でて遊んでいた。

しばらくして彼が入ってきて、驚いたと言った。

「蓮、このにゃんこ、可愛いっ。蓮が選んだの?」
「うん。アリーはね、そのソファーとクッションがお気に入りでオレ以外誰も触らせなかったんだけど・・・・お腹まで見せて・・・キョーコちゃん、さすがだよね。」

と笑われた。

だって・・・可愛いもの。

ふわふわでさらさらで、暇があればしばらくの間、アリーと遊んでいた。
彼は私と二人でいる時は日本語を使う。そうしないと、日本語を忘れてしまうからだと言う。専らゆっくりと二人で話すのはベッドの上。彼は私の長い髪を弄くるのが好きなようだ。話している間暇があると、無意識にくるくると指に巻きつけて遊んでいる。

彼は普段本当に穏やかな顔をするようになった。ちなみに彼の似非笑顔はどうも、私をいじめたい時に発動されるようだ。
5年もファンをやっていたせいか、似非笑顔でフェロモンを振りまかれるともう何も言えなくなってしまう。
きっとこれからも彼の手の上で転がされて、遊ばれるのだろう。
別にいやじゃ…無いけど・・・・・。

彼はそういえばと言って、思い出したように、私が英語を使いこなせる事に驚いたと、言った。「一体どうしたの?」というので、LMEの外人タレント部門と教育テレビの外国人の先生と仲良くなって通い詰めた、と言ったら、「やっぱり君の根性には脱帽だよ」と笑われた。「ついでにスペイン語も大分覚えてね、次のも頑張るわ」、と言ったら、「君はどこでも住めるね」ともはや呆れたように言われた。誰かのための勉強じゃなく、自分が新しい事を知る事がとても楽しいから、いいのだけれど・・・・。

それからショータローの話をした。
彼が先日子煩悩なパパになったと言った時の彼の顔の歪み方は異常だった。
しばらく腹を抱えて笑って、笑うだけ笑ってなぜか、「アイツも律儀なヤツだな」と言った。

モー子さんと飛鷹くんも結婚するんだという話をすると、耳元に「ねぇオレ達も幸せになろう?」という言葉が滑り込んできて。


嬉しくて涙が出た。



******



グレッグと蓮と、お互いペアを交換した後、私はアメリカでずっと蓮について回った。
自分の仕事は、できるだけまとめ撮りに変えてもらった。
モデルの仕事は敦賀さんのスケジュールに合わせてその地ごとに受けた。
彼の仕事ぶりを見ていたら、だんだん自分も演じたくなってしまって困ってしまう。
彼を取り戻したものの、私はもうすぐ日本へ帰らなければならない。
もともと振られるつもりで来ていたから、先のことなんてあまり考えていなかったし・・・。

「キョーコちゃん・・?」

物思いにふける私を心配して、蓮は声を掛けてくれた。

「蓮・・・・。」

何か意味深な目をしてしまったのだろう、彼はこちらを向いて、腕をベッドについて支えてその大きな身体で覆いかぶさるようにして、優しく唇を塞いだ。

「ごめんなさいっ・・・・・。」

私は蓮の唇を離して、見上げた。
目に涙が浮かんだ。

「何?どうした?」
「・・・・あのね・・・・・。れん・・・?私・・・日本へ帰らないとなの・・・・。」
「なんで謝る・・・・・。」

彼は私の身体を優しく抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

「いいよ、日本へ帰ろう。仕事、日本でも受けられるから。」

彼は私のために迷わず日本行きを決定してしまう。
彼ならきっとそう言ってくれると思ってはいたけれど。

だから尚更言えなかった。

彼は本当にアメリカで成功して、まだまだもっと延びる余地がある、彼の邪魔をしたくない。私は演じたい。日本へ帰ったら一年先まで大枠の仕事が埋まっているという。だから、私の答えは堂々巡りになって出ないでいた。

「キョーコちゃん・・?あぁ、・・・どうせ君のことだから、オレが日本だけで活動するのは・・・・とかバカな事思っているんだろう?まさか一人で帰るとか、言わないよね?」

久しぶりに似非の笑顔をもらって焦った。
正直同じ事を考えていたから・・・・。

「オレは君がいなきゃいやだ。もう別々になるのは嫌だね。だから、君が心配する事じゃないよ。」

そう言って彼はそうしてまた優しく唇を塞いでいく。

「でも・・蓮・・・こっちでのお仕事・・・・楽しいでしょ?」

「まぁ、規模の違いはあるにせよ、演じる事自体どこでもできるからね。またハリウッドだろうと、モデルだろうとやりたい仕事があればくればいいだろう?今まで仕事を選ばなかった分、今度から選ぶようにすれば…。まぁ往復になっちゃうけどね。そうだ社さん・・・・また連絡しないと・・・・。」

「社さん、私と蓮の分両方見てくれるって前言ってたけど…無理ね。また私、新しい人探さなきゃっ・・・。リコさん、メイクとマネージャー両方やってくれないかしら。」

ごろん、とベッドに身体を投げ出して、彼の手に触れた。
彼はやっぱり、ベッドに散った私の髪で遊んで。

それだけの事が、とても幸せだった。



それから3ヶ月して、二人で日本へ帰った。
空港では蓮のファンと報道陣で動けなくなった。
私をかばって蓮はいつもなら答えるインタビューブースを避けた。

それから私には自伝作成の依頼が多数来た。
私だけではなく蓮のプライベートも見られると期待してのことだろう。

社長へ挨拶に行くと、「グレッグとリンディはあのあとどうなった?」と、まるで向こうでの様子が分かっていたような言われように私は驚いた。
蓮は分かっていたのか、苦笑するのみだった。

「おや、グレッグとリンディは戻ったんじゃないのか?」

不思議そうな顔をした社長は、首を一度かしげた。

「社長?なぜ二人の事を知ってらっしゃるんです?」

私は不思議に思って切り出した。

「なに、だって二人とも俺が採用したんだもん。似てたでしょ?二人とも。」

まさか・・・・・。

「いや、蓮がアメリカに行くって決まって下見にいったんだよ。たまたまね、廊下であったグレッグが…蓮にそっくりだった。しかも連れていた女の子は最上君そっくり。運命を感じたね。そのあと何があったのか・・・あの二人分かれたんだって?いやぁ、どこかの誰か達の話を聞いているようでね。ほっとけなかったんだよね。リンディを蓮につけておけば、絶対蓮の性格上彼女には手を出せないし、最上君のことも忘れられなくなる。最上君にグレッグを付けたのも同じ理由ね。思い合ってる男女がわざわざ離れて暮らすなんて、寂しいじゃないか。ね、全て丸く収まった。なんたって最上君、ラブミー部員一号だったんだからさ。オレから久々に100点のハンコ、あげようか?」



全ては社長の手のひらの上だったのだろう・・・・・。






第二部 終

Cross 完


2005年春から夏にかけて。


長い物にお付き合いくださいましてありがとうございましたv
草稿ですが・・・いい加減ブログから移転させました。
隙を見て加筆していきますね。
流れを変えるつもりは無いので単なる加筆推敲ですが・・・。