【Cross 22】






どうも最近、色々と記者に追いかけられている時間が長くなったような気がする。

なぜこんなにオレの様子を知っているんだ?オレのスケジュールが洩れているとでも言うのだろうか?それ位、意とも簡単にオレの側をカメラが撮っているように感じる。この5年、そんなに追いかけられた事がなかったせいか、どうもやりずらい。何をしても「交際発覚」だの「浮気」だのと書きたてられる。おちおち共演女優やスタッフと食事にも出られない。その被害者の最たるがオレのマネージャーで、彼女は笑っているが、仕事先で色々と噂や誹謗中傷にあっているようだ…。オレには言わないけれど。だいぶ体調も悪いようで、顔色が悪い事が多い。

「レン?青よ。」
「あぁ、ごめん、ん・・・・あれは・・・・?」


オレの目に飛び込んできたのは、目の覚めるようなショッキングピンク。

あれは・・・。

「ちょっと、まって、引き返す。」
「レン?ダメよ、遅れるわ。」
「オレの、知り合いだと・・・思うんだ。」
「レンの?」

あの目の覚めるようなショッキングピンクの作業着・・・・に背中には何かマークなんて、今まで生きてきた中で一度しか見た事がない。

あの子だ。

髪の毛が長いから、もしかしたら相方のほうかもしれないが、黒髪じゃない。
だからやっぱりあの子・・・・・。

リンディの止めるのも聞かず、オレは車を道に横付けして、車を後にした。リンディはそのまま車に残した。あの子の周りには現地スタッフがいるのみで、日本人は居ないようだ。あの子はどうも英語で全てをこなしているように見える。中継か何かが終わった後のようでしばらくスタッフと打ち合わせをしていて、OKが出たのか、彼女は一人離れてスタッフの片付けの様子を伺っていて・・・・。

オレは、髪のとても長いその子の後ろに立って、敢えて日本語で声をかけた。

「・・・・最上さん?」

ばっと振り返ったその子の目がこぼれそうなくらい見開かれて・・・・固まった。

「・・・・・・な、なんで・・・・・つ、敦賀さんが・・・・?」

なぜか英語で返す彼女に可笑しくて、笑ってしまった。
なんて綺麗になったんだろう、そう思った。

「い、いや、日本語でいいのに。」
「つ、敦賀さんが何で・・・ここに・・・・。私、何か夢見てる?もしくはグレッグのいたずら?あぁ、私まだベッドの中・・・?」
「いや?グレッグ…君の知り合いなの?あそこにいる彼?あぁ、確かに…とても似ているね。でも、オレは、こっち。オレだってば。本当に…久しぶりだね。」

そう言って、手を伸ばすと、彼女はふらふらと、実に彼女らしくふらふらと近寄って、手を握った。

「つ・・・・つ・・・・つるがさんが・・・目の前に・・・。」

なぜかずっと英語だった彼女が、最後だけ日本語になって、そのままがっちりと腕をまわされて、抱きつかれた。

「元気?なんでここに?仕事?」

彼女を抱きとめて、首を縦に振る事しかできなくなっている彼女の髪に手をやって、撫でてやった。

周りに居るスタッフがオレの正体と、彼女の様子に気付いて目を見開いているのが分かった。
オレは必死に自分の気持ちを抑えて彼女と話さなければならなくなって、日本語にした。

「びっくりした、このツナギ、まだ着ていたんだね。やっぱり目立つよ、それ。じゃなきゃ通り過ぎてた。何、ドラマの撮影か何かでこっちまで来たの?」

彼女はふるふると頭を振って、涙声のまま今こっちのLMEにいるんです、とだけ言った。

いつの間にこっちに来ていたのだろう。
なぜ、誰もオレに連絡を入れなかった?

「レン!!もう、無理よ、飛行機に遅れるわ!!」

リンディが遠くから叫ぶ声が聞こえた。

「分かったよ・・・。ごめん、最上さん、時間・・・またゆっくり会おう。じゃぁ・・・。」

そう言って彼女の身体を離した瞬間、彼女は意識を失った。
びっくりして、再び抱きとめて、抱える。
真っ青な顔をした彼女が目に入って動揺した。

「レン!!!」

相変わらず遠くからリンディの叫ぶ声がして、オレは走って近寄ってきた…グレッグに彼女を渡した。

「はじめましてグレッグ、レンだよ。彼女の事頼む。」
「はじめまして。彼女はマネージャーの僕が責任を持って。またお会いしましょう。リンディによろしく・・・。」

彼は最後、オレをにらみ上げてそう言った・・・。
何なんだ…この間といい・・・。

「グレッグ、お願い!!レンを!!」

必死な叫び声に、オレはグレッグに一礼するときびすを返して、その場を去った。
彼女と一緒だったスタッフと一般大衆の視線が刺さったが、無視した。

リンディは相当急いでいたのだろう、目に涙を浮かべていた。

「ごめん、リンディ…心配かけて…待たせたね。」
「いえ、いいのよ…彼女は…。」
「日本で…後輩だった子。まさか来ているとは思わなかったから…。ちょっと声をかけようと思ったんだ。あぁ、まだギリギリ間に合うかな。」

オレは時計をみて少しほっとした。まだこちらでも、あの子が守った「無遅刻・無欠席」記録は更新中で。ただ、彼女が気を失ったのに、それを押して仕事に行くのが心苦しい。

彼女はオレに会って涙を浮かべた…なぜ?不破はどうした?また捨てられたのか?
あんな倒れるほど弱った彼女なんて、想像ができなかった。

「ごめんなさい、名前呼んじゃった。気付かれちゃったわね。でも…。」
「いや、いいよ。おかげで間に合いそうだ・・・。」
「彼女、今こっちのLMEにいるそうだよ。なんで誰も言ってくれないんだろうな、まぁ、オレ事務所にほとんどいられないから・・・。リンディ、悪いんだけど、今度ロスに帰ったら彼女の連絡先と予定、社長に言って、もらっておいて。会いに…行きたいんだ。」
「・・・・わ・・・わかったわ・・・。」

リンディは、かなり顔色が悪く、やはり体調が悪そうだ。そのまま、黙ってしまったリンディに、後ろで横になるように言うと、大丈夫、とだけ返された。

「リンディ…ところで、あのグレッグと…何かあったのか?」
「グレッグは・・・幼馴染で、昔の私の・・・婚約者・・・よ。今は何でもないわ。」
「・・・グレッグは彼女のマネージャーもしているそうだよ…。オレのスタントを勤めてもらった事もある。別撮りだったから直に会ったのは今日が初めてだけれどね。・・・確かモデルもしているよね?」
「グレッグがマネージャー…?あの人の?」

そう言ったままリンディは黙った。
彼女とグレッグの間には何かあるようだ。
彼女と不破との間に何かあったように・・・・。


抱きとめた彼女の腕に…オレが昔置いていったクロスのペンダントヘッドが付いていた・・・・。



それから二人とも移動の間、何も話さなかった。







*****



ひどく悲しい夢を見た気がした。

最初はとても幸せな夢だと思った。
敦賀さんが目の前で私の名前を呼んでくれた。
なのに、どんどん遠くに行ってしまう。
一生懸命手を伸ばすのに、すたすたと光の奥へ行ってしまって、私は叫ぶ。

「いやぁぁぁぁぁ。」
自分の声で目が覚めたようだ…。
目を開けると、自分の寝室だった。
「大丈夫・・・?」
グレッグが心配そうに覗き込んでくれていた。
「グレッグ・・・・?」
「君は…レンに抱きとめられたまま気を失った。そのまま僕がここへ運んだんだ。」

やっぱり…あれは夢じゃなかった・・・。

「っ・・・・・・。」

また涙が止まらなくなってしまって、グレッグは頭を撫でてくれた。
あの時、敦賀さんも頭を撫でてくれた…。ピンクのツナギを覚えてくれていた…。

「彼は…本当に君の事を大切にしてたんだね…。気を失った君をオレに渡すとき…見た事がないほど真剣で怖かったよ。スタッフがね、彼をレンだと気づいてしまったから、一応日本での先輩だったとだけ答えておいたけれど…。」

そうだった…敦賀さんはこっちでも有名な人だった…っけ。

「敦賀さんが・・・・また会おうって・・・言ってくれた・・・・えっっ。」
「良かった、良かったね。また会えるよ、キョーコ。だから、もう泣き止んで。」

ね?といって涙を拭いてくれたグレッグが、また敦賀さんに見えて、私は大泣きしてしまって、しばらく泣いた後、そのまま寝てしまった。

次の日早速、社さんに偶然会えた報告のメールを入れた。社さんから「あとちょっと!」という励ましのメールと、また荷物送るねという追伸が入っていた。