【Cross 21】




ロサンゼルスについてすぐに次のマネージャーと連絡を取った。
空港まで迎えに来てもらう間、空港内の書店で週刊誌に敦賀さんの記事を見つけて驚いた。

敦賀さんはこちらでも今まで「週刊誌を一度もにぎわせた事がない大物俳優」だったらしい。「レン マネージャーと?」という内容の記事だった。そしてなんてすてきなタイミング・・・と自分の不運さを呪った。マネージャーと一緒に車の中でなにやら・・の所を撮られたようだ。写真は暗くて実際の所はどうだか分からないのと、記事が全てあいまいなので、自分に都合よく・・・・信じない事にした。

そうして来た次のマネージャーは、グレゴリーと言った。グレッグでいいというので、キョーコでいいと、お願いした。彼は父親の仕事の関係で日本で何年か生活したことがあるようで、日本語が分かるようだった。それでも私の英語は彼に通じるようだったから、こちらに慣れるために、全て英語で、とお願いした。

彼は背がとても高くて、敦賀さんと同じかそれ以上か、という感じである。年はなぜ彼が俳優を目指さないのかという位、金髪碧眼の絵本の中の王子さまのようにとても綺麗な顔をして、驚いた事に彼の目と・・・・優しく微笑む姿が敦賀さんにとても似ていて、困った。私が困った顔をしたのを見て、「どうしたの?」というので、

「知り合いに似ていたので、びっくりしたんです。」

と答えると、外人のお友達いるの?と言われて、「いいえ・・・」とだけ答えた。


空港を出た車の中で聞いたところ、彼はやはり、モデルをしているようだった。LMEの社長・・・・なぜかローリィ社長のお眼鏡にかなって、入ったと言う。今年はそれをこなしながら、私についてくれる。敦賀さんといい、社長はこの手の顔がきっと好きなのだ。

そんな彼が私についてくれるのは、私は一年限定だから・・・という事らしい。私が仕事が多くないからいいと断ったのだけれど、日本とまたしきたりも違うから、掛け持ちでも大丈夫だと、言い張ってくれた。何かと日本人だし、女の子一人は心配だし、と微笑んで言われて、まるで敦賀さんに言われているような気がして、Noとは言えなくなってしまった。


そうして私が案内された部屋は・・・本当に・・・アメリカンカントリー風な可愛らしい小物がたくさん並んだ部屋で、私は狂喜乱舞した。グレッグは爆笑していたが、向こうを立つ前に社長に、「今まで頑張ったご褒美に部屋は君好みにしておいた」と言われていたのだけれど、それは想像以上に可愛くて。

「君、こういうの好きなの?」
と腹を抱えて笑って言うグレッグに、
「だってだって。可愛いもの、好きだもの!」
と言ったら、「アメリカでもここまでごてごてとした部屋、初めて見た」と、さらに腹を抱えて笑われた。


寝室に、マリアちゃんから貰った人形をかざり、その人形が着ているのと同じ写真を飾った。

敦賀さんから貰ったネックレスは、ペンダントヘッドだけを外して、細い黒皮の紐につけ、リュークと同じようにそれを手首に巻いている。
ペンダントのままつけていて、どこかひっかけて鎖が切れないか心配だったから。
どこかで頑張っている敦賀さんを思って、コーンと共にお守り代わりにしている。


こちらに来て二週間後、初めて事務所にお邪魔をした。もしかしたら、敦賀さんがいるかもしれないかと思って、ドキドキしながら行ったのだけれど、敦賀さんは、ほとんどこの事務所に顔を出す暇すら無いほどアメリカ中を飛びまわっているらしい。
とにかく、この事務所から移籍していなかったのが幸いで。
だから、私はここを動かなければいつか会えると・・・・思った。

もちろん敦賀さんの状況や住んでいる所、連絡先は聞き出せなかった。確かに私と彼の関係が特に分からない以上、教えてくれるはずも無いし、その関係をわざわざ言うつもりも無かった。しかも情報管理は、日本よりとても厳しいようだ。たしかに、新聞記事や雑誌を見ても、海外のマスコミは日本のそれよりも大変なようだから、仕方がない。

私は諦めて、日々の仕事をこなす事に決めた。


*****


それから一ヶ月が過ぎて、だいぶこちらの様子にも慣れた。

グレッグはとても優しくて、毎日送り迎えをしてくれる。
「彼女に…誤解されても知らないわよ?」
と一度言ったら、
「そんなのいないよ。」
とふてくされた。その顔がすねた敦賀さんみたいで、可笑しかった。

どうも、グレッグをみていると、だんだん敦賀さんと混同してきて、たまに、自分でもおかしな行動に走りそうになる。

欲求不満・・・・・・・・・なんだろうか?


別に私は敦賀さんの顔だけが好きなわけじゃないんだけれど。
昔ショータローと「顔だけ俳優 敦賀蓮」と言っていたのを思い出して苦笑した。

それでも離れていた5年は大きくて、敦賀さんがしゃべって動いていると思うと、ついうっかり、グレッグを見つめてしまう。英語を話す敦賀さんをDVDで見たけれど、多分、顔が似ているということは骨格も似ているのだろう、声もそれとなく似ている。年は敦賀さんより若くて、私より2つ上。

ちょうど別れた5年前位の敦賀さんに似ている気がする。これで髪をダークブラウンにして・・・黒茶のコンタクトを入れたら・・・私は多分・・・・・・気が狂う。

変な想像をしていて、急に呼ばれて、変な声が出た。


「キョーコ?」
「ご、ごめん。変な考え事してて・・・。」
「目がこぼれそうな位見つめられたまま固まられても、オレ困っちゃうんだけど。」
「あぁぁぁぁっ。ご、ごめんなさいっ・・・・・・。」

あわてて謝罪した私を見て苦笑していたグレッグは、荷物を部屋に上げてくれた。

私は送り迎えしてくれるお礼に、グレッグと共に食事を家で摂る。
知らない地で一人で食事するのも寂しい私と、一人暮らしのグレッグにはちょうど良かった。


昔・・・・・・敦賀さんとそうしたように・・・・・。


食事を摂り終って、リビングでTVをつける。今日は敦賀さんが出るドラマの放送初日で、私はなにがなんでも時間までに帰ろうと、仕事を頑張って帰ってきた。

「ねぇ、キョーコは何でアメリカに来たの?もともと向こうですごい売れてた女優だったんなら、ハリウッド・・・めざしてきたんじゃないの?こっちで・・・少しもやらないじゃない?」
「あぁ・・・・うん。LMEの日本人海外進出開拓っていう名目では・・・来ているけれど。本当はね、人探し。女優は休養中なの。そのへん社長も分かってくれているから。」
「へぇ?」
「探している人…同業なの。だから少しは仕事を続けていたら見つかるかと・・・思ったんだけど・・・。」
「じゃぁなおさらハリウッド目指した方がいいんじゃないの?」
「いや、昔・・・そういう自分の都合を理由に女優をするなってその人に言われて・・・。」
「まぁねぇ・・・確かに。追っかけで女優されてもってトコか。」
「あ・・・・。」

敦賀さんだ・・・。

「レン?日本でもやっぱり有名だったんでしょ?今じゃうちの事務所の看板だしね。」

グレッグが、テレビにちらりと目をやって、あぁ、という顔をした。

「それはもう…すごかったわ。今でも逆輸入で、出す作品すべてすごい勢いで売れるし。日本から彼を見に、ショーの見学ツアーが組まれているのよ。私も事務所の先輩だから・・・とてもお世話になったの。こっちで頑張っている姿が生で見られるのはやっぱり嬉しい。・・・・本当にすごい。」

まさかグレッグを見つめてしまう理由が敦賀さんに似ているからだと、しかも探している人がその敦賀さんだと分かったら彼は怒るかもしれない・・・。だから、ついドラマを見るのが後ろめたくなってしまう。

「そう・・・・。」

グレッグの妙に冷めた返答に、TVから目を離した。
もしかして、私のアメリカへ来た理由を、既に分かっているのだろうか。

「グレッグ?」
「レンって・・・いいやつ?」
「えっ?・・・なんで?」
「いや・・・珍しく最近よくすっぱ抜かれてるからさ・・・。相手の女の子、レンのマネージャーでしょ?オレ友達だから。遊ばれたんなら可哀相だからさ。」
「あぁ、あれね・・見たわ・・・。でも敦賀さんは私には尊敬できる…素晴らしい人よ。」
「そう。ならいいけど。それにしても・・・。」

そう言った後グレッグは黙ってドラマを見入るばかりだった。




*****



二ヶ月ほどまったく何の情報も得られず、過ぎた。
比較的暇だとおもった仕事も順調で、時間が幸いにも早く過ぎていった。

リコさんから貰ったメイクセットは今でも宝物で。リコさんは私が出発する前に空港へ見送りに来てくれて、何をするかとおもったら、リコさんの命の次に大事なメイクセットをくれた。私がさすがに断ると、買いなおすからいい、と押し付けられた。一緒に行けない代わりに絶対に私のメイク以外をつけないでねと言われた。今更ながら、メイクの方法を少しずつ教えてもらってよかったと思う。こちらの化粧品はどうも合わなかった。

たまにロス内の街角をグレッグとお散歩させてもらっていたけれど、どこを歩いていてもつい、黒髪の長身に目が行く。海外で黒髪はそう多くないから、つい毎回期待してしまう。


それにしても。


先ほど事務所で会った女の子が、敦賀さんの日本で見た事がない写真集を持って歩いていたから・・・「敦賀さんの情報・・何かあったら下さい」と聞いてみただけなのに、ひどく驚かれて、「あなた・・・レンの何?」と睨まれながらいわれた。
初対面のはずなのに、その態度にカチンと来て、つい声をあげてしまった。

「何?ってどういうことです?」
「そのままの意味。追っかけ?なら出て行って。彼は忙しいの。」
「・・・・・・あなた・・・・その顔・・・マネージャー・・・あの週刊誌に出ていた・・・」
「だから?」
「あなたがここにいるっていうコトは・・・・ねぇ、敦賀さんここにいるの?」
「さぁ・・・不躾なあなたに答えると思う?じゃぁ、私は忙しいから。また日を改めてね。」
「敦賀さんに、これ・・今の連絡先だから。話がしたいの。お願い。」
「あなたとレンがどういう関係かは知らないけれど、そういうのいちいち聞いてたらレンの仕事に支障をきたすの。あなたもここに入れるって事は少しは詳しいんでしょ?分かるわよね?彼は寝る暇も無いほど忙しいの。じゃね。」
「ちょっ・・・・。」

彼女は私が渡した紙を丸めてポケットに入れると、私の手を振り解いて行ってしまった。
あの子の後を追っていけば多分敦賀さんにたどりつくのだろう。
でも、それはとても癪で、あの子とともに彼に会いたいとは思わなかった。


敦賀さん・・・・・なんであんな女の子を選んだんだろう?彼の趣味の悪さを疑って、長い間私の背中に隠れていた怨玉が飛び出しそうだ。ガセだろうと真実だろうと、とにかく彼のイメージが下がりそうな、この状況はどうにかしたほうがいいと思うけど・・・。どうせ選ぶなら、もう少し…優しい、性格のいい…人にして欲しい。ま、あそこまで性格がひねている分、敦賀さんから奪うなら、ためらわないのだろうけれど。

結局情報を得られなかったから、またいつ事務所近くまで来ているのか分からなくなってしまった。

「・・・キョーコ?」
しばらく怒りに打ちひしがれたまま、ソファに座って彼の帰りを待っていた。
「ハイ、グレッグ。」

「お待たせ。どうしたの?うわ、ひどい顔・・・。」
「ご、ごめん、つい、背中にいるのが出そうになって。」

「背中?うっかり?」
「ごめん、こっちのこと。ちょっと気分の悪いと言うか・・・どうも私の目的達成に向けて最悪な状況だから・・・。」

「何?探している人見つかりそうにないの?」
「いえ・・・。大体掴めているんだけど。どうもしっくりこないのよねぇ。なんで私の顔を見ただけで、こう・・・「ここで会ったが100年目」なんていう対応されなきゃいけないのかしら…。」

「一体・・・誰に会ってそんな顔になるの?」
「探している人のマネージャー。」

「ねぇ・・・君は誰を探してる?ここにそのマネージャーが居るって事は、この事務所の人間なんでしょ?日本からアメリカへきている日本人はそんなに多くないじゃない?リョー?それともレン?」
「グレッグに探してもらうわけに行かないわ。これは私の意地なの。」

平静を装って答えた。答えが既に当たってしまったので、内心困った。
敦賀さんのように、ポーカーフェイスはできただろうか?

「そう?そうだ、さっきあっちでレンがマネージャーと帰っていったよ。キョーコに声かければ良かったかな。お世話になった先輩だったんでしょ?」
「え・・・・。」

やっぱりあの女の子はマネージャーだったのね。そして、そこに敦賀さんいたんじゃない・・・。

「キョ、キョーコ?レンがどうかした?」
「いえ・・・・お世話になったけど、昔いじめられもしたからそれを思い出しただけ。」

ついまた背中の怨玉が飛びそうになって表情を強張らせた私に、グレッグがうろたえた。嘘を通し続けられる自信も無かったので、私は立ち上がって、グレッグの腕を取った。

「グレッグ…さぁ帰りましょ。またそのうち会える機会もあるわ。」

そう言って、アメリカに来て一番最悪の事務所訪問を終えたのだった。


その日の夜、社さんからこちらに来て初の手紙が届いていて、私は浮上した。中には私が出演した「語りの彷徨」のDVDとその後のショータローのコメントが載った週刊誌の記事、それにリコさんに頼んでおいた化粧品が入っていた。

『キョーコちゃん、元気にしている?例の番組放送後、不破君は逆に株が上がったよ。「大切な人を守るために」なんてマスコミが持ち上げてくれてね。だから、彼も対応は楽みたいだよ。キョーコちゃんの株も下がってないから大丈夫。早く戻ってきてっていう、ファンレターやメール多いんだから。キョーコちゃんのインタビュー見たあちこちの監督さんが、またぜひ今度キョーコちゃんを主演にって言ってくれているよ。自伝出さないかって出版社もいくつか連絡くれてる。それとね、大越先生が本当にキョーコちゃんを彷彿とさせる小説の連載に入ったよ。それ、入れておくから読んでみて。先生ずっと気にかけてくれている。だから感想と手紙送ってあげて。とても喜ぶから。   社』

という内容の手紙があったので、即座に返信を書いた。


『社さん、お手紙とDVD等ありがとうございます。こちらでは仕事が思ったよりも順調で、暇が無くて驚いています。日本語番組は快調ですし、日本への朝のロス中継もどうですか?変じゃないですか?たまに聞く日本のアナウンサーの日本語は新鮮です。
ところで、マネージャーのグレッグは、とても良くしてくれています。が、どうも、彼を見ていると、「あの人」が思い出されてとても困ります。モデルとして所属しているんですけどね、社長の引き抜きと聞きました。きっと社長この手の顔好きなんですよ・・・。グレッグが出ているモデルの記事入れておきますので、見てください。あまりに似ていて笑ってしまいますから。先生にはまた改めてお手紙差し上げますとお伝えください。ちなみにまだ私の目的は達成できてないんですよ。今日、初めて彼のマネージャーさんに事務所で会ったのですが、早速嫌われてしまったようで…。何ででしょうね。ところで彼、こちらでも「ゴシップなし大物俳優」だったようですよ。私が来てすぐの頃から記事が出始めて、最近は毎週のように騒がせています。相手はどうも、今日会ったマネージャーさんのようです。真相のところは、彼が答えないようなので、不明です。もうしばらく頑張ってみますけど・・・。では社さんもお体に気をつけて。     最上 キョーコ 』

と書いた。


とにかく、ショータローの足を引っ張らずに済んだのと、帰っても何とか居場所が残っていそうな様子に安心して、その日は久々に「コーン」と会話をして寝た。




*****





事務所で聞いたのだけど、キョーコはこの1年限定でアメリカに来ているという。
この1年さえ乗り切ればレンはこのままこちらにいるに違いない。

と思ったのに。映画の撮りから2ヶ月ぶりに戻った事務所で、早速でキョーコに会ってしまった。なんとか普段のマネージャー対応でその場をしのいだ。レンに繋いでくれという女優はそこら辺にたっぷりいるので、断る対応には慣れているのだけど、どうもこのキョーコという人の前に立ってみたら、普段よりも私情が入る分つい、キツく言いすぎてしまったかもしれない。もちろん渡された紙など渡すつもりも無い。けれど・・・なぜ彼女は事務所でもっと彼について調べないのだろう。同じ日本人なら理由さえ分かれば、もっとレンの情報をくれそうなものなのに。だから、彼の居所が分かるのは時間の問題かもしれない・・・・。そして、同じ日本から来たから、レンが帰ったら挨拶したいと一言社長に言えばすぐに会えるのに。なぜそうしないのだろう?

5年前のDVDで見たよりもずっと大人びて髪がとても長くなって、綺麗になっていた。この5年私が持っている彼女のDVDは持っているものの、見ていなかったから、ここまで綺麗になったとは知らなかった。もし・・・もし・・・レンが会ったら・・・。

「リンディ、どうした?そんな真っ青な顔で息を切らせて。」

キョーコと最悪の対面を果たした私は懸命にレンの近くに寄った。
早くこの場から出なければ、レンとキョーコが会ってしまうという焦りから、私は必死だった。

「ええ、お待たせ。たいした事じゃないの。」
「たいした事じゃないって顔じゃ、ないけどね。」
「そう?ちょっと遅くなって疲れたのよ、きっと。さぁ、帰りましょ、レン。これ、この間の写真集…出来上がったから。ヤシロさんに送るなら使って。」

こんなのを表に出していたがためにキョーコに見つかる羽目になるとは思っていなかった。今度から必ずカバンにいれて持ち歩くわ。

「あぁ、ありがとう。でも最近…リンディ、マスコミの誤解記事のおかげで疲れているんじゃないか?巻き込んですまない。」
「いえ・・・いいのよ。」
「どうも最近張られていてね。今までそういうコトほとんどなかったんだけど。まぁ、いいけどね、ガセだし。リンディがそれ以上体調悪くなるようなら、記者捕まえてちゃんと話すからね?」
「うん・・・・・。」

本当に優しいレン。
真実を知ったら私をどうするだろうか?
罵って、嫌悪感たっぷりの顔で、近寄るなと言うだろうか?

「さぁ、遅いし、行こうか、リンディ。ところで・・・・あれは知り合い?」

指差した先に振り向くとグレッグがこちらを見て立っていた。

「あぁ、うん。ハイ、グレッグ。またね。」

グレッグは手を振っただけで、行ってしまった。

彼とは子供の頃からの知り合い。そして幼馴染。
色々あって今では離れてしまっているけれど。
見るのは色々思い出して辛い。

本当は・・・・。

「へぇ、あれがグレッグ。」

考え事をしている途中に、蓮に呼ばれて我に返った。
久しぶりに、グレッグの顔を見て・・・・動揺した。

「何が?どうしたの?」
「いや、日本の社長から昔ね、「お前に似たのが「モデルになりたい」って言うから採用した」って言われて、その名前聞いていたんだけど。オレのスタントもしてくれていたはず・・・・。似てるかな。あぁ、よく顔見えなかったな。残念。」

そう・・・言われればグレッグとレンは似ている・・・・。
というより、髪の色と目の色が同じだったら本当に双子のように似ているかもしれない・・・。

今まで考えもしなかった。

「グレッグとレン…。」
「似てる?」
「そう・・・ね。似ているかもしれないわね・・・。」


私はこの手の顔が好きなのだろうか?



私はぞくぞくとした冷や汗が流れ、変な不安を覚えて、レンの腕を取った。




*****




キョーコは、どうもオレを見たまま固まる事が多い。最初に会ったときもそうだった。

最初はなぜそうなるのか不思議だったのだが、だんだんと彼女と過ごす時間が増えてきて、「レン」の言葉に微妙に反応する事、毎週彼のドラマをかかさないこと、自分のDVDと彼のDVDは全てあること。ほとんど物を持ってきていない彼女の寝室に、彼の人形と写真が一つだけ飾ってある事を実は知っている。敢えて口に出さないけれど。

彼女はやはりレンを追ってきたのだ。

レンは5年前LMEの日本本社から派遣されてきた。最初は、役者というよりは、そのルックスと身体のバランスの良さから、モデルとして活躍した。その身のこなしは一昼夜で身に付いたものではないのは分かる。今でもその仕事はひっきりなしのようだが、彼はそれよりも演じる事の方が好きなようだ。

ハリウッドでもそれなりに仕事をこなし、賞に助演でノミネートされてからブレイクした。彼は東洋人ながら英語はネイティブだし、その度胸のよさもカンの良さも人より抜き出ているような気がする。何よりこぞって言われるのが、ビッグになっても周りに対する温和で謙虚なその姿勢と、仕事に対する情熱と厳しさ…がいいのだという。もちろん東洋人だけに、そこまで上がるのに人一倍の努力と忍耐が要っただろう・・・。その精神力にオレは感服する。

だがオレはアイツが苦手だ。素直にその素晴らしさを受け入れられない。

なぜって、それはオレがアイツのコピー商品のような気がするから。最近気づいた事なのだが、キョーコを見ていても分かるように、レンを知っているヤツはかならずオレを見て固まる。そして口々に言う。「髪の色と目の色が黒かったらレンね。」と。キョーコはなぜかそれをオレには言わないが・・・。レンを探している事を内緒にしようとしているからだろうか。

オレはもともとスタントをしていてモデルに引き抜かれた経緯もあって、ハリウッドでは、オレがレンのスタントをする仕事もある。髪を黒くしてコンタクトを入れて。最近ではその仕事のためにオレはいるのかと自暴自棄になりそうだ。社長は、「それも仕事の一つ。でもそれをこなしながらお前はお前らしさを出せばいい。お前は俳優というよりモデルになりたいんだろう?なら、いいじゃないか。」と言う。確かにオレは演じるよりモデルの仕事の方が好きだ。好きな服をいかに綺麗に見せるか…を考えるだけでわくわくする。だがレンはそれすら超えて一歩先にいる。

しかし。全てこれらの醜い感情がオレの仕事以外の違う感情を挟んだ、嫉妬だと言うと事は分かっている。

アイツはオレが欲しかったものを全て先に手に入れる。

最近の記事で、ついにアイツは、オレが唯一それだけでいいと・・・欲したものを手に入れた・・・ようだ。真相のところはよく分からない。なぜあの子はオレの顔と同じ顔を選ぶのか?彼女はオレの幼馴染・・・いつか結婚すると思っていたのに。あの日までは・・・・。なぜ・・・。

先日レンとあの子が一緒にいるところを久しぶりに見かけた。声をかけようと思ったが、レンの鋭い視線に結局かけられなかった。レンはあの子をしっかり守っているようだ。だからあの記事は…真実なのかもしれない。気付いたあの子が本当に数年ぶりに声をかけてくれたが、近づけなかった。近づく権利が無い。だから、手を振るだけにした。

なぜキョーコは、レンを追ってきたのだろうか。キョーコは日本でも有名な女優だと言う。なのに、今年は休暇をとってまで彼に会いに来た。なぜ、同じ日本人としてこちらの社内で広げて彼に会いに行かない?なぜ一人で探そうとする?そしてなぜそれをオレに隠す?オレはそれが口惜しくてしょうがない。キョーコを見ているとあの子の目に似ていて、たまに目を逸らしてしまう。レンもあの子を見てキョーコを思い出しているのだろうか・・・?今までそういう記事が無かったのはそのせい・・・?だとしたら・・・?

4年前、あの子の家でキョーコのDVDをこっそり見た事がある。レンの事を知りたくて勝手に見たら、あの時はあの子にとても怒られた。その時、主演の女の子はキョーコだとは知らなかったが、どうもあの子の目に似ていたので印象に残ったのだろう。

先ほど、キョーコのTVボードの中に同じものが入っていて、驚いた。今、お願いをして見させてもらっている最中だ。もうすぐ終わる。キョーコは途中で恥ずかしいから寝室に行くと言って出て行ってしまった。

レンが日本で最後に演じたものだと言う・・・。レンの恋愛映画やドラマはもっと静かで、穏やかなものが多い気がする。こんな目をして女性を抱くのか?だがアメリカでも彼のこういったシーンは演じている。確か去年の映画であった筈だ・・・。

オレは日本でのキョーコの演技をこれ以外見た事がないから知らないが、普段の彼女とは全く違う…こんなに「女」の目ができるんだなと思った。正直、あの子が抱かれているようで、見ている間レンに嫉妬した。レンがこのショーという男と対峙するシーンも何かおかしい・・・。レンとショーは嫌いあっていたのか?レンがアクション映画で敵と対峙するときこんなに激しい目をしていたか?

考え事をしているうちに終わってしまった・・・・。

ん?・・・・?

何だこれは・・・・?前に見たときは・・あぁ・・・・あの子にすぐ消されて気付かなかったのか。この最後のシーン…このレンは素か?こんな笑顔見た事がない。

キョーコはレンがレンはキョーコが好きだったのか?なぜ今一緒にいない?なぜ5年連絡を取らない?いまなぜキョーコは今になってレンに会いに来る?・・・もしかして、このペンダントは・・・キョーコの手についているそれか?一体何がどうなっていて、なんなんだ?


すっかりオレの頭の中は疑問符で埋め尽くされた。


「グレッグ…終わったみたいね。」

キョーコが悲しそうにそこに立っていた。

「キョーコ・・・真実を。」
「やっぱり?ばれちゃった?」

苦笑した彼女は、オレの横に膝を抱えて座った。

「そりゃね。オレ役者もかじったからね。」
「ゴメンね、グレッグ。ずっと言えなかった。それに・・・その映画・・・私ずっと見られなかった。実は・・・今日始めて見たの。でもやっぱり最後まで見られなかった・・・。途中…辛すぎて見られない。最後の最後のシーンあれね、打ち上げなの。私、酔ってしまって何も覚えていないの。後で見せてもらってね、自分の気持ち、後になって知った。その時にはもう敦賀さん…アメリカ行っちゃった。ずっと側にいたのにね。」

そう言って彼女は顔を隠すようにして、オレの腕にもたれかかった。

「ごめん、グレッグしばらくこのままでいさせて…。」

オレは彼女を正面から抱き寄せた。
彼女は少し身を強張らせたが、素直にそのままオレの背中に腕を回した。
しばらく、震えて・・・涙を声もなく流した。

「ねぇ、キョーコ。レンにすぐに会いに行けばいいのに?」
「うん、会いたい。でも5年も…頑張ったの、会うために。少しは彼に近づけるようにって…。だから、焦りたくない・・って思う自分と、もう何が何でも何を卑怯な手を使っても会いに行けっていう自分がいて・・・。まだ正直怖いの。会いたくて会いたくて、でも、会ったら5年何も連絡を取らなかったから・・・私のことなんて、すっかり忘れているって思ったら、どんどん怖くなってしまって・・・・。会いに行こうって目標があった時は、がむしゃらになれたけれど、それの結果を見るのが怖いの。とても。」

そう言って顔を上げた彼女はオレをしばらくじっと見て、息を吐いた。

「正直に言って言い?グレッグが・・・・敦賀さんにとても似ていて・・・・見るたびに思い出して、真実を告げられなかった。・・・・・今まで黙っててゴメンね。」

「キョーコがね、僕を見る目がとても寂しそうな時があって、それがレンと結びつくのにそう時間はかからなかった。でも、君は頑なにレンの事を口にしなかっただろ?オレはね、前からレンと似ているって言われて…正直なところ彼にコンプレックスがある。それと、君には言っておいた方がいいのかもしれない、オレも君と同じだよ。会いたくても側にいるのに会えない人がいる。君にちょっと似ているんだ。だから、おあいこ。気にする事無いよ。オレもこのままだとキョーコに何かしちゃいそうだしね。」

キョーコは顔を真っ赤にして離れた。

「キョーコもオレも、一緒に…取り戻せたら…いいね。」
「…そうね。そうなったら本当にいい。どうも、こっちに来て何も成果があげられてないから、気弱になってるのかなぁ。敦賀さん、彼女から奪うつもりでいたんだけど。元気が出た。ありがとう、グレッグ。」

そういった彼女の目はとてもきれいで、オレは迷わず引き寄せて抱きしめた。

「グレッグ・・・???」
「いや、ちょっとだけ…この先は・・・しないからさ。キョーコ、もしダメだったらオレのものになって。」
「へっ・・・???何言ってるの?さっき一緒に取り戻す宣言したのに。」
「ははっ、そうだった。そうだね。」
「敦賀さん、そんな直情的でストレートじゃないから、やっぱりあなたはあなただわ。いいんじゃない?そういうの・・・・。いや、あの、すぐ手を出せって事じゃないけどね。」

キョーコは真っ赤になって慌てふためいていた。

「そう?彼も実はとても熱い人に…見えたけどね、映画。そうだ、ねぇ、キョーコ、来月さ、LMEの持ってるプライベートビーチに行こう。2日位お休みもらおう。ね?約束。」
「そんなのがあるの?」
「うん、ロスのはずれにあるんだ。海には入れないけど、その分人は本当に少ないから。LMEに所属していれば誰でも行けるよ。ちゃんと泊まる所もあるし。…あ、何もしないって。ただ一緒に・・・一年しかいられないなら、記念になる所一緒に行きたいんだよ。今まで頑張ったご褒美。すごく景色がいいんだ。夕日が特に綺麗だよ。絶対に気に入ると思う。なんていったってあのローリィ社長があまりに気に入ってビーチごと買い取ったんだから。社長のお墨付き。ね?いいでしょ?」
「ホントに?嬉しい。行きたい…連れて行ってくれるの?」
「もちろん。」
「じゃぁ、また明日から頑張る。約束。一緒に頑張ろうね?」

握手を交わしたキョーコの顔がとても嬉しそうに輝いていたので、オレはとても幸せな気分になった。

この後、すぐに彼女と彼とオレとあの子は、本当に偶然遭遇する。