【Cross 20】







旧敦賀邸には、思ったよりも多くの人が集まってくれた。

社さん、モー子さん、飛鷹くん、社長、マリアちゃん、ショータロー・祥子さん夫妻、大越先生、リコさん、他のお世話になったスタッフさん、数え切れないくらいたくさんきてくれて、あの広い敦賀さんの家が狭く感じた。

社長とマリアちゃんが私が帰る前に既にこの人数にしては多すぎるほどの料理とお酒と飾り付けをリビングに用意してくれていて、仕事から上がった私と社さんを迎えてくれた。

その人数の多さと素敵な装飾に感激して、乾杯をしてすぐにまた泣いてしまった。


私は禁酒宣言をしていて飲めないので、私のために集まってくれたものの、勝手に盛り上がっている他の人たちをよそに、リコさんを・・・・元の敦賀さんの寝室に誘った。


二人なら大丈夫。

アメリカに行く前にあの窓際の風景を見たかった。

リコさんは、「入っていいの?」とすごく驚いたようにためらったけれど、迷った意味が分からなかった・・・・ので、もちろんと言って招き入れた。

窓からの風景は5年前と変わらなかった・・・・。

「あなた、本当に綺麗になったわね。」

「な、何ですか?急に」

「あの映画のときも、とても可愛かったけれど・・・・・・本当に綺麗になったわ。きっと敦賀さんが見たら、もう手放せなくなっちゃうんじゃないかしら?」

「な、なんでっ、敦賀さん・・・・?今日収録で私・・・誰とも・・・・。」
「だーって、毎日誰がメイクしてたと思っているの。あの映画の撮影中・・・・首筋に付いたマーク。消すの大変だったんだから。」

「へっ?」

確かに、練習と称して一個だけ付けられたのは、朝一生懸命消していたはずなんだけれど。

「へっ?じゃないの。キョーコちゃん、あなた映画撮ってたとき敦賀さんとつきあってたんじゃないの?」
「いえ・・・・・・?」

「だから、私打ち上げの前に言ったじゃない、あなた、本当に敦賀さんに愛されてるって。あれ、付き合ってると思ったから言ってみたんだけど・・・。だってお家にご飯作りに行って泊り込んでるだけの人が、付けて来て・・・たら・・・・ねぇ。敦賀さんのあなたに向ける目、ごまかせないほど優しかったし・・・。」
「首の・・・ここは・・・練習で・・・・練習してて・・・付けられました・・・。」

鎖骨の辺りを指差して・・・言った。多分私は今体中真っ赤に違いない。

リコさんは、あらら、と口に手を当てて言った。

「あら、そこだけじゃなかったわよ?「あんなトコ」につけてくる女優も珍しいから、私も逆に恥ずかしくなっちゃって、キョーコちゃんも敦賀君も随分と堂々としているんだな、と思ってたの。そのわりに、あっさり敦賀君アメリカに行っちゃったし、しばらくキョーコちゃんてば仕事休んだでしょ?もしかして、こっそり付き合ってこっそりダメになったのかと思ってたんだけど。あ、もちろん友情に誓って、このことは誰にも言ってないわよ?で、あのあと、不破君と付き合いだしたし、あなたも何にも言わなかった・・・。だからこの5年そうなんだとずっと思ってたの。でも今日の収録でも不破君とは何でもないってばらしちゃってるし。でもね、DVDの最後、見る限り、訳有りだと思ってたから、なんでこう矛盾しているのか疑問だったんだけどね。」

「・・・子供だったんです、私。愛されていた事に気付いてなかった。」
「そう・・・。だからあんな位置にばかり付けてたのね。」
「?」

「にしても・・・・ほんっと、敦賀さんの理性も相当ねぇ・・・・。あなた、酔っ払うと記憶なくすんでしょ?で、本音しか言わない・・・って昔教えてくれた事があったじゃない。夜、敦賀さんとお酒飲まなかった?そのあともしかして、本音で敦賀さんに・・・・迫ってたんじゃないの?」

「いや・・・あの、一緒に飲んだことはありますけど・・迫ったかどうかは・・・」

「・・・・・とっても下世話な話で申し訳ないけれど、あなたが酔って記憶がないまま迫って、あなたを好きだった敦賀さん・・・我慢に我慢してあんな見えない位置に付けて、あなたを愛してた「跡」をあげていたのね。打ち上げの時私、キョーコちゃんのメイク、主役だから直してあげようと思って探したのに・・・・主役の二人だけもう居なかったもの。そのあと何があったかなんて、邪推しちゃいけないかしら?それと…不破君と付き合っていた割に、そんなにあなた変わらなかったから。忙しくてそんなに会えないんだと思って見ていたんだけど。あぁ、変な話してゴメンね、キョーコちゃん。どう?正直なトコ、いい線行ってない?」

「・・・・・っ。」

恥ずかしい事を堂々と言われて、首まで赤面した。
全く覚えがないので、私はとても困ってしまう。
おろおろしてリコさんを見てしまった。

「だってあのDVDの最後、あれ第6スタジオじゃない。最後のシーン撮りがあそこだったと言われて、みんなが騙されてもこの私は騙されないわよ。この五年間、撮影中でも普段でも、他の男性俳優相手にあなたのあんな顔・・・・見たことないもの。あれ、二人とも隠していた「本音」・・・・なんでしょう?」

苦笑しながらリコさんは私の頭を撫でてくれた。

「・・・・・・。」

私はリコさんを見つめたまま、何も言えなかった。
敦賀さんを好きだった自分を・・・隠してたのは確か。
でも気付いていなかった。


敦賀さんの前で飲んだ時の記憶もない。



「リコちゃん、蓮は・・・最後の日・・・キョーコちゃんを抱いたんだよ・・・・・。」
「杜さん・・・っ?」

驚いて、振り向くと、社さんが後ろに立っていて・・・・寝室の扉を閉めながら言った。

「大丈夫・・・ここでずっと聞いていたけど、オレ以外誰も来なかったから・・・。」

と苦笑した。だからリコさんは続けた。

「あの時打ち上げで・・・・社さん、敦賀さんと一緒に行かなかったのよ?マネージャーなのに・・・・。だから、絶対何かあったと思ってたの。だから、社さんが・・・今そこに立っているのを知ってて、今の話させてもらったけど。」

リコさんはなぜか怒ったように、社さんを親指でふぃっと指差した。

「リコちゃん、ゴメンね。ありがと。キョーコちゃん、今まで黙っててゴメン・・・。」
「社さん・・?」
「あの打ち上げのDVD…一緒に見た時…君にひとつだけ言わなかった事があったんだよ。」

社さんは辛そうに目を伏せた。


「蓮が・・・・そのあと寝てしまったキョーコちゃんを抱えて・・・最後別れ際にオレに言った言葉。僕は君に言わなかった。蓮はね、「今夜抱いて忘れる」・・・・と言ったんだ。僕が蓮を空港で見送ったあの日、キョーコちゃんの・・・首後ろから背中にかけておびただしい数の「跡」を見つけて・・・・あまりに蓮の気持ちが・・・辛くて、言えなかった。キョーコちゃんが一切覚えていないし、その「跡」にすら気付かないのに、言えるわけがなかった。それを誰にも見せたくなくて、僕はキョーコちゃんの仕事をしばらく一切断った。だからあの時・・・二週間程・・・お休みしてもらったんだ・・・・。」

ぼろぼろ泣いた私を、うんうん、と何故かリコさんも泣いて、抱きしめてくれた。

みんな、私のことを本当に・・・考えて大事にしてくれて・・・・本当に幸せ者なのだと思った。

私が泣き止むのを待った社さんは、頭を撫でて、今度はちょっとだけいい報告・・・と言った


「・・・・ところで、僕はもう一つ謝らなければならない事がある・・・・。キョーコちゃん。そこの・・・・・・・サイドボードの一番下の奥の方・・・・・見てみて。」

開けると、中には一つだけ黒い箱が入っていた。


「それ・・・空港での別れ際に、20歳になったら・・・キョーコちゃんの誕生日と成人祝いにあげてって・・・・伝言されてたんだ。多分、蓮はキョーコちゃんが、この部屋へは掃除以外ほとんど入らないだろうと・・・・ましてや物なんて触らないだろうと・・・分かってたんだろうな・・・。」

私はその箱を恐る恐る開けた。

中には・・・クロスのペンダント・・・が入っていた。

これは・・・・

「リュークに・・・イリアが・・・・あげたもの・・・・?」

リュークはドラキュラだったけどクロスも光も全く気にしない・・・・だから、イリアが面白がってリュークに、最初に自分がしていたものをプレゼントしたという設定の下に作られたものだ。リュークはそれを最初から最後終わるまでずっと身に付けていた・・・・。でもこれ、プラチナとダイヤ・・・?


「キョーコちゃんが・・・・・・・試写会の時に私のティアラがないって泣いて探してとお願いしていた時に、僕は本当に心臓が止まりそうだった。蓮は、『彼女の事だから、お姫様ごっこがしたいから欲しい、とか言って探し回るだろう』と言っていたのが・・・当たってしまったから・・・・。」

「じゃぁ・・・私のティアラは・・・・」

「うん、蓮が持って行ったよ。そのペンダントね、実は・・・最後の収録の日・・・打ち上げの前に俺が取りに行ったんだ・・・。本物を・・・作らせたんだよ。撮影用のレプリカじゃない・・・。蓮が打ち上げ用に使いたいからって言っていて・・・・。蓮・・・打ち上げはそれをして出ていたはずだけど・・・。俺は、君が20歳になった時に・・・・それを告げられなかった。あの時俺はね・・・・」

「社さん・・・・いいんです・・・・分かっています・・・」

優しい社さんが私のためにならない事を・・・一度もした事がなかった。社さんは、敦賀さんが23でアメリカに行ってしまって帰ってこず、また私も行ってしまったら、と思ったら言えなかったんだと思う。

「あの時・・・・ティアラ・・・あぁ、だから・・・・。」

そう、リコさんは言った。
「?」

顔を上げて、社さんから・・・恥ずかしくなって離れた。

「キョーコちゃん、あのティアラも・・・・多分本物のプラチナダイヤだったと・・・思う。最後に・・・乗っけてあげたとき、私、なぜか妙な違和感を感じて・・・・二回ぐらい付けなおしてあげたのよね・・・。あれ・・・・すこし重さのバランスが今までと違ったからだったんだと・・・・思うんだけど・・・。違う?社さん・・・。」

社さんは苦笑して「ホントに・・・・どこまでも・・・するどいよね、リコちゃんは。」と言った。

「うん、合ってるよ・・・・。両方作ったんだ。撮影が始まってすぐ、キョーコちゃんが、あまりにあのティアラとペンダントに・・・レプリカなのに・・・喜んでいるのを見て、蓮が作らせた。打ち上げ、うちの社長が企画していたから・・・・仮装大会になるのは目に見えていた。俺は打ち上げの前にその二つをレプリカと変えなければならなかった。だからレプリカは・・・蓮がミハルちゃんに・・・キョーコちゃんがどんなにお願いしても、もう表に出さないように・・・・お願いしていた。ゴメンね・・・。蓮との約束は絶対だったから・・・。」

「社さんが・・・・敦賀さん大好きなの・・・知ってます・・・。」

私が泣きながら笑ったら、社さんも苦笑した。

「ははっ・・・キョーコちゃんも・・・同じくらいか・・・いや、それ以上に好きだよ・・・。二人とも本当に仕事熱心ないい俳優で・・・マネージャーとしては本当に幸せだよね・・・・。でも帰ってくるまで一人待つのは長いなぁ・・・。」

社さんは寂しそうに少し目に涙を浮かべて言ってくれた。

リコさんはずっと私の背中を撫でていてくれた。










敦賀邸でのパーティは明け方まで続いた。

ショータロー夫妻には、大越先生と共に「そのうちそっちにマスコミ来るから・・・頑張って」と、今日の収録の内容を話した。彼は「いい、お前がそうしたいと思ったんなら、別に。」としか言わなかった。本名を言ってしまった事は伏せたけれど・・・。

祥子さんは「娘を嫁にやる父親の心境なのよ」とこっそり囁いてくれた。


マリアちゃんからは、新作なの、とアメリカで発売された写真集で着ていた『スーツ姿の蓮様人形』を戴いてしまって、笑った。私が一番気に入っている写真で、部屋にそれだけ飾ってあったのをマリアちゃんに見つけられて、昔あわてた事がある。「これに髪の毛・・・入れれば完璧だから・・・マリア、蓮さまもお姉さまも・・・同じくらい大好き。だから我慢する。」と、涙を浮かべながら言ってくれた。社長は、「マリアが最近部屋から出てこなかったから、心配していた」と言っていた。1月ほど、学校との合間に作ってくれたのだと言う。マリアちゃんは本当に敦賀さんの事が好きな事を知っていたから、こっそり一緒に泣き笑いした。


明け方、みんなが帰った後にモー子さんとサシで飲もうと誘われて、誰もいないゲストルームへ誘った。しばらくずっと続けた話しが終わって最後に乾杯をして・・・久しぶりにお酒を口にしたら結局「敦賀さんい会いたい」と、泣き上戸になって困ったと言われた。モー子さんにはずっと敦賀さんに対する気持ちの変化を聞いてきてもらっていたから、「絶対に根性でもいいから、引っ張って帰ってこなきゃ許さない」ってキツイ激励をされた。それと、「いつかするから・・・結婚式・・・二人で来てよね。ブーケあんたに投げるから」と照れてそっぽを向くモー子さんが可愛かった。

飛鷹くんは、本当に背が伸びてたくましくなって、内面から来る強い輝きに、私もおもわず見とれるほどかっこよくなった。それがモー子さんへの気持ちの表れなのだと思う。

私が随分昔に「モー子さんが好きなの?」と聞いたら、飛鷹君は、「早く大きくなりたい、じゃないとアイツを守りきれない。もしアイツに何かあってもオレに一番に連絡すらこない。」って正直に私に教えてくれた。真っ直ぐな目をして私を見た彼は、とても大人びて見えて、直球で愛されているモー子さんが正直羨ましかった。


次の日、敦賀邸をきれいに片付けて一日一人でそこで過ごした。
3日後、社さんと空港で別れて、私はアメリカへ渡った。