【Cross 15】





私と社さんは、リビングのソファに腰をかけて私はいつものごとく、お気に入りのクッションを抱えて座り、社さんは、前かがみになるように、太ももに両肘を乗せて座った。

再生すると、私が敦賀さんに連れられて、入ってきた場面から始まった。

『マスコミ用/主役陣』というタイトルが一瞬入る。

「これ、主役の蓮とキョーコちゃんと不破君だけをピックアップしたトコを焼いてもらったんだ。」

押し上げられるようにして壇上に上がり、照れた私と、慣れた様子で涼しい顔をいている敦賀さんが写っている。正直、敦賀さんの様子を見ているのも、イリアになっていた私の姿を見るのも、その幸せだった気持ちが甦ってきて、つらい。

私たちは下に降りて、用意されたテーブルの周りで思い思いの格好をして、楽しそうに皆はしゃいでいた。
スタッフは、これを撮る係りですら、多分何か気ぐるみとか着て中から撮っていたはず。気付かなかったもの・・・・。

俯瞰の画が多いのは、固定で上にカメラを設置していたのだろう。入ったときに異常に明るく感じたのは、結局撮るためにあちこち照明を置いていたのだ。
他の人たちのメイクを終えてたメイクさんたちが、合わせて用意したのだろう、魔女の格好と本格メイクをして、うしろにぞろぞろと入ってきて、正直怖い。


大越氏の挨拶と、うちの社長の挨拶と、アカトキの社長の挨拶と、乾杯までは・・・・私もしっかりと覚えていた。

乾杯の後、皆が楽しそうに祝杯をあげていて、私を見ていると、そのままじっとグラスを見つめている。そう、飲むか迷っていたから。


そして、うんうん、とうなずいた私は、ショータローが止めに入る前にぐいっと飲んで、止めに入ったショータローのモノも奪ってさらにぐいっと飲んでいる。

ここまでは何とか覚えている。じゃぁ、ショータローが言うのはこの先だろう。


私は敦賀さんのモノまで奪おうとしているようだった。苦笑する敦賀さんが、「もうだめ」と止めに入っているのが目に入る。彼は上の方へそのグラスを上げてしまって、飛んでも跳ねても取れないのがくやしい顔をしている。敦賀さんのを奪うのをやめて、私はとやかく、他の人のモノを奪って飲み始めた。


私は何人からか奪って満足したのか、うんうん、とうなずいて、また敦賀さんの側まで行く。何事か敦賀さんへ満足げにしゃべっていたところに、ショータローが割り込んで、「だからやめとけって言っただろ」と、釘をさしているようだった。


そして、私は・・・・・驚いた。

ショータローを避けて、私は敦賀さんの後ろに、まるで小さな女の子のように隠れた・・・。
あんぐりと口を開けて驚くショータローがいた。

「お前、何・・・してんだ?」

私は、「ノア、やだ・・・。」と口が言っていた。

「オレはノアじゃねー!」と憤慨するショータローに、
「じゃぁ、ショータ・・・・」

と言う所まで、うっすら聞こえた。

多分本名を叫ぼうとしたところを、止められたのだろう、口を塞がれている。

そのまま、何か言って逃げる私は、社長を見つけると、お姫様のように挨拶をして、社長の頬にキスをして、今度は、アカトキの社長に同じようにキスをして・・・・と、あちこちとキスをし始める。他のスタッフやリコさんにまで・・・・。

私はキス魔・・・・だったの?

敦賀さんは、苦笑しながら、あちこちへキスしまくる私は止めずに、近くにいた社さんに何事か告げると、そのままこのDVDからは姿を消した。

「このとき蓮はね、「オレは隅に行ってるから」、と言ったんだよ。」

静かに見守っていた社さんが横から口を挟んだ。

敦賀さんが皆から離れて隅の壁に寄りかかるようにして立つさまが、ちらりと写った。

敦賀さんは、こんな私を知っていたのだろうか?

「だーかーらーおまーえはー!!!」

ショータローは、私を捕まえて、私は逃げようと暴れている。

「いーや!!ノアなんか、嫌い。あたし・・リューク・・・・・がいい。」

酔って少しろれつがまわらない小さな子供のような舌足らずな私の様子に、ショータローが怒っているのが分かった。

「リュークなんていない・・・・マジで、お前・・・水ぶっ掛けるぞ。」
「いやぁ、リュークぅぅぅぅ・・・・」

みんなは、ただのじゃれあいかコントだと思って、指をさしながら笑っている。もともと、私とショータローはずっと撮影中も「いがみ」あっていたはずなのに、周りは「じゃれあっている」って言っていたから・・・。

そのままわたしは、リューク、リューク・・・とずっと叫んで、ショータローは、ため息をついて、諦めたように、社さんに話しかけていた。

これはショータローが本気で怒ったときの表情。

これは「じゃれあい」じゃない。

そこで社さんはDVDを止めた。

「もう・・・止める?」

私は首を振った。

「不破君は、このときオレに、「蓮はどこだ?」と言ったんだよ。」

また付け加えてくれた。


再びDVDが流れて、今度は、『エンディングロール用/主演陣』とタイトルが入った。

ショータローは、ふらふらとする私を連れて、壁に寄り添う敦賀さんの前に立っていた。

「お前が。だけどなぁ、お前、・・・!んなの・・。」
「そうだね・・・。」
「そうだね、じゃねぇ。コイツ・・・・・・・・・・・・・・。」
「知ってる。」
「んだとてめぇ・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・で。」
「ほんとに汚ねぇな・・・・。・・・・・。・・・・・・・・だろう。それから・・・・・・・・聞くだけ・・・・ないじゃ・・・・・・・・・・・・・・どうする!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「現実・・・・・・したんだよ・・・・。随分・・・・・・。・・・・気付いて・・・いや、・・・・・・・・。・・・・・・・・だ。君も知ってるだろ?たまたま飲むと・・・・・。ごめんね?・・・・・・不破、明日・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


なぜか音が消してあるのか、ところどころよく聞き取れなかった。

「これ、ここの部分だけはどうしても不破君が見せたくないから・・・消せって言ってね。」
社さんがぼそりとつぶやいた。
とにかくショータローが異常に怒っているのだけは分かった。

そんなすごみ合う二人をよそに、私は、「リュークぅぅ」と、あり得ないほど、敦賀さんに甘えた声をして抱きつこうと必死で手を伸ばしていた。それはイリアの私だった・・・・と思うんだけど・・・・・。

ショータローはそんな私を見て取って、首を振った。

「本心しか言わねぇが・・・・本人が全く覚えてねぇんじゃ・・・な。ざまぁねぇな。」

そういって、ショータローはどんっと私を敦賀さんに押し付けて、くるりと背を向けた。


私は、敦賀さんの身体に抱きついて、一生懸命首に巻きつこうと飛び跳ね、抱きしめ、結局床まで引きずり下ろした。

敦賀さんは、最初抵抗していたが、一度上を向いて苦笑して、観念したように、

「本当に・・・・キョーコちゃんは・・・・」と、音が入った。


キョ、キョーコちゃんって言った?な、何で?




そこからさきは、社さんも赤面するほど、私と敦賀さんは、そこで愛し合っていた。
まるでリュークとイリアのように・・・・。

薄暗い壁際に座り込んで、敦賀さんの大きな腕の中に抱きとめられ、深くキスをして抱き合って、耳元でささやきあって見つめあって、笑い合っていた。私にキスを繰り返す敦賀さんは、とても愛しそうに私をみて、私もそれに答えていた。私も敦賀さんも・・・・本当に幸せそうだった。

そして、信じられないくらい、敦賀さんの目が・・・・優しかった。


私は前が涙でかすんで・・・・・・・流れる涙を・・・・・止められなかった。


あの目は・・・・ずっと私に向けられていたのに、私は気付かなくて・・・・もう二度と傷つきたくなくて、自分の気持ちも全部否定していたから・・・・・・・。



私は、その後、安心したように、敦賀さんの胸の中で眠ってしまっていた。それを見た敦賀さんは、上着を脱いで、それを私の頭からすっぽりとかぶせると、両腕で抱えて立ち上がった。


敦賀さんはそのまま、近くにいた社長他沢山のお偉方の集団に近づいて、二言三言交わすと、そのまま映像から居なくなった。


「君は・・・・蓮を・・・・好きだったんだな・・・・。君は最初、キスをしながら蓮を「リューク」と呼んでいたのに、途中から「蓮」と・・・・何度も愛しそうに呼んでいたよ。君たち・・・実は一緒に生活する間・・・愛し合ってた・・・の?」

首を振った。

「そう・・・・。」

とだけ言って社さんも、目を伏せた。

そうして、前にしてくれたように、社さんは私を抱えて背中を撫でてくれて、また遠くの方で聞こえる話を続けてくれた。

「そのあと、不破君が、スタッフに緘口令を敷くように、うちとアカトキの社長にお願いしていた。あれは映画の最後はイリアが居なくなるという・・・悲恋風に終わるから、せめて「リューク」と「イリア」が、ずっと永遠に幸せなんだと思わせるために、監督が撮りたかった場面にすればいいと。聞かれたら、「打ち上げにしたのは、リラックスした雰囲気が必要だった」のだと言えとね。他の連中はもうかなり酔っ払っていたし、あの場所は全く人気がなかった。元々監督が絶対に蓮ならあの場に座ると言って、カメラも照明も全部セッティングされてたんだ。第六スタジオは、全体が元々撮影用のブースだったんだな。もちろんキョーコちゃん用にも、不破君用にも気に入るような場は設けられてあったんだよ。不要に・・・なっちゃったけどね。君の様子に気付いた大越先生と、不破君とそのマネージャーと、うちの社長とアカトキの社長と監督が、分かったように近づいて、その場を隠すように立っていてくれた。このメンツだったお陰で、誰も近寄るヤツはいなかった。談笑を続けたフリをしていたが・・・・来るなと、オーラを出していたと思う。だから、見たヤツがいるわけじゃない。でも、噂は洩れる。だから今日不破君は来たんだ。うちの社長は「本当にあいつはバカだな」って苦笑したよ。」


もういない。
もう会えない。
声が聞けない。
優しく抱きとめてくれる腕もない。


いつも全部無くなって気付く。


よしよし、と社さんは私の頭を撫でてくれた。


その仕草がとても敦賀さんに似ていて、私はさらに泣いて、社さんを困らせた。






第一部 終