【Cross 11】





「キョーコ・・・・・お前・・・・・ほんっと色気・・・・ねーのな・・・・」

ショータローとのベッドシーンを何とか、本当に何とか、撮り終えて言われた一言目がそれだった。ショータローは・・・・意外と・・・・ノアとして私を見る目は優しかったから、ついうっかり気を許しかけた自分が許せない。あんな目、私の前で見せた事がない。あんなキス・・・・!!!!!!!で。改めて復讐を決意した次第だった。

「い、いいでしょ、別に・・・・。ノアへの愛は『慈しむような愛』なんだから・・・。」

「せめて・・・・いや・・・・いいや。せいぜいこの後の敦賀サンとのベッドシーン・・・・・楽しませてくれよな。今度のは『激しい恋』なんでしょ?色気の無い京子さん?頑張ってね。」



そうだった・・・・このあと公開で撮るんだった。

バスローブを貰うとベッドから降りて、また衣装とメイクのやり直しのため、控え室に向かう。そこで、自動販売機の前でショータローと敦賀さんが何かやり取りを交わしていた。私は恥ずかしくて、目を合わさないようにして通り過ぎた。


「・・・・・・・アレ・・・・受け取ったぜ・・・・・敦賀サン。前のアレも・・・・オレ宛だったんだな。」


それだけ聞こえた。すごむショータローを涼しい眼で見下ろしている敦賀さんがいた。




「アレ」って・・・・・・?




*****



オレはキョーコに付けられた赤い挑戦状を見つけて、またひどく腹が立って、アイツを探した。今日の撮りが・・・オレとも絡む事が分かっていたにも拘らず、昨日は無かった印が堂々と付いていた。一生懸命化粧で消した後があったが、それもやはり擦れたところが消えて見える。

アイツはキョーコに手を出すつもりがないとTVで公言していたにもかかわらず、家に帰ればキョーコを好きなように…いいようにしているとでも言うのだろうか。

自販機の前で一人たたずむアイツを見つけて近づいた。
このあとすぐキョーコと例のシーンだと言うのに一体何を考えているのだろう。

「・・・次のシーン・・・楽しみにしてますよ。」
オレは買った飲み物を取りながら言った。
「・・・・・・・・。」
無視をし続けるヤツをオレも無視して、続ける。
「・・・・・・・アレ・・・・受け取りましたよ・・・・・敦賀サン。前のアレも・・・・オレ宛だったんだな。」
「・・・・・・・・・。」
「ま、アイツとの事だから・・・最後までしてないんでしょうけど。でもなぁ、敦賀サン?・・・アイツの目・・・・・気付いていないとは言わせねぇ・・・。守るつもりも・・・手を出すつもりも無いなら一切手を引け。アイツは鈍感だから、まだ全然気付いてないだろう?いつか気付いたときアイツが泣く。アイツは一人で隠れて泣くからな。」

「そうだね・・・・。でも・・・君には・・・渡せないな。」

「とにかく・・・アイツはオレのもんだからな。ぜってー傷つけるなよ。宣戦布告・・・今更・・・しなおすんじゃねぇよ・・・。」

それだけ言って離れた。

その後のヤツの撮りは・・・・アイツはアレが本性なのかは知らないが、キョーコのアレは台詞以外、演技じゃねぇ。オレとのシーンは完全に演技だった。キョーコはベッドの上でアイツにいいようにされていた。その表情を引き出すアイツと、素のキョーコ。

キョーコのあんな煽情的な表情をオレは見た事がない。
いつかオレが・・・オレだけが得るはずだったその表情。
オレはそれがまた腹立たしくて、途中でその場を抜けた。





*****




そのあとの私は赤面の嵐で、監督が『いい画がとれた』って嬉しそうに褒めてくれたけど、私はちっとも嬉しくなかった。本番では下着はとられるわ・・・いや、これ以上思い出さないでおこう・・・・・。

で、私はやっぱり口説くどころか、敦賀さんが演じるリュークにさらに翻弄されっぱなしで、台詞を間違えないようにするのが精一杯だった。そのお陰なのか、一回で撮り終わり、恥ずかしい思いは一回で済んだ。OKが出た後、敦賀さんはやっぱり涼しい顔でにっこりと笑顔を浮かべるのみで、余裕そうだった。

周りのスタッフもなぜか私をみて赤面するし、敦賀さんのファンらしい他の女優さんにはにらまれるしで、どうしていいか分からなくなってしまう。

どうも居づらくなった私は控え室で待機していたのだけれど、次のシーンの撮りが始まる頃に敦賀さんが訪ねてきてくれた。

「結局・・・・私、ダメでしたね・・・。」
「そう?監督・・・喜んでたよ、期待以上だったって。」

恥ずかしくなって目があわせられなかった。

「だってオレ、昨日最上さんのツボ探し、したんだもん。分かれば簡単。あとは押すだけ。」
「敦賀さん!!!!!!」

きゅらきゅらとした笑顔を浮かべる彼の背中を押すと、敦賀さんは爆笑していた。
私はすっかり恥ずかしくなって、次のシーン、もうすぐですから、と部屋を後にした。






部屋を出ると、ショータローが外に居た。
さっきのシーンの感想を言いに来たのでは・・・と思って通り過ぎた。

「アイツと・・・寝たの?」

無視した。

「三流・・・・ゴシップ誌・・・・」

「ずるい!それ言われたら私が逆らえないの・・・知ってるくせに・・・!」

つい声が大きくなって、周りのスタッフが振り向いた。
ショータローは気にする様子もなく、珍しくも大人しく私を見つめる。
その目がいつになく真剣だった気がしたのは絶対に気のせい。

「そんなの・・・・ある訳ないじゃない!仕事だって言ってるでしょ!」

周りのスタッフの視線も無視して、吐き捨てるようにその場を去った。