【Cross 10】




 
オレは、彼女がいつもいつもオレがあげた『コーン』だけに心を開くのが正直悔しかった。オレが彼女に自分をさらす事も泣く、彼女の全てを受け止めてあげる事ができないのは分かっているのだが、それでも悔しい。

彼女はいつも考え事をいていると、オレが後ろに立っていてもちっとも気付かない。

何か変化があるかとしばらく後ろに立ったまま、彼女を見ていたのだが、何もなく、暗い顔でその石を見つめるばかりだった。

そして・・・ふぅ、とひとつため息をついた彼女は、「ギブアンドテイク・・・・ギブアンドギブ・・・・・・ねぇ・・・コーン?」と、つぶやいた。

オレは、ひどく落胆して、ため息をつきたくなった。彼女はやはり、その石が心の支え。その石にならすべてをさらけ出せる。そして『コーン』・・・・。幼い日々の思い出が彼女を支えているのは分かっている。幼かったオレと君との思い出だけで・・・今を生きているのか?それしか君の心の支えはないのか?ギブアンドギブ・・・・与えるだけ・・・。

オレはひどく哀しくなって、彼女に言葉をかけた。
今は全てを受け止めるつもりがなく、彼女もオレをそういう対象には見ていないのに。

しかし・・・最近・・・彼女の目が・・・リュークを見る「イリアである京子」と「最上キョーコ」の目が・・・同じように見える事があって、オレは正直つらい。彼女が自覚していないだろうそれは、きっと不破は分かっている。だから不破は彼女に忠告の意味を込めて牽制したのだろう・・・。彼はオレが彼女を愛している事を分かっていて、オレが告げるつもりがないのだと分かっている。だったら近づくな・・・と。気付かせるな・・・と。そして、不破も彼女の事を・・・・。


そしてオレが心配しているのだと告げたにもかかわらず、彼女は全く勘違いをしていて、その鈍さと自分の心を開かない強情さにひどく苛立ちを覚えた。ここの所の疲れも重なって、ひどく好戦的な気分になっている自分に気付く。どうせ告げるつもりもないのだったら、嫌われようとどうなっても良かった。不破もきっと同じ気分だったに違いない。彼女の鈍さ加減に苛めてみたくなってしまう・・・。


「できます!!」


そして彼女は簡単にオレの罠にはまる。次の展開が想像できるのに。これはオレが叩きつけた挑戦状の返事。ここでオレは引き下がるわけには行かない。始めたら止められなくのは分かっているのに。理性を抑えながら『演じ』なければならないのに。


理由なんて要らなかった。彼女の体温が・・・・欲しかった。

 
 「いいだろう・・・」

彼女がじっとオレの顔を見つめる。オレはそれを見つめ返して、頬に手をやると、すりすりとそれに寄せる。

「リューク・・・・」

せつなげに甘えるその表情にオレはもう止まれなかった。


















彼女の目が・・・・愛しいと・・・ひどく愛しいと語っていた。リュークの存在がひどく愛しいと・・・。彼女の目が手がオレを愛しいと、体中で訴える。だんだんリュークだろうがオレだろうがどうでもよくなっていく。

「リューク・・・連れて行って・・・」

彼女はするり、とオレの首へ両腕を回すと、耳元でそれをささやいた。

オレは、イリアを優しく抱え上げて、イリアの唇に自分のそれを優しく重ねる。イリアはそれをうっとりと受け入れて台本通り、もっと・・・とねだる。

オレは台本どおりに耳元で、食餌の時に・・・と優しくじらしてみる。オレはそのまま彼女を抱えて寝室まで連れて行く。その間中彼女はオレの首に顔を寄せて、その肌を確かめるようにして頬ずりを続けている。

彼女をベッドへ腰掛けさせるとすぐに、オレは押し倒して、彼女の服のリボンを解き、あらわになった首筋に舌をはわす。

彼女の身体がびくりと跳ねて、オレの耳に吐息がかかる。その吐息を奪うようにしてオレは彼女の唇を味わう。

「リューク・・・」

かすれた彼女の声と吐息が、オレを煽り、いっそう深く彼女の口腔をむさぼらせる。角度を変えて何度もきつく舌を吸い上げて、彼女の体温を上げる。

「・・・・っ・・・・うぅっ・・・・んっ・・・・」

必至にそれに答えようと彼女もオレに絡めるが、足りない。徐々に彼女の目が潤んで、男をほとんど知らないだろう彼女が、演技どころではなくなって来ているのが分かった。

オレはそれを無視して、空いていた手で彼女の服のボタンをはずしていく。

恥ずかしそうに両腕で前を隠そうとする彼女の腕をベッドに押さえつけて、オレは首筋から胸に、指で彼女を貪り、わき腹に来て大きく身体が跳ねた。オレはそこをしばらく往復させてみる。
「ぃ・・・んっ・・・」
彼女の口から少しだけ高い嬌声がもれて、恥ずかしさに手で覆う。
「あっ・・・あぁっ・・・」
彼女の耳を舌で撫で上げ、甘噛みして、彼女の弱い部分を攻め上げると、身体をよじって逃げようとする。
「イリア・・・・可愛い・・・・。」

彼女の艶かしい香気が漂って、オレの烈情をひどく煽る。
彼女の体中をまさぐって、彼女の弱点を探し出しては攻めて、嬌声をあげさせた。
オレの指に感じる彼女はとても可愛くて、今にも全てを剥がして抱き潰したくなる。
もはやイリアなのか、彼女自身なのか分からないその光景にオレはめまいを感じた。

そして・・・・・オレは彼女が無意識に一筋だけ涙を流したのを見て・・・・留まった。

「食餌・・・するぞ・・・。」

最後の台詞と共に、首元に一つまた印を残した。

これは明日の不破への挑戦状。

今日のオレの、烈情の表れ・・・・・。




「最上さん、おしまい。泣いたからオレの勝ち。明日はちゃんと口説き落としてね。」



しばらくボーっとオレを見つめる目が、役が抜けないのか熱っぽかった。
オレは彼女の上からどいて、彼女のブラウスを上からかけた。

「・・・・・・っっっっっ!」
声にならない声を上げた彼女は、現実に戻ってきたのか、全身を赤くして、ブラウスを握り締める。

「あっち・・・・向いててください!!」

余韻が残っているのか、彼女の声がひどくかすれている。
オレは可笑しくて、すこし笑って、彼女の髪に手を入れて少し乱れたその髪を直した。

「服・・・着たいんです・・・。」
「そんなに・・・恥ずかしがらなくても・・・明日これ公開で撮るんだけど?」
「そ、それとこれとは違うんですっ!!触り方が・・・ヤらしんですよ!誤解されても知りませんよ、敦賀さん!というか、シャワーかります!!!」

彼女は全く意味不明に叫んで結局服を着ないまま前を隠すように逃げるように出て行った。


イリアだろうと、最上キョーコだろうと、君なら同じなんだけどな、別に。


理性の箍をギリギリで保って、頭の片隅で演技しなければならない。別に今までは練習だと言って他の女優に誘われてもなんでもなかったし、早く終わればいいとは思っても楽しもうなんて思ったことないんだけど・・・。

「いつまで・・・・・我慢できるかな・・・・・。」

ついそう洩らして、ひどく情けない気分で誰もいないベッドの上に横たわった。







*****


私は恥ずかしくて恥ずかしくて、湯船に顔を口元まで浸かってぶくぶくと気泡を作りながら自問自答をしてみるも、ぐるぐると思考が行ったり来たりする。

なっ・・・・なんでっ・・・・私はまたあんな挑発に乗って・・・・でもだって乗らなかったら・・・・女優と認めないって・・・目が言ってたんだもん・・・・。

だって、なんでああなるの?だって、私ただコーンにいつもの報告をしてただけで。敦賀さんはそれを言えっていうけど、そんな事・・・あんな暗いの言える訳ないじゃない。しかも「私は敦賀さんを男と見ません。女優業がんばります」なんて、とても。

コーンの事悪く言ったのに反論しただけで、あんなに怒らなくってもいいと思うんだけど・・・・。


明日もまたこれをするのよね?敦賀さん、こういうコトをしても全然平気そうだったし・・・・私一人おかしくなっていいように遊ばれて、子供みたいに。結局途中から、半分意識なかったし・・・・。

でも、ブラウスは取られたものの・・・・下着もスカートも付いたままだったし・・・あっちこっち触られたけど下腹部はそういえば触らなかったから・・・・。いいえ、触って欲しかったわけじゃないの。どうせ私は地味で色気のない女・・・・。涙が出ちゃったのはこんなコト初めてだったから。仕事とは分かっていてもね・・・・。


この役をこなせたら色気もつくかと思ったんだけど。というか・・・・敦賀さんの色気は・・・・尋常じゃなかった・・・・。これ全国で放映されるんだよね・・?私・・・・命・・・・足りるかな・・・・。


あぁ、というか・・・色気って・・・・なんだろう??

そのあと結局ぐるぐると思いを馳せ過ぎてのぼせて、ふらふらとリビングへ帰ったところで行き倒れて、やっぱり敦賀さんにお世話になってしまったのだった。