SAVE ME !?




蓮とキョーコと社は、とある県の日本海が目の前に広がる旅館にいる。その旅館をロケ地に描かれた映画、既に一週間ほどその場で共に過ごしていた。

冬だけに日が暮れるのも早く、既に西日の落ちた日本海は黒く厳しい表情でそこにあった。撮影もその海風の吹きすさぶ場所で続くものだから、出演者の為に用意された大きな暖房器具の暖かさがよけい身に染みる。その前で暖を取りながら控えていたキョーコの傍らに、チェックが済んだ蓮が寄って、社と談笑を続けていたキョーコが彼に気づいて頭を下げた。


「お疲れ様でした。」


にこりと笑いながらキョーコが挨拶をする。蓮も、「うん、お疲れ様」、と声をかけて、社が渡したホットコーヒーを受け取る。


「敦賀さん、指先真っ青です。顔は平気ですけど、指先はお化粧できませんから。もっとこっちで暖まって下さい。」


コーヒーの紙カップを持つ、蓮の冷えた指先を見たキョーコがそう声をかけた。


「はは。そうだね、ありがとう。それにしても、君のカッコ本当に怖いよね…。指先まで青紫に色塗って…。」
「えぇ、ありがとうございます…。」


今回の映画は流行のホラー映画。京子はこの地に住む幽霊役、主人公の蓮にとり付き、恨みを晴らすべく相手女優を殺そうとする役で、海外メディアを視野に入れたのか、ある意味型にはまった日本幽霊、メイクも真っ白な顔に黒の長い髪白い和服、井戸と和風家屋と日本海がよく似合う。あまりに似合いすぎて、他の俳優陣女優陣の演技を自然に引き出すほどだ。それはもちろん蓮も含まれる。まるでキョーコが憧れる蓮のように・・・・しかし本人無自覚であるから、折角ある意味目標地点に一歩近づいたにも拘らず、少々不満げである。


「そのカッコで背後から台詞を囁かれるとさ、変な鳥肌が立つんだよね。おかげで表情作りには困らないよ。君だって分かっているんだけどね…。さすがだよね。」
「いえ…。」


それほどでもありません、とも、ありがとうございます、ともいいにくい。キョーコは複雑な表情で、苦笑いを浮かべた。


「キョーコちゃん、ホント「天役」だよねぇ。オレこの映画、上映された時まともに見られるか自信ないよ。」
「そうそう。監督が喜んでるよ、頭に思い描いていた理想の光景だってね。」
「そ、そうですか、それは良かったです。でも…コレも基本的に未緒と同じで…メイクさんのおかげで際立っているんです。」
「そんなことないよ!だってさ、キョーコちゃんの演技のおかげで連日夜怖くて眠れないって女優さんが増えて…あ、うん。」

蓮の元にやって来る、とは言わなかった。蓮と社は部屋こそ隣ではあるが、食事は蓮の部屋で一緒にとる。まるで学生の修学旅行の夜のように連日連夜、社と蓮の部屋へ女優の群れがそんな言い訳をしつつ、トランプやボードゲーム、はたまた酒を持参して、遊びましょうとやってくるのを、社がしばらくその部屋に残り、無難な理由をつけて退けている。なのに、

「そうなんですか???」

キラリ、と目を輝かせ、同性の評価を素直に受け止めて、喜ぶところを間違えたキョーコは、おどろおどろしいメイクのまま、満面の笑み(他人には恐怖の幽霊笑みに見える)を浮かべる。それがまた、恐ろしい。蓮が珍しく談笑を続けているのに、その間に入って共に会話をしたいと思う他の女優を寄せ付けない。

「嬉しいなっ…今回は敦賀さんとご一緒する機会が多かったので、あまり他の女優さんとお話しする機会がなかったから、そう言って貰えてると思うと嬉しいです。」

キョーコは同性の評価ならすぐ受け入れるようだ。確かにキョーコの演技の定評は非常に厚いが、それとはまた別のところで「真実」を思う蓮と社は苦笑いで「あぁ…うん…」と、曖昧な相槌を打つ。


「最上さん、冷え込んできたしもう部屋に帰ろう?部屋まで送るから。いくらメイク好きの君でもね、そのメイクは早く落とそうよ。くすくす…。」
「そうですね。」

また(恐怖の)笑みを浮かべて返事をしたキョーコに、蓮も可笑しそうに笑った。





*********


メイクを落とし、風呂を終え、夕飯を終えたキョーコは、毎晩半仲居と化していた。旅館といえど普段はそう多くの仲居はいない。シーズンなら地元から人手を採るが、オフシーズンともなるとそうはいかない。


手が足りないなら、と、部屋から仲居と共に膳を下げるのを一度手伝ったら、この旅館の女将に「お上手ですね」と気に入られてしまった。仲良くなって会話がはずんだ手前、大人数の泊まる今回の撮影組、キョーコなりの御礼代わりに毎晩の膳下げだけは続けていた。身体に染みこんだ仕方ないクセ…とはいえ、喜んでもらえるならいいや、とお人よしのキョーコは思う。ある意味現職の仲居より手際が良くて、早い。女将が一目で気に入るのもいたしかたない。


下げる最後の部屋となっていた蓮の部屋は、キョーコだけで下げるようになった。見慣れた人間の方が蓮にとって居心地がいい、というもっともらしい理由を、女将にとってつけたように社が言い訳したのだが、社は単に夜、少しでもキョーコに部屋に寄って貰う理由をつけたかっただけである。蓮が食器や膳をケースに入れて運び、最後「ご苦労様」と言って部屋まで送る。それだけでも、蓮が他の女優を退けるために無駄な笑顔を連発し、その後部屋で難しい顔をするよりは、蓮を思う社にとっても、都合が良かった。



キョーコは蓮の部屋の前に来ると、浴衣の襟と袖を手馴れたように手直しした。蓮の部屋の扉を叩くと、中から社の声がした。許可の声かと扉を開けた。が、それは例のごとく蓮を外に呼び出そうとした女優を追い出そうと四苦八苦する社の声だった。


「敦賀さん、失礼します。」
「あ、キョーコちゃん。」

社が彼女を追い返しているとは知らないキョーコは、ぺこり、とその女優と部屋の奥にいた蓮と社に向かって、律儀に3回頭を下げた。なぜこの女優さんがこの部屋にいるのかしら?と素朴な疑問も浮かんだが、キョーコにとって挨拶の方が先立った。


「京子さん?」


京子がノック一つで蓮の部屋へ入ってきたことに驚いた女優が、キョーコの名前を呼んだ。


「社さん、お部屋のお膳をお下げしますね。お邪魔します。」
「あ、あぁ、うん、ありがとう。キョーコちゃん、朝晩と宿の方を手伝ってあげているんです。」
「そうなの。ご苦労様。」
「で、そういう訳ですから、蓮は体調が悪くて先に休むと言っているので…お相手はその。」


蓮にとっても先輩女優なだけに、社も珍しく歯切れが悪い。しかし、「つ、敦賀さん、どうかされたんですか?」と、勘違いをしたキョーコが、その女優を置いて、心配そうに社に言い寄る。


「え?」
「あの、敦賀さん…。」
「あ、あぁ、うん、ちょっと体調がね…、うん。」


その女優に言った手前、同じ言葉を繰り返さなければならなくなった社は、ちらり、と後ろの蓮を振り返った。蓮はふい、と窓の外に視線を逸らした。


「あの、すぐ片付けますから、お部屋入っていいですか?」
「あ、うん、御願い。で、ですから、あのー…今晩はお引取りを…。」
「今日じゃなきゃダメなの。」
「でも、その…。」


蓮に「今日は座って休んでいてください」と伝えて、一人で片付けている間に、耳に入ってくる社の声が、とても困っているのはキョーコにも分かった。しかも蓮がとった食事の量は、明らかに毎膳下げる時に見るのに比べて少なく、手つかずの皿さえあった。食べられない蓮に気づいたキョーコは、社の言葉をなお更信じた。


「敦賀さんが体調悪いって言っているのに…」と、先輩女優とあれど人として内心ひどく腹がたった。「敦賀さん」、そう小さい声で囁くと、蓮はキョーコへ視線を合わせた。キョーコは、「助けてあげます。でもウソをつきます。ゴメンなさい」、と蓮に聞こえるようにそう囁いて、不思議そうな顔をした蓮を置いて入り口まで出て行った。そして先輩女優の手前にっこりと笑って、その融通のきかない女優に話しかけた。


「今日の敦賀さんはやめた方がいいと思います。」
「どういうこと?」
「あのー…言いにくいのですが…敦賀さんの右肩の上に、白いモノ、乗ってます。普段見えない私が見えるんですからきっと相当なやつで、だから体調が芳しくないんだと思うんです。傍に居ると女性の方が移りやすいと聞くので・・・だからご用事なら明日以降にしてあげて下さい。」
「・・・・・・・・・・・。」


キョーコがそう言うと、その女優は蓮を見て、一度ぶるりと身体を震わせた。そして思わず昼間のキョーコの顔を思い浮かべた。「そう」と短い一言を言って、その女優は諦めたのか、「また明日。おやすみなさい。」と言って扉を閉めた。女優が居なくなり、三人が部屋の奥に集まる。

「ありがとう、キョーコちゃん。助かったよ…。参ったね〜…しつこくて…。」
「いえ…敦賀さんが体調悪いって仰っているのにっ!無理を押し通そうなんて・・・。」
「で、本当に蓮の右肩、違う、よ・・・ね?」
「え?違います、違いますっ。ほんの冗談ですよっ。だって、女優さんって現場で「見える」方多いって聞きますから。私がそう言った所で別にばれません。でも…敦賀さん、何かオバケでも憑いているみたいに言って、ゴメンなさい。明日の朝、あの女優さんにはもう居ないと、フォロー入れておきますから。」
「ありがとう、ゴメンね。」


蓮も、キョーコが本気で心配してくれているのが分かっているから、苦笑いを浮かべる。そして社は、「でもキョーコちゃんが言うと何か説得力があるよね!」、と言って、キョーコが片付けるのを手伝った。キョーコも可笑しそうに笑ったものの、すぐに心配そうな顔をして、蓮を振り返った。

「社さん、本当に敦賀さん…。」
「あ、あぁ…うん。」

苦笑いを浮かべた社は、内心、ほくそ笑んでいた。キョーコが蓮の体調を気遣わないはずがない。病は気からというから、蓮がこの後体調が悪いフリをしなければならないのは忍びないが、キョーコが蓮を思って傍に居てくれればいいなと思って、口を開いた。


「あのさ、オレじゃそういうのよく分からないから、キョーコちゃんが一番蓮の看病に慣れているし、御願いできないかな?」
「えっと…いいですけど…具体的には何処が…?」
「あー…えっと…そのねー…精神的にっていうか…撮影が詰まっているから、ちょっと疲れたみたいでね。だから、この後一緒に台詞を覚えるでも良いし、少し話し相手でもいいから、傍に居てやってくれないかな?ダメ?」

何を言い出すんだこの人は、と窓の外に視線を泳がせていた蓮は、くるっと勢いよく社に首を向けた。しかし、ぱちぱち、と目を瞬いたキョーコと目が合ってしまった。

「わ、分かりました。私に出来る事なら何でもしますから、敦賀さん。お話し相手でも、なんでも遠慮なく言ってくださいね。」

本気でこの後セラピストにでもなるつもりのキョーコの目に、蓮はくらり、と視界を歪ませた。





**********



キョーコは社と共に膳を下げた後、再び蓮の部屋へ戻ってきた。社が「蓮の体調を気遣うなら、もう他の人間を入れないように、部屋に入ったら鍵を閉めてあげてね」、と言ったから、何の迷いもなく、蓮の部屋の鍵を自ら閉めた。

おおかた社が余計な入れ知恵をしたに違いない事は蓮にも分かったが、とはいえ夜、男の部屋へ鍵を閉めながら入って来るとは無防備すぎる、と蓮の内心は穏やかでは無い。キョーコとて、蓮でなければ「先輩」といってもこんなに世話などしないのに、その自分の内側から沸きおこる感情を、一生懸命蓮の前では抑えている。しかも、自分は社に頼まれたのだ、今はセラピストの役で、優しく話を聞いてあげなければ、という大義名分を言い聞かせて入ってきた。


夜、仲居の入らない蓮の部屋は、キョーコが毎晩布団をセットしてから食器を返しに行く。今夜も洗い立ての真っ白なシーツをふわりと布団にかけて、毛布、上掛けを手際よくセットすると、否応無しに蓮を布団に寝かしつけ、上掛けをかけてやった。その傍らに正座でちょこんと、座ったキョーコは、蓮に、テーブルに置いてあった台本を手渡した。

「明日の台詞は…完璧ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫。さっき君が来る前にさらっておいた。」
「それなら…もういつ眠ってしまっても、大丈夫ですね。」

台本を畳の上に置いた蓮に、限りなく慈愛に満ちて穏やかなキョーコの声が降り注ぐ。キョーコは、ぱちん、ぱちん、と和室の照明の紐を引いて、白光からオレンジ色に落とした。

「何だか子供みたいだよね。」
「いえ…体調が悪い時は誰でもそうなります・・・。誰か傍にいた方が楽になりますから。私でいいなら…眠るまで傍に居ます。」
「うん・・・・。」

ゆっくりゆっくり言葉を話すキョーコの穏やかな声に、蓮も確かに癒されていく。そして、キョーコが、シュ…とマッチの火をおこして、小さな瓶に入ったローソクに火をつけ、そして最後のオレンジ色の電球も落とした。

「目蓋越しに、オレンジ色を見てみてください…きっと、気持ち、落ち着きます。アロマキャンドルですから…香りも良いですし…。最後、火の始末は私がしますから。そのまま眠ってくださいね。眠れたら、自然と心の疲れも良くなりますから…。」

本当に蓮が精神的に参っているのだと信じているキョーコだから、仕方がない。蓮の心が疲れているなら、せめて穏やかに眠って欲しいと、女将さんに頼んで旅館のマッサージルームにあったアロマキャンドルを分けてもらった。

蓮の髪を子供にするようにゆっくりと優しく撫で、そして額からゆっくりと手のひらを下ろしていく。目蓋の上で止めて、そして、もう一度、目蓋を閉じてくださいと言った。

「うん・・・・閉じたよ・・・。」

その言葉を聞いたキョーコの手が目蓋の上に置かれる。しばらくそのまま置かれた柔らかく温かい手の平の感触が心地いい。一分ほどそうして目蓋を暖めていただろうか。キョーコの手は再び蓮の髪に戻り、ゆっくり、ゆっくりと蓮の頭を撫で続ける。まるで本当に子供にでもなったかのように、穏やかな気持ちになっていく。そして、ぼんやりと目蓋越しに浮かぶオレンジ色の光が、見るでもなく確かに見えて、キョーコの指と、香りと、淡く揺れる光に、徐々に自然と蓮の意識は遠のいた。



*********


蓮の意識が遠のき、熟睡に入ったのは良かった。けれど、よく考えたら、自分が出た後誰がこの部屋の鍵を閉めるのか。もう既に時刻は12時を回り、フロントなど当然誰も居ない。社を起こすのも忍びない。蓮の鍵を持って出て、翌朝蓮が外に出たくなっても出られないのも困る。


・・・・・仕方ない。


キョーコは覚悟を決めて、そのロウソクの明りで布団がしまってある襖を開けて、もう一組取り出す。折角眠った蓮を起こしてはならないと、そっとそっと布団を引き、毛布をひき、上掛けをかけた。

そして、目には良くないけれど、また仕方ない、と納得させて、蓮の置いた台本を手に取ると、ロウソクで翳して自分の部分をさらい出す。

穏やかな香り、そして、穏やかな色に、自分も癒されて、台本を横に置くと、徐々に瞑想状態に陥った。穏やかな気持ちは、自分の本音をよくも悪くも素直にさせる。傍で寝息を立てる蓮の顔を、ロウソクを翳して覗き込んでしまった。綺麗だな…と素直に思う。

そして。

蓮の髪に触れ、頬に、触れた。
愛しい、という感情が、穏やかに心に流れ込んできた。
じっと引き締まった形のいい彼の唇を見つめてしまう。


そんな自分に驚く。自分で自分を制御しなければ、このままおかしな行動に走りそう…と、蓮から手を離し、布団に篭ると再びロウソクに目を落とした。ゆらゆら…と揺れる炎に、再びぼんやり瞑想状態に入る。すると、心の声は、キョーコにはっきりと、蓮が好きだと告げた。そして、それが、じわりじわり心に広がりはじめる。このままでは、自分の心もダメになりそう。そう思ったキョーコは、無理やりふっと吹いてロウソクの炎を消す事で、それをごまかした。そして、瞑想しながら半分夢の中だった頭を、完全に夢の中に落とした。



*********


朝、蓮が目を覚ますと、横には穏やかに息をたてるキョーコの寝姿。なぜ?という疑問と共に、本当にキョーコの声と撫でる指に癒されて、熟睡してしまった自分を思い出した蓮は、一気に照れて顔に血が上り、そして目が覚めた。

そして少し剥いだ彼女の上掛けをしっかりかけてやって、自分も浴衣を正して布団から抜け出した。


――なぜ隣で寝ているんだ?


と言う大きな疑問が解けるには、少々時間がいった。そしてその疑問が解けるころ、キョーコが目を覚ました。


「わ。わぁっ・・・・つ、敦賀さんっ・・・おはようございます。」
「おはよう。君のおかげでよく眠れたよ・・・でも、鍵…かけられなくてここで眠ってくれたんだろう?悪い事をしたね。」
「すみませんっ・・・・図々しくもお布団を借りたうえ、起きるの遅くて・・・・・。あ・・・敦賀さん、体調はどうですか・・・?少しは疲れ、とれました・・・?」
「うん、おかげで朝までぐっすり眠れたからね、すごくいい。ありがとう。」
「よかったです・・・。」
「君は、よく眠れた?」
「あっ、はいっ・・・それは、もう・・・。」

夢でも蓮の髪を撫でている夢を見て幸せだったから起きられなかった…とは言わなかったけれど、照れて顔は真っ赤になる。しかも寝乱れてはだけた浴衣に気づいたキョーコが、「あ、あのっ・・・・少しだけあっち向いていてください」と言って毛布を被って隠れた。「あぁ・・・」と気づいた蓮が声を発して後ろを向くと、しゅるしゅる・・・と帯を解く音と、直す衣擦れがして、蓮は百面相を続けるキョーコとは逆に無表情になった。

いつもの数倍手際よくシーツを剥がし、布団をたたむとすぐに、キョーコは、蓮の顔も見ずに「また後で」と言って、顔を最高に火照らして部屋を出た。

朝の6時。蓮の部屋から出てきたキョーコが、真っ赤に照れながら走って自室に帰る姿を、既に朝一番の一人大浴場風呂を済ませた鼻歌混じりのご機嫌な社は見かけてしまった。そして、にんまり、と笑った社が、すぐに蓮の部屋へ向かったのは言うまでもない。・・・・・・・・・蓮の受難は続く。


そして、昨日の女優が「昨日の真夜中タバコを吸いに外に出たら、敦賀君の部屋真っ暗なのに、ガラス越しに薄白い光がゆらゆら揺れてるのよ!!そして、急にふっと消えたのよ!!私にも見えたわ!!京子さんが言った事は本当だったのね。あんまりに怖くて眠れなかったわ・・・」と…真っ青な顔をして、蓮とキョーコに囁いた。


蓮とキョーコは、その女優に言い訳しようにも出来ない、「現実の真実」に、苦笑いと引きつった笑顔でやり過ごし、そして、「もう居ない」と言ったのに、その女優が蓮にプライベートで近づく事はその後一切なかった。そして、その女優が「撮影中、深夜とある俳優さんのお部屋の窓を見ていたら、何か得体の知れないものを見たんです。」という話だけが、ホラー映画の製作秘話として、公開された1年後にまで、まことしやかに語られた。



おしまい(笑)。









2006.12.17