・・・・夢で見る、たった一つの優しい想い出・・・。

だけど。

今、目の前の局のTVで、貴方のドラマの再放送が流れている。
台詞も言えてしまう程何度も見た。
夕日が差し込んで少し白反射したTV画面に目を凝らしながら、じっと・・・・じっとその画面の流れゆく様を眺めていた・・・・・・。



love Me , I love you (夢 K.Ver)



私に差し伸べられた手は、そんなに多いわけじゃない。
私が手を捧げていた時間は・・・・・・沢山ある。


今は、たった一つだけの本当に優しい手が、私には・・・・・ある。


それでもかつての想い出は、一点を除いてひどく哀しいものになった。
私の全てがなくなり、あまりに深い孤独感と虚脱感にさいなまれた時も、やっぱり「コレ」は救ってくれた。

アイツも親も何も係わりが無い、ただの「キョーコ」としての、唯一の優しい想い出。

――コーン・・・・貴方は笑顔でいるかしら?
――大切な石が無くなってしまって、大事な魔法が解けて、泣いていないかしら?
――私、コーンの魔法のおかげで、いつも一番辛い時に、助けてもらってる。
――私も、コーンに会いたい。会って、今度は私が「助けてあげたい」。
――会いたいけど、今の私には会う資格は無いのかもしれない。
――いつか私の心が、あの日のように純粋になる日が来たら、妖精の国からまた会いにきてくれるのかしら・・・・・?


コーンに会えた時、私の心は「真っ白」だった。


心がまっさらで真っ白だったから、会えたのだと、そう思う。
実際妖精さんはとっても繊細で、綺麗な心の人の前にしか現われないなんて事は、沢山の物語の中で読んだから。

今の私の心が、真っ黒なのは、分かってる。

辛い時この石が助けてくれてはいても、あの頃の私とは180度違うから。
無垢だった子供が、一気に大人の事情を知ってしまったかのよう。
その極度の反発から、私の背中の「オーラ」が真っ黒なのは、分かってる。
真っ黒なのが、真っ白なのを「嘲笑ってる」。

「そんな貴女なんて、偽善よ。」

分かってる。

だから、もう、コーンには会えない・・・・・。

私がコーンにできる事は、どこかで見ているだろうコーンに、こうして遠くから「泣いていない」事を証明し続けるだけ。きっとコーンは、その大いなる力で、私の事など見透かしているに違いない。

泣いてもどうにもならない。
逃げたって、何の解決にもならない。

復讐は自分の意思で選んだこと。そんな事の為に、ずっとこうして持っていると知ったら、コーンは・・・哀しい顔をするかしら?だからもう、この石も、本当は封印しなければいけないのだけれど。お願い、もう少しだけ、一緒にいてね。


背中のオーラが「満足したわ」と、そう言う日まで・・・・。


コーンを手に、じっと・・・・じっと・・・・・画面を眺めていた。


貴方のその「場面」が刻々と近づいている。
そして、貴方との待ち合わせの時間も刻々と近づいている。


分かっていたから、「コーン」を取り出して、ぎゅっと握っていた。
緊張しているのか汗ばんだ手に気付く。息を詰めていたことに気付く。


そして。


「辛いんだ・・・・」


彼の口から出た台詞。
彼の目を伏せた哀しい表情・・・・・。

あの日、私が見てしまった・・・・あの表情。


昔、これを初めてTVで見た瞬間に、私は反射的に「泣いた」。


なんで泣いたかなんて、「その時」は気付かなかった。


ただ「哀しい」。
ただ「切ない」・・・・・・と・・・・・・。


あの表情をしながら「辛い」という台詞を言った貴方を思ったら、涙が止まらなかった。
何度繰り返して見てみても、その場面で、「泣いてしまう」。
ドラマの内容が悲しいのじゃなく・・・貴方が「哀しくて」。
演技だと分かっているのに、あの日の貴方が目の前に浮かんで・・・。


――どうしたらいいの・・・・・コーン・・・・。
――ねぇ、どうしてこんなに一生懸命握っているのに、また私は泣いてしまうの・・・。
――何故、涙が止まらないの・・・・?


――お願い教えて・・・・・・コーンの魔法が効かないの・・・・・・。



ぱたりぱたり・・・と・・・・溢れた水滴がコーンの上に落ちた。



そして、私の思考はそこで止まった。
ざわざわざわと・・・彼の周りに必ず取り巻く雑多な音。

誰が来たかなんて、すぐに分かった。
遠くの方からその長いコンパスを十分に利用してくる影が見えた。
流れるような優雅な動き。見慣れた白いシャツと黒いパンツ。


――久しぶりに見た・・・・・。


そう思って現実に戻った私は、もうすぐこちらに来るであろう彼に会うために、涙を止めるべく目を擦った。

「ごめん、待たせたね・・・」

そう言った敦賀さんの・・・・とても穏やかで優しい表情に、またどうしようもなく涙が溢れた。今度は何故泣いたかなんて、分からなかった。ただ、顔を見て「ほっとした」。

「・・・・・・最上さん・・・・?」
「つ、つるがさん・・・・・」


目の前には、私の「夢」の象徴が・・・・立っている。


私の声は動揺して、少し震えていた。私が泣いていたら、こんなトコで一人泣いていたらおかしいと・・・そう思って目をまた擦る。

「どうしたっ・・・・?」

本気で心配してくれているであろう敦賀さんは、そっと屈んで、私の目を覗きこんだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

声が震えてしまうのがこわくて、じっと目を合わせたまま、音を発する事が出来なかった。

「おいで。」

敦賀さんは私のバッグを持ち上げ、有無を言わさない表情で私の腕を取って立たせると、ゆっくりと私の歩調に合わせてくれる。

局内を歩く間いつもは、全ての女性に平等に投げかける「あの優しい微笑み」を見る事になる。完璧な紳士。他の誰にでも優しい敦賀さん。そのある種慣れたかわし方に尊敬する。

なのに、今日は「無表情」だった。

彼女達は敦賀さんの「いつものそれ」を期待してだろう、うっとりとした目を向け挨拶をする。そして「いつものそれがない」敦賀さんを見て取ると、一瞬不思議そうな顔をする。そして私のバッグを持ち、社さんも連れず二人きりだと認識すると、私に対して、背後から皆平等に、私を見定めるような氷のように冷たい目を向けていた。


けれど、私にはそんな事はどうでも良かった。


こうして、敦賀さんの横で歩いている間に、涙が止まらなかった理由が少しだけ分かったから・・・・・。


敦賀さんはそのまま私を自分のマンションに引っ張り、「そこに座って」と言って、彼も横に座った。けれどその表情は暗くて、彼が怒ってしまった理由を聞きたかった。私が無言になってしまったからだと思って、「ごめんなさい」と先に謝った。


「敦賀さん・・・・何故怒っているんです・・・?」
「オレのことなんて・・・いいから。君が泣いていた理由を、知りたいんだけど。」
「あの・・・・敦賀さん・・・・だいじょうぶですか・・・・?」
「それは、オレの台詞だろう?」

私は立ち上がると、TVボードから先ほど見ていたドラマのDVDを引っ張り出した。

「これ。」
「?」
「さっき・・・・これを、見ていたんです。だから。」


本当の事は、言えなかった。


泣いているのは敦賀さんの心です、なんて・・・・。


――敦賀さんは、「全て」を手にしているのに、どうしてこんなに「哀しい」のだろう?


それを、さっき歩いている時にふと思って、自分の涙の理由が分かった気がした。

敦賀さんは、人が欲しいと望むモノ、全てを手にしているのに・・・・。
容姿も名誉も富みも名声も・・・・。


――私の「夢」の象徴は、何よりも大きいのに、何かとても危うくて脆いものを内包しているように見えて「哀しい」・・・・・。


何が彼をこんなに苦しめているのだろう?
彼はそれを表に出す事が出来るのだろうか?
彼はそれでも今『幸せ』なのだろうか?

私が彼の心の奥底を完全に癒すことなど出来ないだろうけれど、それを和らげてあげる事は出来るかもしれない。


私は彼のことを殆ど何も知らないけれど、「ひどく愛しい」から「幸せにしてあげたい」。


彼が「幸せ」にならないと、私も「幸せ」にならないような気がして。
私の「夢」の象徴である以上、私以上にずっと「幸せ」であって欲しい・・・・・と。



気付いたら、敦賀さんは、あの『哀しい』表情で、私の目をじっと、覗きこんでいた・・・・。


「な・・・・なんでっ・・・・敦賀さん・・・・」

敦賀さんがまた『辛い』・・・・・なんて・・・・・。

また、何も考えられなくなってしまって、局からずっと握ったままだったコーンを、更に強く握り返した。

「ねぇ、君は・・・・なぜあの場で「コーン」を持って「泣いて」いたわけ・・・・・?そのドラマを見るのに「コーン」なんて、必要・・・・ないだろう・・・・・?」

そう言ってそっと私の手を取ると、私の中指をすりすりと撫でた。あの表情を見て、再び一気に力が抜けてしまった私の指は、すぐにその長い指によって開かれた。私の手からこぼれた「コーン」は、敦賀さんの手の中に落ちた。

そして、また私は涙が止まらなくなった。

コーンが無くなったからだと思った、けど・・・・・。

そっと優しく私の後頭部を撫でながら、親指でゆっくり涙を拭ってくれた敦賀さんは、やんわりと口を開いた。

「君は・・・・オレに会ってから一体何回コレの前で・・・・泣いた・・・・?」

彼の口調は本当に穏やかで優しかったけれど、こんなに穏やかならその表情もとても優しく見えそうなものなのに、やはりあの『哀しい』表情だった。



――なんで私が泣くと、敦賀さんがその表情をするの・・・・・?



そう思ったら更にぼろぼろ零れた涙が止まらなくて、俯いて敦賀さんの手の中のコーンを探し出して、その大きな手ごと握ってみた・・・・けど。


もはや今、「コーン」は何の意味も成さなかった。


「何回、泣いた?」


もう一度確かめるような怒ったような強い口調が頭上で聞こえた。
気付いたらぎゅっと身体を引き寄せられて、その強い両腕の中にすっぽりと納まっていた。
最初は驚いて、じたばたともがいたけれど、離してはくれなかった。


その強くもあり優しいような腕の中で、そのまま何かが崩れ落ちたように、私はずっと泣いていた。

「1回。」

そう口にするのがやっとだった。
アイツに捨てられた時だけ、と言いたかったけれど・・・・実際今「コーン」を目の前に、私は「泣いている」。


「嘘をついてもダメだよ。もっと、あるだろう?」
「きょ、今日・・・を・・・含めても2回、ですよ・・・っ・・・」


そう言うと、敦賀さんの腕は更に強くなった。
私の髪に唇を落として、何度も髪に頬を擦りよせる。
髪の間から、敦賀さんの熱く湿った吐息が優しく私のうなじに触れる。
彼が泣いている私をどう扱ったらいいのかも分からず、ただ、まるで壊れものを扱うようにそっと撫でて続け、慰め続けてくれている事が、とても愛しくて、切なかった。

敦賀さんの腕の中は、いつでも温かい。
じゃあ敦賀さんを温めてあげられるのは・・・・・・・・・?

今は、今こうして抱きしめてくれている間だけは、私の特権かもしれない。
でも・・・ずっと抱きしめていて欲しい・・・・・・と、そう思った。


「一回目はアイツのためだろう・・・?アイツに捨てられた時、だろう・・・?じゃあなぜ・・・今・・・・オレを前に、泣く?」
「「コーン」の魔法の効き目が・・・・無くなってしまったんです・・・・。」

「なんで・・・?」
「・・・・・・。」

敦賀さんの優しい腕の中で、また「分かった」。
だから、離れようと思って腕で身体を押したのに、敦賀さんは離してくれなかった。

「最上さん・・・・もう一度、聞くよ・・・・?なんでオレを前に、泣くの・・・・。」
「敦賀さんが泣かないから・・・・敦賀さんの代わりに・・・・・。」

「・・・・・・・・・なんで、そのドラマを見て・・・・そうなるの・・・・?」
「敦賀さん・・・・「コーン」は・・・・悲しみを食べてくれる石、なんです。」
「・・・・・うん・・・・。」
「だから。」
「・・・・・・?」
「コーンの魔法の範疇外、なんです・・・・。」
「どういう、意味・・・・?」

「・・・・敦賀さんが「泣かない」から、私が代わりに「泣いた」んです・・・・。だって・・・ドラマであんなに哀しい顔で「辛い」って・・・。やっぱり、敦賀さん私にも誰にも言えない、何か辛い事たくさんあるんだって。」

「あれは、ドラマで・・・・・・・。」

「なのに、さっきも私を見て同じ顔をしていました・・・・。私、敦賀さんが辛いと私も辛いんです・・・。敦賀さんが幸せにならないと私も幸せにならない。だから「コーン」は、今の私の涙は消せないんです。貴方の淋しさを思ったら、止まらなくなってしまったから。私、大好きなんです、敦賀さんが。好きで好きで仕方ない涙だから、消せないんです。」

「最上、さん・・・・?」

敦賀さんは驚いた表情のまま、何か言いたいような、でも言えないような、そんな顔で私を見下ろしていた。それはそうだろう・・・・私の口から「好き」なんて、まるで私には縁の無いような言葉。言われ慣れているとはいえ、どう返事をしていいのか分からないのだろう・・・・・。

「「コーン」はもう・・・・敦賀さんにあげます。敦賀さんが・・・・・誰にでも優しいように、私もせめて敦賀さんにだけはずっと優しくありたいんです。敦賀さんがコーンを持ってくれていたら、私は敦賀さんの手ごと握りしめますから。もし私が泣いたら、また今みたいに抱きしめてください。そうしたら、涙はすぐに止まりますから。ね?もう私、泣いてないでしょう?さっきからずっとずっと、コーンと一緒に抱きしめてくれていたから。」

「・・・・・・・・・・・」

しばらく無表情で押し黙った敦賀さんは、「ごめん、コーン貸して?」と言って、私からコーンを取ると身体を離した。

「やっぱり辛いですか・・・・?いいですよ?泣いて・・・。抱きしめてあげます・・・・。」
「ん・・・・そうだね・・・・辛い、かもしれない・・・くすくす・・・。」

苦笑した敦賀さんは、コーンをじっと眺めて、ありがとうと言って返してくれた。

「これは君が持ってて。」
「いえ・・・大丈夫ですよ?敦賀さんが、いてくれるなら。もう大丈夫ですから。」
「いや、いいよ、持ってて。オレが辛い時「君が」「そこ」にいて?それで、そのコーンの魔法は完成するよ。もう君は、魔法が切れたと言ってオレの為に泣かなくて、済む。」
「・・・・・私自身がコーンなんですか・・・・?」
「くすくす、そうだね・・・・。」
「なんです、その笑い・・・・。」
「君がオレの悲しみ、全部引き受けてくれればありがたいなぁと思って。」
「や、やっぱり・・・私は敦賀さんのストレス発散装置・・・・なんですか・・・?」
「いえ?」

そう言って「おなかすいたね、何か食べにいこうか」、と言った。

そんな、能天気な敦賀さんをよそに、私は困ってしまった・・・・・。


コーンの魔法は、「悲しみを食べる事」。
敦賀さんが辛い時に、私が「そこ」にいれば辛くならないって・・・・・。

それって・・・・敦賀さんが辛い時に私がそこにいたら、悲しみを取ってあげられるって事・・・?じゃあ、敦賀さんが辛いと私が辛いように、私が辛いと、敦賀さんも辛いの・・・・?

それって・・・・・・・。

「つ、敦賀さん、あのっ・・・・。」

優しい笑顔で敦賀さんは私の手をとって、立ち上がらせてくれて、一度私の手とコーンをぎゅっと握った。

「君はオレの夢の塊だよ?だからずっと笑っていて。君がその石の前でもう、泣かないようにいてくれる事が、一番オレは『幸せ』、かな。」

「私が敦賀さんの夢、なんですか???私は敦賀さんのコーンで、夢で、ストレス発散装置???」


――私は、敦賀さんが「夢」の象徴なんですけど・・・・・?



「くすくす・・・・ま、あとでよく考えてみてよ。ね、おなかすかない?」
「ん?そうですね。」
「じゃあ、いつものトコにいつものモノ、食べに行こう。」
「ふふ・・・・大好きですよ、敦賀さん。敦賀さんが、私の「夢」で、コーンなんです。もう、泣きません。」
「んー・・・・それ以上モノ言わないで欲しいよね・・・・ご飯、どころじゃなくなるから。」
「・・・・・・・・????もう私がしゃべったらダメですか????怒らせてしまいました?」
「くすくす・・・・・。」


大好きな敦賀さん。


・・・・・私の「夢」が、今までも、これからも、ずっと貴方のままでいられたら、それが私の一番の『幸せ』、かもしれない。 














2006.01.21 作 旧タイトル「夢」

2007.03.29 御題側へ移動
何となく作風がタイトルっぽい流れなのと、趣味に走っているので、移動させたかっただけ。タイトルはコレが一番しっくり、かな。