Liar!Liar!


「ねぇ、蓮。ずっと同じ部屋のままだけど。模様替え、しないの?」

そう言った彼女は、オレの目を覗きこむようにして伺いを立てている。

「したいの?」
「えっ・・・。えっと。うん。」
「好きなようにすれば?」

そう言うと、彼女は嬉しそうに目をきらきらさせて、声を発した。

「ホントっ????」

「・・・・・ど、どうぞ・・・・?」

その、どこかメルヘンの国の住人と化した彼女の目に一抹の不安を覚えて、オレの声はどこか戸惑ったものになってしまった。

「蓮、男に二言は無いわよね?」
「ちょ、ちょっと待って・・・一体どう変えるの。」
「えぇっ・・・・一生懸命働いてためたお金だもん。好きなように使いたいのに・・・・。」

唇を尖らせて言いたくなさそうな顔をして、指先でソファーをぐりぐりと弄っていた。

「好きなように使うのは君の自由だけどね。この家をどうしたいの。」
「・・・・・キルト生地のパッチワークのソファカバーとか・・・・レースのカーテンとか・・・おそろいのパジャマとか・・・・。」

「分かった。君の可愛い希望は“できるだけ”叶えてあげるから。でも一つだけは絶対に、聞けない。」
「何?」

「天蓋。あのホテルでオレは落ち着かなかったから却下。」


あの時の彼女の、メルヘンの国の住人と化した目の輝かせようは・・・今でもオレの目の裏に焼きついてはいるけれど。



――・・・・・あれはイヤだ・・・・・。




「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」


オレの服の裾をつかんで、彼女は心底不満そうに文句を垂れた。

「せ、せっかく好きなように替えていいって言ったのに!!蓮のうそつき〜〜〜〜〜〜!!!!!!私昔からあれで寝てみたかったんだもの!!!夢だったんだからっ!!!!」



――キョーコちゃん。君のメルヘン思考は嫌いじゃないけれど、それだけは・・・・・ダメだよ?



まるで子供のように駄々をこねる彼女の頭を一撫でして、その可愛い夢を紡ぎだす唇をそっと塞いで、抱き寄せた。


腕の中でじたばたしていた彼女も、しばらくして大人しくなった。


「はいはい。お嬢さん?夢は夢だからいいって事もあるでしょ?それならまたあのホテルに行けばいい。」

「え〜〜〜〜。毎日がいいのにぃ・・・・・。」

「くすくす。アレじゃなきゃ、やだ?」

「また・・・・・・キスして丸め込んだでしょ・・・・。いつもはそれで騙されているけど・・・・今日はそうはいかないわよ?」

「どういかないわけ?」

「買っちゃうもの。」



――君は優しいから、オレがイヤだというそれは、きっと買えないよね。


「どうぞ?」


オレは口の端の片方だけ上げて、彼女の必死の懇願に返事をした。
彼女はそれに気付いたのか、しゅんと肩を落とした。


「・・・蓮・・・・・子供っぽいって笑ってる?」
「くすくす・・・・いや、今更でしょ。君がね、そういうのが好きなトコもオレは好きだよ?でもね、せっかくそれを買ってもね、夜落ち着いて君との時間を過ごせなくなったら、やだなって。」


今度はにっこりと笑って彼女を見下ろした。
彼女はくるくると表情を変えて、どうしたらよいやら考えあぐねたまま、オレを見上げて固まっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ね?だから。」

そう言ってみたら、固まってオレを見上げたまま、彼女の目にはうっすらと涙が浮かんだ。そしてそのままオレの身体に顔を埋めて、抱きついてきた。

「うわぁぁぁぁぁん・・・・・・。夢だったのにぃぃぃぃ・・・・。蓮〜〜〜〜・・・。」
「あ〜〜〜・・・落ち着いて、キョーコちゃん・・・。」
「蓮は好き・・・・でもね、あのベッドも好きなの〜〜〜〜。」

がっちりとオレの腰に腕を回して上目遣いで見上げられて、どうしようもなく可愛いこの子をどうしようかと考えていたのだけれど。


彼女は「じゃあ、それ以外だったら好きなようにしていい?」とまたオレに伺いを立ててきた。


「はいはい、君の好きなようにしていいから。でもテディベアで枕元を埋め尽くすとか、レースでフリフリのベッドカバーとかはやめてね・・・・。」
「え〜〜〜〜〜!!!ちっとも私の好きなように出来ないじゃないっ。蓮の、ウソツキ〜〜〜〜〜〜!!!!」

「だって君とオレの家だもん。せめてベッドルームだけはオレの好きなようにさせて欲しいよね。」
「私、一生懸命貯めたのにっ・・・。・・・蓮の事好きだけど、たまに嫌い。」
「くすくす。オレはね、オレにしか見せない駄々っ子なキョーコちゃんも割と好きだよ。」
「もう、ズルイ・・・蓮・・・・。私が蓮のその笑顔に勝てないの知ってて、そうやっていつも丸め込むんだからぁ・・・。」

「ふふ・・・そうだね。オレは嘘つきだしずるいよ。でも夜、ベッドの上での君との時間はいつでも一緒。その事実は嘘つかないでしょ。」

「また変なヘリクツこねるんだから・・・・もう。」


ふう、と一つ息を吐いて、彼女はオレから身体を離した。


「じゃあ今度一緒にショップ行こう。二人で選べばいいだろ?冬用に模様替しないとね。これも嘘じゃないよ。」
「うん。」

「落ち着いた?」
「うん。」

「じゃ、場所移そうか。」
「・・・・うん・・・・。」

彼女はこくり、と一つ静かに頷いた。

「やけに素直だね・・・・。」

先ほどまで駄々をこねていたとは思えない程、穏やかな顔をしている彼女を見てつい試すような冗談めかした言葉が口をついて出た。

「素直だと、変?」
「そんな事は無いよ。ごめんね?・・・・・・くすくす。」

「じゃあ「やだ」って・・・拒んで欲しかった?その方が私らしい?」
「いや。その気にさせてくれないと困る。」

「その気に?」

そう言った彼女を再びそっと抱き寄せて、唇を吸い込んで塞ぎ、絡めては追った。彼女はオレの首にするりと腕を回して、不安定な体勢を何とか保とうとしていた。しばらくそうしていて、どちらとも無く離れると、オレは彼女の身体を抱き上げて立ち上がった。


「これも、君の「夢」とやらじゃないの?」
「・・うん・・・。」

「昔君を抱きかかえて連れた事があったね。覚えてる?」
「・・・・うん・・・・・。」

「さて、小さなお姫さま?ベッドの上でウソついちゃ、ダメだよ?これは約束してね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「返事は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

オレの首に腕を回した彼女はオレの首に顔を埋めたまま、動かなくなった。

「キョーコちゃん・・・・・・?ほら、「うん」って言って?」
「いやっ・・・・。」


「君はウソツキだよね。昔から。」


きゅっと無言で首にすりついた彼女はとても可愛くて、彼女で遊ぶのはもうやめて、天蓋もウソも無い普段通りのベッドルームへ足を向けた。



























2005.12.13 旧サイト20,000Hit Thanks SS