今夜月の見える丘に



私の最大のお願いが・・・・叶った。



叶うなんて思わなかったお願い。
だからこれが本当の事なのか・・・確かめたくて、
今日の敦賀さんの誘いを受けた。

幸せ、なのに、不安。


やっぱり不幸せになると思いこんでいたから?
予想が裏切られたから?



あなたの笑顔が誰にでも優しくて、相変らず会う女優さん、共演する女優さん、誰にでも向ける笑顔に、胸がきゅっと締まる。

敦賀さんのその柔らな笑顔に救われてきたのに、こんな気持ちになる日が来るなんて。



だけど、俳優としての敦賀さん、じゃなくて・・・・ただの敦賀さんとして見る日が来たことを、幸せに思わなきゃいけないって思う。



「敦賀さん、本当に私でいいんですか?」



そう聞くのが精一杯で。


横で運転する敦賀さんは、驚いたように目を見開くと、車を歩道に横付けした。身体をこちらに向けて私の表情を伺う。

「・・・・なんでそんな事聞くの?オレは君がいいって何度も言ったけど・・・・信じてもらえない?」

「いえ・・・・。だって・・・・・。」

「少し夜風にあたりに、どこかに出かけよう。」



そう言って敦賀さんは車をもう一度走らせた。もしこのまま乗っていたら、多分敦賀さんのおうちについて、私は初めて黙って朝を迎えることになったと思うのに・・・・。



敦賀さんは、しばらく黙ったまま車を走らせて、海に近い高台まで連れて行ってくれた。





海風が少し吹いて、肌寒い。
何も無いココは、真っ暗。光もない。
私たちを知っている人もいない。



冷えた空気が空をクリアにして、降る様な星と足元に広がる光の洪水と拡がる海の対比が綺麗だった。



敦賀さんを見上げると、敦賀さんも遠くを見ていた。
しばらくしてこちらを向くと、「ねぇ?」と声をかけてきた。そのままじりじりと横の大きな木の幹に身体を追いやられて、敦賀さん以外、視線の逃げ場がなくなった。



「今夜君は・・・どうしてついてきた?」


真っ暗な中、徐々に目が慣れて、傍にいる敦賀さんの姿がはっきり見えるようになった。真っ黒なロングコートを引っ掛けた敦賀さんも、吹き上げる海風に少し寒そうだった。おそるおそる視線を上げると、少し切なげな瞳とぶつかった。


「あのっ・・・・。」
「オレを信じられない?」


驚いて、思い切り首を振った。


――・・・・・・信じたいと思う、けど・・・・・。


「・・・今まで私が人に望んだ事が叶ったことって一度も無かったんです。だから・・・。」


――自信が無くて。


「オレが言う言葉が、信じられない?」

強い口調でもう一度返されて、寂しそうな目に思わず「ゴメンなさい」と口にした。


「敦賀さんに・・・そんなに思われてたなんて知らなくて。そんな瞳をさせて・・・ゴメンなさい・・・・。すごくすき、です。」



きゅっと、ひとさし指を握って俯くと、敦賀さんは手を握り返してそっと身体ごと包み込んでくれた。




――うわ・・・・・。




自分の口にした言葉と今の状況に…どうしようもなく照れていて。
火照った頬に、今度は肌寒い風が心地良かった。


「もう、信じて。」


見上げると、今度はそっと微笑むあの優しい笑顔にぶつかった。
私の後頭部に指先を入れて、そっと撫でてくれた。


「敦賀さんの笑顔を・・・私だけのものにしたくて・・・・苦しかったです・・・。」


素直な気持ちを吐き出すと、意外そうな顔をした敦賀さんは、「オレの方がよほど苦しかったけどね・・・・」と一言だけ口にして、私の唇を上から塞いだ。



また、私のお願いが一つ叶った。



『初めてのキスは好きな人と。』


そんな夢を叶えてくれるのが敦賀さんで、幸せだった。敦賀さんの気持ちが痛いほど分かる、少しだけいつもの優しさが乱れた唇。

ある意味優しくない敦賀さんの強い腕と絡めた息に、こんなにどきどきと幸せを感じるなんて。こんなに思われている事が幸せで、先程までの不安はいつのまにかどこかに消えた。


星と敦賀さんしか見えない中、徐々に、敦賀さんの唇の暖かな感触だけが、全てになった。







「あの日からずっと疑ってたなんてひどいね。」

帰りの車の中で敦賀さんが、ぽつり、と呟いた。

「疑ってなんて・・・・」
「あるよね。」
「だって!!いつでもどこでも敦賀さん変わらず誰にでも優しいし、誰にでも笑顔なんですもんっ・・・。」
「ほら。」

くすくす笑った敦賀さんは、「信じて大丈夫だよ」と言って、またあの優しい笑顔で笑っていた。


帰してくれると言ったけど・・・・私が敦賀さんを不安にさせたせいで、今日はあまり話が出来なかったから。もう少しだけ話をしていたくて、一緒にいたくて、敦賀さんに「おうちに寄っていいですか?」と聞くと、「お茶だけね」と苦笑いで返された。


「じゃあ、美味しいお茶を・・・一緒に飲みましょう?」



紅茶の優しい香りと共に・・・・その湯気が無くなるまでは、どうか敦賀さんの優しい笑顔は、私のものだけにさせて・・・・・。


今の私のお願い。
敦賀さんは私に何かお願いしてくれているのかしら?


マグの湯気の向こう側に見えた敦賀さんの笑顔は今まで見た事が無いぐらい優しくて、私のお願いは、また叶った。



――誰にもその笑顔を向けないでね。



一つ叶うたび、次から次へと増えて止まらない。


次のお願いは、何になるかしら?

『一緒にお出かけしたい』
『一緒にいたい』



『一緒に、一緒に・・・』



もう湯気はなくなってしまったけれど、敦賀さんの笑顔はそのままだった。


「敦賀さんの笑った顔、すきです。」


敦賀さんは、「どうした?」とだけ言って、またさらに優しく微笑んだ。


「送るから」と言って、お茶を飲んだ後すぐ、追い出されるようにおうちを後にした。敦賀さんが、ゆっくりと私と距離を縮めようとしてくれている事が分かって、とても嬉しかった。

別れ際、きゅっと抱きしめて「もう、信じてね?」と繰り返した敦賀さんに、耳元で一言告げた。


「いつか、朝、一緒にコーヒーを・・・飲みませんか?」


くすくす笑った敦賀さんに、えへへ、と笑って返した。
そして、「おやすみなさい」と告げて、背を向けた。


近いうちに叶うであろう、お願い。
ありきたりなお願いだけど。
少しだけ、大人になったような気がする、お願い。
私も敦賀さんと同じブラックで頑張るから。



――初めてのブラックコーヒーは・・・甘いかな?



いつかそのうち叶えてね、敦賀さん・・・・。



















2006.03.29


Special Thanks & Congratulations to 久住さま

旧サイト1万Hitキリリクエストとして。


えっと…とにもかくにも遅くなりまして本当にゴメンなさいでした。
頂いたリクエストはごくシンプル。「二人のデートが見たいです。」
しかし私には最大の難易度でございました(笑)。
そんなへたれ脳で何本か書いたうちの一本です。
別にデートしてないよね・・・と突っ込まれると痛いトコ。すみません(滝汗)。
今後デートさせたくなったら全て真っ先に久住様に差し上げますので。
もう一本は次回に・・・。


とにもかくにもOKいただきましてありがとうございました。
(忘れられていなくて良かった〜vというのが心底の本音でした(笑))
久住様、この度は貰っていただきましてありがとうございました。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。