君を今抱きたい


蓮にとって、キョーコが彼の耳元で柔らかく声を発する様がとにかく愛しかった。
繊細で感受性の強い彼女の、蓮を思った優しい言葉の数々。
蓮が耳元で応え返すと、キョーコは真っ赤になって、そしてそのままそっと身体を寄せてくる。
恥ずかしそうに、その小さな身体全体を使って、彼に気持ちを伝えようと、顔を埋める。

そんなやりとりを繰り返し、二人は互いの気持ちを確かめ合う。
ただ、ぴたりと存在を確かめ合うように、抱きしめあうだけ。
それだけの事が、二人にとっては一番の幸せだった。

キョーコは台詞を蓮の腕の中で覚え、蓮と共に言い回しの練習をして、抱き合い、眠る。
それが二人の日常であり、幸せの象徴。

どうしてそんなにぴたりとくっついていなければならないのか、というぐらい、二人は近くにいる。
傍から見れば、おかしなぐらい、ただの甘すぎる二人だろう。

でも、そうしていなければならないぐらい、二人が二人ともひた隠してきた淋しさや苦しさが、「もう二度とこの幸せを失いたくない」と、そんなたった一つの単純だけれど切なる願いをもたげさせる。愛しているからといって、互いの過去は変わらない。依存と言われても仕方が無いぐらい、互いを必要としていた。

だから、余計に『確かめたくなる』。


二人が、何かにつけぴたりと寄り添って傍にいる事が、恋なのか愛なのか、淋しさの埋め合わせなのか何なのかは分からないけれど、二人は互いを確かめ合うように優しく撫であう。そして、互いの腕の中で眠る。

その絶対的な安心感は、強く互いの心を支えている。

それでも、互いの身も心も魂も、何もかも全てを知りたいという深い欲求と共に、毎日のように確かめあい、どんなに愛の言葉を言い尽くし、どんなに互いの腕の中にいようとも、全くもって足りるという事はなかった。

どうして、そんな感情が生まれるのか・・・・。

とにかく、互いに互いが大事すぎて、愛しすぎて。

失う事の怖さを知っているが故の、哀しい性かもしれなかった。


だから、毎日のように、ぴたりとくっついては、互いの身体を撫であい、囁き合って、確かめる。


「キョーコちゃん・・・・もう・・・二人の時間にしよう?」

蓮の、いつもの一言。

「うん。」

キョーコの、いつもの返事。



全てを忘れて、互いだけを瞳の奥に写す。

むき出しの感情と、湿り気を帯びた息遣い。
生まれたままの身体と、甘い会話。
からかう指先に、こめかみに触れる口付け。
愛しすぎる互いの体温と重み。

甘く愛を交し合い、毎日、至福の恍惚感と共に眠る。


互いが傍にいるだけで、本当に幸せだった。



「蓮?あのね、私、蓮を抱きたい。」


とある日、彼女がそっと蓮の耳元で囁いた一言。

くすくすと笑った蓮の身体に、
「いつも蓮ばっかりだから!私は至って真剣なのに・・・。」とだんだんフェードアウトしながら呟いた、キョーコの真っ赤な顔が埋められて。

結局いつものようにそっと身体ごと寄せたキョーコを、蓮が抱きとめた。

「いいよ・・・?」

間近で不敵な笑みを浮かべた蓮に、キョーコはさらに真っ赤になったけれど。

「私、蓮に愛してるって言った女の人全員の誰よりも、蓮を愛していると思うの。ね?」

耳元でもらす柔らかい声とにこりと笑った優しい表情が、蓮に返事をした。

しかしいつものごとく天然なのだろう、率直で正直すぎるキョーコの一言に、さすがの蓮も、どうしようもない愛しさがこみあげて、苦笑するしかなかった。

そして、きっと不破もそう言われ続けてきたのだろうと、何とはなしに頭に浮かぶ。

「参ったよ、君には。」

彼女の圧倒的な魅力は、この生まれ持った魂の綺麗さゆえだろう、蓮はそう思い、その魂に触れようと、キョーコの身体をそっと撫でる。

そして、きっと生涯この綺麗な色の魂が傍にある限り、自分も幸せだろうと、蓮はキョーコに向けて、綺麗な微笑を見せた。





























2006.1.18 旧サイト30,000Hit Thanks SS