いつかのメリークリスマス



「ねぇ〜今日はどうするの?この後どこへ行くの?」
「何がです?」

社さんが横から、にや、と笑ったのは分かった。何が言いたいのかはすぐに分かったが、流すつもりだった。

「何がって…。あーヤダね。こういう男。分かっているクセに。まさか一人で過ごす、なんて事はないんだろ?クリスマス。」
「嫌だといわれても、一人ですよ。年末互いに暇な芸能人だったら困るでしょう。」
「そうだけどさぁ…。相変わらず恋愛淡白は治らないの?キョーコちゃんも少しぐらい蓮に「迎えに来い」って我侭ぐらい言えばいいのにさ〜。」


何故社さんが残念そうにするのか分からないが、彼は一体どんなクリスマスを想像しているというのだろう。どこを走っても目に飛び込む、彩られた世界と、煌びやかな電飾。恋人たちにとって重要な日、なのは分かっているが、互いに仕事だから仕方ない。彼女も、「今日は行けないから明日でいい…?」と、残念そうに口にした。その少し哀しそうな残念そうな様子が可愛かったから、別にそれはそれでいいと、思った。

「プレゼントは買った?」
「いえまだ・・・。買いに行く暇がなくて。明日確か早かったでしょう。だから明日にでも・・・。」
「何だって?!この男は。いくら当日会えないからって手を抜くなんぞ、ダメだよ。決まっているならオレが行って買って来てやるから、その店の前まで車、移動させてよね。」
「なんで社さんが買うんです。」
「お前が買う?店に入って?この車が付けられているかもしれないよ?蓮がこの街中で車の外に出たら…それこそクリスマスで集まっている女の子の山に囲まれて、身動き取れないよ?どうせなら婚約や結婚の事でにぎわせて欲しいよ、オレはね。」
「・・・・・・・・。」

オレが付き合おうが付き合うまいが、この人はオレと彼女の事となると、今でも世話を焼く。確かに社さんの言う事は一理あるが、それは彼女に買うもの。人の手で買うのは・・・というのが本音で、別に騒がれようが何しようが良かった。


「社さんは買ったんですか?プレゼント。」
「あぁ、買ったよ。オレはお前と違って時間があるからね。」
「オレと四六時中一緒でしょう。」
「その後の時間はあるもん。」
「そうですか。」

話を逸らして話題を変えようと思った。けれど。

「蓮。行かないの?」

そういう社さんの目は、ミラー越しに一歩も引かない。

「じゃあ社さんを送り届けたら、買いに行きますよ。」
「オレには見せられないような店に行く訳?」
「・・・いいえ。」

単に明日の事後報告が増える、それが面倒なだけだった。


元々クリスマスなんて、別にそんなにいい日などではなかった。他人事のような煌びやかさを本当は羨ましく思いながら、子供心に酷く冷めてみる事でそれを抑えた。

けれどそれは彼女もそうだった。随分昔・・・付き合う前、いつかのクリスマスの日、「クリスマスにいい思い出なんてありません。クリスマスプレゼントよりアイツがいれば私には良かったから・・・考えたことなんてありませんでしたし」。

彼女が語る昔の思い出が、そう良いモノでは無いのは分かってはいたけれど、いつもとは違う、出会ったころのように冷めて言った彼女の口ぶりと冷めたい目に、内心を抉られた。まるでそう言った彼女が昔の自分を見るようで、思わず、「クリスマスプレゼントっていう程でもないけれどね。」、そう言いながら、オレのしていた真っ白なマフラーをかけて、無理やりプレゼントをした記憶がある。そんな顔をした彼女の表情と、思い出をどうにか少しでも変えてあげたかった、ただそれだけ。肌寒そうな様子を見て、その場で考え付いたのがそれというだけだった。大したものでは無かったのに…オレに嬉しそうに微笑んだ彼女の表情を、今でも覚えている。その時から、クリスマスという日に、また別の感情が増えた。


せめてこの日だけでも、大事な誰かを一番幸せにしてあげたい、君がもうそんな顔をしながらクリスマスを思い出さないように…強くあってあげたい。オレにもその心を傾ける大事な誰かがいる事が、嬉しかった。

その後、何かいいわけを付けては毎年、どこに行くでもなく、互いに何か少しだけのプレゼントを持ち寄り、その日は一緒に時間を過ごす。いつもと同じようで少しだけ何かが違うその日を、オレと過ごす事でそんなに嬉しそうに、幸せそうにするのが嬉しくて、自分も幸せになっていった。


付き合いだしてからも、毎年それは変らない。「何が欲しい?」そう言うオレに、「敦賀さんと毎年こうして一緒にお祝いできれば、それでいいんです。それ以上望んだら、バチが当たります。だから、ケーキとシャンパン、今年もまた買って来ていいですか?」笑顔でそう言う彼女に、また別の感情が増えた。


完全に、オレのモノにしたい。クリスマスに外で一緒に歩きたい。変らない毎年のクリスマスを、約束してあげたい。いつでも傍に。男なら、いつか誰にでもある、決断。


だから。




「一つ指輪を、作ったんです。」



信号待ちをしていた時。ぽつりと急に言った言葉を、社さんはすぐには飲み込めずに、声を発するまで一瞬の間があった。


「え?」
「彼女に。」
「え・・・・あ、そうなの?」


オレが何も用意していない事に、何をしようかと意気込んでいたのか、拍子抜けしたのか何なのか、社さんは、オレの顔を目を見開いたまま、じっと見ていた。

「だから、オレが取りに行こうと思って。でも近いしせっかくだから…お店に寄って帰ります。すみませんが・・・・オレの携帯の着歴の一番の電話番号に、これから行くと、連絡入れてもらえませんか?」
「あ・・・う、うん、そうだね。」


社さんがそんなに動揺しなくてもいいのに、と内心可笑しかった。いつもの女性店員に袋を渡されたついでに、「その指輪が近いうちにメディアで見られるのを楽しみにしておりますわ」と、含み笑顔で囁かれた。苦笑いで店を後にして、社さんを送り届けて、部屋に帰った。


指輪の入った紙袋をリビングのガラステーブルにおく。猫が絡まり、少しだけ相手をして、シャワーを浴びた。眠るために、横になりながらでも彼女に電話をしようと寝室に入ると、大きな塊。彼女がうつ伏せで足を抱えるようにして身体を丸めて寝ていた。

驚いて近寄ると、腕の中にはオレのパジャマが抱きかかえられている。そして、靴が、ベッドサイドに紙を敷き、その上に置いてあった。おおかたオレを驚かそうとでも思ったのだろう。



「・・・・大きなクリスマスプレゼント、発見。」



彼女のスケジュールは知っていた。今日はオレよりもラストは遅かった。だから、この部屋に来るために、相当・・・それはすごい勢いで・・・急いで来てくれたのだと、思った。急いで来すぎて、疲れて眠ってしまった、そういう事だろう。なんて彼女らしいのだろうと、笑みがもれた。


起こさないようにパジャマを取るつもりだったけれど、目を覚ました。ベッドサイドに腰掛けて、まだぼんやりしている彼女の髪を梳いた。

「キョーコちゃん・・・。」
「・・・おかえりなさい・・・・・。」
「いいよ、まだ寝ていて。今日は会えないかと思ったから。居てくれるだけで。」
「・・・・だって・・・毎年一緒って・・・・。」
「うん・・・・。」


オレのパジャマに顔を埋めてその表情を隠した彼女から、それを取り上げた。そして、ゆっくりとまた髪を梳いて、頬を撫でる。その手に頬をすり寄せ、目を伏せて、オレの手の中に表情を隠した彼女に、寂しかったと正直に言えない、切ない気持ちを感じ取った。


「帰ってくるのが遅かったから・・・・待たせて、寂しい思いをさせたね。」


今日は遅くても9時までには仕事は終わると伝えてあった。帰ってきても10時半ほど。その後に電話すると、言っておいた。なのに、今は既に12時。クリスマスのこの日、電話も無く、メールも無く、日を超えて一人待っている時間は、いつもの倍以上長く感じただろう。仕事は8時には終わっていたけれど、まさか来ているとは思わず、店に寄った。

彼女はオレに会うために、何もかもを置いてココに来てくれた。普段約束無しには部屋に来ない彼女が、部屋にいる。プレゼントは彼女自身。愛しくて仕方が無い。彼女は、ふるふるふる・・・と手の中で強く首を振った。


「クリスマスに一人にしてごめん…。」
「約束してなかったのに…勝手に来てしまってごめんなさい。でもどうしても今日は会いたかったの…。」

彼女は誰かを待つ事にひどく怯えるから、約束無しに会いに来ないのに、まさかこの日に待たせてしまうなんて。

「うん・・・・来てくれて嬉しい・・・・。」


抱きしめた腕の中で、彼女はオレの身体に腕を回して、しばらくの間動かなかった。動けなかった、という方が正しいかもしれない。


「少しだけ、ここで、待っていて?リビングに行って戻ってくるから。」


子供のように、こくり、と頷いた彼女をおいて、先程の包みを取って戻る。


「プレゼントをね・・・貰いに行っていたんだ…。」


ゆっくり丁寧に包みを開けた彼女の顔は、驚き、そしてそれは、嬉しそうだった。そう、オレはその嬉しそうな顔が見たかった。


「毎年・・・クリスマスは二人でね、笑っていたいんだ。今年のクリスマスは、君を、プレゼントに欲しい。君の未来を幸せにすると、約束するから。」
「うん・・・・。」


再び、身体に腕を回して、彼女は離れない。
泣いて頬をすり寄せる彼女を、永く、抱きしめた。




――君の心から安らげる居場所を作ってあげたい。




オレはずっと、君の傍に・・・・。




だから、クリスマスは、とても特別な日に、なった。










2006.12.23