ACT.88逆シチュネタ(末広がりまで来ましたね)。単に蓮不足病(笑)。またまたいずれ被ってもどうなっても平気だわという太っ腹な方だけどうぞ(^^;。ヘビーなのがダメな方、レイキョがダメな方もブラウザバックでお願いされたしv






























イカせておくれ





「もう、もう我慢なら無いわっ・・・・」



そう言うが早いか、京子はとある楽屋に足を踏み入れた。そこにはゆったりと椅子に腰掛けた「彼」が、にっこりと微笑を浮かべて座っていた。相変らずの黒い衣装と銀色のアクセサリー。ちゃり・・・と音を立てて、入り口に立っていたキョーコに身体を向けた。



「・・・訂正しなさいよね。」
「おや・・・またアンタの方からのこのこやってくるなんて・・・いらっしゃい。」
「いらっしゃいじゃないでしょ・・・止めておいて・・・・。」
「そんな事ないだろう?自ら入ってきたじゃないか。何か飲む?」
「・・・・・・。今、アンタ誰の話をしてたと思ってるのよ・・・。」
「・・・・・コレのコト?」



悪魔のように美麗な顔に薄い笑みを浮かべて、「彼」は、画面に映る背の高い男を指差した。



誰もいない部屋で彼はゆったりと椅子に腰掛けて、再びテレビに視線を戻した。その視線の先には、その背の高い男が最大評価を受けたドラマが流れている。それを見たキョーコは、更に顔を凶悪にしかめた。その表情を見て取った「彼」はまたクッと喉を鳴らした。



「あんたの大事な事務所の「先輩」ってヤツだっけ。」
「・・・・・・そうよ。」
「で?オレが酷評するのが耐えられなくなったって訳だ。立ち聞きまでしてね。」


きっ・・・と図星を指されてキョーコがレイノを睨む。帰ろうとしていたのに・・・たまたま楽屋の前を通ったら…急に足が動かなくなった。控え室に張ってあった名前を見て、「アイツだ!!」とまた冷や汗が流れて、逃げようと思うのに、少々開いていた扉の隙間から耳に入った言葉に自然に足は逃げる事をやめた。



『敦賀蓮、ねぇ・・・・。世間が騒ぐほどかな、この演技でね・・・ふーん・・・。』



続いた蓮への評価に、最後の最後、キョーコの身体の中で、血が逆流した気がした。そして自らドアを開けた。部屋に身体を向けたその時は、足が動いた。まるで彼が中から外を覗いているかのように。



「アンタ・・・ミュージシャンでしょ・・・?俳優にまで口出しする訳・・・?仮にもアンタよりも仕事歴は長いのよ・・・・?」

「別に・・・単なる一視聴者としての意見だろ?どんなにスゴイと言われる俳優だろうと・・・好き嫌いぐらいあるだろう。アンタが敦賀蓮の演技をどう思ってるかなんていうのは知らないし・・・・・・・というか関係ない。そういう・・・・アンタだって女優じゃないじゃないか。」

「・・・・・そうね。事務所の配属上「女優」という括りにはいないわね。」

「敦賀蓮の為にも・・・・そうやって熱くなるんだな・・・。オレには冷たい。」

「当たり前でしょ。」

「つれないな。せっかく君から会いに来てくれたって言うのに・・・。ま、独り言っていう餌は捲いたけど・・・・。敦賀蓮を信奉する人間なら誰でも良かったんだけどね、他ならぬ君が釣れた。逃がした魚は大きいって言うけど、ホントだな・・・。君、あの最初の出会いの時より少しはマシになったじゃないか。」

「余計なお世話よっ。それにアンタの独り言なんて私以外の誰かが聞かなくて良かったわ。」

「さて・・・・。せっかく来てくれたんだからおもてなし・・・しないとね。」



ギクリ、と身体が一瞬硬直する。彼がキョーコに本気になると宣言して以来の数々の妨害。今日は誰もいない・・・。



――誰にも頼らないもの。



そう心で強がってみても・・・・一瞬アイツの怒った顔が浮かぶ。そして・・・・浮かぶもう一つの顔。今ココにいること自体、誰に褒められる訳でもない、むしろ二人の男のどちらが聞いても怒るだろう・・・。でも。「この男」が蓮について口にすることが、蓮を侮辱するためだけに発せられた事は確かで、黙っていられなかった。無意識に身体が先に動いて、気付いたらドアを開けていた。


「おや・・・ちょうどもう一匹大きな魚が来るな。こちらにも餌捲いておくか・・・。」


ぱっと・・・リモコンで映像を切り替えるレイノの視線の先には・・・・キョーコの出演した尚のプロモーションビデオ。映像の中のキョーコの頬に、す・・・と涙が流れ落ちて、尚の首にふわり、と指先が触れる。


「ねぇ・・・これと同じシーン・・・今ココで・・・オレでやってよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「オレを憎んで憎んで・・・・憎くて仕方なくて・・・触れてみて・・・。」

「・・・・・いやよっ・・・。」

「不破じゃなきゃ、イヤ・・・?」

「そうよっ・・・。この演技はアイツの曲の為にやったんだから!!」

「へぇ・・・?じゃあ次のオレたちの曲のプロモ・・・君にお願いしようか。」

「お断りよっ!!!」

「・・・・知名度はどっちがあると思う?事務所は断れないだろうね。」

「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・。」

「大好きな不破・・・だからP.Vに出た訳?」

「大好き・・・・だからやったんじゃないわ。」

「不破に勝つため、畏怖を覚えさせる為だっけ・・・?ま、ココで不破も君に負けてるけどね。オレの相手にもならないな。」

「アイツに勝つとか負けるとかじゃないわ・・・・!プロモ撮りの時そんな気持ちでやってなかったもの・・・。そんなのはいけないって敦賀さんが教えてくれたんだから。なんで私が演技に煩いかなんて・・・演技で敦賀さんに追いつく為よっ・・・。それにさっきから・・・演技に口出すあんたのプロモでの演技は一体どうなのよ!!」

「見たい?」

「・・・・・・・見たくないっ。」

「意地張らないで見てよ。綺麗だよ?見て・・・覚えて・・・オレにも追いつきたいと思うと思うよ・・・?不破や敦賀蓮なんてやめて・・・早くオレにしなよ。君の全ての目標に一気に片がつくじゃないか。」



いつものように動けないキョーコの身体を、久々とばかりにきゅっと・・・抱きしめて、レイノはキョーコの耳元でくすくすっと笑う。なんとか首をそむけて、その降って来る吐息を避けてみる。けれども、それも虚しい抵抗。



「いやっ。」
「・・・・・・・いらっしゃい。ほら、独り言でもう一匹釣れた。」
「・・・・・・・・」


空気が張り詰めた気がする。レイノがニッと笑って、腕の中のキョーコを離した。動けるようになったキョーコは、蓮の元に駆け寄った。


「敦賀さん・・・・。」

「・・・・・・・・。」


おそるおそる震えた声で呼びかけた名前に蓮は無言で、自分の背中に片手でキョーコを押し込めて前を向いた。キョーコはほっとしたのは確かで、部屋には更に社が入ってきて、ぱたり、とドアを閉めた。


「どうも。「センパイ」。」

「・・・・・・・・・。」

「第二の王子様・・・だよね。京子ちゃん・・・?」

「っ・・・・・・・・。」

「彼も「私の物」って叫ばないの・・・ねぇ?京子ちゃん?それは別の意味になる?」

「・・・・・・・・。」

「オレが君に手を出し続ける限り、君と不破とこのセンパイがオレの相手をしてくれるんだろ。ふふ・・・。」

「・・・・・・・アンタ寂しいの?」

「いや?単に君が欲しい。憎んで憎んで・・・・その裏にある激しい愛が欲しいだけだよ。ね?燃えるだろ?・・・・・・・・・そう思いません?センパイ・・・・・?」


ニッと笑ったレイノに、キョーコは視線をそらした。論点が合わない。何を言っても無駄だと・・・悟ったキョーコは、社を振り返った。蓮の後ろで社が動いて、キョーコと外に出た。


「へぇ、あの人・・・スゴイね。オレのエリアから動けるんだ。アンタのマネージャー?」

「・・・・・・・・・。」


二人が外に出たのを確認すると、蓮はにこり、と笑って、「オレも動けるよ」、と初めて一言だけ口にした。


「ふ・・・・。そうだろうね。また会いましょう・・・・センパイ・・・・。」


レイノは再びにっこりと笑みを浮かべていた。


蓮が扉を閉めて外に出ると、社とキョーコは少し離れた所に立っていた。開いたドアに、ちいさく震えて身体を固めたキョーコに蓮は気付いていた。


「・・・・・・最上さん。」
「ハイ。」
「オレの言いたい事は分かっているよね?」
「ハイ。」
「・・・・帰ろう。」
「ハイ・・・・。」


怒られる・・・・たぶん大魔王・・・と思ったのに、蓮は怒らなかった。けれどもどこか張り詰めた空気が流れる。蓮が「彼」の事で気を張っているのは分かっているし、キョーコもどちらにも気を張って、更にはまたやってしまったと自己嫌悪とで、泣きたい気分で社の後ろから、ぽてぽて・・・とぼんやりした思考で着いて来る。


「蓮。」


その沈黙を破ったのは社で、すっと親指で右横の部屋を指した。


「そこの部屋開いてる。オレはここにいるよ。」
「・・・・・・・・・・・おいで、最上さん。」
「え・・・?」


腕を引っ張って部屋にキョーコを押し込むと、ぱたり、と蓮は後ろ手でドアを閉めた。

「・・・・・・・・・どうして。」

「だって・・・・だって・・・・・。」

「だって・・・何?なんで・・・ヤツの部屋にいたの・・・?怒らないから。言って。」


じっ・・・・と上目遣いで蓮を見たキョーコは、本当に怒らないですか?と・・・付け加えて口を開いた。



「敦賀さんの演技に・・・口出しするなんて、ましてやミュージシャンが・・・って思ったら・・・黙っていられなくて・・・・・。」

「・・・・・・・・・・オレのせい?」

「いやだったんですっ・・・。誰だろうって覗いた時にはもう、身体が動かなかった。敦賀さんの・・・・演技について言っているのを聞いていたら腹が立って・・・。敦賀さんが普段どれだけ努力して頑張っているのか、ホントの事なんて全然知らないくせにって・・・・。悔しくて・・・・。」

「・・・・・・・・・・気持ちは嬉しいけどね・・・・・・オレの・・・・心臓が止まりそうな気持ちも、分かって・・・・。君の嫌がる声とアイツの指が見えて・・・・。」

「・・・・敦賀さん・・・・・。」

「それに・・・・第二の王子って何?」

「・・・・・・・・・知りませんっ・・・・勝手にアイツがっ・・・ショータローを私の王子扱いしただけで・・・。だからっ・・・・。迎えに来てくれたから・・・・。」

「・・・・・私のモノ・・・・って・・・・」

「いえ・・・。敦賀さんは、みんなのモノ・・・・ですよ・・・ふふ。」


力なく笑うキョーコを見る蓮の目は、とても哀しそうで、自分の為にリスクを犯してまで怒ってくれて更に肩を落とす彼女を今ここで抱きしめてあげたい気持ちと、自分の中の気持ちとの間の葛藤で、ぎりっ・・・と強く歯をかみ締めて、そして不意に動いてしまった手が、行く当てもなく宙を彷徨った。


「もう、オレのコトで・・・アイツに何か言われても、聞かないんだよ?」
「・・・・・ハイ・・・・・。」
「でも、ありがとう・・・・。」



彷徨った大きな手は、そっとキョーコの頭の上に置かれて、くしゃり、と短い黒髪を混ぜた。部屋の前でキョーコの嫌がる声に、芸能人敦賀蓮として後先考えずに動いた自分がいた事は確かで、レイノが、ニッと笑った理由も分かっている。今回は・・・蓮の気持ちを暴きたかっただろうレイノの勝ち。更に、言うに言えない自分まで見透かされているのだろう。


「最上さん・・・一人でもう無茶はしないで・・・・。君のお守りだけじゃ・・・アイツから君を護ってはくれないから・・・。」



――オレが護る・・・・


と、口には出来なくて、苦しげに細めた蓮の目とキョーコの見上げた目が合った。


「ハイ・・・。ありがとうございます・・・。」



何かを感じ取ったキョーコは、そっと蓮から視線をそらした。




・・・・・・逃した魚を最後に拾い上げるのは、誰?











2006.05.23