「病める時も、健やかなる時も、永遠に愛を誓いますか?」
「はい、誓います。」


厳かに誓約が交わされて、新婦のベールをあげる様に神父に指示される。互いの目が久方ぶりに合い、キョーコの緊張を解くように、蓮がふわり、と微笑んだ。



「誓いの口付けを。」


蓮がキョーコの肩をそっと支えて体躯を折る。
重なり合った、二人の唇。
緊張でほんの少し震えるキョーコの唇を、蓮のそれがそっと覆った。


聖なる日の、聖なる口付け。


キョーコの頬に、一筋の涙が流れた。










HOLY NIGHTにくちづけを






「投げるね〜〜〜〜〜!!!」


蓮に腕にお姫様抱っこで抱えられたキョーコが、右手で空に花を投げた。
青空と澄んだ空気、眩しい日の光。
その中心に高く真っ白な花の束が舞う。
傍にいた誰もの視線がその花束に向かう。


――すぽん。


その花が緩やかな軌道を描き、伸ばすでもなく自然と腕の中に収まった。目をぱちぱちさせて驚いて、目を大きく見開いたのは、式の最初から最後まで大号泣して目を真っ赤に腫らしたマリアだった。


「お姉さまっ!!わ、私がもらっちゃっていいのかしら??」
「良かったわ、マリアちゃんに貰ってもらえて。お誕生日おめでとうマリアちゃん。」
「マリアちゃんもすぐ同じように投げて幸せになるんだよ。だって君は愛の日に生まれた子なんだから。」
「素敵な誕生日プレゼントありがとう・・・こんなに嬉しいプレゼント、貰った事ない。」

キョーコは蓮の首に腕を回し、支えられながらにっこり笑って、ブーケに顔をうずめた涙声のマリアの頭を撫でた。

「本当にお姉さま綺麗〜〜〜蓮様素敵〜〜〜〜・・・。」
「ありがとう・・・・あらあら。」

再び大号泣し始めたマリアの背中を撫でながら、キョーコはその涙を拭うようにして笑った。傍に控えていたカメラマンが三人の姿を自然にカメラに納めていく。


「マリア・・・・」


それに一気に涙目になったのは、ローリィ宝田。感動したのと共に。抱きかかえられているキョーコが蓮の肩に両腕を回し、耳にそっと囁いた。


「ねぇ蓮、見てっ・・・社長さんってばもう、マリアちゃんがお嫁に行く日を想像して泣いているわ・・・」
「相手が大変だよね・・・・。」
「よね、くすくす・・・・。」


ホワイトクリスマス。少し風が吹くと、木にかかった雪が、まるで花びらのように舞い、スノーシャワーになって二人を祝福する。二人の思い出の地である軽井沢のとある教会は、一面真っ白な雪で覆われている。その中蓮が、キョーコの白いドレスが地につかないよう恥かしがるキョーコを腕に抱え、お姫様抱っこをして、有無を言わさない笑顔を作り、外に出た。


真っ白なドレスに身を包んだキョーコの肩に、蓮が横から渡された真っ白な毛のストールをかける。雪に日が反射して、キラキラと輝く。そして、白い何重にも重なった真っ白なレースとシルクのドレス。キョーコを取り巻くもの何もかもが真っ白で、それは綺麗な光景。教会にとっても一番大切な日、木や花は一面クリスマス仕様にデコレートされている。


「モー子さん、お花欲しかった?」
「別に?」
「そうよねっ、モー子さんもうすぐ投げるよね?うふふ・・・。次は式に出るの楽しみにしているから・・・お先にゴメンね。」
「今日はアンタの式で、私のなんてどうでもいいのよ・・・・///。」


蓮はキョーコを抱えたままゆっくりと階段を下りた。一段一段、一歩一歩、大事そうに抱えたキョーコを確かめ気遣うように降りる。用意された席に彼女を降ろすまで、キョーコを離さなかった。



限られた内輪だけの挙式。キョーコの母親も、尚の両親も、だるまやの夫婦も、尚もいる。奏江、マリア、社長、そして一番男の中で泣きに泣いているのは社。二人が一緒になるまでに出会って、そして、共に見守ってくれた人たちだけの小さな挙式。二人にとってはそれで十分過ぎる程幸せだった。




「長い話は抜きにして。二人とも本当におめでとう。」


挙式の後、社長の乾杯の合図と共に始められた食事。堅苦しい挨拶など一切無く、思い思いにその時間と空間を楽しんでいる。その間に流されたのは、新開監督がこっそりと撮リ貯めた、蓮とキョーコの写真や映像。それを映画のネガのように切り貼りして流され、二人を驚かせた。

「いや〜〜〜〜!!!」

真っ赤になったのはキョーコ。新開から依頼されて蓮と二人で仕事をした雑誌社の写真撮影で、蓮を見つめる自分も、プライベートで自分が蓮を見つめる目も、初めて目の当たりにしたからだ。「蓮が好き」だと、カメラは正直に捉えていた。蓮との仕事風景すら妙に恥かしくて、照れて真っ赤になった。

「・・・・・・・・。」

苦笑いだったのは蓮。宝田一味だったのを思い出した。そしてそのボスである社長は、愛が溢れているいい仕事だなあと、頷きながら満足げにその映像を眺めている。カメラの向こうでキョーコへの気持ちがありありと写っているのは蓮も同じである。


その中には二人が一番最初に演技をぶつけ合ったあの日の映像も含まれていた。真っ青な顔のキョーコが、『お客様が席を外されない以上・・・席を外す事は許されて・・・ません・・・』そう冷や汗の中弱く口にした姿に皆が唖然とする中、尚の母親だけは、「さすが私のキョーコちゃんやわ」と横に居たキョーコの母親に誇らしげに話しかけ、「私のよ」とキョーコの母の冴菜が短く口にした。


画面から蓮がいなくなって着物姿のキョーコが最後、ぱたり、と畳に倒れる。キョーコ自身も初めて見る記憶の無い自分と、あの時の蓮へ挑んだ自分の強い目。蓮が「最初から君は本当に負けず嫌いだよね…」。とキョーコに笑って囁くと、キョーコが、「だって…ケンカ売られていると思ったんだもの。」そう言って、可愛く膨れた。



二人の元に酒を注ぎに来た新開が「おめでとう。オレにしかできないプレゼント、気に入ってくれた?」そう言って、にやり、と蓮を見て、からかう様にして笑った。


「忘れてましたよ、一味だったの・・・ありがとうございます。」
「監督っ・・・ひどいですっ、あんなに沢山隠し撮りしてたなんて〜〜っ。」
「隠し撮り?してないよ〜二人ともカメラ慣れしすぎているんだって。回っていたの、全然気づかなかっただろう?」
「・・・はい・・・。」
「オレは二人を主演に撮ったつもりで編集したんだけどね…。お前らホント、どこを切り取ってみても仲が良すぎてだな、映画として作品にならんよ。まあ・・・・けど作るのは楽しかったよ・・・こんな作品も、たまにはいいね。」

心から照れるキョーコに、監督は、穏やかに笑みを浮かべた。

「お幸せに、京子ちゃん。今度コレとね、今日の式から最後まで映像全部編集して、プレゼントしてあげるからさ。またオレの映画、主演してよね。」
「ふふ、それが一番のプレゼントです。映像も本当にありがとうございます。」
「礼なら宝田社長に。それに、おやすいご用だよ。仕事と君の事になると厳し〜い旦那様の許可無しに出演OKもらっとけるなんてさ。思い切り熱いシーンを入れてあげるからさ、それで蓮に嫉妬させてやろうよ。ふふん。」
「もう監督っ!!」

照れたキョーコに再びにやり、と笑った新開は「お幸せに」ともう一度繰り返して宝田社長の横へ戻った。


そして。


一番最後に傍に来た社を見てほっとして、ついにキョーコが号泣した。介添えが横から笑顔で真っ白なハンカチを手渡す。

「キョーコちゃん綺麗〜〜〜〜。」
「や、やしろさんっ・・・・がっ・・・・泣いてると〜〜〜〜ダメ、もらい泣きしちゃいますっ・・・。」
「オレは今日の日をどんなに待ちわびたか・・・・。ずずっ・・・・。」
「社さん、泣きすぎですよ・・・。」
「蓮!!!お前はっ・・・本当に今までのオレの苦労を何だと思ってるんだっ・・・。」
「くすくす、酔ってますか?」
「酔ってないよっ!キョーコちゃん、オレの目が黒いうちは、蓮が今日の誓約を破る日は無いからね!!安心してっ!!」

泣きながらであるが、社は力説する。
キョーコも泣きながら、笑った。

「オレは社さんが居なくても破りませんよ・・・。」
「本当に、お前は〜〜〜。」
「うふふ・・・・社さん、敦賀さんが大好きなんですよね?」
「オレ以外の人間が蓮のマネージングなんて出来ない自負はあるよ!!」
「はは・・・。そうですね。オレが自由にやっていられるのも社さんのおかげですよ。これからもよろしくお願いします。」
「蓮、キョーコちゃん、本当におめでとう・・・・・ずずっ・・・・。」
「くすくす・・・」


笑って、泣いて。
その日、キョーコは蓮の、蓮だけの姫に、なった。





夜。たった二人になって、深々と降り続く雪の中、蓮がキョーコを包み込む。部屋の周りに物音は何も無く、美しく電飾された大きなもみの木から積もった雪が滑り落ちる音だけがする。

「キョーコちゃん、楽しかった?」
「ものすごく・・・ありがとう、蓮。」
「君は綺麗だったね。」
「お姫様になったみたいに幸せだった。それに蓮もすごく似合ってた…。」

上がっていた蓮の前髪はもちろんもう、降りている。
昼間のようにキョーコが蓮の髪を掬い上げて、額に自分の額をくっつけて、瞳を覗いた。


「・・・大好き。」
「キョーコちゃん、オレの全てで愛してあげるよ・・・。」
「うん・・・私の全てで、愛してあげる・・・・。」



『愛してる・・・・。』



互いにそう囁き、もう一度、聖なる口付けを交わした。
そして聖なる日のプレンゼントは、互いの愛、ただそれだけ。


深々と降り積もる雪は、静かに、けれど二人以外の何もかもをそっと隠して、深い愛で結ばれた二人を祝福した。




朝、部屋の入り口の椅子の上に、白い枝を組み合わせて作ったハート形のオブジェが、置いてあった。白い紙で、『To Ren & Kyoko』と書いて挟んであった。そして、



『 Love Me Deep! 』



真ん中にあるプレートには赤い実を繋げてそう書かれていて、ヒイラギの葉が飾ってあった。キョーコがそのオブジェに気づいて、そっと取り上げて、蓮の元まで運んだ。


「蓮、見て・・・?」
「ん?…Love Me Deep…くすくす…。」
「モー子サンタとマリアサンタさんからクリスマスプレゼント、貰っちゃった。きっと朝、置いてくれたんだわ。」


そして『Love is beside you. from Kanae&Maria.』、白い紙の裏にそう走り書きが入っていたのに蓮が気づいた。


「うん・・・そうだね。愛はいつでも君のすぐ傍にあるよ。もう迷わないでね?」
「大丈夫。だって蓮が私に愛の全てを教えてくれたもの・・・。」
「君もオレに全てを教えてくれただろう・・・・?」




蓮はキョーコをそっと抱きしめて、手を取る。




互いの左の薬指に光る指輪を撫で合い、そしてまた互いを確かめ合うように口付け合った。





愛は、あなたのすぐ傍に。






――Merry Christmas!













2006.12.25

Special Thanks to Shiho Kitaura.

北浦様とお話していた時に「蓮キョのWeddingが見たいv」と直々にリクエスト頂いて、沢山頂いている素敵な絵の御礼になればと、もちろんひれ伏して引き受けさせていただくことにして(笑)、自サイトであちこちに振っておいたWeddingネタを元に作ってみる事にしました。おかげで「いつメリ」もできましたし、マリアちゃんのお話まで書けたので、大変ありがたーいリクエストに大感謝なのです。ラフをお見せした時に「脳内覗いた?」と言っていただけたのが一番嬉しかったです(笑)。そんな訳で、コレはクリスマスプレゼントにさせて頂きました。貰って頂けて嬉しいです。

それにしましてもリクエストが無ければ絶対に(と断言しちゃう)自ら書くことはないだろうネタを振ってくださってありがとうございました。えー…ウチにはあまり無いストレートな話で(非常に照れているのですが)…こういうのは皆様的には如何だったでしょうか。照れついでにこんなに言い訳が長くなりましたが、北浦様ありがとうございます!なのです。これからもどうぞよろしく御願いいたします。