――ぱちん・・・ぱちん・・・・・


――ぱちん・・・・ぱちん・・・・




綺麗な、綺麗な、まあるく碧いしあわせ色が、優しくぶつかり合うと・・・






ハピネス






――ころころ・・・・。



「オレのベッドでなにやってるのかな。お嬢さん。」
「敦賀さん・・・・。お帰りなさい。」
「ただいま・・・・。」
「・・・・今日はもう新幹線が無くて帰ってこないのだと思っていました・・・。」
「・・・急いでいたのと・・・最終だったから周りに人がいて連絡できなかったんだ・・・ごめん。」
「・・・・・嘘です。ちょっとだけ、困らせてみたかっただけです・・・。京都はどうでしたか?まだ肌寒かったでしょう。」



――つん・・・・・ころころころ・・・・



「なに?その丸い・・・色のついたの・・・?」
「ビー玉、知りませんか・・・?」
「ビー玉?」
「こうして、ぶつけて遊ぶんです。ぶつけたモノが自分のものになります。」



――ぱちん・・・・


――キョーコはベッドにうつぶせに寝そべったまま、ビー玉と同じ視線を保ち、ビー玉をぶつける。はじかれた緑色のビー玉が、ベッドサイドに腰掛けている蓮の手の傍まで転がった。


「京都のお店には・・・和雑貨が沢山お土産で売っていて・・・・とても綺麗で・・・むかーし、小さいころ、とっても欲しかったんです。」
「へぇ・・・?」
「・・・今日、ファンの方にプレゼントで差し入れて貰ったので、嬉しくて・・・。でもベッドの上だから・・・・・ちっともうまく当たりません。」
「どう・・・。」


――蓮は手元に転がってきた緑色のビー玉をはじき返す。

――ころころ・・・・ぱちん・・・・ぱちん・・・・


「あぁ〜〜〜っ。」
「二個も当たったね。」
「ずっ、ずるい〜〜〜〜。」
「うまいだろ?」
「・・・・・ビー玉、知ってたんですね?」
「いや?知らなかったよ・・・?」
「そうですか?ならもっとずるいっ。」
「コレを、ビー玉と呼ぶこと、はね。」



――むぅ・・・・・。

――膨れたキョーコの頬を一度包み撫でて膨れた頬を収めた。ビー玉を一つ、取り上げ、まじまじと見つめる。


「綺麗だね。ガラスかな?いろんな色がある。」
「でしょう?うんと小さな頃、コレが本物の宝石に、見えました。」
「・・・・・うん。」
「・・・・透明の青、緑、ピンクに黄色・・・らせん模様。水晶、ルビー、サファイア、トパーズ、ダイヤ・・・・沢山、沢山。日に透かすと、きらきら。・・・近所の子からひとつだけ貰った碧い色のビー玉をとても大事にしていたのに、不意に木の床に落としてしまったら・・・・欠けてしまったんです。くっつけてみても元の形に戻らなかった。とても、とても、残念でした。」


――キョーコが語る、昔語りを蓮はいつも静かに聴いている。それはまるでキョーコが描く、心の絵本を聴いているかのように・・・。


――キョーコがもう片方の手でずっと握り締めていたモノを、指を外して取り上げる。ずっと握り締めていたから、「それ」は、とても温かかった。




「でも・・・・・小さな頃、沢山のビー玉は無かったけど、一つ・・・一つだけ、「本物」を、貰いました。日に透かすと、キラキラして、青、緑、紫、黒・・・・。コレは、どんなに高いところから落としてしまっても、割れませんでした。」
「うん・・・。」
「だからビー玉をたくさん持っている子と同じぐらい、とても、しあわせ、だったんです。」
「うん・・・。」



――ちゅ、と一つ、蓮はその深く碧い石に、軽い音を立てて唇を落とす。キョーコが薄く頬を染めて、ベッドの散らばるビー玉に、視線を戻す。


蓮がその口付けて、再度魔法を吹き込んだ石をキョーコの手の中に戻したとき、キョーコは、傍にあった深く碧い色をしたビー玉を、蓮に手渡した。


「コーンに、ビー玉を見せて・・・・貰ったお守りのお返しにあげたいです。」
「うん・・・。」
「・・・・まあるいビー玉は、まるで私の心のようで、欠けたビー玉は・・・・欠けてしまった自分の心と同じでした。まっすぐ転がらない、綺麗に日が反射しない・・・どうにか、どうにか、元に戻したい・・・。でも、コーンから貰った「本物」はどんなに落としても欠けませんでした。それが、私をとても勇気付けてくれました。欠けないなら大丈夫、頑張ろうって。戻らないのは、ビー玉だけで、十分・・・・。」

「キョーコちゃん・・・・?今日は何があった・・・?オレのベッドの上で寝ているなんて・・・・。」
「今日は、敦賀さんに甘えていい日、です・・・だから・・・ベッドで・・・敦賀さんと一緒にいる気分だけ・・・。でもやっぱり少し寂しくて、ビー玉と遊んでいました。」
「遅くなってごめんね・・・・・。」
「いいえ・・・会えただけで十分です・・・・。ホワイトデー・・・沢山の女の子に、飴を、お返しを、用意したんでしょう?」
「沢山なんて用意しないよ・・・。飴は君の為だけで十分。」
「わたし、だけ?」
「そう・・・。「本物」は、「一個だけ」でいいんだろ?」


――茶色い小さな紙袋を開けて、一粒取り出した京飴を、キョーコの手の中に置いた。


「わあ・・・京飴!・・・・懐かしい・・・。一番の老舗の飴ですっ。一番美味しいの。手まりの形してる・・・。」
「抹茶味の緑色なんかも袋の中に入っているよ。」
「京飴もね、ビー玉みたいに沢山種類があるんです・・・。透明な宝石色、らせん模様。子供の頃、綺麗に並べて飾って、眺めてから食べるんです。」
「じゃあ今度京都に行ったら・・・お土産は飴とビー玉でいい?・・・・くすくす・・・。」



――キョーコは手の上の透明な飴を嬉しそうに口に含む。懐かしくて甘い、しあわせな味がした。口の中で転がして、小さくなって、口の中で溶けて無くなるまで、黙って食べた。一年に一度の、優しい気持ちの味がした。



「美味しかった・・・・。子どもの頃の懐かしい思い出の味がしました。」
「それはよかった。懐かしいだけ?」
「ふふ・・・。本物の、味が・・・・。」
「じゃあ・・・いつものごとく、分けてもらおうか・・・・。」



ちう・・・とやさしく吸い上げて、本物の味を分け合う。
甘い甘い、本物の味。
本物の愛としあわせは、どんな事があっても欠けないだろう。


「「本物」はとても美味しかった。ねえ・・・もう一つ、飴、食べない?」
「ばかっ・・・・。」
「君の本物の幸せの味、オレにも分けて・・・・?」


――ぱちん・・・・ころころころ・・・・


「む・・・。ビー玉をオレにぶつけたね?なに、オレを自分のものにしたいの?」
「・・・恥ずかしいこと言わないで下さいっ。」
「恥ずかしい?どうして?」
「・・・んもう、いいですっ・・・何味がいいですか?///。」




蓮の持ち帰った茶色の紙袋の中身は、きっとあっという間になくなったに違いない。けれど二人の身体に染み渡った甘さは、永遠の幸せのなかに・・・・溶け込んだだろう。















2007.03.14


Special Thanks to 100,000Hit!!&今年のホワイトデーSSとして☆