いかないで。傍にいて。



彼女は、うっすらと・・・・涙を浮かべた。




Don’t Leave Me (愛と憎しみのハジマリ Ren.Ver)





「最上さんどうしたの、こんなトコに一人で・・・。」
「敦賀さん・・・・・。」



誰もいない局の倉庫・・・オレが好きそうな場所・・・・に彼女が一人で膝を抱えている。声をかけるまで気づかず、彼女はぴくり、とも動かずに、ぼんやりと物思いにふけっていた。


声をかけると、時折見せる一瞬の憂いた表情に、胸の奥底が締め付けられる。そんな表情をするくせに・・・・すぐに「笑顔」に変えてしまう。


何を思ってる?何を考えてる?
何故そんな表情をする?何があった・・・・?


そう口にしたい。けれど、彼女はそれを自ら口にはしない。
オレには何もかも、「オレが」「安心する」言葉しか言わない。
なぜ頼らない?なぜ、頼ってもらえない?
不破には今でもあんなに自分の気持ちを素直に話すくせに・・・・。
そんなに男として、頼りがいの無い男か・・・・・?



だからいつも、当たり障りの無い会話になる。


「こんな・・・誰も来ないところ・・・・一人でいたら危ないよ・・・」
「敦賀さんだって・・・・」
「オレは・・・・」


単に台詞を覚えに・・・と口が喋りそうになって噤んだ。


「男だからね。」
「え・・・・?・・・・そうですね、私は女ですから・・・・。」


また、一瞬だけ憂いた表情を・・・・。


ずっと立ちっぱなしだったオレに気づいて、彼女が気を配ってくれたのか、横に座りませんか?と声をかけてくれた。

「ねぇ、最上さん。」
「はい。」
「最近・・・は、どう?」
「えっと・・・・・。」


無難な会話。わざわざこんな所でしなくてもいい会話。
それしか彼女と繋がれない自分がもどかしい・・・。


「恋愛をテーマにした作品にですね、出るかもしれなくて。まだ全然決まった訳ではないんですが…。」
「へぇ。良かったじゃないか。」

仕事的には。君がスタッフ側に評価されたということ。人気があるという証拠。

本音は…。そんなドラマに出て…相手俳優は?どんなシーンがあって、どんな事をする?たとえ相手が架空の人物でも、架空のシーンだろうと、この子をどうする・・・。この子が役作りに入ったら…相手を本気で好きになったような演技をするだろう…。そんなシーンともなれば、終われば照れて照れて・・・・。


オレの頭は、一瞬にして虚実が混同しそうになる・・・。


「・・・・敦賀さんっ・・・・。」


また、憂いた切羽詰った顔。
寧ろ、すがるような・・・・。


「どうした・・・?」
「恋愛・・・・をテーマ・・・・、嘉月で・・・・あの・・・濃厚なラブシーン・・・・沢山スタッフが・・・・あの・・・恥ずかしく・・・・なかったですか?」
「え・・・?仕事だからね・・・仕方ないよ・・・。だけど濃厚なの・・・君が・・・・やるの・・・・?」

また一瞬胸の奥底が痛む。仕事は仕事だと思っていても、相手が羨ましい。けれど、彼女はオレの予想に反して「いいえ」と、また憂いた表情をして否定した。

やらないなら、なぜ・・・・そんな事をオレに聞く・・・。

「私は・・・そこまでの役ではないのですが・・・。」
「いつか・・・するのが怖い・・・・?」
「・・・・・お仕事はお仕事で公私混同はいけないから・・・仕方ないんですけど・・・。でも、正直怖いです・・・・。敦賀さん、は、男の人だから・・・・。そ、それにっ・・・敦賀さん、私の事知ってるから言いますけど・・・・私に・・・・誰かと付き合った経験があるとか・・・キスした事があるとか無いとかは・・・仕事には全然関係ないですし・・・・もちろんスタッフさんにも関係ない。演技を、キスを・・・濃厚なシーンを・・・魅せるための一つとして客観的に見てますし・・・・。」
「キスがいや?」
「はじめて位は・・・仕事にしたくなくて・・・・。」


でも、君は、恋なんてしないんだろう?
多分その矛盾は、オレが思うよりも彼女が一番、考え悩んでいるだろう。


恋をしない間に、時間と仕事の経験はどんどん積みあがり、そのうち舞台にも上がり・・・リアルタイムで濃厚なシーンも演じなければならないだろう・・・・。



「敦賀さん・・・どうして、私は、恋をしないと決めたのに・・・・」
「恋を・・・したの・・・?」

今度は、首を縦にゆっくりと動かした・・・・。
そして、おかしな話ですよね・・・・と自嘲気味に笑った。

「すごく、すきで、すきで、頭がおかしくなるぐらい・・・・すきになってしまって・・・。すきになってはいけないと思えば思うほど、すきで・・・・辛くて、もう、自分がどうにかなってしまう・・・・・だから・・・怖くて・・・・・。」
「相手・・・・には・・・・気持ち伝えたの・・・・?」


また、憂いた表情にもどって、「いいえ」、と答えた。


「すきに、なりすぎて、自分が・・・怖いんです。また、あの時のような思いを・・・「お前なんか」って顔をされるのが、怖い・・・・。離れていかれるのが、怖い・・・・。ずっと傍にいたいんです・・・・・・・。」


胸が痛い。苦しい・・・・。そんなに、相手が好きか・・・・・。誰にも言えないから、信じてくれているオレを相手に、本当の気持ちを吐き出しているのだろう・・・・。君が、大人びた憂いた表情をずっとしていたのは、そのせいなのか・・・・・・。


「すきって・・・二文字だよ・・・」
「でも・・・それで、私はまた、16歳の頃の自分に戻ってしまいそう・・・・。相手も好きか嫌いかの二分の一。私は・・・すごくすきですけど・・・・相手にどうして欲しいとか・・・何も求めてないんです。ただ、傍にいて欲しいんです・・・。これって恋っていいますか・・・?憧れや甘えを勘違いしているのかな・・・・。それに・・・もし口に出したとして・・・うまく行かなかった時・・・これからも仲良く・・・なんて・・・男女で純粋な友人関係が成り立つとは思えません・・・・。ずっと、傍にいて欲しい・・・・。今の関係のまま・・・・。目の前からいなくなったら・・・いや・・・・。だから、今のままが一番・・・・。」
「・・・・・・・」


じっと・・・・オレの目の奥の中を覗いて、相手に告白をしている彼女に・・・魅入られるように、すっと彼女の首筋に手を伸ばしていた。唇のすれすれまで顔を持っていき、顔を少し傾けて・・・視線を上げて彼女に合わせた。


「ずっと言わないなら、いいよね?最初のキスが、オレになっても・・・」
「え・・・?・・・や・・・・。」
「ホラ、答えは出てるじゃないか・・・・。早く、言う事だよ。いつまでたっても君自身が先に進めない・・・・。」
「だ、騙したんですね?」
「言い出す決心をつけてあげただけだよ・・・。仕事で一番最初にするのが・・・いやなんだろ?」
「アイツを好きだった時みたいに・・・・すぐに言える相手だったら、どんなに良かったか・・・・。」
「ねぇ・・・・不破を差し置いて・・・君をそこまでにさせる男って・・・一体、誰・・・?」
「・・・ふふっ・・・・・・どうにもならない人、です。最初から失恋しているから・・・だから、それなら・・・言わない・・・・。」


彼女は、大人びた壮絶に美しく、哀しそうな笑顔を見せた。
それ以降、彼女がその事について、口を開く事は無かった。
だから、オレも何も言わず、いつものようにそっと、頭を撫でた。


すきで、すきで、どうしようもなく君をすきで、頭がおかしくなりそうなのは、自分。ずっと傍にいて欲しい。彼女が他の男にそうして相談したり甘えたりするなんて・・・考えるだけで・・・・どうしようもなく腹の中がざわざわと沸き立つ・・・・。

今までそんな哀しい笑顔なんか見たことがなかった・・・。一体、いつからそんなに、大人びた表情をするようになったのか・・・。オレの知らぬ間に、勝手に大人になっていかないで・・・・。


君の一番大事にするだろう・・・最初・・・が、全部欲しい。
そして、君の最後も、全部欲しい・・・・。
君の何もかもの、最初で、最後の男で、ありたい・・・・。
一生、何があっても、オレの傍にいて。


告白をすっとばしてプロポーズのような言葉が脳裏に浮かぶ。
目の前からいなくならないで、と・・・口にしたいのは自分。
そして、ハジメテなどで憂いた顔をする彼女を、このまま連れ帰って、部屋に閉じ込めて、時を止めてめちゃくちゃに愛して、オレに恋をさせてみたい。



オレも、二分の一に賭けなければならない時期は、近いのだろう・・・。



『ずっと、傍にいたいんです・・・』
『ずっと、傍にいて欲しい・・・・』




初めて耳にした、彼女の、心から吐き出すような切ない声が、耳から離れなかった。














2006.09.09

愛と憎しみのハジマリ。多分御題の中で一番好きな部類・・・・(汗)、という私の我侭で一年越しの続編。こんなのを書きたくなる季節になってきました。
今日は救急の日。あれこれと思いを馳せると哀しい二人を、本誌ではとにかく幸せに救って頂きたいものです。
ちなみにこの曲の歌詞は・・・まるで尚Ver.ですかねえ(笑)。