『My heart is skipping a beat whenever she smiles.』

『彼女が微笑むたび、僕の胸はきゅっとする。』


とある恋愛映画の冒頭、主人公が心の中でつぶやく言葉。

主人公の彼は、いつまでも好きな彼女に気持ちを言えずに、思い悩んでいる。その好きな彼女の笑顔を見たいのに、それを目の当たりにすると、ひどく切なくて、苦しい。そして、彼女に新しい男が近づいては、主人公に相談する。その様を毎回胸が潰れるような思いで、傍で見守り見つめている。彼女が、自分のために笑ってくれるのはいつだろう、と。


そんな、まるでかつての自分のような映画に、吹き替え役を演じるのはたやすかった。






だったらあげちゃえよ





「この映画・・・・いまいちでしたね。」

ふぅ・・・と彼女は、つまらなかったのがありありと分かる、溜息をついた。

「そう?」
「だって・・・この二人の俳優のためって感じです。終わり方が納得いかない〜〜。」
「まぁまぁ…。オレはこの監督の撮り方は好きだよ。」
「撮り方・・・」
「たった2時間。描かれない部分を考えるのも楽しいだろ?」
「それは心酔した映画に限ります・・・。」
「・・・くすくす。どんなに駄作だと言われる映画だったとしても、どこかに描きたかったテーマはあるし…入れ切れないこともある。全て描いてあればそれでよし、無ければそれを探す。それが慣れた人にしか気づかない、たった映像の中の1コマの事もある。この監督を好きな日本の監督と話すこともあるかもしれないだろ?その時、見てなかった、つまらなかった・・・じゃ会話が終了してしまうからね。」
「相変わらず仕事の目で見ているんですね。」
「はは・・・・そんな事考えず、心酔しないとダメかな?」
「一つのお話として見ませんか?」
「そうだね、たまにはね・・・。」


彼女は週に四百円の恋物語を借りては持ってくる。食事をした後見る。甘いデザートのような物だろう。邦画よりも洋画が多いのは、彼女の「趣味」かな・・・・。もちろん借りてくるのは、「ラブストーリー」。それに心酔しては、ぼろぼろ涙を流し、怒り、そしてそのスクリーン上の王子と姫の物語に、まるで自分が恋をしたかのように心躍らせている。仕事で演じる事も多いのに…よくそこまで心酔できるなと、ある意味羨ましい。そして、邦画を見て心酔したのを見ていると、いつかその演じている俳優に会った時にまかり間違って恋でもしないだろうか?と・・・余計な心配事が増えていく。


そんないつもの、とある夜。

「敦賀さん、そこにあるDVD・・・日本語吹き替え版の声敦賀さんなんですね。もう内容知ってると思いますけど・・・せっかくだから字幕版じゃなくてそっちで見たいです。」

と、仕事で貰ったDVDを発見された。彼女が言うには日本では再来週の発売らしい。「Skip Beat」とタイトルの書かれたパッケージ。その裏面をじっと見た後、彼女はオレにすがるように、目をきらきら輝かせた。もちろん彼女が「見てみる」と言うぐらいだから、恋物語。

「え?い、いいよ・・・。」
「なんでですか?」

なんでって・・・そんなの自分で聴きたくないから・・・ましてや相手役を君に置き換えてやってたなんて・・・思い出したくも無いんだけど・・・・。

「自分の声でなんてイヤだ・・・。いいよ、英語字幕版で・・・。」
「えーっ。敦賀さんが声優のお仕事って・・・無いんですもん・・・・。一体どうやったのか・・・声だけでも勉強したいっ・・・・。」
「持って行っていいから・・・キョーコちゃん一人で見ない・・・?」
「ダメですっ。せっかくなので敦賀さんと一緒に見て・・・教えてもらわないと!私だって声役、「仕事になるかもしれない」んですからっ・・・・。」


そう言うと、にっこり笑って嬉しげにデッキにセットした。
一度彼女が決めたら融通がきかないのは分かっているけれど、だけどね、一緒に見たら…君が後悔するのに・・・。君が借りてくるような物語の話だよ・・・?・・・甘い恋物語になるに決まってるじゃないか・・・。童話とは違うんだから必然的に男女の恋愛の部分だって描かれてるし・・・。

自分の声などにまさか心酔などできず、彼女の反応を見守っていたのだけれど・・・。

「・・・・・敦賀さん・・・・このDVD、私に下さい。」
「な、なぜっ・・・?」
「だって・・・話面白かったし・・・・。敦賀さんの声・・・で・・・あんなに甘い台詞の映画・・・日本人じゃ多分作れないしっ・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・おうち帰ったら敦賀さんの部分だけ繰り返し聞きたい・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」

見終わった後、彼女は上気し、照れた表情で、ちらり、と上目遣いをした。

ほんとに君は・・・オレをどうしたい?・・・・それは卑怯だろう・・・。君にその表情されたらオレは弱いって・・・無意識に気づいてないか?

単なる本能と言っていいほど自然に、彼女を引き寄せて唇を割っていた。甘い映画を見た後だからだろう、彼女の唇と腕は、まるで主人公の彼と彼女がするように情熱的だった。

彼女とDVDを見るのをやめないのは・・・仕事の参考にもなるけれど・・・・正直、甘ったるい話を見た後の彼女の反応が毎回違って可愛いから。こうして心酔した時は、自分がそのヒロインになったかのように自分に甘えてくれる・・・。

「確かに・・・オレの声でこうなるなら・・・また見るのもいいね。」
「愛してるとか・・・君だけだとか・・・・夢の世界の言葉ですけど・・・でも敦賀さんの声だし・・・うちでも見たい・・・・。」
「どうして目の前にいるのに・・・DVDなんかに頼るかな。毎日でも言ってあげようか?」
「いえ・・・違うんですっ・・・・」
「何が?」
「直接言われると・・・えっと、その・・・」
「愛してるとか君だけだなんて・・・いつでも言ってないか?」
「い、言ってくれてますけど///!!そうじゃなくって・・・。浸りたい時とか・・・敦賀さんが長期ロケに入ってしまって一人でいるときとかにっ・・・。だって、今だって週に一度会えるかどうか・・・だから・・・。」
「毎日電話で言おうか?」
「いいです。」
「なんで・・・DVDなら良くて本人だといやなの・・・。」
「一人でDVD見て、声を聞いたら、寂しくなって、会いたいって・・・・無くてももちろん会いたいんですけど・・・でも、きっと声が聴きたくなると思うし・・・・。電話では逆に・・・笑っちゃうかも・・・ふふっ・・・。」
「わら・・・・・」
「あれは・・・あのシチュエーションだからいいんですっ。日本語でいつも言われても、くすくす・・・。」
「言われたいの?言われたくないの?」
「だから、あのシチュエーションだったらって・・・。映画とかドラマを見て、主人公みたいに・・・胸がきゅってなる・・・あの感じが好きなんですっ・・・。いつでも自分と敦賀さんに置き換えて、敦賀さんに恋してる。悲恋な物語だったりしたら、すぐ敦賀さんに会いたくなるから・・・。」
「『My heart is skipping a beat whenever she smiles.』」
「?」
「君の言葉を借りるなら・・・・君の笑顔を見るたび、胸がきゅってなる、って言ってる。映画の冒頭でオレが英語で言ったの覚えてる?だからこの映画のタイトルは「Skip Beat」。アレもオレの声だよ。」
「そうでしたっけ?やっぱりDVD下さい。」
「オレはね、君が傍でオレに甘えてくれる時胸がきゅっと・・・くすくす・・・するけどね。そういえば・・・台本置いてあるよ・・・?吹き替えの台詞直接言ってあげようか?その台詞を言われるの・・・同じシチュエーションならいいんだろ?何なら英語で演じてあげてもいいけど・・・。」
「・・・・・・。」



2時間後。


「ねぇ・・・胸・・・きゅってなった?くすくす・・・。」
「はい・・・すごくせつない・・・。」

耳元で散々彼女が気に入りそうな台詞を吐き、同じシチュエーション、同じ体勢で言ってあげた。すると彼女は甘え、自らオレを引き寄せた。

たまにはDVDを見たあと映画ごっこするもいいかな・・・・。どうせ実際の仕事だって・・・相手役はいつもこの子に置き換えるんだから・・・。オレは君だけになら胸がきゅっとなっても、心酔しても、いいだろう・・・・?


「そのDVDはあげる・・・。」
「ホントに?」
「ん・・・。そのかわり、君が声をあてた時はオレに・・・。それから、同じシチュエーションで、オレが聴きたい台詞、言って聴かせてね・・・。」
「・・・・ハイ・・・・///。」


彼女と一緒にDVDで夢を見ては、互いを思い合うのは、しばらく続くだろう。オレたちが、互いに互いで「Skip Beat」したい限りは・・・・。













2006.09.15

ちょっとつついてみたかったの(笑)、「胸キュン」の英訳を…(^^;)。