繋がっている手がある・・・。
その奇跡はなんて愛しいのだろうと、人は思う。





だからその手を離して(続・「ZERO」




キョーコは堪えていた涙が止まらなくなった。すきと言えないその辛さをどこにぶつけていいのかが分からない。今まではすきと言えた恋しか知らなかったから。どうして今回は言えないのか・・・。

更には蓮の優しさを、どこまで信じていいのかが分からない。今でも何かと面倒を見てはずっと一緒にいてくれるし、仕事の相談にもちょくちょく乗ってくれる。携帯へは互いにその日の何でもない出来事を話し合う。穏やかな蓮の低い声はとても安心するし、そっと眠りを誘う。そんな穏やかな日々の連続。ただしそれは単なる仕事仲間とのコミュニケーション以外の何物でもないと・・・キョーコは思う。

部屋でコーンを取り出して、大丈夫、と小さな声で繰り返して、そっと口付けた。いつかの彼の仕草を思い出して赤面した。まるでキスをしたような気分で、そんな小学生のような、おままごとのようなコトでどきりとするぐらい蓮を好きなのだと・・・思って、また切なくて涙が出た。ショータローを好きだったときは、彼のために泣かなかったのに。恋の種類が違うのかしら?とコーンに尋ねる。


携帯に非通知で電話がかかってきた。
敦賀さんだ、と思って・・・涙を拭く。

「もしもし・・・?」

「寝てた?」

「いえ・・・。」

「すごく・・・気になった。」

「え?」

「君が・・・泣きそうだったから。オレには言えないことなんだから仕方ないけどね・・・。でも気になって・・・・。」



どうしてそんなに鋭いのだろう、どうしてそんなに優しいのだろう・・・・キョーコは、再び泣きそうになって電話口で黙り込んだ。傍にあったクッションを抱きしめる。



「泣いてるの・・・?」

「大丈夫です・・・・・。」


すこし鼻声になっていたから、蓮にはすぐにばれた。


「君の大事な宝物は、傍にある?」

「はい・・・。」

「オレは君の悩みも聞いてあげられないけど・・・その石なら、君を癒してくれるんだろう・・・?」


優しすぎる蓮の声に、キョーコは責められている気がした。電話までかけて気にしていると言ってくれる彼に、自分の気持ちも、悩みも・・・言えないのに、更に気に掛けてくれる。愛し過ぎて・・・でも切なくて仕方がない。


「敦賀さん・・・。」


意味もなく名前を呼んでみる。蓮がそっと、なに?と応える。ただ声が聞いていたくて、何も言えるはずもないのに電話を切りたくなかった。


「敦賀さんに悩みは無いんですか・・・?」

「オレの・・・?なんで・・・・?」

「いつも聞いてもらってばっかりだから・・・。たまには電話口でよければ・・・コーンと一緒に私が聞きますよ・・・?」

「泣いてる君に・・・話せるような事はないけどね・・・。でも・・・じゃあその「コーン」に伝えて。「あなたの手は強くて大きすぎてずっと離したかったけど、今はすごく感謝してる」・・・って・・・・。」

「誰への・・・言葉なんですか・・・・?」

「永遠のライバルへの言葉・・・。」


蓮は電話口でふっ・・・と一度笑った。その笑った息が受話器を通してキョーコの耳をくすぐる。それが悩みなの?と・・・相変らず不思議な蓮の謎解きのような言葉の意味を探ったけれど、答えは出なかった。


「敦賀さんのライバルになれる人なんて・・・羨ましいです。私じゃなれないですもん・・・。」

「オレの・・・ライバルになりたい?」

「ライバルっていうのは宣言してなるものでは無いですから・・・・認められないと・・・。それだけの力を持っていないのに、ライバル宣言を自らしても虚しいだけです。」

「ふ・・・。でも・・・もし君がオレのライバルになったら・・・君はオレを追い越そうとずっと追いかけてくれるのかな?くすくす・・・・。」



追いかけ続けた父の手は大きかったのに・・・もう自分の歳には、父は母を愛して自分を育てていたのだと感慨深く思う。ライバルだと・・・思ってきた。大きすぎて、もがいて抜きたいと思ったけれど。ゴールはどこなのかすら分からない。偉大な彼は今でも記憶の中で生きているし、生きている自分が彼をライバルと・・・言っても、彼以上に人々の記憶に残る演技をしていくぐらいしか対抗できる術はない。



彼の気持ちがすこしだけ分かるような気がする歳になって、大事な彼女をこの手で護ってあげられる自分がいる奇跡に、彼に感謝を・・・と思ってキョーコに告げた。



「最上さん・・・。」

「はい。」

「今君が・・・手を繋いでいる人、いる?」

「・・・・・はい。」

「そう・・・。その人は君をしっかり護ってくれてる・・・?」

「・・・・すごく・・・・。」

「そう・・・・。なら良かった・・・泣いている君を大事にしてくれる人がいるならいいんだ・・・。この後聞いてもらうといい。社さんだったら今度しっかり教えてね。」

「敦賀さんっ・・・あのっ・・・。」

「どうした・・・?」

「今私が手を・・・繋いでいる人は・・・あの・・・妖精のコーンだからっ・・・心で思えばいつでも傍にいてくれるんです。だから勘違いしないで下さいね・・・?以前の社さんは、落ち込んだ私を慰めてくれていただけですからっ・・・。」




君がちいさな頃から・・・ずっと繋いでいる手は、巡り巡ってオレに差し伸べられているのだと・・・・蓮は錯覚を起こす。



蓮の中の彼女への気持ちが止めどもなく、こみ上げてくる。どうしようもなく、会いたい。今すぐそこに行って会って泣いている彼女を抱きしめてあげたい。いつも「コーン」は傍にいるんだよ、と声を大にして言いたい。



――5・・・・・4・・・・3・・・2・・・1・・・



「 「最上さん」「敦賀さん」 」。

「くすくす・・・被ったね・・・。なに?」

「私、忙しかった母に繋いだ手をいつも振り解かれて・・・どうしたら繋いでもらえるんだろうって。一番繋いでみたかったんです。泣いてもダメ、いい点数とってもダメ。でも・・・赤ちゃん。習いましたけど・・・産むのってすごく大変なんです。育てるのも。物心ついた頃にはアイツの家にいましたけど・・・生まれた直後ぐらいはきっと繋いでいたんだって・・・思います。だから・・・生んでくれてよかったって・・・。じゃなきゃ・・・。」

「じゃなきゃ・・・?」

「くすくす・・・コーンにも敦賀さんにも会えなかったですし・・・。だから、10ヶ月もへその緒で母と繋がっていられたんだから、十分だって思います。」

「最上さん・・・・・」


オレの子を産んでと口走りそうになって、自分の気持ちすら告げていないのに、と・・・蓮はおかしくて、くっくっ・・・と電話口でこらえ笑った。


「ちょっ・・・敦賀さんっ!!!せっかく・・・人が真面目な話をしているのにですね、笑わなくたって・・・。一大告白だったのにっ・・・。」

「くすくす・・・ごめん・・・。じゃあ、オレも一大告白をしようか・・・」







蓮とキョーコの間で手を繋ぐ・・・愛しいベビーへのカウントダウンはすぐそこ・・・・?









2006.05.07


タイトル別名。続・蓮決壊カウントダウン編(笑)。