※過去蓮風味。


















「I love ・・・」


そんな簡単で単純な単語すら本当の意味を知らなかった。





Change The Future







――・・・・オレの中に誰を見てる・・・・・?








「・・・・ハッ・・・・ハッ・・・ッ・・・・ッ・・・・」

「・・・敦賀さん・・・・・・?大丈夫ですか・・・・?」



――あぁ・・・。



心配そうにオレの目をまっすぐに覗き込んだ彼女は、冷えたタオルでオレの額の汗をぬぐって、上に乗せてくれた。



「最上さん・・・・・・。」
「うなされてました・・・。」
「あぁ・・・うん・・・ゴメン。」
「なんで謝るんです・・・?」
「・・・なんでかな・・・。」
「いやな夢、見たんですか・・・?」
「いや・・・昔の夢をね。」
「ここにコーン、置いておきますね。だからもう、大丈夫ですよ・・・悪い夢は吸ってくれます。だからもう少しゆっくり眠っててください・・・・。」
「うん・・・ありがとう・・・。」



――・・・・・・・昔の・・・・・懐かしい思い出・・・・・。







**********





「レン、こないだフラれたばっかりなのに・・・もう新しい子がいるわけ?」
「・・・・そう。」

「相変わらずねえ。ま、仕方ないか・・・。」
「ねぇ・・・一体・・・オレのどこがいいの?」

「・・・・・・・どこって。私に聞かないでよ。だけど・・・まぁこのお店に君目当てで来る女の子たちの言う事を要約すれば・・・・・・顔と身体と・・・女の子とあれば誰にでも優しい・・・性格かしらねぇ?」
「ふーん・・・そんなもの?オレまだ15歳だよ?」

「そうねぇ・・・。15歳には思えない・・・というか・・・まぁ・・・うん、そうね。単なる15歳は普通ね、こんな危ないところで夜に野良猫になってないわ。」
「何それ?意味が分からないよ。」

「ふふ・・・そうね、そうね・・・くすくす・・・。」
「じゃあ・・・質問を変えるよ。男としてさ、一体オレのどこが良くて、一体オレのどこが悪いのか教えてよ。」

「そうねぇ・・・貴方・・・ホント長く続かないわね・・・ふふ・・・。」
「・・・・・・それなりに女の子が喜ぶようにしてあげていると・・・・思うんだけど。」

「・・・・・・だからダメなのよ・・・ふふ・・・。愛してあげなきゃ。」
「愛してますよ?」

「うふふ・・・・ふふ・・・・。」

「ひどいな、そんなに笑うなんて・・・・・。まじめで一生懸命なつもりなんだけど。」
「そうね・・・まじめよね・・・。」


オレよりも倍以上歳が上で・・・彼女は路上にいたオレを店に「拾った」。ぼんやりと・・・路上の片隅で雨に打たれていたオレに、「野良も磨けば立派な飼い猫だわ・・・昨日ウチの猫いなくなっちゃったの。」と言った。オレも彼女に「レン」としか言わず、素性も明かさなかった。けれど彼女は「せっかく綺麗にしたんだからそこに居てよ」と言って、オレも家に帰りたくなくて・・・・しばらく彼女の店に転がり込んだまま夜、店を手伝っていた。


そして。


「貴方・・・もうここに・・・居るべきじゃないわね。」


そう言ったのは、彼女の店の片隅に転がり込んで4・5ヶ月が過ぎた頃。


「なぜ?もう・・・子供は鬱陶しくなった?もしくは好きな男でも出来たの?」
「いいえ?それは居てほしいけど・・・義務教育の貴方は・・・ココにいるべきじゃない。」
「学校に行けって?」
「違う。学校に行くことが・・・あなたのしたいことじゃ、無いでしょ?」
「・・・どういうこと・・・?」
「・・・・・・・・日本に、行きなさい。」
「・・・・・・なんで、それを。」
「迷っていたんでしょ?昨日ウチを尋ねてきた社長から、聞いた。」
「・・・・・うん・・・・そうだね。」


――もう居場所が・・・ばれたか・・・。


心の中で小さく舌打ちをした。居場所だけは教えていなかったのに。

彼女が何を聞かされたか知らないけれど・・・日本へ行けと言う。それはオレも随分と迷っていた事・・・。


「レン・・・少し事情を聞いた。今まで大変、だったわね。」
「同情なんていいから、ここにいてって言ってよ。」

「それじゃ・・・あなたのためによくないもの。」
「オレのためじゃなくて。オレがいなくなったら・・・新しい野良猫でも探すわけ?」

「私はもう、いいのよ。寂しさだけであなたをこの部屋に呼んだのがいけなかったわね。それにあなた、野良じゃないじゃないわ・・・それこそ血統書付きの猫じゃない。」
「そんなの・・・・いらない。でも・・・もしあの時・・・・拾ってくれなかったら野良のまま・・・。」

「そうね・・・近寄る誰にでも噛み付きそうな・・・・怖い目、してた。まるで野生の獣みたいでね・・・。このままほって置いたら・・・・きっと死んじゃうんだろうなって。私も一人だったし・・・それにね、」
「事情は分かっているから・・・いいよ、言わなくて。」

「そうなの?・・・ゴメンね、レン・・・身代わりにして。」
「ううん・・・。」

「私も・・・野良猫にでもなってしまいたかったわね・・・・。」
「ダメだよっ。オレも日本に行って頑張るから・・・ココで頑張っていてよ。また来るから。」

「・・・・私、あなたの面倒を見てあげているつもりだったけど・・・・途中から逆転したわね。ありがと。獣の目をしてたけど・・・本当はとてもやさしいのね。今度は貴方だけを愛してくれる誰かを・・・見つけなさい。私は貴方をそういう意味では愛してはいないけど・・・・だけど、大好きよ・・・・レン・・・・。」

「出会ったあの時、もちろん断るつもりだったけど・・・・もしあの時オレが「Yes」と言わなかったら・・・ダメになってたでしょ?だからついて来た。」

「うん・・・・・多分ね・・・・・。ありがと・・・・レン。」

じわりと目に涙を浮かべてオレを一度だけそっと抱きしめた彼女は、「楽しかったわ・・・私もココで頑張るから・・・日本で成功したら・・・手紙でもしてちょうだい。それが一番嬉しい。」と言って、頭を抱えて撫でてくれた。

「うん・・・・頑張るよ・・・。」
「レンは他の誰でもない、大事なレンよ?・・・・だから・・・日本で貴方の事を心から分かってくれる子が見つかるといいわね・・・・・・。」
「うん・・・・・。」


まるで母親か姉のように良くしてくれた彼女に別れを告げて、社長に日本に行くと伝えた。そしてオレはココでの全ての思い出と、物と、自分を・・・・すべて捨てた。



日本に来てまず思った違和感は・・・・「女の子の髪が黒くない・・・。」だった。思い出の中の日本人の女の子は真っ黒な髪の子で、海外で目にしていた日本人の女の子は皆髪が黒い物だと思っていたのに。


そして、何やら・・・別に女の子全てがメルヘン思考な子というわけでもないらしい。リアリストな子もいれば、芸能界で熱心な子も、さらにはオレを利用しようとした野心的な子もいた。もちろん口説かれる事もあったけれど・・・・「何か違う」・・・・と気乗りがしなかった。それはきっと向こうで生活しすぎたせいで、好みが異なるのだと思った。


そして。相変わらず「何か違う」見た目の、最近の日本の子らしい茶色の髪で・・・オレに正面からけんかを売った珍しい子は・・・オレの中の日本人の見本の子だった。・・・彼女もオレ同様やるせない過去を引きずったままで、そして「何も違わない」とても繊細で優しくて・・・いつでも一生懸命で・・・・メルヘン思考で、日本の女の子のイメージそのもので。



――はまってる・・・・というのは、こういうことを言うのだろう。



と思った。それは日本の女の子のイメージの見本の子なのだから仕方ないにしても、思い出に浸っているわけではないのに。気になって気になって・・・・気づいたら、どうしようもなく好きだった。


――最初からあの時捨てたはずの・・・・オレの本性ばかりを出していたのに。


彼女はオレを嫌いで怖がっていて、オレの素性も、男として優しくも無かったのに・・・変わらず傍にいて、ずっとオレそのものを受け入れて理解しようとしてくれていた。愛しくて仕方がなくなった。感情が先走って理性が追いつかないことがあるのだと。オレは愛と嫉妬の本当の意味を、同時に覚えた。


――どうしようもない気持ちを知ったよ、と手紙でも書こうか。




そっと・・・彼女がベッドサイドに置いた石を手にする。
彼女とオレの二人の・・・・切ない気持ちと思い出がたくさん詰まった石。
もう、そんな気持ちをこめなくていいように・・・・。



――だからもうそろそろ・・・・ちょっとだけ未来を変えてみようか・・・・。



「最上さん・・・・。」


傍でずっとタオルを換えてくれていた彼女に声をかけた。

「あ・・・・敦賀さん、起きたんですね。コレに着替えてください。汗すごいですから。」
「ありがと・・・・。」

オレの額と首筋にそっと手を触れた彼女の手はひやり、としていてとても気持ちよかった。

「熱下がってますね。良かった・・・。あれ・・・コーン使ってくださったんですか・・・?」
「おかげで嫌な夢・・・見なかったよ、「キョーコちゃん」・・・・。だけどもう石はいらない。君がいい・・・・・・・・。」




――君はオレに足りなかった大事な感情を沢山教えてくれたよね・・・。
――だから君にも・・・教えてあげる・・・。





初めて彼女を腕にして、更に知った。
「愛してる」と口にする時の・・・心から零れ出す、せつなさ。



















2006.06.25





彼の過去に思いを馳せていて。でもかなりオブラートに包んで削りました。一体どんな彼だったのでしょうね。